• アプリケーションノート

モノクローナル抗体のサイズ排除分析法およびイオン交換分析法の HPLC から Arc Premier システムへの分析法移管

モノクローナル抗体のサイズ排除分析法およびイオン交換分析法の HPLC から Arc Premier システムへの分析法移管

  • Brooke M. Koshel
  • David Dao
  • Robert E. Birdsall
  • Ying Qing Yu
  • Waters Corporation

要約

内部ラボと外部の受託機関の間での分析法の移管は、バイオ医薬品の分析開発の主要な部分です。移管するラボと移管を受けるラボでは古い装置が徐々に廃止されるため、各ラボはそれぞれの適時に装置を更新する、および各ラボは異なるベンダーの装置を使用しているという課題に直面します。これらの相違があるにもかかわらず、2 つのラボの間で生成されるデータはすべて同等であることを実証する必要があります。開発ラボおよび品質管理ラボは、既存のテクノロジーの置き換えが遅いことがありますが、最新のテクノロジーは、ライフサイクル管理の一環として、古い分析法や将来の開発活動にメリットをもたらす可能性があります。Arc Premier システムは、HPLC プラットホームで従来から実行されているより多くのルーチン分析法にも対応できる、最新の UHPLC として導入されました。サイズ排除クロマトグラフィー分析法およびイオン交換クロマトグラフィー分析法はいずれも品質管理で一般的に使用される分析法であり、Alliance HPLC システムからの分析法の移管では、再現性のある結果が示されました。2 つのプラットホーム間での保持時間およびピーク面積パーセントの差異は無視できるほどであり、Arc Premier システムで従来の分析法が正常に再現できるという自信が得られました。より最新の UHPLC テクノロジーの利点をさらに活用するためにカラムケミストリーも更新し、向上したクロマトグラフィー性能により、より高い信頼度で定量化できる結果が達成されました。

アプリケーションのメリット

  • 従来の SEC および IEX 分析法を HPLC から UHPLC プラットホームである Arc Premier システムに移管する際の分析法の等価性の実証
  • LC プラットホームおよびカラムケミストリーの最新化が、バイオ医薬品ラボの未来を切り開く

はじめに

バイオ医薬品製品のライフサイクルは長年にわたるため、製品品質を保証するために使用する分析法は、頑健で信頼性が高いことが極めて重要です。これらの分析法では、分析に使用する装置プラットホームおよびカラムケミストリーは、一貫した結果をもたらすことができる必要があります。バイオ医薬品分野では、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)およびイオン交換クロマトグラフィー(IEX)が、モノクローナル抗体(mAb)の製品品質の評価に使用される最も一般的な分析法です。従来の分析法は内部ラボと外部ラボの間で移管されるため、移管する側のラボと移管を受ける側のラボの間で異なるかもしれない環境要因に関係なく、これらの分析法を再現できることが極めて重要です。

この試験では、SEC 分析法および IEX 分析法を、業界標準のステンレススチール製 HPLC システムである Alliance HPLC システムから、最新の UHPLC プラットホームである Arc Premier システムに移管しました。Arc Premier システムは、金属の影響を受けやすい分析種の金属表面への不要な吸着を低減するために特別に開発された MaxPeak High Performance Surfaces(HPS)テクノロジーを使用して、設計されています1。このテクノロジーでは、分析種および金属表面の固有の電荷特性(SEC や IEX では移動相のイオン強度が高いために一般には観察されない)により、RPLC 分析法および HILIC 分析法に対する利点が実証されていますが、新しいテクノロジーをより広範に導入し、既存の分析法をサポートできることが重要です。従来の SEC 分析法および IEX 分析法を使用して分析法を正常に移管できることを実証した後、更新したカラムケミストリーを Arc Premier システムと組み合わせて使用して、最新のテクノロジーは従来の分析法をサポートするだけではなく、これらの従来のアプローチに対して明らかな利点を提供できることを示しています。

実験方法

サンプルの説明

トラスツズマブ製剤を SEC 実験用に、USP <129> に準拠して移動相中に 10 mg/mL になるように調製しました。トラスツズマブは IEX 実験用に、1 mg/mL になるように水で希釈しました。サンプルは、各分析の前に新しく調製しました。

LC 条件

LC システム:

Alliance HPLC システム、2489 UV/Vis 検出器を搭載

Arc Premier システム、2489 UV/Vis 検出器を搭載

SEC

カラム:

BioSuite Diol (OH) カラム 250 Å、5 μm、7.8 × 300 mm、USP 分類 L59(製品番号: 186002165)

BioResolve SEC mAb カラム、200 Å、2.5 µm、7.8 × 300 mm(製品番号:186009441)

波長:

280 nm

注入量:

20 μL

カラム温度:

室温

流速:

0.500 mL/分

移動相

200 mM リン酸カリウムバッファー、250 mM KCl、pH 6.2

方法:

アイソクラティック分析時間 30 分

IEX

カラム:

Protein-Pak Hi Res CM カラム、7 µm、4.6 × 100 mm(製品番号: 186004929)

Protein-Pak Hi Res SP カラム、7 µm、4.6 × 100 mm(製品番号: 186004930)

BioResolve SCX mAb カラム、3 µm、4.6 × 100 mm(製品番号: 186009060)

波長:

280 nm

注入量:

20 μL

カラム温度:

25 ℃

移動相 A:

20 mM MES バッファー pH 6.6

移動相 B:

20 mM MES バッファー pH 6.6、1 M NaCl

グラジエント

グラジエント

データ管理

Empower 3 クロマトグラフィーデータソフトウェア FR4

結果および考察

従来の HPLC 分析法の等価性の実証

SEC は、モノクローナル抗体の開発および品質管理で、高分子種(HMWS)や凝集体などのサイズバリアントを試験する際に最適な分析法です。凝集は、モノクローナル抗体に固有の特性または製造時および保管中に外部要因によって発生する場合があり、免疫原性の増大につながるとされています。粒子径の大きなカラムとバンド拡散の大きい HPLC システムを使用する古い SEC 分析法では、HMWS およびモノマーのピークが十分に分離されます。低分子種(LMWS)も存在しますが、HPLC ベースの分析法では分離能が不十分であるため、より信頼できる定量用にはキャピラリー電気泳動が歴史的に使用されてきました。SEC の進歩により LMWS の分離能の向上が可能になる一方で、新しい LC プラットホームは進化するラボ環境に組み込まれるため、これらのシステムは引き続き古い分析法に対応し、従来の LC プラットホームと同じ結果を生成することが重要です。

古い SEC 分析法を評価するため、SEC によるモノクローナル抗体の純度評価、キャピラリー電気泳動、オリゴ糖分析の分析手順を提供する USP <129> に従って、分析法条件を選択しました。SEC の条件は表 1 に要約されており、提案された分析法に対して変更を加えずに、そのまま使用しました。Alliance HPLC システムおよび Arc Premier システムで、トラスツズマブの一連の注入(n=6)を行いました。代表的なクロマトグラムに、2 つのプラットホーム間で類似のプロファイルが示されています(図 1)。

SEC 分析法条件のサマリー。 表 1.  USP <129> Analytical Procedures of Recombinant Therapeutic Monoclonal Antibodies に概説されている SEC 分析法条件のサマリー
トラスツズマブの SEC 分析法移管。 図 1.  トラスツズマブの SEC 分析法移管。分析法条件は USP <129> で概説されており、これらを変更せずに使用しました。LMWS 1 は、十分に分離されないため、モノマーピーク領域に含まれています。

分析法の等価性を判定するため、保持時間およびピーク面積をさらに比較しました。表 2 に、それぞれの LC プラットホームでの 6 回注入の、HMWS、モノマー、LMWS 2 の平均保持時間と相対保持時間が報告されています(LMWS 1 はモノマーピークと共溶出します)。2 つのシステム間の保持時間の差は、それぞれのピークについて 0.6 分未満です。保持時間のシフトを考慮するために、相対保持時間の差も報告されており、その差は無視できます。ピーク面積もプラットホーム間で一定でした(表 3)。プラットホーム間のピーク面積の差は、6 回の注入で 0.07% 以下でした(モノマーのピークに対する報告値)。存在量がはるかに低い HMWS および LMWS 2 についても信頼できる定量が行われ、ピーク面積の差はそれぞれ 0.064% および 0.006% でした。さらに、単一の LC プラットホームで得られた結果にも再現性がありました。%RSD は、どちらのプラットホームのピークでも 2% を超えませんでした。保持時間とピーク面積の組み合わせでは、Arc Premier システムで古い LC システムと合致する結果が得られることが示されています。

Alliance HPLC システムと Arc Premier システムでの保持時間(RT)と相対保持時間(RRT)の比較(N = 6)。 表 2.  Alliance HPLC システムと Arc Premier システムでの保持時間(RT)と相対保持時間(RRT)の比較(N = 6)。LC システム間で比較すると、保持時間の差はすべてのピークについて無視できます。
Alliance HPLC システムと Arc Premier システムでのピーク面積の比較(N = 6) 表 3.  Alliance HPLC システムと Arc Premier システムでのピーク面積の比較(N = 6)。結果は 2 つの LC プラットホーム間で同様であり、個々の装置内で再現性があります。

Arc Premier システムのより広範な適用性をテストするため、IEX も QA/QC 環境で実施するルーチン分析法として評価しました。IEX は、酸性および塩基性不純物の定量に使用する電荷ベースの分離であり、この場合、従来の分析法では溶出に塩のグラジエント(pH グラジエントに対して)が最も頻繁に使用されます。IEX 分析法は特定の分析種について最適化する必要があるため、より一般的な分析法を推奨するガイダンス文書はありません。より古い LC およびカラムのテクノロジーを使用した分析法の代表としてまず Alliance HPLC システムで、Protein Pak Hi Res CM カラム(7 μm、4.6 x 100 mm)を使用して IEX 分析法条件を最適化しました。比較のため、Alliance HPLC システムおよび Arc Premier システムで、1 mg/mL トラスツズマブを 6 回注入しました。クロマトグラフィープロファイルは 2 つのプラットホーム間で非常に類似していることが観察されました(図 2)。予測されたように、デュエルボリュームの体系的相違により、保持時間のシフトが認められます(Alliance HPLC システム: 1,050 μL、Arc Premier システム: 950 μL)。古い分析法では、多くの場合長いグラジエント/分析時間が使用されることが多いのですが、実験ではより短い分析法を使用しました。その理由は、この条件でもクロマトグラフィープロファイルと酸性および塩基性のバリアントの割り当てが、社内で得られた過去の結果と一致するからです2,3

トラスツズマブの IEX 分析法移管。 図 2.  トラスツズマブの IEX 分析法移管。2 つのシステム間でのデュエルボリュームの違い(Alliance HPLC システム:1050 μL、Arc Premier システム:950 μL)により、保持時間のわずかなシフトが認められます。デュエルボリュームは、Hong と McConville が概説している方法によって計算できます4

結果を LC プラットホーム間でさらに評価するため、表 4 に、図 2 で特定された 7 本のピークの保持時間と相対保持時間が示されています。保持時間の平均差は 0.149 分で、2 つのプラットホーム間のデュエルボリュームの差(0.149 分 × 0.8 mL/分 = 0.126 mL)と合致しています。相対保持時間の報告によりこの差を補正すると、この差は無視できます。これらの同じ 7 本のピークの相対ピーク面積も非常に類似しており、個別に報告されたピークは相互の誤差範囲内です(図 3)。酸性および塩基性バリアント全体の報告では、2 つのプラットホーム間の結果はそれぞれ相互の 0.04 および 0.11% 以内でした。Alliance HPLC システムと Arc Premier システムでは、それぞれ独立して再現性のあるデータが生成されており、2 つのプラットホームの比較でも同等の結果が得られることが実証されました。

Alliance HPLC システムと Arc Premier システムでの保持時間(RT)と相対保持時間(RRT)の比較(N = 6)。 表 4.  Alliance HPLC システムと Arc Premier システムでの保持時間(RT)と相対保持時間(RRT)の比較(N = 6)。LC システム間で比較すると、保持時間の差はすべてのピークについて無視できます。
Alliance HPLC システムと Arc Premier システムでのピーク面積の比較(N = 6)。 図 3.  Alliance HPLC システムと Arc Premier システムでのピーク面積の比較(N = 6)。2 つの LC プラットホーム間で、個々のピークおよび酸性と塩基性のバリアントの総数について、結果は同様でした。

新しいテクノロジーおよび最新のテクノロジーでバイオ医薬品ラボを未来につなぐ

古い LC プラットホームを交換し、より最新の装置をラボに導入することにより、粒子径のより小さい新しいケミストリーも取り入れることができ、より頑健な分析法を構築し、分離能の向上や分析時間の短縮などの利点を手に入れることができます。図 4A では、推奨カラムが粒子(およびポア)サイズが小さいカラムに更新された USP <129> の分析法条件を使用して、トラスツズマブの SEC データを収集しました。古い分析法では、LMWS 1 はモノマーと同じサイズを持つためバックショルダーとして溶出するため、一般に正確には定量できません。カラムケミストリーを BioResolve SEC mAb カラムに更新することで、このバックショルダーピークを分離できるようになり、モノマーピークのピーク面積パーセントが約 0.6% 過大評価されていたことが判明しました(図 4A)。

同じ利点が IEX で達成されるかを調べるため、Arc Premier システムを使用して、強陽イオン交換体(Protein-Pak Hi Res SP カラム)と弱陽イオン交換体(Protein-Pak Hi Res CM カラム)の両方、および粒子径 3 μm の強陽イオン交換カラムである BioResolve SCX mAb カラムで、7 μm カラムケミストリーを評価しました(図 4B)。3 つのカラムすべてにわたって同じ分析法条件を使用した場合、BioResolve SCX mAb カラムによって分離されたバリアントの数が最大でした。さらに、酸性および塩基性バリアントの総数は、Protein Pak Hi Res SP カラムでの結果に合致しています。Protein Pak Hi Res CM カラム(弱陽イオン交換カラム)では、ピーク面積純度が他の 2 つのカラムと同様ですが、強陽イオン交換カラムと比較して酸性および塩基性バリアントの総数がよりばらついています。LC システムでのバンド拡散を最小限に抑えるだけで分離能が向上する SEC とは異なり、IEX 分析法ではさまざまなカラムケミストリーや分析種についてさらに最適化することから利益が得られます。IEX では、酸性および塩基性バリアントを分離するときに一般的にトレードオフの関係(一方の分離を改善すると通常他方の分離が低下する)があるため、分析法をカスタマイズして各不純物群の分離能のバランスを向上することが有益な場合があります。

従来のカラムおよび最新のカラムケミストリーを使用した Arc Premier システムでの結果の比較。 図 4.  従来のカラムおよび最新のカラムケミストリーを使用した Arc Premier システムでの結果の比較。図 4A.BioSuite Diol(OH)カラム(250 Å、5 μm、7.8 × 300 mm)および BioResolve SEC mAb カラム(200 Å、2.5 μm、7.8 × 300 mm)を使用したトラスツズマブの SEC。BioResolve mAb カラムでは、従来の SEC カラムを使用した場合にモノマーピークと共溶出する LMWS 1 フラグメントを分離できます。図 4B.Protein Pak Hi Res CM カラム(7 μm、4.6 × 100 mm)、Protein Pak Hi Res SP カラム(7 μm、4.6 × 100 mm)、BioResolve SCX mAb カラム(3 μm、4.6 × 100 mm)を使用したトラスツズマブの IEX。SP カラムと BioResolve SCX は強陽イオン交換カラムであり、互いに類似した結果が生成されます。(カラムを比較する際に、カラムケミストリーを更新する以外は、すべての分析法条件を同じにしました)。

結論

従来の SEC 分析法および IEX 分析法では、粒子径が大きい HPLC システムおよびカラムケミストリーを採用して、これらのより古いプラットホームの圧力限界を超えないようにしています。ラボにより最新の LC プラットホームを取り入れる際は、それらの新しいシステムで既存のテクノロジーと同等の結果が得られることを実証する必要があります。この試験により、古い SEC メソッドおよび IEX メソッドを Alliance HPLC システムから Arc Premier システムに移管することができ、保持時間およびピーク面積パーセンテージの差が無視できることが実証されています。Arc Premier システムと最新の UHPLC カラムを組み合わせることで、効率、選択性、分離能の向上により、データをより正確に解釈できる可能性があります。

参考文献

  1. DeLano, M., Walter, T. H., Lauber, M. A., Gilar, M., Jung, M. C., Nguyen, J. M., Boissel, C., Patel, A. V., Bates-Harrison, A., Wyndham, K. D. Using Hybrid Organic-Inorganic Surface Technology to Mitigate Analyte Interactions with Metal Surfaces in UHPLC.Anal.Chem. 2021, 93, 14, 5773–5781.
  2. Koshel, B. M., Birdsall, R. E., Yu, Y. Q. Method Development Tools for More Efficient Screening of Biopharmaceutical Method Conditions Using the ACQUITY Arc Bio System Part 2 of 2: Screening SEC and IEX Conditions in a Single Experiment.Waters Application Note, 2020 720006854EN.
  3. Yang, H., Warren, B., Koza, S. Development of Monoclonal Antibody Charge Variant Analysis Methods Using a BioResolve SCX mAb Column.Waters Application Note, 2019, 720006477EN.
  4. Hong, P, McConville, PR.Dwell Volume and Extra-Column Volume: What Are They and How Do They Impact Method Migration.Waters White Paper, 2016, 720005723EN.

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