• アプリケーションノート

錠剤検査アプリケーション向けの薬物のターゲット分析

錠剤検査アプリケーション向けの薬物のターゲット分析

  • Michael Gray
  • Adam Rohde
  • Waters Corporation

法中毒学目的のみに使用してください。

要約

ACQUITY UPLC H-Class および CSH カラムテクノロジーのメリットを活用して、10 種の薬物を分析するための迅速な分析法が開発されました。アンフェタミンや 3,4-メチルジオキシメタンフェタミン(MDMA)を含む 10 種の塩基性薬物がすべて 3 分以内にクロマトグラフィー分離され、合計サイクル時間は 6.3 分でした。この分析法は、ラボおよび現場への導入の両方を目的として開発されたものです。

この分析法に関連するキャリブレーションは、0.005 mg/mL ~ 0.1 mg/mL の範囲で行いました。サンプルは 0.1 mg/mL の濃度で調製しました。10 種の薬物化合物すべてについて検量線の直線性が良好で、決定係数(R2)は 0.997 以上でした。目的のサンプル濃度(0.1 mg/mL)における分析の正確性は優れており、すべての化合物について回収率が 98% ~ 103% の範囲でした。

Empower クロマトグラフィーデータシステム(CDS)を使用して、音楽祭において押収された薬物の定量が可能になりました。ライブラリーマッチングを使用して化合物同定の信頼性を高め、自動ピーク純度計算によって定量の信頼性がさらに高まりました。最後に、ACQUITY QDa 質量検出器を使用して、類似した UV スペクトルを示す化合物の質量検出に大きなメリットがあることを実証しました。

アプリケーションのメリット

  • 10 種の薬物化合物の UPLC での迅速分離
  • 塩基性薬物化合物について優れたピーク対称性
  • シンプルな MS 対応の酸性移動相
  • Empower CDS と高ピーク純度による正確な定量
  • ライブラリーマッチングと質量検出を使用した信頼性の高い同定

はじめに

薬物・錠剤検査は、音楽祭などの場面において、薬物摂取による健康への有害な影響を減少させることを目的とした危害低減対策です1。 錠剤検査は、数十年にわたり世界中のさまざまな法域で実施されています。この検査は、薬物の内容をより適切に依頼者に伝え、健康に関する助言を提供して使用者の行動を変えさせることを目的としています2,3。 音楽祭などの場面での錠剤検査の需要がますます増加しています4,5。 ただし、音楽祭の環境においてこれまでに導入されている錠剤検査法は定性的である場合が多く、薬物の純度などの重要な情報をサービスの依頼者に提供できないという問題も提起されています。

薬物の分析における現在のターゲット LC-PDA 分析法では通常、逆相分離カラムで妥当なピーク形状を得るために、高 pH のピロリジンなどの移動相添加剤に頼っています。しかしながら、この種の分析法を現場に導入するには、大きな安全衛生上の懸念があります。

このアプリケーションノートでは、PDA 質量検出器および ACQUITY QDa 質量検出器を搭載した ACQUITY UPLC H-Class を用いた、10 種の薬物化合物の迅速な分離と定量について紹介します。表面チャージハイブリッド(CSH)カラムテクノロジーを使用することで、一般的で単純な酸性移動相組成を使用しつつ、ピーク対称性や分離の不良の問題を克服しました。移動相 pH が低く保たれるため、エレクトロスプレー効率が最大化し、ACQUITY QDa 質量検出器を有効に使用できます。質量スペクトルデータにより、類似の UV スペクトルを有する化合物の区別を改善するための追加確認情報が得られ、共溶出物を確信を持って同定することができます。Empower ソフトウェアを活用し、ピーク純度、UV スペクトルライブラリー検索、および MS スペクトルライブラリーマッチングを自動化することで、結果に対する信頼性が高まります。 

実験方法

標準溶液の調製

標準品は、国立計測研究所(オーストラリア、ノースライド)または Tasmanian Alkaloids(オーストラリア、ウェストバリー)から入手しました。個々の標準ストック溶液は、濃度 1 mg/mL で 97% 水/3% メタノール中に調製しました。これらを組み合わせて、濃度 0.005 mg/mL ~ 0.1 mg/mL の 6 種の標準混合液を作製しました。

サンプル調製

オーストラリア国立大学の認可を受けて、音楽祭から押収された複数の固体薬物を入手し、成分同定と純度検査を実施しました。各薬物を 1 mg ずつ 97% 水/3% メタノールに溶解し、サンプルを最終濃度 0.1 mg/mL になるように調製しました。次に、サンプル溶液をろ過(0.2 μm)してから分析を行いました。 

分析法

表 1 ~ 4 に適用する分析条件の詳細を示し、表 5 に 10 種の分析種の同定に使用する具体的な条件をまとめています。

LC システム:

ACQUITY UPLC H-Class PLUS

検出:

ACQUITY UPLC フォトダイオードアレイ(PDA)検出器、210 ~ 400 nm、20 ポイント/秒

バイアル:

LCMS 品質証明透明バイアル(製品番号: 600000668CV)

カラム:

ACQUITY UPLC CSH C18、50 × 2.1 mm、1.7 μm(製品番号:186005296)

カラム温度:

40 ℃

サンプル温度:

12 ℃

注入量:

1 μL

流速:

0.5 mL/分

移動相 A:

0.1% ギ酸水溶液

移動相 B:

メタノール

表 1.LC 条件。

表 2.グラジエントテーブル

MS システム:

ACQUITY QDa 質量検出器

イオン化モード:

ESI+

取り込み範囲:

50 ~ 600 Da

キャピラリー電圧:

1

コーン電圧:

10 V

表 3.ACQUITY QDa 質量検出器の設定

クロマトグラフィーソフトウェア:

Empower 3 CDS

MS ソフトウェア:

Empower 3 CDS

インフォマティクス:

Empower 3 CDS

表 4.データ管理

表 5.PDA 検出器および ACQUITY QDa 検出器で得られた成分に関する情報

結果および考察

UPLC-PDA

図 1 に、10 種の薬物の分離を示します。このクロマトグラムでは、わかりやすいようにすべての成分にラベル付けしています。10 種の成分すべてがベースライン分離し、3 分以内に溶出していることが明らかです。

図 1.CSH C18 カラムを使用し、257 nm で検出した 10 種の薬物(0.05 mg/mL)の ACQUITY UPLC H-Class-PDA での分離。

10 種のターゲット薬物の検量線も評価しました。1/x 重み付け線形近似を適用しました。結果は以下の表 6 に記載しており、すべての化合物について決定係数が 0.997 以上の優れた直線性が見られます。検量線の例を図 2 に示します。 

表 6.検量線の決定係数、QC サンプルの平均回収率、および 0.005、0.015、0.05、0.1 mg/mL の 4 回の個別分析における RSD。
図 2.(a)アンフェタミン、(b)MDMA、(c)ヘロインの検量線の例。

4 つの QC 標準品を調製して定量分析における 10 種の成分の回収率を評価しました。ただし、アプリケーションに基づき、各サンプルを 0.1 mg/mL の濃度で調製しているため、定量結果は一般に上限値に近づくと予想されます。表 6 によると、0.1 mg/mL QC 標準試料の 4 回の個別分析における平均回収率は 97.9% ~ 103.1% の範囲であり、定量の正確性が良好であることが分かります。また、これらの測定値の精度は優れており、%RSD は 0.6% ~ 1.4% の範囲でした。低濃度でも、許容範囲内の正確性が得られています。

開発された分析法の性能を評価するために、音楽祭において押収された 11 のサンプルを調査しました。これらは以下の表 7 に示されています。上述した通り、1 ミリグラムの未知サンプルを濃度 0.1 mg/mL になるように調製しました。0.1 mg/mL の測定結果は、塩酸塩として 100%、あるいは対応する遊離塩基として 84% の薬物純度に相当します。音楽祭のサンプルの塩形態は不明であるため、MDMA 含量の割合を以下に遊離塩基として表します。MDMA は、提出されたサンプルのうち 7 サンプルの主成分で、1 サンプルの微量成分であることが確認されました。これには、同じソースまたは場所からの 4 つの個別のサンプルに対応するサンプル 7 ~ 10 と、治療のために救急サービスに来院した依頼者から提供されたサンプル 11 が含まれます。3 つのサンプルは、測定パネル以外の物質で構成されており、FTIR 測定法により、サンプル 3 と 5 は N-エチルブチロン、サンプル 6 は N-エチルペンチロンと同定されました。

表 7.音楽祭サンプルの分析結果。

UV スペクトルマッチングを使用して、成分同定の信頼性を高めました。これにより、ターゲットリスト内の保持時間が類似する成分の誤検出が最小限に抑えられます。図 3 に、サンプルスペクトルと PDA ライブラリースペクトルの比較を示す PDA マッチプロットの例を示します。図 3 の PDA ライブラリーマッチングの結果テーブルに、スペクトルの対照評価の結果を示します。この例では、PDA マッチアングル(0.065)で表されるスペクトル差が、PDA マッチスレッシュホールド(1.088)よりも大幅に小さい値となりました。このことは、サンプルスペクトルがライブラリースペクトルと統計的に同様であることを示しています。

図 3.Empower PDA ライブラリーのマッチング結果およびライブラリースペクトルに対するサンプルスペクトルの PDA マッチプロット。青のトレースはライブラリースペクトル、赤のトレースはサンプルスペクトルを表します。

一部の成分の UV スペクトルがほぼ同一であるため、UV ライブラリーマッチングプロセスにおいて保持時間のフィルタリングが必要になります。例にはアンフェタミンとメタンフェタミンが両方とも含まれています。

また、定量結果の正確性に対する信頼度を高めるために、ピーク純度も採用しました。サンプルピークのピーク純度評価の例を図 4 に示します。ピーク幅全体にわたって純度アングルが純度スレッシュホールドを下回っています。この結果は、確認可能な共溶出がなかったことを示しています。

図 4.Empower PDA ピーク純度の結果テーブルおよびライブラリースペクトルに対するサンプルスペクトルのピーク純度プロット

サンプル 1 と 4 についてのレポート例を図 5 に示します。図 5(a)から、サンプル 1 は MDMA 陽性で、濃度が 0.092 mg/mL(塩酸塩として 92%、遊離塩基として 77%)であることが分かります。保持時間は一致しており、ライブラリーマッチングにより「LIBRARY MATCH ID」列で MDMA と特定され、「MATCHQUALITY」列でマッチの質が「GOOD MATCH」に分類されています。ピーク純度分析では、「PEAKPURITY」列に、MDMA のピークは分光的に純粋で確認可能な共溶出がないと評価されています。

図 5b には 2 番目の例(サンプル 4)が示されており、MDMA が約 0.063 mg/mL(塩酸塩として 63%、遊離塩基として 53%)の濃度で存在することが確認されます。保持時間に基づいてケタミンと提案されていますが、ピークがライブラリーで一致せず、この成分はケタミンではないことが示されました。したがって、この押収薬物は 53% MDMA(遊離塩基)で、かなりの未知成分を含んでいます。2.253 分に現われた未知成分は、ケタミンとは異なる UV モル吸光係数を持つ可能性があるため、定量結果には意味がありません。

図 5.音楽祭における錠剤検査用に提出された未知サンプルのサンプル分析レポートの例。(a)MDMA を含むサンプルおよび(b)MDMA と未知混入物を含むサンプル。

このような情報は、錠剤検査では非常に貴重と考えられます。この薬物測定の依頼者にとって、主要成分である MDMA に加えて、多量の未知物質がサンプルに含まれているというリスクベースの情報が提供されます。 

ACQUITY QDa による同定の信頼性向上

分析に質量検出を追加することで、特にターゲットのリストに含まれる化合物の一部の UV スペクトルが非常に類似している場合に、化合物の区別が大幅に改善します。図 6 では、例として MDA、MDMA、MDEA の UV スペクトルと ACQUITY QDa スペクトルを比較しています。これらの化合物の UV スペクトルはほぼ同一ですが、ACQUITY QDa 質量スペクトルは大きく異なり、分子ごとに固有の質量ベースのフィンガープリントが見られます。スペクトルのこのような明確な違いにより、保持時間と UV スペクトルに加えて、非常に重要な情報が得られます。質量スペクトルのライブラリーマッチングは、UV スペクトルと同様に自動化できます。

図 6.(a)MDA、(b)MDMA、(c)MDEA の UV スペクトルと ACQUITY QDa スペクトルの比較

本研究の注目点からは離れますが、ACQUITY QDa は定量にも使用でき、UV 検出よりも感度と選択性が大幅に向上しています。これにより、分析に必要なサンプル量が少なくて済む可能性があります。

結論

  • PDA および ACQUITY QDa を搭載した ACQUITY UPLC H-Class は、10 種の薬物の迅速なターゲット定量に最適なソリューションであることが実証されました。
  • UPLC のサイクル時間は 6.2 分で、迅速な分析が可能となります。
  • 検量線の直線性は、R2 値 0.997 以上と優れていることが示されました。
  • PDA スペクトルと ACQUITY QDa スペクトルの両方から、成分同定の信頼性を高める追加情報が得られます。
  • ACQUITY QDa を使用することで、費用対効果の高い質量検出を利用して、非常に類似した UV スペクトルを持つ成分を区別することができます。

参考文献

謝辞

本研究に多大な支援をして頂いたオーストラリア国立大学のMalcolm McLeod 准教授、Patrick Yates 氏、Christopher Fitzgerald 氏に感謝いたします。McLeod 准教授は、Pill Testing Australia の科学アドバイザーを務めています。

720007435JA、2021 年 12 月

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