金属の影響を受けやすい化合物は、金属表面との相互作用により、従来の LC テクノロジーでは分析が困難な課題となり、分析に時間がかかる場合があります。ウォーターズには、ルーチンワークフロー向けの MaxPeak High Performance Surfaces(HPS)テクノロジーを採用したソリューションがあり、これにより、金属との相互作用による非特異的な吸着損失が効果的に低減されます。このテクノロジーは ACQUITY Premier ソリューションで初めて導入され、現在 Arc Premier システムで利用できます。Arc Premier ソリューションでは、ACQUITY Arc の頑健性を MaxPeak ソリューションと組み合わせることにより、金属の影響を受けやすい化合物の回収が向上します。その結果には、時間のかかるシステムの準備やこれらの相互作用を低減するための分析法の調整の必要なしに、システム間で再現性のある HPLC 性能が得られることなどがありれます。
この試験では、Arc Premier ソリューションを、金属表面と相互作用する可能性のあるリン酸化化合物で試験し、システム間性能を評価します。得られた結果により、金属の影響を受けやすい分析種などのさまざまな化合物について、Arc Premier ソリューションのシステム間再現性が優れていることが実証されています。Arc Premier ソリューションの性能を従来の LC テクノロジーとも比較し、すべての試験を複数のシステムで実施します。データ分析により、金属の影響を受けやすい化合物について、Arc Premier ソリューションと従来の LC テクノロジーとの統計的な差異を実証します。
リン酸化化合物などの金属の影響を受けやすい化合物は、回収率と結果の再現性の低下、精度不良など、従来型 LC に固有の課題をもたらしています。歴史的に、これらの分析上の課題に対処する戦略には、不動態化や移動相へのイオン対試薬の添加などがあります。前者には時間がかかり、分析用にシステムを準備するために複数のフラッシュ洗浄ステップが必要であり、後者には分析法の再開発が必要な場合があり、多くの検出手法に適合しません。どちらの場合も、システム間再現性は、システムの準備や移動相の調製の影響を受ける可能性があります。
これらの課題に対処するため、ウォーターズは Arc Premier ソリューションを導入しました。このソリューションでは、ウォーターズが最初に導入した 2.5 μm パーティクルケミストリーとの使用に最適化された HPLC テクノロジーのハイスループットと MaxPeak HPS テクノロジーを採用した ACQUITY Arc を組み合わせることによって、金属の影響を受けやすい化合物に適合する再現性の高いシステムが提供されます。この試験では、システム間試験を実施して、Arc Premier ソリューションと従来の LC テクノロジーの両方で、様々な分析種に対する再現性を評価します。試験の統計的有意性を実証するため、データ分析に t-検定を行います。
アデノシン(Acros)、アデノシン二リン酸(ADP)(Sigma/Aldrich)、アデノシン三リン酸(ATP)(Acros)のストック溶液は、95/5 移動相 A:移動相 B 中に 2 mg/mL の濃度で個別に調製しました。キャリブレーション試薬およびサンプルは、原料の混合物を連続希釈して調製しました。サンプルおよび標準試料は 0.2 ~ 200 μg/mL で調製しました。
LC システム: |
Arc Premier QSM-R、Arc Premier FTN-R、MaxPeak カラムヒーター-アクティブ、および従来型 LC システム |
検出: |
Arc Premier 2489 UV/Vis または Arc Premier 2998 PDA |
波長: |
260 nm |
カラム: |
Arc Premier ソリューション:XSelect Premier HSS T3 XP 2.5 μm、4.6 × 50 mm カラム(製品番号: 186009858) 従来型 LC:XSelect HSS T3 XP 2.5 µm、4.6 × 50 mm カラム(製品番号:186006157) |
カラム温度: |
40 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
15 µL |
流速: |
1.5 mL/分 |
移動相 A: |
8 mM 酢酸アンモニウム含有 99.8% 水および 0.2% アセトニトリル(pH 6.8) |
移動相 B: |
6.4 mM 酢酸アンモニウム含有 79.8% 水および 20.2% アセトニトリル(pH 6.8) |
グラジエント: |
1% B で 0.2 分間保持し、その後 7 分間で 95% B までグラジエント |
ヒドロコルチゾンリン酸トリエチルアミン、デキサメタゾンリン酸ナトリウム、デキサメタゾン、デキサメタゾン酢酸エステルは、Sigma/Aldrich から標準品を入手しました。混合ストック溶液は、ヒドロコルチゾンリン酸エステルとデキサメタゾンリン酸エステルナトリウム 2 mg/mL、デキサメタゾンとデキサメタゾン酢酸エステル 0.6 mg/mL の濃度で、50/50 水:アセトニトリル中に調製しました。キャリブレーション試薬およびサンプルは、原料の混合物の連続希釈によって調製しました。示されているサンプルは、ヒドロコルチゾンリン酸エステルとデキサメタゾンリン酸エステルナトリウム 25 μg/mL、デキサメタゾンとデキサメタゾン酢酸エステル 7.5 μg/mL です。
LC システム: |
Arc Premier QSM-R、Arc Premier FTN-R、MaxPeak カラムヒーター-アクティブ、吸光度検出器(2489 または 2998)。従来型システム |
検出: |
Arc Premier 2489 UV/Vis または Arc Premier 2998 PDA |
波長: |
260 nm |
カラム: |
Arc Premier ソリューション:XBridge Premier BEH C18 Premier、2.5 µm 4.6 × 50 mm(製品番号:186009847) 従来型 LC:XBridge BEH C18、2.5 µm 4.6 × 50 mm(製品番号:186006037) |
カラム温度: |
40 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
30 μL |
流速: |
1.5 mL/分 |
移動相 A: |
10 mM ギ酸アンモニウム水溶液(pH 3.0) |
移動相 B: |
アセトニトリル |
グラジエント: |
18% B で 3 分間保持し、その後 4 分間で 50% B までグラジエント |
多くの化合物が金属表面と相互作用することが知られています。これらの課題に対処するために、システムの不動態化処理やコンディショニング、イオン対試薬を添加した移動相の使用など、従来からいくつかのアプローチが行われてきました。Arc Premier ソリューションでは、MaxPeak コーティングを利用してこれらの相互作用を低減し、これらのアプローチのいずれも必要とせずに回収の改善を実現します。
以下の試験では、統計分析を含めて、これらの難しい課題である分析種について、システム間再現性を実証します。以下の試験では、3 つの Arc Premier QSM-R システムを、金属表面と相互作用する可能性のある部分が含まれている化合物などの幅広い化合物(図 1)で試験しました。すべての試験を、その相互作用に影響を与えない移動相を用いて、つまりイオン対試薬を用いずに行いました。各試験では、各システムについて、1 システムあたり 100 回以上の注入を行いました。各システムでの分析では、3 日間にわたって、ATP、ADP の 36 回の連続注入、およびその他のすべての化合物の 36 回の注入を行いました。検量線を示すデータは、3 つのシステムでの濃度ごとに 6 回繰り返した結果を示しています。Arc Premier システムと従来型 LC システムの両方について、複数の(n = 3)システムの比較試験を実施しました。
上記の試験では、分析した金属の影響を受けやすい化合物にはそれぞれ、リン酸基、または金属表面の荷電分子種と相互作用することが知られている正に荷電した分析種が含まれていました。化学構造の相互作用への影響を調べるために、ADP や ATP を含む化学分析種のリン酸基の数を増やして試験しました。さらに、非リン酸化アナログ(アデノシンおよびデキサメタゾン)をコントロールサンプルとして使用しました。
Arc Premier ソリューションのシステム間再現性については、各分析種のピーク面積を比較しました。上記で説明したように、各データセットは、ATP および ADP について連続して取り込んだ 1 システムあたり 36 回の注入、および他のすべての化合物について 3 日間にわたって行った注入のものです。3 つのシステムそれぞれによる金属の影響を受けやすい化合物のピーク面積を比較すると(図 2)、各システムで高精度で同等の結果が得られることが示されています。具体的には、各システムの %RSD はどの分析種についても 0.28% 以下であり、精度が優れていることが確認されています。各リン酸化化合物では、金属の影響を受けやすい分析種すべてについて、平均ピーク面積が同等であり、0.9 ~ 2.2% 以内でした。注入回数(36 回)と試験期間の長さを考慮すると、これらの結果は、Arc Premier ソリューションの精度が優れ、システム間で性能が一貫していることを示しています。
金属の影響を受けにくい化合物が影響を受けていないことを確認するため、非リン酸化アナログについてもシステム間再現性を分析しました。図 3 に示されているように、Arc Premier ソリューションは、これらの化合物についても再現性が優れています。すべての分析種および個々のシステムについて、複数日にわたる 36 回の注入で、%RSD は 0.26% 未満でした。さらに、3 つのシステムすべてで、平均ピーク面積は同等で、1% 以内でした。これらの結果により、分析種に関係なく、Arc Premier ソリューションではシステム間で一貫した結果が得られることが示されています。
Arc Premier ソリューションでは、一貫したシステム間性能が実証されているだけでなく、従来型 LC システムと比較して金属の影響を受けやすい化合物に対する性能が向上していることが示されています1。 2 つのシステムの間の相違をさらに評価するため、複数の Arc Premier システムおよび従来型 LC システムでデータを収集しました。すべてのデータは、上記のとおり収集しました。
3 つのシステムでの平均ピーク面積およびピーク面積の標準偏差により、Arc Premier ソリューションと従来型 LC システムの間の明確な差異が明らかになりました(図 4)。3 つのシステムでの 100 回の一連の注入にわたって得られた平均ピーク面積を比較すると、両方のセットのシステムで、通常は金属表面と相互作用しない分析種であるアデノシンの回収が同等であることが示されています。対照的に、金属表面と相互作用することがあるリン酸化化合物である ATP と ADP では、システムの不動態化や移動相にイオン対試薬を添加することなく、同じ期間にわたってピーク面積が大幅に改善されることが示されています。
対照的に、金属と相互作用する化合物のレスポンス係数またはピーク面積/濃度を比較すると、Arc Premier ソリューションと従来型 LC テクノロジーの差異は明らかです(図 5 および 6)。特に注目すべきは、従来型 LC での ATP と ADP の検量線の低めの濃度ポイントでは波形解析が可能なピークが生成されず、従来型 LC では Arc Premier システムと比較して LOQ がはるかに高かったことです。Arc Premier ソリューションでは、ATP と ADP の両方で、システムの不動態化や修飾なしで、複雑なイオン対試薬を添加した移動相の使用の必要なく、1 ~ 200 μg/mL で、変化は比較的平坦でした。全体としてデータから、従来型 LC システムでは、恐らく金属表面への吸収が原因で、リン酸化化合物が失われていることが示唆されます。対照的に、Arc Premier システムでは、濃度範囲にわたってレスポンス係数の変化が最小限です。
Arc Premier ソリューションと従来型 LC の両方のシステムデータ全体を分析することで、金属の影響を受けやすい化合物のシステム間再現性に顕著な差異があることがわかります。上記のように、データは、種類ごとに試験した 3 つのシステムにわたる平均値です。結果(表 1)により、Arc Premier ソリューションでは、金属と相互作用しない分析種(アデノシン)のピーク面積の精度が優れており、金属の影響を受けやすいリン酸化化合物に対して性能が優れていることが示されています。従来型 LC と比較すると、金属の影響を受けやすい化合物についての差異が明らかです。例えば、ATP の精度が従来型 LC テクノロジーに比べて 63 倍向上していることが示されており、ADP では従来型 LC テクノロジーに比べて 41 倍向上していることが示されています。
Arc Premier システムおよび従来型 LC システムから得られたデータを評価するため、t-検定を行いました。分析により、ATP と ADP の精度値に統計的に異なる結果が示されており、Arc Premier ソリューションでは従来型システムと比較して統計的に変動が少なくなっています。t-検定での P 値が表 2 に示されています。
Arc Premier システムと従来型 LC システムのシステム間再現性を比較すると、上記と同様の傾向が認められます。金属の影響を受けやすい化合物(ATP および ADP)について、Arc Premier ソリューションでは 3 つのシステム間で精度値が 5% 未満と優れていましたが、従来型 LC テクノロジーでは、複数のシステムを比較した場合の %RSD は 12 ~ 38% でした(表 3)。金属の影響を受けやすい化合物の場合、Arc Premier ソリューションでは従来型 LC と比較して、ATP では約 8.6 倍、ADP では約 3.5 倍の向上が示されました。これらの結果により、これらの難しい課題である金属の影響を受けやすい化合物に対する Arc Premier ソリューションの優れた性能が示されています。
Arc Premier ソリューションでは、優れたシステム間再現性を示す一方で、金属の影響を受けやすいことが知られているリン酸化化合物について、従来型 LC システムと比較して精度と感度が向上しています。以前に説明したように、金属の影響を受けやすい化合物について、従来型 LC システムと比較して、複数の Arc Premier システムにわたってより優れた精度とピーク面積が観察されました。ピーク面積の差は、分析種が低濃度の場合に最も顕著であり、従来の LC テクノロジーへの吸着が分析種の回収率に顕著な影響を及ぼしています。このデータにより、Arc Premier ソリューションに、幅広い分析種の多数回の注入にわたって再現可能な結果を一貫して生成する能力があることが示される一方で、高いシステム間再現性によって各システムで確実に同じ結果が得られる確信が提供されます。
720007330JA、2021 年 8 月