食用ブレンド油の定量における RADIAN ASAP データによる多変量キャリブレーションの評価
要約
食用油をブレンドすることにより、食品の機能性、安定性、官能特性を改善することができます。さらに高品質の食用油については、安価な代替品による偽装問題が多発しています。そのため、食用油の真正性を迅速に判定し、食用ブレンド油のブレンド時の品質管理を行うための、迅速な分析試験が必要とされています。本研究では、エクストラバージンココナッツ油と大豆油のブレンド油の定量において、ダイレクト分析型質量分析計である RADIAN ASAP と多変量キャリブレーションの使用について評価しました。直交部分最小二乗法(OPLS)回帰モデル(n = 130)を構築したところ、ブレンド油の割合と予測したブレンド油の割合の間のレスポンスの直線性が示されました(R2 = 0.985)。このモデルを盲検化したサンプル(n = 57)でバリデーションしたところ、繰り返し測定ごとのブレンド油の平均予測比率は、実際の値の ±5% 以内でした。
アプリケーションのメリット
- 製造時の品質管理における迅速で簡単なフィンガープリントツール
- 食用油のブレンド比率の迅速な定量
はじめに
油や脂肪は、調理や揚げ物および食品配合物中に使用されます。ほとんどの植物油は、機能性、安定性、抗酸化特性などの特殊な化学的特性や物理的特性を有するため、元の形態では応用時に技術的な制約を受けます。植物油の商業用途を向上させるため、多くの場合、水素化、エステル交換、分画、ブレンドの 4 種類の方法による改変が行われます1。 異なる植物油を混合することによって脂肪酸組成が変わり、ブレンド中の天然抗酸化物質や生理活性脂質のレベルが高くなって、油の栄養価や安定性が向上します。例えば、エクストラバージンココナッツ油と大豆油を混合すると、飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸の比率が変化することで、ブレンド油の保存期間が改善し、揚げ物の味が良くなります2。 ブレンド油は、経済的な動機により、安価な種子油を高級品に混入するためにも使用されています。製造時にブレンド製品の品質を判定するためだけでなく、ブレンド油製品の表示に関する規制強化に対応するためにも、迅速な試験が必要になります。
RADIAN ASAP は、大気圧固体試料分析プローブ(ASAP)イオン源を備えた小型の大気圧イオン化質量分析計です。サンプル前処理やクロマトグラフィーのステップが排除され、シンプルな結果ダッシュボードと組み合わせることで結果を数秒で得ることができ、意思決定を迅速化できます。RADIAN ASAP を用いて生成した質量スペクトルを使用して、多変量統計モデルを作成します。これには、対象の物理化学的特性を予測するために複数の変数を用いた検量線の数学モデルを構築するプロセスである、多変量キャリブレーションなどが含まれます3,4。
このアプリケーションブリーフでは、食用ブレンド油の定量における RADIAN ASAP データを用いた多変量キャリブレーションの使用について評価を行います。
結果および考察
最大分散に焦点を当てた頑健なモデルを作成する際のデータの信頼性を評価するために、主成分分析(PCA)を行いました。PCA により、エクストラバージンココナッツ油と大豆油サンプルが明確に異なるグループに分かれることが示されました(図 1)。最初の 3 つの主成分により、モデルの総分散 98.6%(PC1 が約 96.0% 、PC2 が約 1.4% 、PC3 が約 1.3%)が説明されました。
ブレンド油混合物の多変量キャリブレーショントレーニングモデル(表 1)を、予測成分 1 つと直交成分 2 つ(n = 130)の直交部分最小二乗回帰(OPLS)を使用して作成しました。トレーニングモデルでは、98.6%(R2Cum = 0.986)が捕捉され、モデルのばらつきとして 97.0%(Q2Cum = 0.97)が予測されました。モデルによって捕捉された全てのばらつきのうち、予測成分はモデルのばらつきの 51.7%(R2X = 0.517)を占めていました。図 2 のトレーニングモデルの OPLS スコアプロットは、ブレンド油中のエクストラバージンココナッツ油の割合が、予測成分 t[1] の左から右に向かって連続的に増加する傾向を示しています。図 3 の多変量検量線は、エクストラバージンココナッツブレンド油の実際の比率とモデルから予測される比率の間のレスポンスの直線性を示しています(R2 = 0.9853)。
図 4 の OPLS ローディングプロットには、エクストラバージンココナッツ油の高含有率と高い相関がある m/z 390 ~ 530 および m/z 610 ~ 750 の質量スペクトル領域と、大豆油の高含有率と高い相関がある m/z 850 ~ 920 のスペクトル領域が示されています。m/z 390 ~ 530 の質量スペクトル領域はジアシルグリセロール5、m/z 610 ~ 750 領域は脂肪酸側鎖がカプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸のトリアシルグリセロール6,7、 m/z 850 ~ 920 領域は脂肪酸側鎖がパルミチン酸、リノール酸、オレイン酸のトリアシルグリセロールで構成されています6,7。これらの脂質を同定するには、高分解能質量分析(LC-HRMS)と組み合わせた液体クロマトグラフィーなどの補完的なテクノロジーを用いて更に解析できます。
このトレーニングモデルを使用して、独立したバリデーション試験セット中のブレンド油混合物について予測しました(表 2)。4 ~ 6 回の繰り返し注入を含む各ブレンド油の 2 回の繰り返し測定を実行し、モデルをバリデーションしました(n = 57)。各繰り返し測定での平均値を、ブレンド油の実際の比率と比較しました(図 5)。全体として、ブレンド油の各繰り返し測定の平均予測比率の値は、実際の値の ±5% 以内でした。
結論
RADIAN ASAP は、迅速な意思決定を容易にする小型で迅速な分析ツールです。本研究では、RADIAN ASAP のデータを用いて、多変量キャリブレーションモデルを作成・バリデーションし、エクストラバージンココナッツ油と大豆油の混合物中の個々の油の比率を決定しました。OPLS ローディングプロットは、質量スペクトル情報を提供し、高分解能質量分析計でのダイレクト分析を用いて確認できる可能性のあるマーカーの仮同定を裏付けます。
参考文献
- Senanayake SPJN, Shahidi F. Modification of Fats and Oils via Chemical and Enzymatic Methods.Bailey’s Industrial Oil and Fat Products.2005.
- Srivastava Y, Semwal AD, Sajeevkumar VA, Sharma GK.Melting, Crystallization and Storage Stability of Virgin Coconut Oil and Its Blends by Differential Scanning Calorimetry (DSC) And Fourier Transform Infrared Spectroscopy (FTIR). J Food Sci Technol.2017 Jan;54(1):45–54.
- Bro R. Multivariate Calibration: What Is in Chemometrics for the Analytical Chemist? Anal Chim Acta.2003;500(1):185–94.
- Forina M, Lanteri S, Casale M. Multivariate Calibration.J Chromatogr A.2007;1158(1–2):61–93.
- Ferreira JA, Santos JM, Breitkreitz MC, Ferreira JMS, Lins PMP, Farias SC, et al.Characterization of the Lipid Profile From Coconut (Cocos nucifera L.)Oil of Different Varieties by Electrospray Ionization Mass Spectrometry Associated With Principal Component Analysis and Independent Component Analysis.Food Res Int.2019;123:189–97.
- Bataglion GA, da Silva FMA, Santos JM, Dos Santos FN, Barcia MT, de Lourenço CC, et al.Comprehensive Characterization of Lipids From Amazonian Vegetable Oils by Mass Spectrometry Techniques.Food Res Int.2014 Oct;64:472–81.
- Pizzo JS, Galuch MB, Manin LP, Santos PDS, Zappielo CD, Santos Junior O, et al.Direct Infusion Electrospray Ionisation Mass Spectrometry Applied in the Detection Of Adulteration of Coconut Oil With Palm Kernel Oil.Food Addit Contam Part A, Chem Anal Control Expo risk Assess.2019 Nov;36(11):1597–604.
ソリューション提供製品
720007437JA、2021 年 11 月