SmartMS 搭載 ACQUITY RDa 検出器を使用した、クエチアピンフマル酸塩 API の不純物同定のためのルーチン精密質量測定
要約
このアプリケーションノートでは、ACQUITY RDa 検出器によるクエチアピンおよびその関連不純物の同定のためのルーチン精密質量測定の単純なワークフローを実証しています。フラグメンテーションを使用するフルスキャン機能により、高低両方のエネルギーデータが同時に取り込まれ、1 回の注入で最大限の情報を得ることができます。UNIFI アプリケーションワークフローにより、フラグメント分析および構造解析のプロセスが合理化され、最終的な結果の信頼性が向上します。このワークフローに基づくアプローチにより、クエチアピンフマル酸塩 API(医薬品有効成分)の不純物の同定および確認において包括的な結果が迅速に得られます。API およびその関連不純物が、waters_connect ソフトウェアプラットホーム内の UNIFI アプリケーションを使用して同定され、報告されました。ACQUITY RDa 検出器のフラグメンテーションを使用するフルスキャン機能により、フラグメントイオン情報が生成されました。フラグメンテーションコーン電圧を急上昇させることにより、追加の構造情報が生成されました。
有効成分の化学的劣化は、薬効の減少につながる場合が多く、有効性や安全性に影響を及ぼすため、不純物のプロファイルについての知見は不可欠です。そのため、高分解能質量分析装置(HRMS)などの適切な分析ツールを使用して安定性試験を行うことが重要になります。ACQUITY RDa 検出器は、自動セットアップおよびキャリブレーション機能を備えているため、分析の専門知識の有無を問わず、科学者は精密質量測定を行うことができます。このように、専門家以外のユーザーでも HRMS にアクセスできるようになったため、科学者ははるかに詳細な分析情報を得ることができます。
アプリケーションのメリット
- 不純物プロファイリングのためのルーチン精密質量測定
- SmartMS テクノロジーを搭載したコンパクトな小型システム
- 直感的なシステムヘルスチェックと専用のエンドツーエンドワークフロー
- データインテグリティのためのコンプライアンス対応システム
はじめに
クエチアピンフマル酸塩(QUE)は非定型または第二世代の抗精神病薬とみなされています。また、双極性障害のうつ病エピソードの治療にも使用されています(McEvoy, 2016)。QUE は当初、精神疾患の治療用に開発されましたが、鎮静作用もあるため、現在では適応外の不眠症治療薬として幅広く使用されています(Anderson と Vande、2014)。QUE は化学構造上、分解を受ける可能性があるため(図 2)、HRMS などの適切な分析手法により、不純物の存在を評価することが重要になります。不純物の分析測定には多くの場合、時間と労力がかかります。これらの複雑な不純物のデータセットのデータ解析を円滑に進めるには、さまざまな質量分析法の機能および高度なソフトウェアが必要となります。本試験では、クエチアピンフマル酸塩(API)原薬中に存在する不純物について、特異性および感度の高い検出が可能な体系的ワークフローを実証しています。このワークフローに基づくアプローチでは、インテリジェントで使いやすいソフトウェアにより、不純物同定の信頼性が向上し、円滑で迅速な構造解析が可能になっています。ソフトウェアがフラグメント分析を実施し、低エネルギーデータのプリカーサーイオン情報を高エネルギーデータのフラグメントイオン情報に関連付けします。UV 検出器を備えた HPLC は、不純物プロファイリングに幅広く使用されている分析手法です。ただし、感度および特異性が限られており、それらの問題を克服するために HRMS がしばしば必要となります。
SmartMS 機能を備えた ACQUITY RDa 検出器により、HRMS の専門知識のないユーザーでも精密質量測定にアクセスし、奥深い分析情報を得ることができます。さらに、waters_connect ソフトウェアプラットホームでは、専用のエンドツーエンドワークフローを使用して、コンプライアンス対応のフレームワーク内で取り込み、解析、結果の報告を行います。フラグメンテーションによるフルスキャン機能により、低エネルギースペクトルと高エネルギースペクトルが同時に取り込まれ、フラグメントイオン情報が生成されて、化合物同定の信頼性が向上します。
実験方法
ACQUITY RDa 検出器を ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムと組み合わせ、XBridge C18(4.6 mm × 150 mm、3.5 µm)を固定相として使用して、クエチアピンフマル酸塩の不純物分析を行いました。ACQUITY RDa 検出器は、ルーチンの精密質量測定用の、質量分解能が 10,000 FWHM を超える、コンパクトな小型 Tof 質量分析計です。このシステムで、フルスキャンデータと、フラグメンテーションデータを含むフルスキャン(データインディペンデント取得)の両方の取り込みを行いました。UNIFI アプリケーションは、精密質量、保持時間、化合物フラグメントイオンデータを利用して、カスタマイズ可能なアプリケーション固有のライブラリーを検索し、化合物を同定します。図 1 に ACQUITY RDa 検出器を示します。
サンプルの説明
溶液 A(バッファー:ACN-3:1)を希釈液として使用して、5 mg/mL のクエチアピンフマル酸塩サンプル溶液を調製しました。
LC 条件
LC システム: |
ACQUITY UPLC I-Class PLUS |
検出: |
TUV@250 nm |
バイアル: |
トータルリカバリーバイアル |
カラム: |
XBridge C18、4.6 × 150 mm、3.5 µm |
カラム温度: |
45 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
20 μL |
流速: |
1.5 mL/分 |
バッファー: |
酢酸アンモニウム 6.2 g を水 2 L に溶解し、水酸化アンモニウムで pH 9.2 に調整 |
移動相 A: |
1500 mL バッファー + 500 mL アセトニトリル |
移動相 B: |
アセトニトリル |
グラジエントテーブル
MS 条件
MS システム: |
ACQUITY RDa 検出器 |
イオン化モード: |
フラグメンテーションによるフルスキャン(疑似 MSE 取り込み) |
取り込み範囲: |
m/z 50 ~ 2000 |
キャピラリー電圧: |
1.5 kV |
フラグメンテーションコーン電圧: |
50 ~ 90 V |
コーン電圧: |
30 V |
極性: |
正イオンモード |
スキャンレート: |
5 Hz |
脱溶媒温度: |
550 ℃ |
データ管理
インフォマティクス: |
waters_connect v1.9.12 |
結果および考察
ACQUITY RDa 検出器では、同定およびスマートな意思決定に必要な精密質量測定の精密質量ワークフローが使用されます。この試験では、不純物分析のための UNIFI ソフトウェアアプリケーションワークフローを実証しています。図 3 に示すように、このワークフローは分解試験に拡張することもできます。
図 4 に UV クロマトグラムと ESI ポジティブイオンモードでの MS BPI クロマトグラムの比較を示します。
ACQUITY RDa 検出器のフラグメンテーションによるフルスキャンを使用して、クエチアピンフマル酸塩 API サンプル(1 mg/mL)の取り込みを行いました。ここで、低エネルギーチャンネルにはプリカーサーイオンの情報、高エネルギーチャンネルにはフラグメントイオンの情報がそれぞれ含まれています(図 5)。
クロマトグラム中のすべてのピークの元素組成を得るためには通常、MS スキャンを組み合わせ、対象の各ピークについてバックグラウンド減算を行ってから、個々の元素組成についてレポートを生成する必要があります。UNIFI ソフトウェアにより、Tof-MS ES+ クロマトグラフィートレースで波形解析したすべての不純物ピークが、関連する元素組成、質量精度、i-FIT による同位体パターンスコアと共に自動入力され、単一の画面に結果が表示されます。UNIFI ソフトウェアを使用した、精密質量および元素組成による未知の不純物ピークの評価より、クエチアピン API の質量精度は 2 ppm 以内であることが示されました。9 種の既知の不純物が認められ、平均質量精度は 2 ppm でした。ソフトウェアにより、疑似 MSE 取り込みの間に同時に収集された高コリジョンエネルギーおよび低コリジョンエネルギーのデータがアライメントされます。結果として得られた情報が集合画面に表示されています。プリカーサーイオンおよびフラグメントイオンのスペクトルが評価され、クロマトグラフィーとして示されています。
このアプリケーションノートでは、図 6 に示すように、未知不純物を同定するための、「ディスカバーツール」を使用する、および「変換ツール」を使用する、2 つの異なるアプローチを実証しました。
この統合されたディスカバーツールにより、未同定のピークを調査し、構造データベース ChemSpider を迅速に検索して、未知化合物を仮同定することができます。
ディスカバーツールを使用することで、図 7 に示すように、RT 32.9 分のクエチアピンのピークを同定できます。
このディスカバーツールにより、32.9 分で測定した精密質量が取得され、元素式が提案され、選択した ChemSpider ライブラリーで可能性のある化合物が検索されます。この場合、可能性のあるデータベース一致が 6 件見つかりました。このディスカバーツールは、in-silico フラグメンテーションも行い、データベースで一致した化合物の理論上のフラグメントイオンを生成して、これを取り込まれたフラグメントイオンスペクトルと比較します。検索された 1 つ目の候補はクエチアピンで、図 8 に示すように、未知ピークのスペクトル組成と一致しています。
不純物プロファイリングにおいて、API 同定にディスカバーツールが使用でき、同定した化合物で作成したサイエンスライブラリーをルーチン分析に使用できます。図 9 に示すように、クエチアピンおよびその関連不純物について、利用可能な文献を使用して、サイエンスライブラリーを作成しました。
ディスカバーツールを使用することで、図 10 に示すように、RT 30.45 分のクエチアピンの関連不純物のピークを同定できます。
このディスカバーツールにより、30.45 分で測定した精密質量が取得され、元素式が提案され、選択したサイエンスライブラリーで可能性のある化合物が検索されます。このディスカバーツールは、in-silico フラグメンテーションも行い、データベースで一致した化合物の理論上のフラグメントイオンを生成して、これを取り込まれたフラグメントイオンスペクトルと比較します。検索された候補は不純物-I で、図 11 に示すように、未知ピークのスペクトル組成と一致しています。
図 12 に、サイエンスライブラリーを用いたクエチアピンおよびその関連不純物の同定を示しています。
最初の段階で、UNIFI のディスカバーツールを使用して、API および不純物の可能性あるアイデンティティーを見つけることができます。あるいは、酸化、還元、脱アルキル化などの反応を経た可能性がある API 関連不純物を、UNIFI アプリケーションに内蔵された変換ツールを使用して同定することができました。疑いのある不純物が、予測不純物の m/z に一致するすべてのピークが一覧表示されている成分サマリーに表示されます(図 13)。クロマトグラムとスペクトルのビューも表示され、ここでは高エネルギースペクトル中の自動フラグメントイオン割り当てに青色のアイコンが付記されています(図 13)。図 13 の左側に示されている不純物分析ワークフローを組み込むことで、API に関連する未知不純物を同定するための、効率的で効果的なアプローチになります。
クエチアピンフマル酸塩の関連不純物すべてが、waters_connect ソフトウェアプラットホームおよび ACQUITY RDa 検出器の組み合わせで同定されました。
結論
ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムと、TUV、ACQUITY RDa 検出器を組み合わせたデータ収集により、十分な感度および優れた質量精度が得られ、クエチアピンフマル酸塩原薬中の不純物の多くを同定することができました。疑似 MSE により、高エネルギーおよび低エネルギーのデータの両方が同時に取り込まれ、1 回の注入で最大限の情報を得ることができます。この分析ワークフローに続くデータ解析ワークフローにより、フラグメント分析および構造解析のプロセスが合理化されて、最終的な結果の信頼性が向上しました。
クエチアピンおよびその 9 種の不純物の同定が迅速に確認されました。ソフトウェアツールの組み合わせと、不純物分析および効率的な疑似 MSE 取り込み用に最適化した装置構成により、体系的なワークフローアプローチを、不純物プロファイリングにおける既知ピークおよび未知ピークの同定および確認に容易に適用できます。このワークフローに基づくアプローチにより、API の不純物プロファイリング試験における不純物の同定および確認に必要な包括的な結果を、迅速かつ体系的に得ることができます。
参考文献
- Anderson, S., and Vande, J. (2014).Quetiapine for Insomnia: A Review of the Literature.American Journal of Health‐System Pharmacy, 71, 394–402.https://doi.org/10.2146/ajhp130221.
- Bharathi, C., Prabahar, K., Prasad, C., Srinivasa, R., Trinadhachary, G., Handa, V., Naidu, A. (2008).Identification, Isolation, Synthesis and Characterization of Impurities of Quetiapine Fumarate.Pharmazie, 63, 14–19.
- Fisher, D., Handley, S., Flanagan, R., and Taylor, D. (2012).Plasma Concentrations of Quetiapine, N‐desalkylquetiapine, O‐desalkylquetiapine, 7‐ hydroxyquetiapine, and Quetiapine Sulfoxide in Relation to Quetiapine Dose, Formulation, and other factors.Therapeutic Drug Monitoring, 34, 415–421.https://doi.org/10.1097/FTD.0b013e3182603f62.
- Jones, MD, et al. Identification and Characterization of an Isolated Impurity Fraction: Analysis of an Unknown Degradant Found in Quetiapine Fumarate.Waters Corporation.2009; 720003079EN.
- Impurity Isolation and Scale-up from UPLC: Analysis of an Unknown Degradant Found in Quetiapine Fumarate.Waters Corporation.2009; 720003078EN.
720007354JA、2021 年 9 月