• アプリケーションノート

MS 対応移動相を用いた高分解能 LC によるキナーゼ阻害薬イマチニブの不純物分析の最新化

MS 対応移動相を用いた高分解能 LC によるキナーゼ阻害薬イマチニブの不純物分析の最新化

  • Peng Chen
  • Bonnie A. Alden
  • Matthew A. Lauber
  • Waters Corporation

要約

イマチニブおよびこれに関連する不純物を分離するため、荷電表面フェニル固定相を用いた UPLC 分析法が開発されました。高効率で選択性の高い分離が、10 mM ギ酸アンモニウムと 0.1% ギ酸モディファイヤーをベースにした MS 対応移動相により、達成されました。イマチニブとその 9 種の関連不純物が 6 分以内に分離され、不純物の親 MS スペクトルおよびフラグメンテーション MS スペクトルが容易に取得され、ピークが確認されました。

アプリケーションのメリット

  • イマチニブとその 9 種の関連不純物の 6 分間での分離
  • UPLC と CSH Phenyl-Hexyl カラムの使用により、成分のベースライン分離による効率的な分離を実現
  • MS 対応移動相による高感度の MS および MS/MS 分析

はじめに

最近 20 年以内に、低分子薬理学は複数の興味深い分野に拡大されました。特に、抗がん剤候補の新しいパイプラインが登場し、その多くは創薬可能な標的としてキナーゼ阻害薬に狙いを定めています。これらの分子は、ペプチドを模倣する骨格を持ち、キナーゼ阻害薬が自然に作用するアミノ酸残基と類似したヘテロ原子や共役置換基で構成されています。この医薬品分野内の薬剤候補は化学的に独特であり、高分解能の不純物分析に対する必要性が常に存在します。イマチニブは、2001 年に FDA が承認した最初のキナーゼ阻害薬でした1-3。 欧州薬局方(EP)は、その分析および関連する一連の不純物についてのモノグラフ HPLC 分析法を公表しています。この EP 分析法では、3 種類の HPLC 条件と 2 種類の HPLC カラムを使用して、イマチニブが 7 種の不純物(A、B、C、D、F、H、J)から分離されます。さらに、EP 分析法では、分離を容易にするための不揮発性イオン対試薬(オクタンスルホン酸ナトリウム)が必要です。このイオン対試薬により、誤ったピークの観察に関する品質調査が必要な場合に、質量分析の使用が不要になります。

このアプリケーションノートでは、荷電表面フェニルカラムと MS 対応移動相を使用して、イマチニブおよびその 9 種類の関連不純物(このうち 7 種は EP モノグラフに記載)の分離効率と選択性を大幅に向上させました。さらに、この分析法は容易に質量分析と組み合わせることができるため、MS および MS/MS 分析を適用して、成分同定および構造解析に対応できました。全体として、ここに概説するアプローチは、同様の窒素原子が含まれている複素環構造が特徴である他のキナーゼ阻害薬に適用できると考えられます。

実験方法

化学試薬及び標準品

イマチニブおよび不純物 F は Sigma から入手しました。イマチニブの不純物 A、B、D、H は Toronto Research Chemicals から入手しました。イマチニブの不純物 C、J、イマチニブ(ピペリジン)-1-オキシド(オキシドと略記)、イマチニブ(ピペリジン)-N,N-ジオキシド(ジオキシドと略記)は BocSciences から購入しました。

サンプル前処理

上記の各標準化学物質を使用して、メタノールとアセトニトリル(1:1)の混合溶媒中に 1.5 mg/mL の標準ストック溶液を調製しました。各標準ストック溶液 100 μL を混合し、この混合液をメタノールでさらに希釈して(1:5)UPLC 分析に用いました。UPLC 分析および保持時間確認用に、各標準ストック溶液をメタノールで 1:50 に希釈しました。

UPLC 分析条件

UPLC システム:

ACQUITY UPLC I-Class

検出:

UV 検出@227、254、267 nm

バイアル:

トータルリカバリー 12 × 32 mm ガラススクリューネックバイアル(製品番号:186000384C)

カラム 1:

図 1 および 2:ACQUITY UPLC HSS C18 1.8 μm カラム、100 Å、2.1 mm × 100 mm(製品番号:186003533)

カラム 2:

図 3:ACQUITY Premier UPLC CSH Phenyl-Hexyl 1.7 μm カラム、130 Å、2.1 mm × 100 mm(製品番号:186009475)

カラム温度:

図 1 では 35 ℃、図 2 および図 3 では 40 ℃

サンプル温度:

10 ℃

注入量:

0.5 μL(サンプル)

流速:

図 1 では 0.50 mL/分、図 2 および図 3 では 0.40 mL/分

移動相 A:

図 1:2.3 g のオクタンスルホン酸ナトリウム一水和物および 1.2 mL のリン酸を含む 700 mL 水 + 300 mL アセトニトリル

図 2 および 3:0.1%(v/v)ギ酸および 10 mM ギ酸アンモニウム水溶液

移動相 B:

図 1:2.3 g のオクタンスルホン酸ナトリウム一水和物および 1.2 mL のリン酸を含む 100 mL 水 + 900 mL アセトニトリル

図 2 および 3:0.1%(v/v)ギ酸アセトニトリル溶液

MS 条件

MS システム:

Vion IMS QTof

イオン化モード:

ESI+、分解能

取り込み範囲:

m/z 50~1000

キャピラリー電圧:

2.0 kV

サンプルコーン電圧:

80 V

HD-MSE コリジョンエネルギー:

6 eV(低エネルギー)、および 10 ~ 40 eV のランプ(高エネルギー)

HS-MSMS コリジョンエネルギー:

m/z 50 で 10 ~ 40 eV のランプから m/z 1000 で 20 ~ 50 eV のランプまで

イオン源温度:

110 ℃

脱溶媒温度:

400 ℃

脱溶媒ガス:

800 L/時間

データ管理

UPLC および MS ソフトウェア:

データの取り込みおよび分析用の UNIFI v1.8

結果および考察

イマチニブの EP モノグラフ分析法は、当社の LC 分析法開発の出発点の役割を果たしました。不純物の光学検出には、5 μm シリカ C18 が充塡された 4.6 × 250 mm の長いカラムと、イオン対試薬を含む移動相の使用が、EP モノグラフでは要求されています。比較的高い流速である 2.3 mL/分も指定されています。実験を開始する前に、この分析法を UPLC 条件にスケーリングしました。L/dp に適合するように ACQUITY UPLC HSS C18、1.8 μm、2.1 × 100 mm カラムを選択しました。MS 検出器との最適なペアリングのために、流速 0.5 mL/分を適用しました(ただし、この流速は EP モノグラフに記載されているよりも低い線速度に対応します)。図 1 に示されているように、これらの条件下では、イマチニブの不純物 A と H は 0.64 分あたりで共溶出し、不純物 J とオキシドは 5.87 分で共溶出しました。

図 1.  ACQUITY HSS C18 カラム(2.1 mm × 100 mm C18 1.8 μm 100 Å)を使用する、UPLC で修正した EP 分析法条件下での、イマチニブおよび 9 種の関連不純物の分離。検出:267 nm。流速:0.5 mL/分。グラジエント:6.14 分間 2% B のアイソクラティック、および 5.36 分間 2% B ~ 50% B のリニアグラジエント

同じ C18 カラムを使用し、MS 対応移動相を用いる新しい UPLC グラジエントを選択して、分析時間を短縮し、成分の同定と構造解析のためのプリカーサーイオンおよびフラグメントイオンの MS スペクトルの取得を開始しました。ただし、図 2 に示されているように、オキシド/ジオキシドのピークペアは分離できず、ピーク A/B/H および C/イマチニブ/J が部分的に共溶出することがわかりました。

図 2.  MS 対応移動相および ACQUITY HSS C18 カラム(2.1 mm × 100 mm、C18、1.8 μm、100 Å)による、イマチニブおよび 9 種の関連不純物の分離。検出:267 nm。流速:0.4 mL/分。グラジエント:10 分間で 5 % B ~ 100 % B のリニアグラジエント。

イマチニブの不純物分子の窒素原子が含まれている複素環構造に対する選択性を高めるために、ACQUITY Premier CSH 130 Å Phenyl-Hexyl カラムを次に適用しました。CSH Phenyl-Hexyl 粒子は、フェニルヘキシルリガンドが含まれるように修飾された、酸性 pH 条件下で正の表面電位を有するユニークな固定相です。このため、この固定相は従来の C18 RP-LC 相と比較してユニークな選択性を示します。CSH Phenyl-Hexyl カラムでは、図 3 に示されているように、イマチニブの不純物 A/H および J/C は良好に分離され、吸着剤のユニークな特性により、ピークの溶出順序の変化が観察されました。

この分離の間に質量スペクトルを取り込み、ピーク同定を確認し、個々の注入に基づくピーク割り当てを確証しました。各分析種のプロトン化した分子/プリカーサーイオン (M+H)+ またはネイティブ陽イオン M+ の抽出イオンクロマトグラム(XIC)を準備し、図 3 の下のパネルに重ね描きしています。

CSH Phenyl-Hexyl 充塡剤は、その保持力と選択性に加えて、液滴形成に対して比較的耐性があります。結果として、分析法の初期条件を最適化し、分析種の保持をさらに高めることができました。そのため、不純物 B をより効果的に保持する方法として、初期条件 0.5 % B を採用しました。この分子の保持をさらに最適化するため、移動相 A に、10 mM ギ酸アンモニウムを取り入れて、CSH 粒子の正の表面電位によって生じる電荷反発を弱めました。

図 3.  MS 対応移動相および ACQUITY Premier CSH Phenyl-Hexyl カラム(2.1 mm × 100 mm、C18、1.7 μm、130 Å)による、イマチニブおよび 9 種の関連不純物の分離および MS XIC。検出:267 nm。流速:0.4 mL/分。グラジエント:10 分間のリニアグラジエントで 0.5% B から 100% B まで。

ピークがベースライン分離された状態で、追加の MS 分析を行いました。図 4 にイマチニブのフラグメンテーションスペクトルが示されており、この最新の UPLC 分析法を質量分析と組み合わせることで、既知および未知のピークの詳細な構造分析のための情報がどのように得られるかが強調されています。UNIFI 解析ツールキットは、分子イオンや同位体イオンの精密質量、および同位体存在度や同位体間隔に基づいて、既知または未知の MS シグナルに対する分子式を確認または提案するのに役立てることができます。続いてこのツールキットにより、図 4 に示されているように、MS/MS フラグメンテーションスペクトルを分析すること、およびフラグメントの構造を割り当てることや提案することができます。イマチニブの低濃度不純物を調べるための追加研究が進められています。 

図 4.  高解像度 MSE モード分析を使用して得られたイマチニブの MS フラグメンテーションスペクトル

結論

ACQUITY Premier CSH Phenyl-Hexyl カラムを搭載した UPLC を使用することにより、イマチニブおよびその不純物を分析する EP 分析法の最新化が容易になりました。L/dp および MS の適合性に関する検討事項を適用して、イマチニブおよびその 9 種の不純物に対して優れたピーク形状と分離度が得られる分離法が開発されました。光学検出および精密質量飛行時間型 MS 分析の両方により、高感度の不純物分析が可能になりました。このような新しい分析法が、がん領域やその他の適応症のためのキナーゼ阻害剤の開発および QC 試験の加速化に役立つことを期待しています。 

参考文献

  1. Cohen, P., Cross, D. & Jänne, P.A. Kinase Drug Discovery 20 years after Imatinib: Progress and Future Directions.Nat Rev Drug Discov 20, 551–569 (2021).
  2. Bhullar, K. S. et al. Kinase-Targeted Cancer Therapies: Progress, Challenges and Future Directions.Molecular Cancer 17:48 (2018).
  3. Roskoski, R. Jr.Properties of FDA-Approved Small Molecule Protein Kinase Inhibitors: A 2021 Update.Pharmacological Research 165,105463 (2021).

720007340JA、2021 年 8 月

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