ウォーターズでは以前、EU で規制対象になっている様々な穀類中の 12 種のマイコトキシンについて、クリーンアップなしの単純な汎用抽出法の後で LC-MS/MS に基づいて測定を行う分析法の開発、および単一のラボでのバリデーションについて報告しました。このアプリケーションブリーフでは、複数のラボ間での試験で分析法の性能を評価した結果を示します。2 つの穀類 FAPAS QC 試料を、ヨーロッパと米国の 4 つのラボに送りました。各試料は、4 つのラボで 3 回繰り返し分析されました。すべてのラボで、2 つの FAPAS QC 試料中の 8 種のマイコトキシンの測定について、正確度と精度が優れていることが実証されました。報告された濃度は、FAPAS による割り当て値と一致していました。真度は 85 ~ 113% の範囲内、室内併行精度は 3.0 ~ 13%、室間再現精度は 3.1 ~ 23% でした。これらの結果は、欧州委員会が定めた性能基準を満たしており、この分析法が、公的検査や食品事業者による自主検査のいずれにおいても、穀類内のマイコトキシンのモニタリングに適していることを実証しています。
マイコトキシンは糸状菌の二次代謝物であり、製造、加工、輸送、保管など多くの汚染経路を介して、食品および農産物に混入する可能性があります。マイコトキシンは、ヒトおよび動物の健康に重大な悪影響を及ぼし、企業収益の大きな損失やブランド力・評判の低下の原因になる可能性があります。最も一般的なマイコトキシンは、毒性、出現率、消費データ、並びに経済的・政治的な考慮事項を検討して徹底したリスク評価を行った後、世界の多くの国で規制対象とされています。例えば、欧州委員会規制番号1881/2006 では、様々な食材中のアフラトキシン B1、B2、G1、G2、フモニシン B1、B2、デオキシニバレノール、ゼアラレノン、およびオクラトキシン A の最大限度値が設定され、および T-2 および HT-2 トキシンに対して指標となる基準値が設定されています1,2。
このような規制に準拠していることを確認するには、分析試験が必要です。1 つの分析法で複数のマイコトキシンを測定するには、様々な種類のマイコトキシンを確実に回収するために、汎用的な抽出条件が必要になります。以前、LC-MS/MS の感度と選択性の関係から、通常はクリーンアップなしの抽出物の単なる希釈が優先されることが多いことを説明しました3。 ここでは、複数のラボ間での試験の結果を報告して、分析法の性能を更に評価します。
4 つのラボ(オーストリアに 1 ヶ所、英国に 1 ヶ所、米国に 2 ヶ所)に以下のものを提供しました。
4 つのラボは、提供された分析法を使用して、このアプリケーションの 12 種のマイコトキシンについて、2 つの FAPAS QC 試料を 3 回繰り返し抽出して分析するよう指示されました3。 キャリブレーション標準試料は、発送前に Wilmslow(英国のラボ)にて溶媒中に調製しました。FAPAS QC 試料中のマイコトキシンの濃度は、内部標準化したブラケット検量線を使用して決定しました。各ラボでは、Xevo TQ-XS タンデム四重極型質量分析計と組み合わせた ACQUITY UPLC システムを使用しました。
各ラボでは、対象の各化合物のピーク形状と保持時間がレファレンスラボで得られたピーク形状と保持時間とほぼ同じになるように、公表済みの分析法に基づいてクロマトグラフィー分析法を適切に導入しました。最も早く溶出するピークであるニバレノールの保持時間は、カラムのボイドボリュームに対応する保持時間の 2 倍を超えていました4。 図 1 に、FAPAS QC 試料の 1 つで検出された分析種の代表的なクロマトグラムとレスポンスを示します。
1 つを除くすべての検量線グラフにおいて、決定係数が 0.95 を超え、残差が 20% 未満であることが示されています。あるラボでは、アフラトキシン G2 によるバックグラウンド汚染の問題が発生しましたが、この化合物はいずれの標準品にも存在しませんでした。T04366QC 中のフモニシン B1、T04395QC 中のデオキシニバレノールという 2 つのケースにおいて、抽出物を 10 倍希釈し、分析種のレスポンスがキャリブレーション範囲内に収まるようにしました。これにより得られた値は、希釈していない抽出物から得られた値と一致していました(データは表示していません)。図 2 に、この分析法でカバーされる 12 種の規制対象マイコトキシンすべての代表的な検量線グラフを示します。
2 種の FAPAS QC 試料の分析の結果から、ラボの性能が良好であることが分かりました。測定濃度と割り当て値はほぼ一致しており、T04366QC のフモニシン B2の 1 セットの測定値を除いて、すべての測定値は z ≤ 2 で、FAPAS が提供している許容範囲内です。測定濃度を割り当て値と比較して算出された真度の値は 85 ~ 113% でした。室内併行精度(RSDr)は 3.0 ~ 13% で、室間再現精度(RSDRL)は 3.1 ~ 23% でした。これらの化合物の中で、フモニシンの分析が最も困難であることが分かりましたが、すべての結果において欧州委員会が定めた分析法の性能基準が満たされていました5。 この分析法でカバーされているその他のマイコトキシンについて、偽陽性の報告はありませんでした。ラボ間試験の結果のまとめを表 1 および表 2 に記載しています。
いずれの場合も、FAPAS QC 試料で検出されたマイコトキシンの相対保持時間とイオン比は、キャリブレーション標準試料の分析で得られた所定の判定基準内の値と一致していました4。13C 同位体標識アナログを内部標準として使用して得られた分析種の保持時間は、± 0.05 分の許容範囲内で対応する標識内部標準品の保持時間と一致していました。
この分析法の性能を、複数のラボ間での試験により調査しました。各ラボでは、公開されたアプリケーションノートに概説されている 12 種の規制対象マイコトキシンを測定するための分析法が適切に導入されました。すべてのラボで、2 つの FAPAS QC 試料中の 8 種のマイコトキシンの測定について、正確度と精度が優れていることが実証されました。これらの結果は、欧州委員会が定めた性能基準を満たしており、この分析法が、公的検査や食品事業者による自主検査のいずれにおいても、穀類内のマイコトキシンのモニタリングに適していることを実証しています。
科学者は各自のラボの分析法を検証し、その性能が目的に適合しており、また関連の分析コントロール保証システムのニーズを満たしていることを証明しなければなりません。
サンプル分析を実施するにあたり、以下のウォーターズ施設のスタッフからのサポートに感謝致します:アメリカのアプリケーションラボ、オーストリアのアプリケーションラボ、サイエンティフィックオペレーションアプリケーションラボ(英国)、およびサイエンティフィックオペレーションアプリケーションラボ(米国)。
720007165JA、2021 年 2 月