N-ニトロソジメチルアミン(NDMA)は発がん性物質で、ヒトが消費するさまざまな農産物や医薬品中に検出されているため、さまざまなマトリックス中でのそのモニタリングについて高い関心が持たれている化合物です。これらの化合物には、複雑なサンプル形態で ng/mL 未満の範囲の高感度で選択性の高い検出法が必要です。ここでは、ラニチジン製剤中の NDMA の高感度かつ選択的な定量を行うためのターゲットエンハンスメントを使用した、Xevo G2-XS QTof の性能について説明します。直線性、検出、濃度計算結果に加えて、最近特定された干渉物から NDMA を分離する分析法のクロマトグラフィー機能についても説明します。
N-ニトロソジメチルアミン(NDMA)は既知の潜在的発がん性物質であり、最近、さまざまな医薬品中の不純物として検出されています1。これらの事例での NDMA の生成は、ジメチルホルムアミド(DMF)と硝酸試薬を用いた医薬品有効成分(API)の合成に起因します1。 影響を受けた医薬品には、当初、広く販売されていたアンジオテンシン II 受容体遮断薬2,3、例えば「サルタン」系医薬品であるバルサルタンが含まれていました3,4。NDMA 汚染は現在、胃潰瘍や胸焼けの治療に使用される4 ラニチジン4,5 や徐放性メトホルミンにまで、その発見が拡がっています6。その後、米国 FDA およびその他の世界の規制機関は、これらの医薬品の製造をリコールまたは制限し2,3、NDMA およびその他の N-ニトロソアミンの正確な検出および定量のためのキャンペーンが広く行われるようになりました2,4。現在、米国 FDA は NDMA の一日許容摂取量を 96 ng/日に定めており5、この制限値を下げることを積極的に検討しています。
このように、NDMA の積極的モニタリングは優先度が高く、感度が高く特異性の高い分析法に依存します。液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)の使用は、NDMA の信頼できる同定および定量に成功しました1。 例えば、ラニチジン中の NDMA 測定の場合、原薬の分解が分析中の NDMA 生成につながる可能性があるガスクロマトグラフィー分析法よりも、LC が好まれます7。 高分解能 MS(HRMS)プラットホームでは、イオンの精密質量測定によって高い特異性が得られ、質量幅が狭い抽出イオンクロマトグラム(XIC)を生成できます。最近の装置設計の開発により、一部の HRMS プラットホームで感度が大幅に向上し8、対象の質量対電荷比(m/z)を中心として強化されたデューティサイクルの適用により、さらにシグナルの増強を達成できます。HRMS 分析法により、原薬および製剤中の NDMA が正確で精密に定量されることが、以前に示されています2,3,7。
ここでは、HRMS プラットホームとして Xevo G2-XS QTof を UPLC と組み合わせて使用した、ラニチジンおよびメトホルミンの医薬品中の NDMA の選択的で高感度の測定について説明します。また、NDMA と DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)のクロマトグラフィー分離についても説明しています。DMF は、定量への干渉を引き起こす可能性があることが知られています。
この試験で使用したサンプルは、ラニチジンおよびメトホルミン製剤を水に溶解し、最終濃度 30 mg/mL に調製しました。具体的には、150 mg ラニチジンを 5 mL の水に溶解して得られた薬剤溶液を注入しました。この試験では、メトホルミンは 500 mg 錠剤 3 錠を 50 mL の水に溶解し、メトホルミン API も 120 mg の API と 4 mL の水を用いて、最終濃度 30 mg/mL に溶解しました。
NDMA ストック溶液は、水で希釈して作業濃度 10 μg/mL にし、適切な量の水で希釈して濃度 1.0、5.0、10、50、100 ng/mL にしました。調製済み医薬品中の NDMA 濃度の測定は、参考文献2から直接取得した下記の計算を使用し、m/z 75.0552 での Aspl および As に対する NDMA 抽出イオンンクロマトグラム(XIC)のターゲットエンハンスメント面積を使用して行いました。
ジメチルホルムアミド(DMF)および NDMA は、最終濃度がそれぞれ 30 μg/mL および 2 ng/mL になるように、水に溶解して調製しました。
LC システム: |
ACQUITY UPLC H-Class |
検出: |
Xevo G2-XS Qtof |
カラム: |
ACQUITY UPLC HSS T3(2.1×100 mm、1.8 μm) |
カラム温度: |
30 ℃ |
サンプル温度: |
7 ℃ |
注入量: |
10 μL |
流速: |
300 μL/分 |
移動相 A: |
0.1% ギ酸水溶液 |
移動相 B: |
0.1% ギ酸メタノール溶液 |
MS システム: |
Xevo G2-XS Qtof |
測定モード: |
感度 |
測定モード: |
TOF MS |
スキャン時間: |
0.8 秒 |
イオン化モード: |
APCI ポジティブ |
取り込み範囲: |
m/z 30~150 |
ターゲットエンハンスメント質量: |
m/z 75.0 |
コロナ電流: |
0.5 mA |
プローブ温度: |
250 ℃ |
脱溶媒ガス: |
1200 L/時間 |
コリジョンエネルギー: |
6 eV |
コーン電圧: |
40 V |
コーンガス: |
10 L/時間 |
ソース温度: |
130 ℃ |
ロックマス: |
ロイシンエンケファリン(m/z 120.0813) |
四重極プロファイル: |
マニュアルプロファイル(下記の設定) |
クロマトグラフィーソフトウェア: |
MassLynx v4.2 |
MS ソフトウェア: |
MassLynx v4.2 |
データ解析: |
UNIFI v.1.9.4 |
NDMA の初期検出結果は、溶媒標準試料で評価されました。NDMA の検出を改善するため、ここではターゲットを絞った強化アプローチを使用しました。Xevo G2-XS QTof でのターゲットを絞った強化は、TOF 領域(この場合、NDMA の [M+H]+)のプッシャーを同期することによって達成されます9。これは、MS 分析法(図 1 を参照)のターゲットを絞った強化を有効にし、対象質量(この場合は 75.0 Da)を入力するだけで、簡単に行えました。図 2 に、希釈液のブランク試料および希釈シリーズの各ポイントでの抽出イオンクロマトグラムのサマリー、および結果として得られた検量線データが示されています。ピーク間のシグナル対ノイズ比 10:1 に基づいて決定した定量限界(LOQ)は 1.0 ng/mL であり、この場合のノイズは 2.5 ~ 3.0 分の範囲で取得しました。1.0 ~ 100 ng/mL の希釈系列で、R2 0.996 の優れた直線性が実証されました(図 2)。この値は、製剤/原薬中の NMDA についての最近の推奨 FDA 限度 30 ng/mL を下回っています10。
NDMA 溶媒標準試料の分析に続いて、ラニチジン製剤(DP)を分析しました。NDMA とラニチジンのクロマトグラフィー分離が図 3 に示されています。この図では、5 ng/mL の NDMA 標準試料注入と 30 mg/mL のラニチジン注入が比較されています。Xevo G2-XS QTof による精密質量測定を使用して、NDMA の同定での特異性が達成されています(図 3)。分析したラニチジン DP は、NDMA 汚染が確認されました。図 4 に、ラニチジン中に NDMA をそれ以上添加していない場合の XIC、および 1.0、5.0、10、20 ng/mL の 4 つのレベルで NDMA を添加した場合の XIC が示されています。すべての注入のレスポンスのサマリーも図 4 に示されています。サマリープロットの各注入で、標準試料および製剤サンプルの両方での NDMA 濃度計算値が注釈付けされています。最後に、このラニチジン DP に NDMA を添加した場合の曲線に 1/X 重み付けを使用して、R2 0.996 の良好な直線性が得られました。
分析法の性能の特性解析時に、7 つのラニチジンサンプルを分析して、さまざまなレベルの NDMA が含まれていることが判明しました。これらの結果、および 3 ng/mL の NDMA の標準試料の平均レスポンス(面積)が表 1 に報告されています。ここでは、水溶液として調製した標準曲線に対して NDMA を定量しました。メトホルミンサンプルも分析し、検出可能な NDMA が含まれていないことが判明しました。
最近の報告では、メトホルミン製剤中に存在する N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)の共溶出が原因で、NDMA の定量に不一致が起こる可能性があることに焦点が当てられています。DMF(C3H7NO)および NDMA(C2H6N2O)の分子量は類似しています([M+H]+ の m/z 理論値はそれぞれ 74.0600 および 75.0553 )。これらの質量は公称質量条件下で簡単に区別できますが、DMF15 N の同位体イオン(m/z 理論値 75.0631)の寄与により、クロマトグラフィー共溶出下で NDMA の過大定量が起きています11。今回採用したクロマトグラフィーメソッドは、この NDMA 定量の問題が明らかになる前に開発されたものですが、図 5 に示されているように、NDMA と DMF の間の適切なベースライン分離を提供します。HRMS メソッドの場合でも、クロマトグラフィー分離は不正確な定量を回避する最も信頼できる方法です。
ここでは、ラニチジンおよびメトホルミン製剤中の NDMA を、FDA 推奨の LOQ < 0.03 ppm(30 ng/mL)の範囲内で、正確に定量する Xevo G2-XS QTof の機能を実証しました。この分析法を用いて、7 つのメトホルミン錠剤中の NDMA を定量できました。開発された UPLC クロマトグラフィーメソッドは、共溶出する可能性のある DMF からの NDMA 分離を達成できる点で頑健で選択的であることが証明されました。
720007167JA、2021 年 3 月