Xevo G2-XS QTof 質量分析計を使用したオリゴヌクレオチドの HRMS 定量
要約
このアプリケーションにより、Xevo G2-XS QTof の定量的および定性的機能、およびオリゴヌクレオチドのバイオ分析への適合性が実証されます。ルーチン使用における、Xevo TQ-XS タンデム四重極型質量分析計と同等の性能についても実証されています。
アプリケーションのメリット
- 高分解能 Xevo G2-XS QTof 質量分析計は、GEM 91(トレコビルセン)などのオリゴヌクレオチドのルーチン定量に最適
- ACQUITY Premier UPLC システムおよび ACQUITY Premier Oligonucleotide C18 カラムテクノロジーにより、オリゴヌクレオチドのクロマトグラフィー分析における回収率、LLOQ、リニアダイナミックレンジが向上
はじめに
HRMS を定量に使用することへの関心が、質量範囲の拡大、代替の選択性(タンデム SRM/MRM と比較して)、特に追加の定性データを収集する能力など、さまざまな要因に関して、高まっています。HRMS 装置は、タンデム(トリプル)四重極型装置と同等の定量性能を発揮できる一方で、最新のバイオ分析ラボに、取り込みに対するさらなる選択性オプションや測定モード(DIA、DDA、ターゲットモードなど)を提供します。特にオリゴヌクレオチドの分野では、HRMS はますます利用されています1。
このアプリケーションノートでは、オリゴヌクレオチドに対する Xevo G2-XS QTof HRMS プラットホームの機能を概説するとともに、代表的なバイオ分析の数値をタンデム四重極型プラットホームと比較します。Xevo TQ-XS タンデム四重極の性能と分析法については、以前のアプリケーションノートに詳しく説明されています3。
HRMS の機能を実証するため、オリゴデオキシチミジン標準試料および完全にリン酸化されたアンチセンスオリゴヌクレオチドである GEM91(図 1)の検出および定量が Xevo G2-XS QTof で実施され、ACQUITY Premier UPLC システムを使用したタンデム四重極型質量分析計と比較されました4。
実験方法
Waters MassPREP オリゴヌクレオチド分離テクノロジー(OST)標準試料(製品番号:186004135)およびオリゴデオキシヌクレオチドホスホロチオエート(GEM91、Nitto Denko Avecia、Milford、MA 製カスタム合成)のストック溶液を、プロテイナーゼ(RNase)が含まれていない水中にそれぞれ 1 mg/mL および 0.1 mg/mL の濃度で調製しました。LC-MS サンプルは、ストック溶液を、移動相 A と固相抽出溶出溶媒(体積比 50:50)で構成される試薬中に希釈して、調製しました。GEM 91 を評価/定量するために、濃度 250 ng/mL の GEM 132 をそのまま使用しました。
その他の分析法については、アプリケーションノート 『MaxPeak High Performance テクノロジーを使用したオリゴヌクレオチドの SPE-LC-MS 分析の改善』)(https://www.waters.com/content/dam/waters/en/app-notes/2020/720007019/720007019-ja.pdf)を参照してください。
グラジエント
MS 条件
結果および考察
HRMS メソッドおよび MRM メソッドに使用した MS プリカーサーおよびフラグメントが、表 1 に示されています(OST 標準試料および GEM 91 の電荷および m/z は表 1 に示されています)。HRMS 分析では、ターゲットエンハンスメントを m/z 700 に適用し、対象質量付近の 50 ~ 100 Da の質量範囲に対する感度が向上しました。各プラットホームでは、最も強く選択的なチャージ状態のクラスターを使用し、各プラットホームに若干の性能上のメリットがもたらされました。概して、チャージエンベロープのうち、2 つまたは 3 つのチャージ状態のクラスターの存在量が多く、バックグラウンドイオンの性質および干渉に応じてそれらを選択できました。
クロマトグラフィー分離は、ACQUITY Premier Oligonucleotide C18 カラム、130 Å、1.7 μ m、2.1 × 50 mm(製品番号:186009484)を装着した ACQUITY Premier BSM システムで、1% ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP) + 0.1% N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)水溶液を移動相 A、0.75% ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP) + 0.0375% N, N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)含有 65% アセトニトリル溶液を移動相 B として使用し、流速 0.6 mL/分で 5 ~ 90% B のグラジエントを使用して行いました。MaxPeak High Performance Surface(HPS)テクノロジーが組み込まれている ACQUITY Premier カラムにより、非特異的吸着が最小限に抑えられ、回収率と分析法の検出限界の改善が得られました。HPS テクノロジーは、オリゴヌクレオチド、リン酸化ペプチド、低分子有機リン酸など金属表面に強い親和性を示すことが分かっている分析種において、金属との相互作用を最小限に抑えるために特別に開発されました2。
図 2 ~図 4 に、これらの化合物について観測された代表的なスペクトルが示されています。チャージ状態クラスターの全般的な分布(図 2)およびモニタリングの対象として選択したチャージ状態の拡大スペクトル(図 3、4)の両方が示されています。HRMS により、オリゴヌクレオチド分子の特性解析(さまざまな同位体/チャージ状態の同定)、および定量に対する優れた感度、選択性、正確性を達成するのに最適な同位体/チャージ状態の選択が可能になります。分析法開発中に、複数のイオンをモニターすることがあります。優先イオンが干渉を受ける場合に、クラスター内の別のクラスターや同位体を簡単に選択できます。同様に、複数のイオンを同時に定量することや、干渉をモニターすることができます。最後におそらく最も重要なこととして、不純物、代謝物、付加イオンが容易に観察され、分析法の品質、およびサンプル自体の干渉や変化に関する追加情報について、より多くの情報が得られます。
図 5a および 5b に、オリゴヌクレオチドの分析での、狭い質量範囲を抽出することによって分析法の選択性が大幅に向上する、HRMS の高い質量正確度の利点が実証されています。この図に示されているように、質量抽出ウィンドウ 0.2 Da を使用することで、シグナル対ノイズ比(S/N)が最高になり、全体的に最高の感度が得られます。QTof により、分析法および選択性の微調整に適切な質量抽出範囲(MEW)を選択することができます。図 5 に、全般的に 0.2 Da がこれらの分析種の適切な出発点であり、最高の S/N 比が得られることが、示されています。
全体として、HRMS の性能は、Xevo TQ-XS タンデム四重極で観測された MRM 定量データと同等でした。HRMS または MRM 分析を使用して得られた OST(25T)および GEM 91 に対する標準曲線性能のサマリーが、表 2 ~ 5 に示されています。いずれの質量分析計の場合も、達成された定量下限値(LLOQ)は 1 ng/mL で、ダイナミックレンジは QTof では 1 ~ 1,000 ng/mL、タンデム MS では 1 ~ 10,000 ng/mL でした。検量線は、直線性が r2 値 > 0.99(1/x2 重み付け)で、すべてのキャリブレーションポイントでの平均正確度が 88 ~ 108% でした。オリゴヌクレオチド OST および GEM 91 の品質管理(QC)性能が表 X に報告されており、平均正確性は 81 ~ 110%、CV は 0.2 ~ 10.1% です。
結論
- Xevo G2-XS QTof MS は、複数の取り込みモードでの LC-MS ベースの定量用の高品質データを生成できる、高感度なプラットホームであることが証明されており、定量可能なピークに対して複数の選択肢を提供します。これにより、MEW での選択性を微調整し、分析法に適した同位体/チャージ状態を選択する能力が利用可能になります。
- データ(表 2 ~ 5)により、Xevo G2-XS QTof MS および Xevo TQ-XS タンデム四重極 MS のいずれによっても、直線性、正確度、精度を損なうことなく、オリゴヌクレオチドに対して 1 ng/mL の感度レベルが達成されることが示されています。
- ACQUITY Premier Oligonucleotide C18 カラムを装着した ACQUITY Premier LC システムは、困難な課題である分析種の回収および検出限界を改善するために不可欠なツールです。
- ACQUITY Premier テクノロジーを使用することにより、金属の吸着が緩和され、定量的バイオ分析の分析法の頑健で高感度な定量性能が確保されます。
参考文献
- Jaeah Kim, Babak Basiri, Chopie Hassan, Carine Punt, Erik van der Hage, Cathaline den Besten, Michael G. Bartlett, Metabolite Profiling of the Antisense Oligonucleotide Eluforsen Using Liquid Chromatography-Mass Spectrometry, Molecular Therapy – Nucleic Acids, Volume 17, P714–725, September 6, 2019.
- Kathryn Brennan, Mary Trudeau, Paul D. Rainville, Utilization of the ACQUITY Premier System and Column for Improved Oligonucleotide Bioanalytical Chromatographic Performance, Waters Application Note, 720007119, January 2021.
- Kathryn Brennan, Mary Trudeau, Michael Donegan, Paul D. Rainville, Improved Oligonucleotide SPE-LC-MS Analysis Using MaxPeak High Performance Technology, Waters Application Note, 720007019, September 2020.
- Jennifer M Nguyen, Martin Gilar, Brooke Koshel, Michael Donegan, Jason MacLean, Zhimin Li, Matthew A Lauber, Assessing the Impact of Nonspecific Binding on Oligonucleotide Bioanalysis, Bioanalysis, Vol.13, No.16, Pages:1233–1244.
720007391JA、2021 年 10 月