• アプリケーションノート

オンラインネイティブ LC-MS mAb 分析向けの信頼性の高い高分離能タンパク質 SEC 分離

オンラインネイティブ LC-MS mAb 分析向けの信頼性の高い高分離能タンパク質 SEC 分離

  • Xiaoxiao Liu
  • Steve Shiner
  • Matthew A. Lauber
  • Waters Corporation

要約

ネイティブ液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)は、タンパク質分析のための強力なアプローチであり、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)は、このような測定で推奨される分析方法の 1 つです。SEC は、分析種と粒子や充塡カラムの表面との間に相互作用がない、エントロピー駆動型の分離である必要があります。実際には、特に MS を用いる場合に使用する酢酸アンモニウム移動相では、これを達成することが困難となります。

ここでは、SEC-MS において、望ましくない分析種と表面の間の相互作用を低減することが示された ACQUITY Premier Protein SEC 250 Å カラムを使用することを検討しました。この新たな SEC カラムテクノロジーは、親水性の MaxPeak High Performance Surfaces を特徴とする特殊なカラムハードウェアに入れられたカバー率の高いヒドロキシ末端を持つポリエチレンオキシド(PEO)リガンドを含む Waters BEH 粒子をベースにしています。この試験では、これらの最適化された表面が、検出限界の改善、対称的なピーク形状、高い分析種回収率など、求められる分析能力を備えていることが示されています。mAb のネイティブ SEC-MS 分析では、これらの特性が改善されたことで、優れた MS レスポンスが得られるようになり、全体的な分析の検出限界が向上しています。

アプリケーションのメリット

  • MaxPeak High Performance Surfaces を ACQUITY Premier Protein SEC 250 Å、1.7 μm および XBridge Premier Protein SEC 250 Å、2.5 μm ハイブリッド有機シリカ粒子と併用することで、望ましくない二次相互作用(イオン性および疎水性)が低減
  • 低濃度の酢酸アンモニウム移動相の使用により、オンライン MS 検出を最適化

はじめに

過去 10 年間に、オンライン MS 検出を使用するネイティブ SEC セパレーションに対する関心が高まっています。この組み合わせは現在、高分子量の凝集体と低分子量のフラグメントの両方を含むサイズバリアントのルーチン特性解析に使用されています。そのため、ほとんどの分析法で、移動相の主要成分として MS 対応の酢酸アンモニウムを使用する必要があります1。 MS 対応のイオン交換分析法も、インタクトおよび IdeS 消化モノクローナル抗体(mAb)の特性解析や、mAb のチャージバリアントに関する新しい情報の収集に効果的に使用されています2。 疎水性相互作用クロマトグラフィーのための MS 対応条件の最適化に取り組んだ研究者もおり、表面のアクセス可能な修飾により十分な保持の差が得られ、抗体薬物複合体の製品バリアントが解明されています3。  

酢酸アンモニウムベースの分離ができて、ハイスループットのネイティブ LC-MS を行うのに最適なものとして、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)が挙げられます。SEC では、注入間の数分間でサンプルを迅速にオンラインで脱塩でき、質の高い質量スペクトルを得ることができます。コンパクトな球状構造を保持しているネイティブタンパク質サンプルの場合、酢酸アンモニウム LC-MS 実験によって、マトリックス干渉が少なく、よりシンプルで低チャージ状態のイオンが生成され、より質の高いデコンボリューション質量スペクトルが得られます。

SEC は、コンセプトがシンプルですが、特に揮発性の移動相組成の使用が必須となる場合は、望ましい分離の最適化が困難です4。Goyon らは 2017 年に SEC-MS に関する検討を行い、酢酸アンモニウム条件の使用にはクロマトグラフィー上の課題があることを指摘しました5。100 mM 酢酸アンモニウムの移動相を使用した場合にも、ピークの歪みや低回収率に悩まされました。その後、この種の分析作業をより円滑に進めるには、SEC カラムテクノロジーを改善する必要があることが提唱されました。

そのためウォーターズでは、望ましくない二次的相互作用が少ない新しい SEC 粒子およびカラムハードウェアテクノロジーの使用について検討を行いました。また、この SEC カラムテクノロジーの組み合わせを、酢酸アンモニウム移動相を使用するネイティブタンパク質特性解析にも適用しました。この新たなカラムテクノロジーは、カバー率の高いヒドロキシ末端を持つポリエチレンオキシド(PEO)結合粒子と親水性の MaxPeak High Performance Surfaces で構築されたハードウェアをベースにしています(図 1)。このような独自の特性により、対応する ACQUITY Premier および XBridge Premier Protein SEC 250 Å カラムでは、MS 対応の酢酸アンモニウム移動相を使用する場合に、検出限界の改善、優れたピーク形状、および高い回収率が得られます。

図 1.ACQUITY および XBridge Premier Protein SEC 250 Å カラムテクノロジーの使用による、望ましくない二次的相互作用の低減。(A)低イオン性および低疎水性の二次相互作用を示すヒドロキシ末端 PEO 結合 BEH 粒子。(B)生体分子と金属製カラムハードウェアの間の二次相互作用を最小限に抑える、親水性特性を示す MaxPeak High Performance Surfaces。PDB コード 1IGT。

実験方法

サンプル情報

SEC 分析の前に、NISTmAb レファレンス物質 8671 およびインタクト mAb 質量チェック用標準(ウォーターズ製品番号:186006552)を、以下に概説した実験詳細に従って水で希釈しました。BEH200 SEC タンパク質標準品(ウォーターズ製品番号:186006518)を 500 μL の水に溶解しました。インタクト mAb 質量チェック標準品を水で希釈しました。移動相は、Waters IonHance CX-MS pH 濃縮液 A および B(Waters 製品番号:186009280 および 186009281)を使用して調製しました。高感度の MS 実験を行うには、質の高い移動相で始めることが重要です。Waters IonHance 濃縮液は、この目的のために製造され、品質管理試験を受けています。この試験では、陽イオン交換(CX)-MS セパレーション向けに設計された pH 濃縮液を使用して、SEC-MS 向けに最適化した pH およびイオン強度を所定の比率で調製します。 

LC 条件

LC システム:

ACQUITY UPLC I-Class

検出器:

ACQUITY UPLC TUV 検出器(チタンフローセル付き)

波長:

280 nm

カラム:

XBridge Premier Protein SEC、250 Å 2.5 μm、4.6 × 150 mm カラム(製品番号:186009959)

ACQUITY Premier Protein SEC、250 Å 1.7 μm、4.6 × 150 mm カラム(製品番号:186009963)

他社製 MeO-PEO 結合 SEC 200 Å 2.7 μm、4.6 × 150 mm カラム

ACQUITY UPLC BEH SEC、200 Å 1.7 μm、4.6 × 150 mm カラム(製品番号:186005225)

カラム温度:

30 ℃

サンプル温度:

4 °C

注入:

7.5 μL

流速:

0.2 mL/分

移動相 A:

(図 1、3、4)

1x IonHance CX-MS pH 濃縮液 A(50 mM 酢酸アンモニウム、2% ACN、pH 5)

移動相 B:

(図 1、3、4)

1x IonHance CX-MS pH 濃縮液 B(160 mM 酢酸アンモニウム、2% ACN、pH 8.5)

移動相混合:

(図 1、3、4)

40:60 A/B(116 mM 酢酸アンモニウム、2% ACN)

移動相 A:

(図 2)

200 mM 酢酸アンモニウム(pH 7、滴定はせず)

移動相 B:

(図 2)

18.2 MΩ 水

移動相混合:

(図 2)

変化あり(詳細については図 2 を参照)

MS 条件

MS システム:

(図 1、2、4)

BioAccord/ACQUITY RDa 検出器

モード:

フルスキャン

極性:

ポジティブ

コーン電圧:

150 V

質量範囲:

高(m/z 400 ~ 5,000)

スキャンレート:

2 Hz

キャピラリー電圧:

1.5 kV

MS システム:

(図 3)

Xevo G2-XS QTof

取り込み範囲:

図 3 参照

キャピラリー電圧:

2.5 kV

コーン電圧:

60 V

カラムサイズに関する考慮事項

LC と MS の両方を最適化するために、内径 4.6 mm(2.1 mm に対して)のカラムを使用しました。内径 4.6 mm の SEC カラムは、0.2 mL/分 という妥当な低流速で最適に操作できます。これはイオン源が対応できる流速であり、この流速では LC バンド拡散がピーク形状に大きな影響を与えることがありません。 

結果および考察

ACQUITY および XBridge Premier Protein SEC 250 Å、1.7 および 2.5 μm カラムテクノロジーの評価を、検出限界を調べる実験から始めました。IonHance CX-MS pH 濃縮液 A と B を 40:60(v/v)の比でオンライン混合することにより、移動相組成 116 mM 酢酸アンモニウムを調製しました。次に、連続希釈により調製した NISTmAb 溶液を 7.5 μL 注入して UV シグナルをモニターしました。流速 0.2 mL/分、4.6 × 150 mm の XBridge Premier Protein BEH SEC 250 Å、2.5 μm カラムで得られた分離を図 2A に示します。このカラムでは、37.5 ng という低注入量でも、NISTmAb が UV によって検出できました。同じ実験を、市販の他社製カラム(メトキシ末端 PEO 結合 200 Å、2.7 μm 粒子および金属製ハードウェアで構築した 4.6 × 150 mm カラム)を用いて行いました。図 2B に、同じ一連のロード量を注入して得られた UV クロマトグラムを示します。ロード量 0.75 μg および 0.375 μg では、識別可能なピークが見られますが、これらにはかなりのテーリングが見られることに注意してください。ロード量 0.15 μg ではピークの回収率が悪く、ロード量 75 ng および 37.5 ng ではピークを識別できませんでした。XBridge Premier Protein SEC 250 Å、2.5 μm カラムでは、酢酸アンモニウム移動相を使用した場合に、NISTmAb についてナノグラムレベルの質量範囲に至るまで形状が良好なピークが得られ、特にクローンのスクリーニングなど、サンプル量が一般的に限られているアプリケーションのルーチン SEC/LC-MS 測定に適しています。 

図 2.XBridge Premier Protein SEC 250 Å、2.5 μm カラムによる、NISTmAb に対する感度と回収率の向上。(A)XBridge Premier Protein SEC 250 Å 2.5 μm 粒子カラムを用いて、116 mM 酢酸アンモニウム移動相および 0.2 mL/分の流速で行った、さまざまなロード量の NISTmAb について得られた UV クロマトグラム。上から下へ:7.5 μL の 0.005、0.01、0.02、0.05、0.1 mg/mL の NISTmAb の注入。(B)メトキシ末端 PEO 結合 2.7 μm 粒子および金属製ハードウェアで構築された他社製 SEC カラムを使用した、さまざまなロード量での NISTmAb 溶液の UV クロマトグラム。いずれの SEC カラムも、試験の前に 15 μg の NISTmAb の注入を 2 回行ってコンディショニングしました。

ACQUITY および XBridge Premier Protein SEC 250 Å カラムの酢酸アンモニウム移動相のイオン強度に対する依存性を調べ、残存するイオン性相互作用の程度を評価しました。このため、分子量 10 ~ 300 kDa の 4 種のタンパク質からなる標準品を移動相塩濃度の関数として分析しました。4.6 × 150 mm ACQUITY Premier Protein SEC 250 Å、1.7 μm カラムにより、濃度 50 mM 以上の酢酸アンモニウムを使用して、望ましいレベルのピークの分離、ピーク形状、回収率が得られました(図 3A)。濃度が 20 mM しかない移動相では、ピークが少し歪み、ピーク間の谷が浅くなりました。この点から、このサンプルの最小要件が濃度 20 ~ 50 mM の範囲のどこかに存在する可能性が示唆されます。比較のため、この分離を粒子径が同等の ACQUITY UPLC BEH SEC 200 Å、1.7 μm カラムで繰り返しました。このカラムは、ジオール結合した BEH 粒子をベースにしてステンレス製ハードウェアを用いて構築されています。結果として得られた分離には、注目すべき違いがいくつかありました。最も顕著な違いは、20 mM 酢酸アンモニウムでの分離で見られたひどいピークの歪みでした。このクロマトグラムでは、ピークが非対称で、IgG と BSA が共溶出するという問題が生じました。50 mM の移動相を使用すると、カラム性能が大幅に向上しましたが、チログロブリンのダイマーのピークをモノマーのピークから分離するのは依然として困難でした。最終的に、ACQUITY Premier Protein SEC 250 Å、1.7 μm カラムの方が低イオン強度の移動相での使用に適していることが証明され、これを利用することで高感度のネイティブ LC-MS 分析が可能になることが分かりました。

図 3.4.6 × 150 mm、1.7 μm カラムを用いた酢酸アンモニウムでのネイティブ SEC クロマトグラフィー。BEH200 タンパク質標準混合液のサンプルを使用して、(A)ACQUITY Premier Protein SEC 250 Å カラムまたは(B)ACQUITY UPLC BEH SEC 200 Å カラムで分析を行いました。さまざまな酢酸アンモニウム濃度の移動相を評価しました。ピーク 1:チログロブリン(プレピークはチログロブリンダイマー)、ピーク 2:IgG、ピーク 3:ウシ血清アルブミン、ピーク 4:ミオグロビン、ピーク 5:ウラシル。アスタリスク(*)は IgG と BSA の共溶出を示します。

ネイティブ SEC セパレーションは、タンパク質医薬品、非共有結合タンパク質複合体、およびフラグメントなどのサイズバリアントの詳細な特性解析を容易にする手段として、オンラインエレクトロスプレーイオン化(ESI)-MS 検出と組み合わせてルーチンに使用されています。次の試験では、XBridge Premier Protein SEC 250 Å カラムと、QTof 質量分析計(Xevo G2-XS QTof)および小型の TOF 質量検出器(ACQUITY UPLC I-Class PLUS と ACQUITY RDa 質量検出器で構成されている BioAccord システム)の 2 種類の飛行時間型質量分析計との直接組み合わせについて調査しました。

すべての LC カラムは、質量分析と組み合わせると、ある程度のバックグラウンドイオンが示されます。ACQUITY および XBridge Premier Protein SEC カラムには、カバー率の高い PEO 結合が含まれています。上記のように、これにより、揮発性の SEC 移動相で高い回収率と、低濃度の酢酸アンモニウムとの適合性が得られます。m/z 600 ~ 900 のバックグラウンドイオンが観察されましたが、これは粒子結合に由来します。ネイティブ mAb SEC-MS を行う場合、取り込み範囲を m/z 1,000 以上に設定することで、この領域が除外され、TIC シグナル対ノイズ比が最大化します。これらの干渉イオンシグナルが、mAb や mAb フラグメントの変性 SEC 分析に干渉する可能性があります。変性 SEC-MS 実験には、別の論文に記載されているように、ACQUITY UPLC Protein BEH SEC 200 Å カラムを使用することを推奨します6

図 4 に、XBridge Premier Protein SEC 250 Å、2.5 μm、4.6 × 150 mm カラムで得られるネイティブ mAb データの質を例示する一連のクロマトグラムと質量スペクトルを示します。約 100 mM の酢酸アンモニウム移動相を用いて分離を行い、得られた UV クロマトグラムを図 4A に示します。このクロマトグラムでは、主要なサイズバリアントのピークに妥当なピーク面積と回収率が見られることが確認できます。これまでに行われているオンライン質量検出の多くでは、凝集体や高分子量分子種(HMWS)の回収が困難でした。この結果により、XBridge Premier Protein SEC 250 Å、2.5 μm、4.6 × 150 カラムは、HMW ピークを明確に区別して検出でき、その質は最適化した不揮発性 SEC 移動相システムと同等であることが確認されました。図 4A のクロマトグラム中の HMW ピークは、相対存在量が約 2% であり、NISTmAb レファレンス物質の仕様と一致しています。次の図 4B に、QTof 質量分析計による直列検出を使用して UV 検出後に収集したトータルイオンクロマトグラムを示します。この場合、QTof をさまざまな取り込み範囲で動作させました。一番下のパネルでは、m/z 400 ~ 7000 の広い質量範囲を採用しています。NISTmAb の溶出時間に対応する合計質量スペクトルを図 4C の一番下に示します。スペクトルのベースピークは Δ44 Da の PEO バックグラウンドイオンに起因する場合があります。これは、ACQUITY または XBridge Premier Protein SEC 250 Å カラムを使用した場合に予測される結果です。このようなイオンにおいて、NISTmAb シグナルは、トータルイオンクロマトグラムの分析で容易に観測できませんでした。逆に、取り込み範囲の質量下限を m/z 1,000、1,400、4,200 に設定すると、タンパク質分子種の検出感度が徐々に向上しました。さらに、質量の上限を m/z 9,000 まで増加させると、HMWS のイオンカウントがいくつか観測されました。この実験設定で HMW 分子種の分子量を得るには、ロード量を増加させる必要があります。

 

図 4.Xevo G2-XS QTof 質量分析計を使用した、さまざまな MS 取り込み範囲による NISTmAb の SEC-MS 分析。酢酸アンモニウム移動相と UV および MS 検出器を用い、XBridge Premier Protein SEC 250 Å、2.5 μm カラムを使用して、2 mg/mL の NISTmAb 溶液を 7.5 μL 注入して分析しました。MS 取り込み範囲を調整して、低 m/z バックグラウンドイオンの干渉を最小限に抑えました。上から下へ、MS 取り込み範囲 m/z 4,200 ~ 9,000、1,400 ~ 7,000、1,000 ~ 7,000、および 400 ~ 7,000 を適用しました。(A)高分子量(HMW)および低分子量(LMW)分子種の拡大図を含む、NISTmAb について実行した例で得られた UV トレース、(B)取り込み設定が異なる 4 回の測定で得られた MS-TIC、(C)さまざまな MS 取り込み範囲で観測された、5.5 ~ 6 分の時間範囲から合計した MS スペクトルの組み合わせ。

また、小型 Tof 装置である ACQUITY RDa 質量検出器を搭載した BioAccord システムでも SEC-MS 分析を行いました。ACQUITY RDa は、SEC-MS に最適な高質量範囲取り込み設定(m/z 400 ~ 7,000)を含む 2 種類の既定の質量範囲設定のいずれかで動作します。上記の質量取り込み範囲と同様の質量範囲をもつ選択した抽出イオンクロマトグラム(XIC)により、ネイティブ mAb シグナルを示すクロマトグラムが得られます。

BioAccord システムで得られたトータルイオンクロマトグラムの例を図 5A に示します。図 5B に、NISTmAb の溶出範囲に対応する MS スペクトルの組み合わせを示します。m/z 3,000 ~ 7,000 の範囲を拡大した XIC 表示に、ネイティブ NISTmAb の識別可能なシグナルが見られます。  

マウス IgG(インタクト mAb 質量チェック標準品)を繰り返し注入して BioAccord システムと XBridge Premier Protein SEC 250 Å、2.5 μm カラムの安定性を調査しました。この試験全体では、カラムに 250 回の注入を行い、その間にブランク注入を行わずに SEC-MS 測定を繰り返しました。10 回の注入ごとに抽出した mAb イオンのピーク面積を図 5C に示します。タンパク質の MS シグナルは、実験開始から 250 回目の注入まで一貫していました。報告された注入にわたる平均値について観測された RSD はわずか 2.9% でした。同様に、UV によって観測されたピーク面積も変化はわずかでした。これらのデータから、Premier Protein SEC カラムは、酢酸アンモニウム移動相を用いる SEC-MS に適していることが示唆されます。

図 5.XBridge Premier Protein SEC カラムおよび ACQUITY RDa ベンチトップ Tof 質量検出器を搭載した BioAccord を用いた mAb サンプルの Tof SEC-MS 測定。(A)4.6 × 150mm カラムおよび酢酸アンモニウム移動相を使用し、BioAccord MS 検出を用いた場合に、7.5 μg の NISTmAb 注入について得られた TIC。(B)6 ~ 7 分の時間範囲に対応する MS スペクトルの組み合わせ。m/z 400 ~ 1,400 に低質量のバックグラウンドイオンが観測されましたが、m/z 3,000 ~ 7,000 の範囲の拡大図に、NISTmAb の識別可能なシグナルが見られます。(C)インタクト mAb 質量チェック標準品を 250 回注入して得られた XIC ピーク面積(m/z 4,000 ~ 7,000)のプロット。XIC ピーク面積の %RSD は 2.92 と観測されました。(D)250 回の注入にわたる UV ピーク面積のプロット(観測された %RSD は 3.02)。

結論

ネイティブ LC-MS は、タンパク質医薬品の分析向けの強力なアプローチです。ネイティブ LC-MS では、チャージ状態が低く、チャージ状態の分布が単純で、マトリックスシグナルが低いため、得られた質量スペクトルから分子量情報をより容易にデコンボリューションすることができます。ネイティブ LC-MS は、サイズバリアントに関する重要な情報を提供し、非共有結合相互作用の解析に適しています。これらの分析にはいくつかの異なる種類のクロマトグラフィーを使用できますが、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)は、理論上および操作上、最もシンプルな形の分離が得られるものの 1 つです。SEC は、分析種とカラム内の表面との間に相互作用や吸着のない、エントロピー駆動型の分離であることが理想的です。実際には、特にネイティブ LC-MS 分析に推奨される酢酸アンモニウム移動相を使用した場合に、このような望ましくない相互作用を最小限に抑えることが課題となっています。多くの市販のカラムテクノロジーでは、100 mM 酢酸アンモニウム移動相を使用すると、ピークの歪みが発生し、回収率が低下します。そしてそのため、頑健で高感度な SEC-MS アプローチの開発が困難になっていました。

今回、このような MS と相性の良い分離条件を用いて、望ましくない二次的なイオン性および疎水性の相互作用を抑える新しい SEC カラムテクノロジーの使用について検討しました。この新たなカラムテクノロジーは、カバー率の高いヒドロキシ末端を持つポリエチレンオキシド(PEO)結合粒子をベースにし、親水性 MaxPeak High Performance Surfaces で構築されたカラムハードウェアによって補完されて、金属製カラムハードウェアと分析種の間の相互作用が最小限に抑えられています。この試験では、これらのユニークな表面には、検出限界の改善、より対称的なピーク形状、より高い分析種回収率など需要の高い SEC-MS 機能が備わっていることが実証されました。

参考文献

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720007455JA、2021 年 12 月

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