XSelect CSH Phenyl-Hexyl カラムを用いた UHPLC-UV-MS によるサルタン原薬中のアジド不純物の分離および検出
要約
アンジオテンシン II 受容体遮断薬(ARB)である「サルタン」医薬品周辺について、最近の遺伝子毒性不純物の懸念により、複数の規制機関からリコール通知が出されています。これらの不純物は安全性しきい値レベルが低いことから、適切な分析法が必要になります。一方、現在の米国薬局方(USP)モノグラフでは、医薬品有効成分(API)から不純物を十分に分離できない可能性があります。今回、新しい分析法を USP モノグラフと比較し、サルタン(イルベサルタン、ロサルタン、バルサルタン)とアジド不純物である 5-[4'-(アジドメチル)[1,1'-ビフェニル]-2-イル]-1H-テトラゾールの混合物の分離において、別のカラムケミストリーである XSelect CSH Phenyl-Hexyl の可能性について説明します。PDA および ACQUITY QDa 質量検出器と組み合わせた ACQUITY Arc システムを使用することで、すべての化合物に対して選択性と分離能が向上し、各化合物に対して優れた MS 直線性を示す迅速な 3 分間のアイソクラティック法が開発できました。
アプリケーションのメリット
- XSelect CSH Phenyl-Hexyl カラムを使用したサルタン薬剤およびアジド不純物の分離の改善
- LC-UV-MS を使用したサルタン原薬中のアジド不純物の正確な分析
- 3 分間のアイソクラティック法を用いた、16 ng/mL ~ 50 μg/mL のアジド不純物の迅速かつ再現性のある定量
はじめに
イルベサルタン、ロサルタン、バルサルタンは、高血圧および糖尿病性腎症(腎疾患)の治療に使用されるアンジオテンシン II 受容体遮断薬(ARB)です1。遺伝毒性のあるアジド不純物である 5-[4'-(アジドメチル)[1,1'-ビフェニル]-2-イル]-1H-テトラゾールが存在する疑いにより、これらの「サルタン」剤のリコールが 2021 年 6 月に実施されました2。 このアジド不純物は、各医薬品有効成分(API)の合成経路の中間体であり、類似のバックボーン構造を有しています。図 1 に示すように、4 種の化合物すべてにフェニル基に結合したテトラゾール環が含まれており、そのオルト位に別のフェニル基が組み込まれています。これらの化合物の違いはこの 2 番目のフェニル環のパラ位にあり、区別するにはアジド不純物とサルタン API を正確に検出し、定量できる適切な分析法が必要になります。この点は、化学構造の類似によってさらに困難になっています。
この試験では、アジド不純物である 5-[4'-(アジドメチル)[1,1'-ビフェニル]-2-イル]-1H-テトラゾールおよびサルタン API であるイルベサルタン、ロサルタン、バルサルタンを迅速かつ正確に 3 分間で分析するための、XSelect CSH Phenyl-Hexy カラムを使用したデュアル UV-MS 検出による UHPLC 分析法について紹介します。ACQUITY QDa 質量検出器および PDA 検出を備えた ACQUITY Arc システムを使用しました。この迅速でシンプルな分析法では、MS 適合の移動相を用いるアイソクラティック条件を採用して、4 種の化合物を完全に分離します。この UV 検出と MS 検出の組み合わせにより、アッセイ感度が向上してアジド不純物および API の正確な測定と質量確認が可能になり、1 μL の注入で 16 ng/mL というアジド不純物の低い検出限界が達成されました。
実験方法
サンプルの説明
サンプル希釈液として 50:50 アセトニトリル:水を使用して、4 種の分析種の 1 mg/mL の原液を調製しました。その後のすべての希釈では、希釈液として 50:50 アセトニトリル:水を使用しました。サンプル濃度は試験によって異なります。
LC 条件
LC システム: |
ACQUITY Arc、2998 PDA 検出器および ACQUITY QDa 質量検出器を搭載 |
検出: |
UV @ 230 nm |
分析種の SIR (図 1) |
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バイアル: |
LCMS 品質保証透明ガラスバイアル 2 mL (製品番号:600000751CV) |
カラム: |
XSelect BEH C18、3.0 × 50 mm、2.5 μm(製品番号:186006033) |
XSelect CSH Phenyl-Hexyl、3.0 × 50 mm、2.5 μm(製品番号:186006129) |
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カラム温度: |
30 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
1 μL |
流速: |
1.7 mL/分 – USP モノグラフからスケーリング |
0.85 mL/分 – 分析法開発での流速 |
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移動相 A: |
水 |
移動相 B: |
アセトニトリル |
移動相 C: |
50:50:0.1(アセトニトリル:水:酢酸) USP モノグラフの移動相 |
移動相 D: |
2% ギ酸水溶液 |
MS 条件
MS システム: |
ACQUITY QDa |
イオン化モード: |
ESI+ での SIR |
取り込み範囲: |
図 1 を参照してください |
キャピラリー電圧: |
1.5 kV |
コーン電圧: |
15 V |
データ管理
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower 3 Feature Release 4 |
結果および考察
図 1 に示す化合物の予備的な分析法開発の取り組みでは、サルタンとアジド不純物を分離、検出、定量できる単一の汎用的な分析法の作成に重点を置きました。このため、PDA 検出器を搭載した ACQUITY Arc システムに質量確認用の ACQUITY QDa 質量検出器を統合して、分析を行いました。出発点として、バルサルタンの USP モノグラフを調査しました。イルベサルタンとロサルタンのモノグラフではいずれも、MS 検出と適合性のないリン酸とリン酸緩衝液を移動相として使用しているためです。バルサルタンの USP モノグラフは、アセトニトリル(水:酢酸)を移動相として採用しており、MS 検出に適合する唯一のサルタンモノグラフになっています。
分析のため、USP モノグラフの記載に従って 4 種の化合物の原液を調製しました3。 0.2 mg/mL(API)および 0.02 mg/mL(アジド不純物)の個別の標準試料の注入、並びに表示濃度の 4 種の化合物の混合物の注入を、USP モノグラフからスケーリングした XBridge BEH C18 3.0 x 50 mm 2.5 μm を用いて実施しました。LC および MS の完全な詳細については、実験方法のセクションを参照してください。図 2 に、この分析法で得られた UV クロマトグラフィーの結果を示します。
アジド不純物とイルベサルタンのピークの共溶出を示す図 2 から、スケーリングした USP モノグラフと XSelect XBridge BEH C18 カラムを用いた 3 種のサルタンとアジド不純物の分離が不十分であることが分かります。この結果から、不純物とサルタンを完全に分離できる汎用的な方法は得られておらず、さらなる分析法開発が必要であることが示されました。4 種の化合物が密接に関連する多環構造を有することを考慮し、次に XSelect CSH Phenyl-Hexyl カラムを試しました。このカラムは、XBridge BEH C18 カラムとは異なるベースパーティクルおよび異なる結合リガンドを採用しています。CSH 粒子は、ハイブリッド粒子であるという点で BEH と似ていますが、CSH 粒子には正電荷がわずかに維持されているのに対して BEH 粒子には正電荷が存在しません。このわずかな荷電は 2 通りに作用します。まず、このわずかな正電荷による弱いイオン性反発のために、低 pH での塩基性分析種のピーク形状が改善します。第二に、適切な状況下では、この粒子の正電荷が弱陰イオン交換体として作用し、酸性プローブに対する選択性に差が出ます。フェニル-ヘキシル結合したリガンドは、二次的な π-π 相互作用がリガンドと分析種の間で生じる可能性がある点で C18 リガンドとは異なります。この点は、サルタンのような複数のフェニル環を持つ化合物を分析する場合に有利に働く可能性があります。
この XSelect CSH Phenyl-Hexyl カラムを使用することで、サルタン薬とアジド不純物の分離における選択性がより良好になり、分離能が改善しました。さらに、分析法が最適化され、図 3 に示すように、実行時間が大幅に短縮されて 3 分間のアイソクラティック分析法が得られました。さらに、移動相モディファイヤーとしてギ酸を使用することで、目的とする分離を十分に達成できることが分かりました。
図 3. XSelect CSH Phenyl-Hexyl、3.0 × 50 mm、2.5 μm カラムを使用して得られたアジド不純物、イルベサルタン、ロサルタン、バルサルタンの UV クロマトグラムおよび SIR クロマトグラム。アイソクラティック分離は、PDA 検出器と質量検出のための ACQUITY QDa を組み合わせた ACQUITY Arc システムを使用し、流速 0.85 mL/分、カラム温度 30 ℃、ギ酸モディファイヤーを含む移動相(40:60 アセトニトリル:水)を用いて行いました。
LC 分析法の最適化に続いて、ACQUITY QDa 質量検出器を用いてサルタン薬とアジド不純物に対する MS 感度と直線性を評価しました。4 種の化合物すべてについて検量線(n=3)を作成しました。定量下限値、線形回帰(R2)、検量線範囲などの MS 定量性能は表 1 に記載しています。アジド不純物の MS 精度を確認するために、50 ng/mL のサンプルを用いて回収率/精度および再現性について評価しました。平均回収率(n=9)は 97.4% で %RSD は 4.2% と判定され、回収率および RSD に関する推奨基準である 85 ~ 115% が十分に満たされています。
結論
アジド不純物である 5-[4'-(アジドメチル)[1,1'-ビフェニル]-2-イル]-1H-テトラゾールおよびサルタン API の正確で再現性のある分析のための、迅速で汎用的な LC-UV-MS 分析法の開発に成功しました。XSelect CSH Phenyl-Hexyl カラムは、従来使用されていた C18 カラムと比べて選択性に優れており、ロサルタン、バルサルタン、イルベサルタン、アジド不純物を効果的に分離できます。ACQUITY QDa 質量検出器および PDA 検出を備えた ACQUITY Arc システムを使用して、迅速で正確なピーク同定の確認を行いました。この概念実証分析法は、サルタン API 中のアジド不純物である 5-[4'-(アジドメチル)[1,1'-ビフェニル]-2-イル]-1H-テトラゾールを測定するための、分析時間 3 分未満のシンプルなソリューションとなっています。
参考文献
- Angiotensin II Receptor Blockers.Mayo Clinic Website.Accessed 30-Aug-2021.https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/high-blood-pressure/in-depth/angiotensin-ii-receptor-blockers/art-20045009.
- Government of Canada Recalls and Safety Alerts.Multiple Lots of Irbesartan, Losartan, and Valsartan Drugs Recalled Due to Azido Impurity.Accessed 16-Aug-2021.https://healthycanadians.gc.ca/recall-alert-rappel-avis/hc-sc/2021/75715a-eng.php.
- USP Monograph Conditions Valsartan Tablets.USP43-NF38-4579, USP42-NF37-4539, USP41-NF36 2S-8984.Accessed via USP-NF mobile app 19-July-2021.
720007369JA、2021 年 9 月