• アプリケーションノート

Waters ACQUITY Premier ソリューションを用いた「酸性」ペプチドの回収率とクロマトグラフィー性能の向上

Waters ACQUITY Premier ソリューションを用いた「酸性」ペプチドの回収率とクロマトグラフィー性能の向上

  • Robert E. Birdsall
  • Jacob Kellet
  • Samantha Ippoliti
  • Ying Qing Yu
  • Waters Corporation

要約

液体クロマトグラフィー(LC)における分析種/表面間の吸着は、LC ベースの手法における化合物のピーク形状の不良、テーリング、回収率低下の要因となります。この試験では、MaxPeak High Performance Surfaces(HPS)を採用した ACQUITY Premier ソリューションの性能を、「酸性」ペプチド(配列:VDNALQSGNSQESVTEQDSK、pI = 3.9)の金属による吸着現象を軽減する能力について評価しました。RPLC/MS ベースの手法を用いたところ、酸性ペプチドに対する MS 検出器レスポンスが最大 34 倍増加していることが認められました。これは部分的には、従来のハードウェアと比較して、ACQUITY Premier MaxPeak HPS テクノロジーを採用した場合に見られるテーリングの大幅な減少によるものでした。さらに、ACQUITY Premier LC システムおよびカラムを使用すると、最大 4 倍のピーク面積の増加が見られ、MaxPeak HPS テクノロジーにより、金属に吸着しやすいペプチドの回収率も向上することが実証されました。MaxPeak HPS テクノロジーを採用した ACQUITY Premier ソリューションで見られたクロマトグラフィー性能の向上により、従来の LC システムおよびカラムと比較して、高エネルギーの b/y フラグメントイオンが 3 倍(11 対 36)に増加しました。まとめると、この試験では、MaxPeak HPS テクノロジーを採用した ACQUITY Premier で見られたクロマトグラフィー性能の向上により、いかにラボの生産性が高まり、金属に吸着しやすい分析種のデータの質を向上させることができるかを示しています。

アプリケーションのメリット

ACQUITY Premier ソリューションでは、ステンレススチール製ハードウェアと比較して、酸性アミノ酸残基を含むペプチドの回収率、ピーク形状、および再現性が大幅に向上

はじめに

従来のステンレススチール製 LC システムおよびカラムで生体分子を分析する場合、非特異的吸着が原因で、サンプルの回収率低下および吸着しやすい分析種のピークテーリングが生じ、アッセイのばらつきが大きくなって検出器のレスポンスが低下することが実証されました。このような損失は、分析種と金属表面の望ましくない相互作用に起因する場合があります。根底にあるメカニズムは、電子が豊富な部分を含む分析種がルイス塩基として作用し、LC およびカラムハードウェアの金属表面の電子が少ない活性部位に非共有結合的に吸着するというものです。酸性ペプチド、または酸性アミノ酸(アスパラギン酸やグルタミン酸など)が存在するために中性 pH において正味で負に荷電したペプチドは、特にこの吸着現象の影響を受けやすい性質を示します。アミノ酸はタンパク質医薬品の構成要素であるため、バイオ医薬品の開発と製造においては、金属による吸着現象に関連する課題に頻繁に遭遇します。分析法開発またはルーチン検査に伴うリスクやタイミングの悪い遅延を低減するには、ペプチドベースのアッセイで再現性のある頑健な結果をもたらすことができる、導入可能なソリューションが必要です。

結果および考察

MaxPeak High Performance Surfaces(HPS)テクノロジーを採用した ACQUITY Premier ソリューションは、分析種/表面間相互作用に起因する吸着損失に関連する課題に対処しています。MaxPeak HPS テクノロジーを採用した MaxPeak Premier 製品ラインは、経験と確立された知識に基づき、バリア層を用いた設計を採用し、分析種の非特異的吸着を低減することで、回収率の向上、ピーク形状の改善、吸着しやすい分析種の良好な再現性を達成しています。この試験の目的は、業界で一般的なペプチドマッピングアッセイを行うための逆相液体クロマトグラフィー手法を用いた「酸性」ペプチド分析における ACQUITY Premier ソリューションのメリットを実証することです。

MaxPeak HPS テクノロジーを採用した ACQUITY Premier により、従来の金属表面で構成したシステムと比較して、サンプルの回収率とピーク形状がどのように改善するかを検討するために、3 種類のシステム構成を比較しました。用いた構成は、ステンレススチール製カラムを備えた従来の LC システム、ACQUITY Premier カラムで構成した従来の LC システム、および ACQUITY Premier ソリューション(MaxPeak HPS テクノロジーを用いた ACQUITY Premier カラムを装備した ACQUITY Premier システム)です。この試験では、NIST mAb レファレンス物質(Waters 製品番号:186009126)を酵素消化して生じた T14 ペプチド(配列:VDNALQSGNSQESVTEQDSK)を使用して、MaxPeak HPS テクノロジーを採用した ACQUITY Premier の性能を評価しました。T14 ペプチドは組成が酸性(20%、太字の注釈)で、金属による表面吸着が起きやすいことが既知であることから、この評価に適しています。サンプルは、0.68% B/分のグラジエント(MP A:H2O、0.1% v/v FA、MP B:MeCN、0.1% v/v FA)を使用した逆相 LC 条件で分析しました。SYNAPT XS HRMS を使用してデータ取り込みを行い(装置設定は図を参照)、データ解析およびペプチド同定は Waters UNIFI 科学情報システム(v1.9.4)を用いて行いました。ACQUITY UPLC CSH C18 カラム(製品番号: 186005297)を装備した ACQUITY UPLC H-Class Bio バイナリー PLUS システムを従来の LC システムとし、ACQUITY Premier CSH カラム(製品番号:186009488)を装備した ACQUITY Premier LC システムで構成された ACQUITY Premier ソリューションと比較しました。

図 1.  HPS テクノロジーを採用した MaxPeak Premier。A)T14 ペプチド(配列:VDNALQSGNSQESVTEQDSK)の [M+3H]+3 チャージ状態(m/z = 712.6533)の抽出イオンクロマトグラム(XIC)を用いて、従来の LC システムおよびカラム(上のパネル)、ACQUITY Premier カラムを装備した従来の LC システム(中央のパネル)、ACQUITY Premier カラムを装備した ACQUITY Premier LC システム(下のパネル)の MS レスポンスを測定しました。B)T14 ピークの XIC に対応する平均ピーク面積と標準偏差を 3 回繰り返し注入を用いて計算しました。

図 1A に示すように、ステンレススチール製カラムで構成した従来の LC でペプチドマッピングを行ったところ、T14 ペプチドでは顕著なテーリングが示されてピークがひどく広がり、最大シグナルは 5.2 × 104 イオンカウントでした(オレンジ色のトレース)。一方、同じ分離を MaxPeak HPS テクノロジーを採用した Waters ACQUITY Premier カラムで行うと、テーリングとピーク形状が大幅に改善し、シグナル強度が 23 倍増加して、1.2 × 106 イオン数の最大シグナルレスポンスが得られました(緑色のトレース)。さらに注目すべきことに、ACQUITY Premier ソリューション(ACQUITY Premier カラムを装備した ACQUITY Premier システム)を使用すると、図 1A の青色のトレースに示すように、装置のレスポンスがステンレススチール製のカラムを使用した従来のシステムと比較して 34 倍向上していました(イオン数 = 1.8 × 106)。MaxPeak High Performance Surfaces を採用した ACQUITY Premier テクノロジーを用いた場合の性能の向上は、吸着しやすい分析種のテーリングなどの金属への吸着によるアーティファクトの低減だけでなく、分析種の回収率の改善に起因しています。このことは、図 1B に示す各実験における面積レスポンスの増加により実証されています。この例では、ACQUITY Premier ソリューションを用いた場合、ペプチドの回収率が最大 4 倍向上しました(用いない場合にはシステムやカラムの金属表面に吸着して、回収率が低下すると考えられます)。このことから、LC システムとカラムハードウェアの両方への統合ソリューションとして導入した MaxPeak HPS テクノロジーのメリットが実証されました。MaxPeak HPS を採用した ACQUITY Premier テクノロジーで得られた性能の向上は、図 2 からわかるように、データの質の向上に直接つながります。控えめなフィルタリングパラメーターを用いた場合、ステンレススチール製カラムを装備した従来のシステムを使用した場合の T14 ペプチドのデータインディペンデント取得(MSE)分析で検出されたのは、わずか 11 の b/y フラグメントイオンのみでした(図 2A)。対照的に、MaxPeak HPS テクノロジーを採用した ACQUITY Premier を使用した場合、T14 ペプチドに対して 36 の b/y イオンが検出され(図 2B)、データの解釈とペプチド割当ての信頼性が向上しました。まとめると、これらの例により、MaxPeak HPS テクノロジーを採用した ACQUITY Premier ソリューションが、生産性向上およびデータの分析と解釈の信頼性向上の面でラボに価値をもたらすことが実証されます。

図 2.  データの質の向上。A)NIST mAb レファレンス物質(RM8671)のトリプシン消化物をステンレス製カラムを装備した従来の LC で RPLC/MS メソッドを使用して分離して得られた T14 ペプチドに関連する 11 の b/y ペプチドフラグメントを、データインディペンデント取得(MSE)を使用して同定しました。B)同じメソッドのパラメーターを使用して、高性能表面を採用した ACQUITY Premier テクノロジーを用いて分離を行った場合、同じサンプルについて 36 の T14 ペプチドの b/y ペプチドフラグメントが同定されました。メソッドのパラメーター:分離モード - フルスキャン(m/z 50 ~ 2000)、キャピラリー電圧 = 2.2 kV、ソース温度 = 120 ℃、脱溶媒温度 = 300 ℃、コーン電圧 = 20V、ソースオフセット = 4V。  コーンガスと脱溶媒ガスはそれぞれ 35 L/間および 500 L/時間で、MSE の低 ~ 高エネルギーランプ = 20 ~ 50V でした。ペプチドの許容基準: 3 以上の b/y フラグメントイオンが一致するプリカーサー質量で、質量誤差は 5 ppm 以下。

結論

ステンレススチール製ハードウェアを装備した従来の LC システムを使用した場合、分析種の非特異的吸着によりサンプル回収率が低下し、ピーク形状が不良になることがあります。MaxPeak High Performance Surfaces を採用した Waters ACQUITY Premier ソリューションでは、非特異的吸着に関連する課題に対処し、吸着しやすい分析種の回収率、ピーク形状、再現性が向上しています。MaxPeak HPS テクノロジーを採用した ACQUITY Premier により、ラボでの生産性を高め、バイオ医薬品製剤の開発と製造で行われる試験の再現性、回収率、頑健性を向上させることでリスクを低減することができます。

720007173JA、2021 年 3 月

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