• アプリケーションノート

蛍光および UV のデュアル検出を用いたサイズ排除クロマトグラフィーによる AAV 濃度の迅速測定

蛍光および UV のデュアル検出を用いたサイズ排除クロマトグラフィーによる AAV 濃度の迅速測定

  • Stephan M. Koza
  • Weibin Chen
  • Waters Corporation

要約

内因性タンパク質の蛍光検出の前に、SEC ガードカラムをオンラインバッファー交換デバイスとして使用する方法は、キャプシド含有量(Cp/mL)が 2.6 × 1011 Cp/mL ~ 2.0 × 1012 Cp/mL の AAV8 サンプルの迅速な 2 分間での定量に有効であることが実証されました。この分析法では、必要最低限のサンプル前処理で、1 回の繰り返しにつき 1 µL のサンプルを使用します。濃度測定には内因性タンパク質の蛍光をモニターする検出器を使用しました。FLR レスポンスは、FLR 検出器の前に配置した UV/VIS PDA 検出器(SEC-UV-FLR)から得られた SEC-A280 および SEC-A260 のピーク面積の比を用いて推定したキャプシド DNA の含量(Empty/Full 比)について調整しました。

アプリケーションのメリット

  • 迅速でハイスループットな AAV キャプシドの濃度測定
  • 2 × 1011 Cp/mL 以下に至るまでの測定
  • AAV ssDNA の E/F 比の概算

はじめに

遺伝子治療用に設計されたアデノ随伴ウイルス(AAV)の調製物におけるキャプシド濃度の測定は、プロセス開発および製品品質分析のいずれにおいても不可欠です。現在、キャプシドの定量には ELISA 法が用いられています。これらの分析法は非常に信頼性が高いものの、結果が出るまで数時間かかる場合があり、十分に特性解析した試薬が必要で、一般的にクロマトグラフィー分析法よりも精度が低い(定量限界で約 20% CV)と言えます1.2。 変性条件下でのキャプシドタンパク質と AAV の ssDNA の示差紫外線吸光度(UV)を用いる方法も導入されています3。 このアプローチは一般に、最小限の分析時間でのハイスループット検査に適していますが、かなり多量のサンプル(100 µL)を必要とする場合があり、干渉する発色団が存在する場合はその影響を受けやすくなります。また、UV 吸光度検出器を用いた非変性サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の使用も報告されています(SEC-UV)4。このアプローチでは直線的な検量線が示されていますが、この分析法が使用できるのは ssDNA 含有量の変動が少ないサンプルに限定されます。

より最近の論文では、ssDNA を含まない AAV キャプシド(Empty)の相対的定量を、内因性タンパク質の蛍光(FLR)検出を用いた陰イオン交換クロマトグラフィーを用いて評価しています5。本研究では、空のキャプシドの内因性タンパク質の蛍光強度の、必要な ssDNA を含む AAV と比較した場合の相対変化が、280 nm(A280)または 260 nm(A260)における UV 吸光度の相対変化の数分の 1 であることが示されました。サンプル中のキャプシド ssDNA 含有量の推定値の誤差が最終的な濃度決定に与える影響がかなり小さいため、AAV 定量には、おそらく FLR の方が A280 よりも適しています。FLR の他の利点として、界面活性剤や DNA を含む他のサンプルの成分と比較して、タンパク質成分の選択性が高いことや低濃度サンプルにおける感度が高いことが挙げられます。

分析種としての AAV に関する課題として、UV 吸光度検出法と FLR 光学検出法を比較して、AAV 粒子径による光散乱効果と、UV 吸光度および FLR 量子収率に及ぼす影響の 2 つが挙げられます。結果として、インタクトな AAV の経験的な UV 吸光度および FLR レスポンスの測定は、AAV サンプル中の他の溶液成分が一定である場合に最も効果的であることになります。さらに、サンプル中の微粒子のサイズが使用する UV 波長に近いまたはそれを超えている場合、その濃度を最小限に抑える必要があります。従来の光学的分析法では一般に、0.2 µm 以下のフィルターを用いてサンプルをさらに精製してからスペクトル分析を行うことでこの問題に対処していました6

ここでは、AAV キャプシド濃度(Cp/mL)を測定するための FLR 検出を用いた迅速 SEC 分析法(2 分間)を紹介します。SEC アプローチは、分析種の光学測定を行うための一貫性に優れたソリューションを提供し、サンプルからの干渉成分をさらに除去することができます。この分析法では、FLR シグナルレスポンスを、陰イオン交換クロマトグラフィーなどの別の分析法によって決定されたサンプル中のキャプシド ssDNA 含量について補正することができます(720006825EN)。あるいは、本研究で実証したように、FLR 検出器の前に直列で UV/VIS PDA 検出器(SEC-UV-FLR)を配置し、260 nm と 280 nm で測定したピーク面積に基づく UV 吸光度の比(A260/A280)から、ssDNA 含有量を推定することもできます。

実験方法

サンプル前処理

ssDNA を含まない AAV8 キャプシド(AAV8-Empty)または緑色蛍光タンパク質の遺伝子を含む AAV8 キャプシド(AAV8-CMV-GFP)を SEC カラムに直接注入しました。AAV8-Null および AAV8-CMV-GFP のサンプル濃度はそれぞれ、約 1.67 × 1012および 2.48 × 1012 キャプシド/mL(Cp/mL)と推定されました。

LC 条件

システム:

ACQUITY UPLC H-Class PLUS Bio

検出:

蛍光検出器:励起波長:280 nm、蛍光波長:350 nm(10 ポイント/秒)、ACQUITY UPLC PDA 検出器(5 mm チタン製フローセル、280 nm および 260 nm)(10ポイント/秒)

バイアル:

ポリプロピレン 12 × 32 mm スクリューネックバイアル、キャップ付きおよびスリット入り PTFE/シリコーンセプタム付き、容量 300 µL、100 個入り(製品番号:186002639)

ガードカラム:

ACQUITY UPLC Protein BEH SEC、125 Å、1.7 µm、4.6 × 30 mm(製品番号:186006504)

カラム温度:

25 °C

サンプル温度:

10 ℃

注入量:

1.0 µL

流速:

0.20 mL/分

移動相

10 mM NaH2PO4、10 mM Na2HPO4、pH 6.6(HCl)、200 mM KCl、pH 6.6(HCl)、0.1 µm 滅菌フィルターでろ過済み

データ管理

クロマトグラフィーソフトウェア:

Empower 3

結果および考察

本研究は、最小限のサンプル前処理、限られたサンプル消費量、実用的な定量下限値で、AAV サンプルのキャプシド含有量を迅速に測定できるクロマトグラフィー法の開発を目的としています。ここで紹介する SEC-UV-FLR 分析法は、Protein BEH SEC ガードカラムによる分離を採用しています。このベッド長が短いカラム(30 mm)には、平均ポアサイズが 125Å で、粒子径 1.7 µm のジオール結合 BEH 粒子が充塡されています。AAV キャプシドを移動相にバッファー交換するには SEC カラムを使用し、ポアボリュームの大部分から AAV を排除する短いカラムを選択することにより、AAV の拡散が最小限に抑えられます。しかし、AAV のサンプルが、AAV と共溶出する可能性のある干渉物質(タンパク質、DNA など)も多量に含んでいる場合は、ポアサイズがより大きく、長いカラムが必要になることがあります。UV 吸光度検出器(UV)と蛍光検出器(FLR)の両方を直列接続し、使用しました。FLR の低背圧耐性に対応するために、FLR は UV の後に配置しました。

AAV8-Null(ssDNA なし)対照サンプル(以下、「AAV-Empty」)の濃度は、サプライヤーによって報告された ELISA 測定値に基づいて 1.67 × 1012 キャプシド/mL(Cp/mL)とし、DNA 含有キャプシドのレベルは、電子顕微鏡で測定した場合は約 0.5%、電荷検出質量分析法(CDMS)で測定した場合は 1.5% でした。AAV8-CMV-GFP サンプル(AAV-Full)の濃度は、AAV-Empty と AAV-Full サンプルの 50:50 の等量混合液で得られた CDMS スペクトルの相対ピーク面積に基づいて 2.48 × 1012 Cp/mL と推定されました。CDMS 分析によると、AAV-Full サンプルには 2.2% の空のキャプシドが含まれていました。AAV-Full サンプルを AAV-Empty サンプルを用いて連続希釈して、表 1 に示す AAV-Full のモル分率(ΧFull)およびキャプシド濃度の混合液をワンセットで作成しました。混合液の ΧFull の予測値も、CDMS による観測値と良く一致しており、原点を通した線形近似で、相関係数が 0.996、傾きが 1.008でした(データは示していません)。ただし、留意すべきなのは、これらの相対濃度の値を使用することは、この分析法の原理を実証するするのに十分であるものの、分析法により高い正確度が必要な場合には、AAV-Empty および AAV-Full の標準試料のキャプシド濃度のより厳密な評価を検討する必要があることです。

SEC FLR および 260 nm および 280 nm での SEC-UV(SEC-A260 および SEC-A280)のピーク面積を、AAV-Full および AAV-Empty のサンプルの連続希釈液のセットについて 2 回繰り返し測定しました。代表的なクロマトグラムの重ね描き(図 1)では、AAV8 の ΧFull が 1 から 0 まで変化する際の FLR シグナルのレスポンスの変化は、UV 吸光度の変化よりもかなり小さいことがわかります。この差は主に、完全なキャプシド内の DNA の 260 nm の強い UV 吸収によるものです。次に、混合物の SEC-FLR で得られたピーク面積および SEC-UV で得られたピーク面積をそれぞれの相対濃度で割ることにより、濃度について正規化しました(表 1)。次に、正規化したピーク面積を XFull に対してプロットしました(図 2)。図 2 に示す線形近似方程式に基づいて、ΧFull について予測されるピーク面積 1 および 0(AreaXFull = 1 および AreaXFull = 0)を外挿し、以下の式 1 を用いて AAV8-Full から AAV8-Empty へのレスポンス係数(RF/E)を計算したところ、A260(RF/E、260)について 6.81、A280(RF/E、280)について 2.98、FLR(RF/E、FLR)について 0.875 という値になりました。RF/E、260、RF/E、280、RF/E、FLR の値は、ssDNA の組成によって変化し、AAV 血清型によってはそれほど変化しないことが予想されます。

式 1.

図 1.  AAV8-Full のモル分率が約 1.0(黒)から 0.0(赤)の範囲の一連の AAV8 サンプルの、SEC 蛍光レスポンスと UV 吸光レスポンスの比較。実験手順は本文中に記載。 
図 2.  一連の AAV8 サンプル(n = 2)の SEC-UV(280 nm および 260 nm)および SEC-FLR でのピーク面積の変化。AAV8-Full のモル分率(ΧFull)の範囲は約 1.0~0.0 です。ピーク面積はサンプル濃度(Cp/mL)に対して正規化しています。実験手順は本文中に記載。 

ルーチン使用の場合、AreaΧFull = 1 および AreaXFull = 0 は、Cp/mL と ΧFull の両方が決定されている 2 つの AAV-Full および AAV-Empty 対照サンプルのピーク面積を用いて直接計算することができます。さらに、RF/E、FLR の値は、RF/E、280 および RF/E、260 と較べて 1 に近いため、サンプルの ΧFull に顕著な変動が見られず、あるいはキャプシド濃度の測定の正確度が低くても問題ない SEC-FLR によるキャプシド濃度の推定に、FLR レスポンスの補正は不必要かも知れません。

RF/E を適用するためには、サンプルの ΧFull(ΧFull,Sample)を知る必要があります。ΧFull,Sample は、電子顕微鏡法や陰イオン交換クロマトグラフィーなどの方法で測定できますが5、SEC-UV-FLR または SEC-UV 実験で、SEC-A260 と SEC-A280 でのピーク面積の比(AreaA260/AreaA280)を用いて、評価するサンプルの ΧFull を近似できるかも知れません。UV 吸収に基づく ΧFull,Sample の推定値は、使用する標準試料に依存し、バッファー組成の変化により吸光度の値が大きく逸脱することがあるため、十分に管理された実験条件下で測定を行うことが重要です。

この研究では、フォトダイオードアレイ(PDA)UV-VIS 検出器を FLR 検出器と直列接続して使用しました。FLR 検出器のフローセルは通常、高圧に対する耐性が低く、一般的に UV 検出器の後に配置する必要があります。この方法で UV 吸光度比 A260/A280 を決定する利点は、追加のサンプルが不要であり、サンプル中の干渉を起こす可能性のある発色団や蛍光団を、(サイズが異なる場合に)SEC カラムで AAV キャプシドから分離できることです。この SEC-UV-FLR 分析法では、観測されるピーク幅(約 12 秒)の割にサンプリングレートが著しく高いため、デュアル波長チューナブル UV-VIS 検出器(TUV)よりも PDA 検出器の方が適していました。より長い SEC カラムを使用する場合、または流速を低減する場合は、ピーク全体で約 40 以上のポイントを収集することを条件として、TUV 検出器が使用できるかも知れません。

サンプル混合液の実測ピーク面積比と AAV8 の ΧFull の関係は、非線形のレスポンス曲線を示しています(図 3)。図 3 に、サンプル混合液の予測ピーク面積比を破線で示していますが、これは以下の関係式を用いて計算することができます。

式 2.

ここで、ΧEmpty,Sample および ΧFull,Sample は、サンプル中の AAV-Empty および AAV-Full のモル分率です。AreaA260,XFull = 0、AreaA260,XFull = 1、AreaA260,XFull = 0、および AreaA260,XFull = 1 は、前述のように、図 2 に示す SEC-A280 および SEC-A260 の線形近似方程式を外挿して推定されました。

図 3.  一連の AAV8 サンプルの SEC 260 nm と 280 nm での UV 吸光度のピーク面積比(n = 2)の変化。AAV8-Full のモル分率(ΧFull)の範囲は約 1.0~0.0 です。破線は予測される A260/A280 比を示します。実験手順は本文中に記載。 

テストサンプルについて測定した SEC-UV ピーク面積比(AreaA260,Sample/AreaA280,Sample)を用いてサンプルの ΧFull を決定するために、式 2 の関係を式 3 に変形することができます。計算の詳細に興味のある方のために説明すると、式 3 を簡約した式は、ΧFull,Sample と(AreaA260,Sample/AreaA280,Sample)の間の漸近非線形回帰で、式は y = a/x + bx + c です。

式 3.

式 3 は、試験する AAV サンプルの濃度とは無関係です。また、AreaA260,XFull = 0、AreaA260,XFull = 1、AreaA260,XFull = 0、AreaA260,XFull = 1 を LC システムで決定したら、以降の測定ではそれらが定数と見なされることがあります。AreaA260,Sample/AreaA280,Sample の測定値および式 3 から算出された ΧFull,Sample の値は、予測値(R2 = 0.9995、傾き = 0.991、切片 = 0.000、相関プロットは示していません)と強く相関していました。方法をさらに評価すると、測定値は CDMS で得られた値とよく相関していることもわかりました(図 4)。これらの結果は、ΧFull,Sample の測定におけるこの分析法の精度と正確度が、FLR および UV レスポンス係数の推定において許容されており、空のキャプシドが比較的多い中間サンプルを解析するための ΧFull,Sample の推定にも十分かも知れないことを証明しています。ただし、ΧFull が 1 に近づくと、レスポンス曲線の傾きが大きくなるため(図 3)、この方法では高純度サンプルの ΧFull,Sample の決定の精度と正確度が低くなる可能性があります。

図 4.  一連の AAV8 サンプルについて、SEC 260 nm および 280 nm での UV 吸光度ピーク面積比(n = 2)および CDMS によって決定する AAV8-Full(ΧFull)のモル分率決定のための相関式。実験手順は本文中に記載。 

ΧFull,Sample が決定できたら、RF/E(式 1)と共に用いてサンプルまたは標準試料の SEC-FLR または SEC-UV のピーク面積を正規化し(AreaSample, Norm)、空のキャプシドと完全なキャプシドのレスポンスの差が説明されます。このピーク面積の正規化は、濃度キャリブレーション標準試料にも同様に適用されます。この例では、ΧFull,Sample が 1 の場合に予測される値にピーク面積を正規化することを恣意的に選択しました。正規化の式を導くため、試験サンプル(または標準試料)のピーク面積(AreaSample,Meas)を、完全なキャプシドおよび空のキャプシドの最大ピーク面積の寄与(AreaSample,XFull = 1 および  AreaSample,XFull = 0)にそれぞれのモル分率を掛けたものの組み合わせと定義することができます。

式 4.

式 1 および関係式 ΧFull,Sample + ΧEmpty,Sample = 1 中の置換により、式 4 を変形して式 5 が得られます。これを使用して、サンプルまたは標準試料のレスポンスを、ΧFull の測定値に対して正規化することができます。

式 5.

上記の方法の最初のテストとして、表 1 に記載されているサンプルのデータセットを評価しました。この場合、連続希釈したサンプルの Cp/mL 値を予測するためのこの分析法の性能を判定する目的で、希釈系列のサンプルの A280 での UV 吸光度および FLR のピーク面積のデータを既知の濃度差について正規化せずに評価しました。本研究では、ΧFull 値が 0.0148 および 0.9788 でそれぞれの濃度が 1.67 × 1012 Cp/mL および 2.48 Cp/mL(表 1)の希釈していない 2 つのサンプルを用い、式 3 および 式 5 を用いてレスポンス係数の補正を適用して、SEC-A280 および SEC-FLR に基づいて濃度検量線を定義しました。

次に、決定したサンプル濃度を予測値と比較しました(図 5)。相関係数は大きく、SEC-FLR データ結果の曲線の傾きは、SEC-A280 で見られた傾きと比較して、1 により近いことがわかりました。さらに、実際の SEC-A280 でのピーク面積(0.43% の平均差)の方が SEC-FLR のピーク面積(0.63% の平均差)と較べて変動が小さいにもかかわらず、2 回繰り返しの測定値の間の変動については、SEC-FLR の結果(平均差 0.67%)の方が、SEC-A280 の濃度測定値(平均差 1.27%)より小さくなりました。SEC-FLR と SEC-A280 の計算に同じ ΧFull 値を使用していることから、SEC-FLR を用いて得られる分析結果がより高精度であるのは、主に、RF/E、FLR の値(0.898)が RF/E、A280 の値(2.98)より 1 に近いためであり、それはレスポンス係数が 1 に近いほど、ΧFullの決定における変動の影響が小さくなるためです。空のキャプシドの含有量が低レベルのサンプルの場合、前述のように、ΧFull の決定における大きい変動によるさらなる影響は、これらの結果についても認められています。

図 5.  SEC-FLR-UV ベースと SEC-UV ベースのキャプシド濃度測定の比較。いずれの場合も、測定した濃度は、本文に記載しているように、オンライン UV の A260 および A280 での測定値から計算した ΧFull に基づくレスポンス係数で補正しています。キャプシドの濃度はそれぞれ約 1.7 × 1012 Cp/mL ~ 2.4 × 1012 Cp/mL の範囲で、サンプルの XFull 値(括弧内)は約 0~1 の範囲でした。実験手順は本文中に記載。 

サンプルの拡張濃度レスポンス曲線を評価するために、ΧFull 値が約 0.55 で推定濃度が 2.07 × 1012 Cp/mL のサンプルを連続希釈して、1.04 × 1012、5.19 × 1011、および 2.59 × 1011 Cp/mL のサンプルを得ました。これらのサンプルを、FLR 検出器と UV 検出器の両方を接続した LC システム(SEC-UV-FLR)で分析しました。最低濃度サンプル(2.59 × 1011 Cp/mL)の UV 吸光度(260 nm および 280 nm)と FLR クロマトグラムの比較を図 6 に示します。ここで、FLR 検出器では 3 つの光学チャンネルすべてで十分なシグナルが観察されて、UV 吸光度チャンネルと比較してシグナル対ノイズ比が顕著に大きく(約 10 倍)、FLR での定量限界値がより低い可能性が高いことを示しています。

図 6.  キャプシド濃度が約 2.59 × 1011 Cp/mL の一連の AAV8 サンプルの SEC UV 吸光度レスポンスの比較。実験手順は本文中に記載。 

図 7 に、それぞれのレスポンス係数(RE/F、FLR および RE/F、A280)で正規化した SEC-FLR および SEC-A280 でのピーク面積の FLR レスポンス曲線を示します。希釈サンプルでは同等の ΧFull 値が期待されますが、SEC-UV-FLR および SEC-UV 分析法の再現性を調べるために補正を適用しました。SEC-FLR および SEC-A280 の検量線について、相関係数がそれぞれ 0.9985 および 0.9989 と、有用な線形近似が認められました。これらの結果は、AAV サンプル中の空のキャプシドのレベルが高く、一貫している場合、ΧFull レスポンス補正を適用した SEC-A280 分析法により、SEC-FLR 分析法と同等の分析性能が得られることを示しています。

図 7.  本文の記載に従ってオンライン UV A260 および A280 での測定値から計算した ΧFull に基づくレスポンス係数で補正した SEC-FLR-UV および SEC-UV のピーク面積の変化。キャプシドの濃度範囲は約 2 × 1011 Cp/mL ~ 1.6 × 1012 Cp/mL です。実験手順は本文中に記載。 

結論

効率的に充塡された SEC ガードカラムを、内因性タンパク質の蛍光検出の前のオンラインバッファー交換デバイスとして使用する方法は、キャプシド含有量(Cp/mL)が 2.6 × 1011 Cp/mL ~ 2.0 × 1012 Cp/mL の AAV8 サンプル中の迅速定量に有効であることが実証されました。提案された分析法では、必要最低限のサンプル前処理で、1 回の繰り返しにつき 1 µL のサンプルを使用します。ただし、サンプル中に目に見えるまたは目に見えない微粒子が含まれている場合は、遠心分離ステップを行うことを推奨します。

内因性タンパク質の蛍光(トリプトファン)をモニターする FLR 検出器は、UV 吸光度と比較して利点があります。これらの利点には、AAV8 の Empty/Full FLR レスポンス係数が、280 nm(RF/E、A280 = 2.98)および 260 nm(RF/E、A260 = 6.81)での UV 吸光度で認められるレスポンス係数と比較して 1 に近いことが含まれます。そのため、FLR 検出は、DNA を含むキャプシドのモル分率(ΧFull)の高精度で正確な測定にあまり依存しません。さらに、内因性タンパク質の蛍光検出は、S/N が約 10 倍で、サンプル中の遊離 DNA や RNA の影響を受けにくい、より選択的なタンパク質検出法です。

DNA を含むキャプシドのレベル ΧFull は、さらなる分析(陰イオン交換クロマトグラフィーなど)によって決定するか、図示している FLR 検出器の前に UV/VIS PDA 検出器(SEC-UV-FLR)を配置して得られた SEC-A280 と SEC-A260 でのピーク面積比から経験的に推定することができます。また、本研究では示していませんが、ピーク幅が広い SEC 分析法を用いる場合は、UV/VIS PDA 検出器の代わりに TUV 検出器を使用することもできます。

この分析法の一般的な原理のデモにおいては、精製したサンプルを使用しました。しかしながら、AAV と共溶出する高分子の干渉性蛍光団(例えば、タンパク質)を含む試料を分析する場合は、分離を良くするために、より長い SEC カラムやより遅い流速と共に、ポアサイズが大きい SEC 粒子を使用することが必要かも知れません。また、ΧFull の決定に SEC-A260 および SEC-A280 でのピーク面積を用いる場合、キャプシド ssDNA 含有量の測定に大きな影響が及ぶほど干渉のレベルが大きい場合は、干渉する発色団(タンパク質、RNA、DNA など)も AAV から分離する必要があります。また、ここでは実際にやってみせてはいませんが、粒子径がより大きい(2.5 µm または 3.5 µm)粒子を充塡した大口径(内径 7.8 mm)のカラムも HPLC システムに利用することができます。粒子径が大きいカラムほど、サンプルの微粒子による汚染が起こりにくくなります。ただし、同程度の感度を得るためには、それに比例してより多くのサンプル量(3 µL)が必要になり、サンプルのスループットが低下することがあります。

 

謝辞

本研究の CDMS 分析を行っていただいた Megadalton Solutions の Benjamin Draper に感謝いたします。

参考文献

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720006867JA、2021 年 1 月

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