適切なイオン対試薬の選択は、LC-MS ワークフローを最適化する際にクロマトグラフィー性能と MS 感度のバランスが多くの場合に必要になるため、必ずしも容易ではありません。この試験では、大容量ミキサーを活用して、ハイフネーテッド型ワークフローの MS 感度を維持しつつ、光学的ベースラインノイズを低減する方法を示します。具体的には、TFA ベースの分析法と同等のクロマトグラフィー性能のウォーターズの 340 μL ミキサーを使用すると、FA ベースの分析法で、UV ベースラインノイズが最大 1/3 に減少しました。さらに、FA を大型ミキサーと併用した場合、MS 感度が維持され、TFA を用いた場合の最大ピーク強度が 2 × 106 カウントであるのに対して、観察された最大ピーク強度は 9 × 107 カウントでした。この試験では、大容量ミキサーによって UV クロマトグラムのベースラインノイズを低減する効果的な手段が提供され、その一方で FA をイオン対試薬として取り入れた RPLC ベースの分析法の MS 感度が維持されることが示されます。
製薬企業は、成長と持続可能性を確保するために、新しいテクノロジー、および生産性を向上するための頑健で効率的な分析法を提供するそのテクノロジーの能力の評価に、リソースを投資し続けています。分析法開発プロセスの一環として、最適化を行う前に、最終用途のアプリケーションおよび検出器のニーズが多くの場合考慮され、最も適切な装置構成と開始時の分析条件が、検討されます。イオン対試薬を取り入れた分析法では、光学ベースであれ MS ベースであれ、エンドポイント検出器により分析法で使用するイオン対試薬が決定されます。より具体的には、ギ酸(FA)およびトリフルオロ酢酸(TFA)は、逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)メソッドで使用される一般的なイオン対試薬です。一般に FA は、MS ベースの検出に「弱い」(pKa = 3.75)イオン対試薬として好まれ、MS 検出器のレスポンスを最大化して分析法の感度を高めながら、適切なクロマトグラフィー性能をお届けします。対照的に TFA は、MS のイオン化抑制を引き起こすことが知られている「強い」(pKa = 0.6)イオン対試薬として、UV ベースの分析法に好まれます。これはピークテーリングなどの吸着によるアーティファクトを最小限に抑えてピークキャパシティを大きくすることができるためです。ただし、UV データにも依存する LC-MS ワークフローでは、特に分析感度とクロマトグラフィー性能の両方を最大化しようとする場合には、最適なイオン対試薬の選択は容易ではない場合があります1。 最近、ウォーターズの大容量ミキサーによって、UV ベースの分析法でベースラインノイズが効果的に低減され、分析感度および定量正確度の点でクロマトグラフィー性能が向上し、デュエルボリュームに対する影響が最小限に抑えられることが実証されました2。 これを考慮すると、溶媒ミキサーは、MS 感度を維持しつつ、光学的ベースラインノイズに関してクロマトグラフィー性能を向上するため、LC-MS ワークフローで利用可能なハードウェアコンポーネントを意味します。この試験の目的は、ウォーターズの大容量ミキサーを構成オプションとして評価し、デュアル検出器が組み込まれている LC-MS ワークフローでの検出器のレスポンスを最適化することです。
LC-MS ワークフローでのミキサー容量の影響を調べるために、ACQUITY UPLC H-Class PLUS Bio システムを LC プラットホームとして選択しました。その理由は、グラジエント条件下での移動相の優れた組成正確度を実現する実証済みの性能です2。標準の 50 μL ミキサーと比較するために、ウォーターズの 340 μL ミキサー(製品番号 700011554)を選択しました。これは、クロマトグラフィー性能を向上させるという点で優れていることを考慮したものです2。 MS レスポンスに対するミキサーの容量の影響を評価するために、ACQUITY LC 製品ラインに容易に組み込み、FA 条件と TFA 条件の両方に適合している ACQUITY QDa 質量検出器を、UV 検出器の後ろにインラインで接続して、質量データを取り込みました3。 この試験では、FA または TFA で展開されるグラジエントを使用する、業界で一般的に使用されている手法である逆相クロマトグラフィーを使用した、ペプチドマッピング分析法を選択しました。移動相(MP)は、0.1%(v/v)の FA または TFA が含まれている水(MP:A)およびアセトニトリル(MP:B)で調製しました。ウォーターズのトリプシン消化標準試料(製品番号 186009126)を使用し、流速 0.500 mL/分、0.6% B/分のグラジエントを用いて、ACQUITY UPLC Peptide CSH C18 カラム(130 Å、1.7 μm、2.1 mm × 100 mm、製品番号 186006937)で分離を行う、24 分間のペプチドマッピング分析を行いました。光学(UV)検出は波長 214 nm で行い、フルスキャン範囲(50 ~ 1250 m/z)を使用して質量データを取り込みました。ハードウェア交換後にベースラインレスポンスが安定していることを確認するため、ブランク注入 4 回で構成されるサンプルセットを実行し、その後トリプシン消化標準試料を 5 回注入しました。
性能を評価するために、ペプチドマッピング分析法を、FA と TFA の両方で標準の 50 μL ミキサーを用いて行いました。図 1 に示されているように、いずれのイオン対試薬も酵素で処理したタンパク質の分析で良好に機能しており、従来の RPLC ベースの分析法でのクロマトグラフィースペースを利用できます。前述したように、いずれのイオン対試薬も、多くの場合分析法の最適化時に利用される独特の特性を示しています。この例では、クロマトグラム全体にわたって選択したピークを使用して計算した際に、ピークキャパシティが向上する(FA Pc = 446、TFA Pc = 468)ことによって実証されているように、全体的に TFA の方でピーク形状がわずかに良好です。ピークキャパシティはイオン対試薬によってのみ決まるわけではなく、固定相の選択によって結果が異なる場合があることを注意する必要があります。さらに、TFA では、クロマトグラフィープロファイルでの全体的な保持時間のシフト、および ACQUITY QDa で取り込んだ質量情報を用いて確認された選択性の違いに基づいて、保持時間がある程度増加しています(データは示されていません)。再現性に関しては、保持時間に観察された偏差が最小限であったことに基づくと、いずれのイオン対試薬も 3 日間にわたって卓越した分析再現性を示しました(表 1)。この情報を考えると、いずれのイオン対試薬も許容可能なレベルで機能した(選択性または保持係数が決定要因の可能性がある)と、結論付けることができます。ただし、個々のクロマトグラムをより詳細に調べると、イオン対試薬のわずかな相違が明らかになります。図 2A に示されているように、標準の 50 μL ミキサーを使用した場合の水ブランク試料の光学ベースラインで、ギ酸では TFA(0.23 mAU)と比較して 5 倍以上多いノイズ(1.3 mAU)が示されました。図 2B に示されているように、これは、UV クロマトグラムのベースラインノイズの増大を意味しており、定量結果と分析法の再現性に悪影響を及ぼすことがあります2。 対照的に、TFA は UV ベースラインノイズの点では性能が優れていることが観察されましたが、前述のように MS 検出器には適していません。このことは図 3 に示されており、同じデータの MS スペクトルで、TFA では顕著なイオン化抑制が示されており(UV クロマトグラムと MS クロマトグラムでピークが観察されない)、その一方で FA では MS レスポンスが顕著に高く、ピークは簡単にベースラインノイズから区別できます。
ハイフネーテッド型ワークフローのクロマトグラフィー性能を改善するための大容量ミキサーの適用性を試験するため、ウォーターズの 340 μL ミキサー(製品番号 700011554)を使用して同じ分離を行いました。図 4A に示されているように、ギ酸(挿入図)を使用した場合、ウォーターズの 340 μL ミキサーにより、50 μL ミキサーの結果と比較して、UV ベースラインノイズを最大 1/3(1.31 mAU 対 0.46 mAU)まで効果的に低減できました。興味深いことに、TFA を使用した場合の大容量ミキサーでは、50 μL ミキサーでの結果と比較してベースラインノイズが 5/6(0.19 mAU 対 0.23 mAU)しか低減されておらず、大容量ミキサーによる改善はわずかでした(データは示されていません)。このことは、FA でのクロマトグラフィー性能が、ベースラインノイズに関しては TFA ベースの分析法に近づいていることを示しています。図 4A に示されているように、この UV クロマトグラムでのノイズ低減により、保持時間に対する影響を最小限に抑えつつ(Δ RT ≅ +0.30 分)、低存在量のピークをベースラインノイズから容易に区別できます。
さらに重要なことは、大容量ミキサーを使用することで、LC-MS ワークフローでの MS 感度を保持する能力が促進されたことです。図 4B に示されているように、340 μL ミキサーで FA を使用した場合を、50 μL ミキサーで FA を使用した場合と比較して、同等の MS レスポンス(MS 強度 = 9 × 107)が観察されました。これらの結果により、FA ベースの分析法に大容量ミキサーを導入して、ハイフネーテッド型 LC-MS ワークフローでの MS 感度を維持しつつ、UV 検出器のレスポンスを改善できることが実証されています。
分析法開発の一環として、システム性能の最適化は、信頼できる一貫した結果を得るために必要です。多くの場合、イオン対試薬の評価が必要です。その理由は、イオンクロマトグラフィー性能に対するイオン対試薬の影響は、必ずしも明らかになっていないからです。UV 検出器が組み入れられた LC-MS ワークフローではこれは特に当てはまり、多くの場合、UV ベースラインノイズと MS 感度のバランスが追及されます。この試験では、ウォーターズの大容量ミキサーにより、UV クロマトグラムのベースラインノイズを低減する効果的な手段が提供されるとともに、FA をイオン対試薬として取り入れた RPLC ベースの分析法の MS 感度を、保持時間にほとんど影響することなく維持できることが実証されています。
720007281JA、2021 年 6 月