グローバル経済では多くの場合、競争上の優位性を実現して維持するという課題があります。性能と有用性の両方において改善をもたらすことができる新しい装置が望まれています。新しい装置を組み込むには、多くの施設にわたってそのアプローチを調和させ、あるラボから他のラボまで、分析法およびその他の変動要因を管理することが重要です。これらの課題に対処するために、リスクベースのアプローチおよび管理戦略を使用することが推奨されます。このアプリケーションノートでは、USP 不純物分析法のグローバルなラボ間分析法移管試験を 8 つの参加施設で実施しました。予備試験を移管元ラボで実施し、管理戦略および移管プロセスについて主要な情報が得られました。このプロセスを実施することで、システムおよび分析法はシステムの適合性要件にルーチンに適合していることが実証されました。
グローバル経済では多くの場合、競争上の優位性を実現して維持するという課題があります。性能と有用性の両方において改善をもたらすことができる新しい装置が望まれています。特に分析法移管のために新しい装置を評価する場合は、システム設定を管理し、理解することが重要です。さらに、特定の分析法条件やその他の変動要因を管理して、ラボ間のばらつきを最小限に抑える必要があります。これらの課題に対処するには、分析法の性能に影響を及ぼす可能性のあるリスクをしっかり把握し、リスクを最小限に抑えるための管理戦略を展開する必要があります。
このアプリケーションノートでは、USP 有機不純物分析法のグローバルなラボ間分析法移管を、世界中の 8 つの施設で実施しました。この移管は Arc HPLC システムで実施しました。移管元のラボ施設では、試験前に頑健性および検証の試験を実施しました。このプロセスは多面的であり、移管元のラボ施設でのリスク評価が含まれました。管理戦略では、移管元のラボから移管先のラボに、標準操作手順(SOP)および重要資料が提供されました。これらの管理戦略では、システムおよび分析法の変動要因を管理して、正常な分析法移管を可能にしました。
この分析法は、クエチアピンフマル酸塩不純物の USP モノグラフ1 に基づいており、調整は行われませんでした。
この分析法には、システム適合性レファレンス標準試料(RS)およびクエチアピンフマル酸塩の RS の両方が必要です。システム適合性溶液は、USP クエチアピンシステム適合性 RS(USP 製品番号 1592715)で調製され、クエチアピン、クエチアピンデスエトキシ(1 ~ 5%)、類縁物質 G、および類縁 B 標準試料の混合物で構成されています。システム適合性溶液は、このクエチアピンシステム適合性 RS を用いて希釈液(86:14 溶液 A/溶液 B)中に 1 mg/mL で調製しました。標準溶液は、USP クエチアピンフマル酸塩 RS を使用して、希釈液中に 0.001 mg/mL の濃度になるように調製しました。
原薬は、Hangzhou Think Chemical Co., Ltd. から入手し、有効期限を過ぎていました。サンプルは、溶液 A 中に 1.0 mg/mL で調製しました。
カラム: |
XBridge C8、3.5 µm 4.6 mm × 150 mm(ウォーターズ製品番号:186003055) |
カラム温度: |
45 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
20 µL |
検出: |
250 nm |
Data rate: |
10 Hz |
流速: |
1.5 mL/分 |
分析時間: |
70 分 |
バッファー: |
3.1 g/L 酢酸アンモニウム水溶液。pH = NLT 9.2 の溶液各 1 L に 2 mL の 25% 水酸化アンモニウムを添加 |
溶液 A: |
25:75 ACN:バッファー |
溶液 B: |
アセトニトリル |
ニードル洗浄液: |
50:50 水/アセトニトリル |
パージ溶媒: |
50:50 水/アセトニトリル |
シール洗浄溶媒: |
90:10 水:アセトニトリル |
Empower 3 クロマトグラフィーデータソフトウェア |
システム: |
Arc HPLC システム(QSM-R、FTN-R、CHC) |
検出: |
2998(PDA)または 2489(TUV) |
設定: |
パッシブプレヒーター(推奨) |
フローセル: |
分析 |
USP クエチアピンフマル酸塩不純物分析法の分析法移管1 を、世界中の施設にわたって実施しました。ラボは、米国マサチューセッツ州 Milford(移管元ラボ)にあり、7 つの移管先ラボはマサチューセッツ州 Milford の第 2 ラボ、トルコ、インド、シンガポール、中国、フランス、米国ノースカロライナ州にありました。この試験には、システム適合性要件の確認および原薬の定量分析が含まれました。すべての分析を、可変波長(TUV)2489 検出器またはフォトダイオードアレイ(PDA)2998 検出器を搭載した Arc HPLC システムで実行しました。各分析は、モノグラフに記載されているように、システム適合性要件を用いて評価するとともに、原薬を分析し、不純物の分析を比較して評価しました。システム適合性基準は、システム適合性溶液の 2 つのクリティカルペアの分離、および標準溶液のピークのテーリング、保持時間の %RSD、面積の %RSD に基づきました。
分析法の性能が多数の変動要因によって確実に影響を受けないために、リスクベースのアプローチを実施しました。このアプローチは以下の複数のステップで構成されます。
リスク評価は、まず分析法をレビューし、その分析法に精通している専門家や科学者から知見を収集することによって行いました。フィッシュボーン図(石川ダイヤグラム、図 1)を用いて、システム適合性や定量測定への適合など、分析法の性能に影響を及ぼす可能性のある変動要因を特定しました。分析法のばらつきの可能性のある原因を、サンプル前処理、材質、分析法のパラメーター、装置の 4 つのカテゴリーに分類しました。各カテゴリーについて、分析法の性能に影響を及ぼす可能性のあるリスクとして特定の特性が特定されました。集めた知識に基づいて、最大のばらつきを引き起こす特性(赤色の円)を特定しました。例えば、カラム温度は、分析法に 45 ℃ までの温度上昇が必要であるため、主要な変動要因として特定されました。酢酸アンモニウムや水酸化アンモニウムなどの材料は、時間の経過とともに濃度が変化し、保持時間のばらつきをもたらす可能性があります。その他の特定された変動要因は、移動相の撹拌と pH 調整、移動相の pH、検出器でした。
ばらつきの主要な原因を特定した後、変動要因を分析法の性能に及ぼす影響についてランク付けまたはスコア付けしました。さらなるリスク評価を、フェイルモード(上記の知見に基づく)およびそれらが分析法の性能に及ぼす影響を特定することによって実施しました。個々のフェイルモードを、影響と可能性についてスコア付けしました。主要なフェイルモードは、これまでの試験に基づいて、溶媒 A のバッファー/アセトニトリル比およびバッファー溶液の pH 調整として特定されました。以前の堅牢性試験で、バッファー/アセトニトリル比は選択性および分離度に影響を及ぼすと判定されていました。この情報に基づいて、フィルターの真空度とバッファー/アセトニトリル比に高い影響度評価が与えられました。フィルター処理での過剰な真空により、有機物の蒸発が発生し、バッファー/有機物比に影響することがあります。分析法ではフィルター処理が行なわれるため、これらの個々のフェイルモードが発生する可能性があり、2 種の溶媒を容積で組み合わせることは、多くの場合メスシリンダーのクラスの影響を受けることがあります。その他の高リスクには、バッファー溶液の pH や温度制御などがあります。
分析法移管試験のばらつきを低減するため、リスク評価の結果に基づいて管理戦略を開発しました。これらには、移管元のラボから移管先のラボへの重要な材料および SOP の提供が含まれました。すべての移管先ラボに同一の試薬キットが送付され、これには標準試料、カラム、原薬が含まれました。標準試料は同一の供給者(USP)から購入し、原薬は同一ロットでした。ただし、2 つの異なるロットのカラムが使用されました。SOP は移管元のラボで作成され、その後マサチューセッツ州 Milford の第 2 施設に送られて、レビュー、コメント、最終承認されました。それぞれのラボで分析者に不慣れな分析法を確実に再現できるように、詳細な SOP を作成しました。指示を確実に包括的で明確なものにするために、Milford の第 2 施設は、ベータ施設として機能し、SOP をレビューしてコメントを加えました。SOP 内には、ラボ間のばらつきを管理するための具体的な指示も導入しました。例えば、ラボ間の温度のばらつきの影響を低減するために、プレヒーターが必要でした。
最後に、各ラボで SOP 内に適用されている解析メソッドを用いて、システム適合性分析を解析しました。ただし、この論文に提示されているデータはすべて、異なる解析メソッドパラメーターによる結果のばらつきを低減するために、移管元のラボで解析しました。
システム構成も分析法の性能に影響することがわかりました。各施設でのシステム構成を管理するために、提供された SOP で特定の構成が要求されました。ただし、部品の入手可能性のために、一部のラボには要求された構成ができませんでした。そのため、移管先のラボでは構成の差異が記録されました。システムの重要な側面には、パッシブプレヒーターの使用や検出器の種類(TUV または PDA)、フローセルの種類、フローセルのパスの長さ、およびカラムアウトレットから検出器インレットまでのチューブの内径が含まれました。表 2 に、各ラボのシステム構成が一覧表示されています。
上記のように、クエチアピンフマル酸塩不純物分析法は、システム適合性分析の実行と、原薬の定量の 2 つのステップで構成されます。システムのシステム適合性要件が満たされた後、原薬を分析しました。多数のラボにわたって、各標準試料/サンプルの比較を行いました。
この情報に基づいて、分析法移管を以下の項目に基づいて評価しました。
システム適合性溶液を使用して、USP 分析法で定義されている 2 つのクリティカルペアの分離を評価しました。最初のクリティカルペアはクエチアピンデスエトキシとクエチアピン(API)、2 番目のクリティカルペアは類縁物質 G と類縁物質 B でした。すべてのラボの結果が図 2 に示されています。図からわかるように、すべてのラボが分離度 1 と分離度 2 の両方に対して、システム適合性溶液の USP 分離度の基準に適合しました。試験が管理された状態にあることを確認するために、得られた分離度の値をコントロールチャートで分析しました。コントロールチャート(図 3)は、値がすべて平均値の 3 標準偏差の範囲内にあり、±3 標準偏差も分析法のシステム適合性要件の範囲内にあることを示しています。
システム適合性試験の第 2 部では、標準溶液のテーリング係数、保持時間の %RSD、面積の %RSD に関する分析が必要でした。すべてのラボで得られた標準溶液のクロマトグラフィー結果(図 4)は、すべてのシステム適合性要件の結果が十分に仕様範囲内であったことを示しています。これらの要件には、テーリング係数 2.0 以下、保持時間の %RSD 5% 以下、面積の %RSD 5% 以下が含まれています。結果をレビューすると、一部のシステムでは面積の %RSD が大きく、USP テーリングおよび保持時間の %RSD は同等でした(図 5)。これらのラボ(2、4、8)のシステムは PDA 検出器で構成されており、他のすべてのラボでは TUV 検出器が使用されました。検出器がこの差違の主要な理由であると判定されました。
すべての装置がシステム適合性要件に適合したら、サンプル溶液または原薬を不純物の有無について分析しました。定量分析により、クエチアピンデスエトキシ(標準試料で確認)および未知の不純物の存在が示されました。保持時間は予想どおりのばらつき範囲である平均値から +/-3 標準偏差の範囲内であり(図 6)、サンプル溶液に含まれるクエチアピンデスエトキシおよび未知不純物の定量結果は、すべてのラボで同等でした。すべての結果は、クエチアピンデスエトキシについては 0.15% 以下、未知の不純物について 0.10% 以下で、許容基準内でした。原薬が有効期限を過ぎていたため、不純物が存在することは驚くことではありませんでした。コントロールチャートを比較すると、定量的な結果が +/-3 標準偏差の範囲内であり、管理された状態であったことが示されています。さらに、管理限界が USP 分析法で指定された限度以下であり、原薬が基準を満たしていることについてより大きな自信が得られました。
クエチアピンフマル酸塩用の USP 不純物分析法が、リスクベースのアプローチを用いて、8 つのグローバルラボの Arc HPLC 装置に正常に移管されました。液体クロマトグラフィーシステムの構成を理解することによって、管理戦略を展開し、より適切に管理する機能を提供し、システム適合性基準に適合する可能性を向上させることができました。さらに、分析法の性能のリスクを理解し、管理戦略を展開することで、再現性が向上しました。このラボ間試験を通じて、Arc HPLC システムで USP モノグラフをグローバルに正常に再現する能力を実証できました。
720007285JA、2021 年 6 月