• アプリケーションノート

RADIAN ASAP を用いた、本物のちみつと混入物の迅速な識別

RADIAN ASAP を用いた、本物のちみつと混入物の迅速な識別

  • Huei Hong Lee
  • Daniel Ng
  • Waters Corporation

要約

ミツバチにより生産される天然の甘味料であるはちみつは、高い栄養素含量および健康上のメリットがあるためシロップより高価です。はちみつとシロップは物理化学的特性が類似しているため、両者を区別するには多くの場合、複数の手法が必要になります。この試験では、迅速かつ簡便なアンビエント質量分析法を用いて、本物のはちみつと潜在的な混入物、および偽装はちみつを迅速に識別できることが実証されました。最小限のサンプル前処理で質量プロファイリングを行うために、サンプルを RADIAN ASAP のイオン化チャンバーに直接導入しました。サンプルは 3 つのクラスに分類され、はちみつに混ぜられたシロップの検出に適用できる可能性が示されました。RADIAN ASAP と LiveID ソフトウェアを組み合わせることで、はちみつと植物ベースのシロップを識別するための迅速な検査法を提供しています。この方法は、食品取引および製造プロセスの一環として原材料をスクリーニングするための管理点として利用できます。  

アプリケーションのメリット

  • 質量分析の専門知識を持たないユーザーにも使いやすい食品製造品質管理用の迅速で簡便なフィンガープリントツール
  • ケモメトリックモデル開発のためのシンプルで直感的な LiveID ソフトウェアの操作
  • ケモメトリックモデルを使用した、本物のはちみつおよび混入物の迅速な識別

はじめに

はちみつは、栄養価が高く、健康に良い天然の甘味料であるため、多くの場合、植物ベースのシロップや合成シロップよりも市場価格が高価になっています1。はちみつとシロップは色、甘い味、粘り気が似ているため、両者を視覚的に区別することは困難であり、そのために経済的な動機による偽装を最も受けやすい商品の 1 つとなっています2。 はちみつとシロップを識別するには、多くの場合、熟練した官能評価パネリストやクロマトグラフィー、ICP、光度測定、および蜜源花粉学などの複数の技術を用いた実験室での検査が必要となりますが、添加されたシロップや製造プロセスに固有のマーカーおよび物質を判定することができます1,2。 現在では、分光法(例:NMR や NIR)、質量分析(MS)、同位体比 MS(EA および LC-IRMS を使用する 13C IRMS)の使用など、標的を絞らないアプローチが一般的になっていますが、これには相当なレベルの専門知識と経験を要します2,3。サンプル前処理を最小限に抑えたアンビエント質量分析では、環境条件下でのサンプルの直接サンプリングとイオン化が可能になり、食品認証のための迅速な質量プロファイリングツールとして役立つことが証明されました4-7。この試験では、LiveID ソフトウェアを搭載した RADIAN ASAP を使用して、本物のはちみつ、混入物であるシロップ、およびシロップを混入した偽装はちみつを識別できることが実証されました。

結果および考察

本物のはちみつサンプル計 11 種、混入物であるシロップ5 種、35% のシロップを混入したはちみつサンプル 1 種を分析しました。サンプルの複雑性を低減するために、サンプルの溶媒抽出を行ってから、抽出物にガラスキャピラリーを浸漬して RADIAN ASAP ソースに導入しました。 

これらのサンプルから収集した質量スペクトルについて、LiveID v.2.0 ソフトウェアでケモメトリックモデルを構築しました。モデルは、質量領域 m/z 200 ~ 800 を使用して計算しました。3 次元 PCA により、最初の 3 つの主成分から全分散の 90%が得られました(図 1A)。PCA-LDA により、サンプルは 3 つのクラス(本物のはちみつ、シロップ、偽装はちみつ)に正しく分離されました(図 1B)。1 つ目の成分(LD1)により、本物のはちみつが混入物から分離され、2 つ目の成分(LD2)により、偽装はちみつが本物のはちみつから分離されました。

図 1. 実験サンプルについて LiveID ソフトウェアで生成された、教師なしの PCA(A)および教師ありの PCA-LDA(B)のスコアプロット 

図 2 は、最初の 2 成分のローディングプロットと、各主成分に寄与しているイオンを示しています。PC1 と PC2 の違いを説明するために、それぞれ m/z 200 ~ 350 と m/z 500 ~ 700 という 2 つのフィンガープリント領域を特定しました。高度な LC-MS 手法を使用して詳細な試験を行う前に、RADIAN ASAP により、手間のかかるサンプル前処理を行うことなく、サンプル間の差違を迅速にスクリーニングすることができます。  

図 2. 主成分分析における差違に寄与するイオンを示す PC1 と PC2 のローディングプロット 

結論

RADIAN ASAP を LiveID ソフトウェアと組み合わせて使用したこの概念実証試験により、本物のはちみつ、混入物であるシロップ、およびシロップを混入した偽装はちみつが適切に識別できることが示されました。RADIAN ASAP により、食品製造プロセスの一環として原材料と最終製品の管理点検査に使用できる、時間が節約できて操作しやすい統合プラットホームでの判別分析が可能になります。

謝辞

IFWRC は、サンプルを提供して頂いた中国農業科学アカデミー蜜蜂研究所(http://iar.caas.cn/en/aboutus/briefintroduction/index.htm)に謝意を表します。

参考文献

  1. Chin NL, Sowndhararajan K. In: Arnaut de Toledo VA, Chambo ED, eds.IntechOpen; 2020; DOI: 10.5772/intechopen.90232.
  2. Soares S, Amaral JS, Oliveira MBPP, Mafra I. Compr Rev Food Sci Food Saf. 2017; 16(5) :1072–100.
  3. Wu L, Du B, Heyden Y, Chen L, Zhao L, Wang M and Xue X. TrAC Trends in Analytical Chemistry 2017; 86:25–38.
  4. Black C, Chevallier O and Elliott C. TrAC Trends in Analytical Chemistry 2016; 82:268–278.
  5. Lu H, Zhang H, Chingin K, Xiong J, Fang X and Chen H. TrAC Trends in Analytical Chemistry 2018; 107:99–115.
  6. Kandova R, Stead S, Chevallier O. Waters Application Note 720006409EN.2018.
  7. Stead S, Jandova R, Eccles R, Goodall I. Waters Application Note 720006530EN.2019.

720007135JA、2021 年 2 月

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