このアプリケーションブリーフでは、医療機器の抽出物のスクリーニング分析用に十分に確立されたワークフローを提供し、ISO 10993-18 などの標準に対応している UNIFI 科学情報システムについて説明します。
医療機器業界で使用される医療機器、組合わせ医療機器および包装の特性解析がますます重要になっています。これは、ISO 10993 などの世界的な規制や規格が常に増加し続けているためです。包装からの抽出物に対する特性解析の最初のステップには、抽出物が既知化合物であるかどうかを調べるターゲットスクリーニングが含まれます。ターゲットスクリーニングは確立されたプロセスで、GC-FID-MS 法から LC-UV/MS 法までさまざまな分析法を使って実施されます。しかしながら、最終包装には出発物質由来の不純物や成形過程などで生成したその他の分解物などが含まれている可能性があります。未知化合物の構造解析は通常、非常に複雑で時間のかかるプロセスであり、分析者に高いレベルの専門知識が要求されます。Waters UNIFI 科学情報システムは、科学ライブラリーの作成、多変量統計解析、構造解明、およびレポート作成を含むシンプルなワークフローを提供します。この単一プラットホームのインフォマティクスソリューションにより、データレビューが簡素化し、意思決定プロセスが円滑になるため、複雑なデータをより効率的に評価できるようになります。
図 1 に示すように、ワークフローは、四重極飛行時間型質量分析計(QTof)またはイオンモビリティー QTof 質量分析計(IMS-QTof)で取り込んだノンターゲットデータ非依存的分析(MSE または HDMSE)から始まります。QTof MS は交互にスキャンする MSE モード(E は高コリジョンエネルギーを表す)で動作します。この手法により、1 回の実験でのデータ取り込みで 2 つの MS スキャン機能が使用できます。1 つ目のスキャン機能では、低コリジョンエネルギーを使用して MS データを取り込み、サンプル中のプリカーサーイオン情報を収集します。2 つ目のスキャン機能では、コリジョンエネルギーが低エネルギーから高エネルギーに急上昇することで、フラグメントイオンを幅広い m/z 範囲にわたって収集できます。IMS-QTof では、イオンモビリティーを含めることで異なる次元の分離が得られ、高分解能質量分析 E (HDMS E)が実現します。これらの種類のデータ取り込みにより、プリカーサーイオンおよびフラグメントイオンの情報の同時収集が可能になり、このことが未知化合物の解明に不可欠です。抽出物検査では、サンプル抽出物について完全な情報が得られることはほとんどありません。したがって、ターゲットスクリーニングの後、分析評価しきい値(AET)を超えるものについては、ノンターゲットスクリーニングでの解明ステップが不可欠です。
MS 分析前のサンプル分離は、UPLC を用いる液体クロマトグラフィー、APGC を用いるガスクロマトグラフィー、および UPC を用いるコンバージェンスクロマトグラフィーで行うことができます2。
データ分析を開始する前に、ユーザーはサンプル抽出物中に予想される化合物の知識に基づいて、サイエンスライブラリーを作成できます。例えば、プラスチック材料配合中の出発化合物が既知である場合や、文献検索により、類似の種類の材料中に通常存在する化合物のリストが提供されている場合が挙げられます。更に、規制により、医療機器で許可または禁止されている化合物のリストが提供されています。
サイエンスライブラリー(図 2)には、可能な限り多くの情報を含めることができます。最も一般的に含まれる情報は、化合物名、その分子式や構造、項目タグ、フラグメンテーション情報です。イオンモビリティーデータの場合、スクリーニングに必要な情報は衝突断面積(CCS)です1。 ライブラリーに含まれる各化合物の広範な情報により、ターゲットスクリーニング分析時の偽陽性の数を減らすことができます。UNIFI サイエンスライブラリーに追加できる追加情報の例には、MS スペクトルおよびその他の関連文書(MSDS、論文、SOP など)が含まれます。
データが取り込まれると、UNIFI は、ユーザーがライブラリーから作成したターゲットリストを使用して、生データを解析し、合否基準に一致する化合物を検索します。必要に応じて、ターゲットのリストを手動で作成することもできます。保持時間や質量精度の許容範囲などの解析基準は、ユーザーが設定することができます。その後、予測フラグメント数と検出された予測フラグメント数の比較、CCS デルタ(%)を含む IMS データについての CCS の予測値および測定値、同位体強度のマッチング(ppm または %)などのパラメーターに基づいて、提案された同定をレビューすることができます。
UNIFI のユーザーは、カスタマイズしたワークフローにより、好みのダッシュボードに情報を表示してレビューすることができます(図 3)。プリカーサーおよびフラグメントのスペクトルをレビューすることができます。抽出イオンクロマトグラム(XIC)を表示して、すべてのプリカーサーおよびフラグメントを見ることができます。サマリープロットを使用して、他の注入におけるターゲットの有無や強度の変化を確認することができます。
サンプル分析時に適切な標準試料が分析され、検量線が使用可能な場合は、分析で同定されたターゲットの定量が可能です。
同定されたターゲットが偽陽性でないかをレビューし、それらを同定化合物のリストから削除した後、次の質問として「サンプルには他に何が含まれているか?」、あるいは「ブランク抽出液とサンプル抽出液の違い、または 2 つのサンプルの違いは何か?」という問いに答えます。UNIFI には、比較および統計分析のためのツールが 2 つあります。1 つ目は、2 回の注入を比較することができるバイナリー比較です。注入の 1 つにレファレンスサンプル(このケースでは抽出ブランク)とラベル付けする必要があります。
レファレンススペクトルおよび未知スペクトルの質量が指定した質量許容値の範囲内にある場合、同じ成分であるとみなされます。比較は、ベースピーク強度のクロマトグラム(BPI)、トータルイオンカウントクロマトグラム(TIC)のミラーイメージとしてグラフ表示することができ、候補質量の表として表示することもできます(図 4)。また、レファレンスサンプル中の化合物のスペクトルを、未知サンプルと比較して表示することもできます。[Match Type](マッチの種類)と表示された列は、候補が未知サンプルにのみ存在するのか、レファレンスサンプルにのみ存在するのか、あるいはその両方に存在するのかを示します。対応するマッチの種類は、[Unknown Unique](未知試料に固有)、[Reference Unique](レファレンスに固有)、または[Common](共通)です。通常は、サンプルに固有で、レファレンスサンプル中に存在しない化合物が分析において最も重要と考えられ、AET を超える化合物は ISO 10993-18 に従って解明する必要があります。
3 つ以上のサンプル(またはサンプルグループ)を比較する必要がある場合、UNIFI の統計ソフトウェアパッケージ EZInfo を含む統合されたワークフローは、データ整理および評価のための主成分分析(PCA)および他のモデルを提供します。PCA は、大規模な多変量データセットを主成分と呼ばれる無相関の変数に次元削減できる統計ツールです。サンプルグループ間の相違が、Projection to Latent Structures Discriminant Analysis(潜在構造への射影の判別分析、PLS-DA)モデル(サンプルグループが指定されている)(図 5)によって強調されます。PLS-DA により、すべてのサンプルグループの変数 X(予測因子)と Y(レスポンス)の間の定量的関係がモデル化されます。続いて、Orthogonal Projection to Latent Structures Discriminant analysis (潜在構造への直交射影の判別分析、OPLS-DA)プロットが 2 つのグループの違いを示します²。ローディングプロットおよび S プロットのデータポイント(マーカー)は、精密質量/保持時間ペア(AMRT)と呼ばれます。サンプル間の最大の相違に寄与する個々のマーカーを、ローディングプロットまたは S プロットのいずれかから選択し、ディスカバーツールに転送し戻して解明することができます。選択したマーカーを転送する際に、ラベルを追加して、データの並べ替えおよび異なるサンプルグループのマーカーのトラッキングを容易にすることができます。マーカーマトリックスの表から個々のマーカーを選択すると、TrendPlot が表示され、他のサンプルや注入におけるマーカーの存在を迅速に評価できるようになります(図 6)。
バイナリー比較または MVA 分析からマーカーを選択した後、UNIFI のディスカバーツールを使用して、潜在的なイオンを同定することができます。ディスカバーツールは、データに含まれるすべての分析情報(精密質量、同位体パターン、高コリジョンエネルギーチャンネルでのフラグメンテーション)を構造データベース検索と自動的に組み合わせます。結果の表には、可能性のあるイオンの分子式、ChemSpider 検索から得られた対応する構造、およびフラグメンテーションデータに基づいて各構造にマッチさせることができるフラグメントの数が表示されます。検索から返される情報(図 7)には、各構造について使用された引用および同義語の数も含まれています。多くのポリマー添加剤にはイルガノックスやチヌビンなどの一般名があり、化合物の選択を更に絞り込むのに役立ちます。
化合物の同定が行われたら、選択した構造および名前を候補質量イオンに割り当てることができます。割り当てにより、候補の同定ステータスが[同定済み]に変わります。解析済みの化合物をすべて UNIFI サイエンスライブラリーに追加し、その後のターゲットスクリーニング分析で使用することができます。
分析の最後のステップの 1 つは、レポートの作成です。レポートテンプレートを UNIFI 分析法に組み込み、同様の種類の分析に使用することができます(図 8)。レポートをカスタマイズして、分析法、解析パラメーター、クロマトグラム、スペクトル、同定された化合物のサマリーテーブルなどの関連情報をすべて含めることができます。
UNIFI 科学情報システムは、医療機器の抽出物のスクリーニング分析用に十分確立されたワークフローを提供し、ISO 10993-18 などの標準に対応しています。UNIFI ワークフローでは、サイエンスライブラリーで、ターゲットのスクリーニングから開始し、続いてマーカーまたは類縁物質を決定するための統計分析を行います。ディスカバーツールが、元素組成の情報が豊富な生データを自動的に利用し、次に、構造データベースの検索とフラグメンテーションの割り当てを行います。この統合されたワークフローにより、構造解明による抽出物のスクリーニング分析に必要な時間が短縮されます。
720007255JA、2021 年 5 月