スダンなどのアゾ色素が、香辛料や食品の表面の色の見栄えを良くするために不正かつ違法に使用されています。食品にこれらの有害な色素が含まれていないことを保証するため、信頼性の高い検出方法に基づく堅牢なモニタリングプログラムが必要です。Xevo TQ-S micro MS/MS システムと組み合わせた ACQUITY UPLC I-Class を使用し、スダン色素 7 種類、ローダミン、ジメチルイエロー、パラレッド、オレンジ II などのアゾ色素 11 種類を、クロマトグラフィーの実行時間 14 分で同時定量する方法が開発されました。この分析法では、安定同位体類似体を内部標準試料とし、強有機溶媒を用いる単純な抽出法を用いて、時間のかかるクリーンアップのステップを必要としません。優れた感度が最低濃度(0.125 mg/kg)のマトリックス添加標準試料の分析で証明されたということは、はるかに低濃度の抽出物が検出できること、つまり LC-MS/MS の前に最終抽出物をさらに希釈できることを示しています。平均回収率は 93.8 ~ 115.2% であり、分析法の精度についても、室内併行精度(0.8 ~ 7.7%)および室内再現性(1.6 ~ 7.7%)の両方の試験で、すべての分析種に対して満足な結果が得られました。この分析法の性能はパプリカで実証されており、ヨーロッパなどの食品供給での違法色素の存在のモニタリングに使用されている処置限界を十分に下回る濃度までの、信頼性の高い定量に適していると考えられます。
食品色素は、光、空気、湿気、温度変化にさらされた後の退色を補うために使用する食品添加物であり、自然の色をさらに良くし、無色または別の色の食品に色を付けるために使用されます。スダン色素は、中国、オーストラリア、カナダ、ヨーロッパを含む多くの国で、食品の色素としての使用が承認されていません。たとえば、欧州連合では、色素などのすべての添加剤は、承認を取得し、規制(EC)1333/2008 およびそれ以降の改訂に含まれる使用条件と共に、EU の「ポジティブ」リストに記載されていなければなりません1。食品中に工業用色素が存在すると、それらは不純物の添加となります。その理由は、これらの物質が食品の色素として承認されておらず、食品からそれらを摂取することが健康に対するリスクと認識されているためです。アゾ色素は、香辛料や食品の表面の色の見栄えを良くするために不正かつ違法に使用されています2。 2005 年の英国での汚染された製品のリコール費用総額は、売上の喪失、製品の破壊、ブランドイメージの毀損、管理時間、コンサルティング料金を含めて 2 億ユーロを超えると推定されています。
この 10 年間に、スダン色素の存在に関する報告件数が大幅に減少したのは、おそらく香辛料中にあるこれらの化合物に対するモニタリングが増えたためです。それにもかかわらず、このような不純物の添加に対する懸念が、世界中のさまざまな地域の消費者、食品産業、規制機関に引き続き存在しています。欧州の食品メーカー、流通業者、小売業者は、取り扱っている製品が EU の規制に準拠していることを保証し、その業務の適性評価を実施する義務があります。食品に有害な色素が含まれていないことを保証するには、信頼性の高い検出方法に基づく堅牢なモニタリングプログラムが必要です。食品および飲料中の色素の測定については、文献にさまざまな分析法が報告されています3。分析法は、頻繁に検出され、あらゆる必須の輸入検査に含まれている色素(RASFF など)をカバーする必要があります。これらの色素は、EFSA の科学パネルが健康へのリスクと見なしており、産業インテリジェンスに基づきます。これらの色素はすべて LC-MS/MS で分析できますが、1 回の分析では分析できず、極性が非常に高い色素は除外される傾向があります。色素は幅広い食品の原料および最終製品中に検出されていますが、通常、香辛料(乾燥チリ、チリ製品、カレー粉など)やパーム油が最優先され、それらについての正規の管理水準が高くなっています。これらの化合物は禁止されているため、最大許容限度はありません。現実的な対応として、例えば偶発的な混入のように、混入物が検出されても措置を取らない最大濃度が設定される傾向があります。フードチェーン・動物衛生に関する常任委員会(SCoFCAH)は、2006 年 6 月 23 日にブリュッセルで開催された会議で、欧州全域でのアプローチを一貫させるため、香辛料やパーム油などの食品成分中の違法色素に 0.5 mg/kg の処置限界を適用することを決定しました4。その後、ベルギーの FASFC(連邦フードチェーン安全庁)など、各加盟国の管轄当局がこれを採用しました。
液体クロマトグラフィーをタンデム質量分(LC-MS/MS)と組み合わせることで、優れた選択性と高い感度が実現し、食品の微量分析に幅広く使用されています。 ここでは、強有機溶媒を用いて 11 種類の色素を抽出した後、UPLC-MS/MS を使用し、内部標準試料として安定同位体類似体を使用して、時間のかかるクリーンアップ手順を行わずにパプリカ中の違法色素の測定が行える、簡単なアプローチの適用について示します。
内部標準試料(スダン I-D5、スダン IV-D6)の添加後、アセトニトリルと振盪することによって、パプリカの色素を抽出しました(図 1)。濃度 0.125 mg/kg、0.25 mg/kg、0.5 mg/kg、1.0 mg/kg、2.0 mg/kg、3.0 mg/kg のマトリックス添加標準試料を、以前にブランク試料であることが示されているパプリカ抽出液中に調製しました。
システム: |
ACQUITY UPLC I-Class(FTN サンプルマネージャー) |
カラム: |
ACQUITY UPLC BEH C18、2.1 × 100 mm、1.7 µm(製品番号 186002352) |
カラム温度: |
40 ℃ |
サンプル温度: |
20 ℃ |
注入パラメーター: |
2.5 µL |
移動相: |
(A)0.1% ギ酸 + 5mM HCOONH4 水溶液 (B)0.1% ギ酸含有メタノール |
サンプルマネージャー洗浄溶媒: |
0.2% ギ酸含有水/メタノール/イソプロパノール/アセトニトリル(25/25/25/25) |
MS システム: |
Xevo TQ-S micro |
極性: |
ES+ |
キャピラリー電圧(kV): |
1.0 |
ソース温度(℃): |
150 ℃ |
脱溶媒温度(℃): |
650 ℃ |
脱溶媒ガス流量(L/時間): |
1100 L/時間 |
コーンガス流量(L/時間): |
50 L/時間 |
化合物ごとに 2 つの MRM トランジションを使用しました。最適なデュエルタイムは、各ピークにわたって最低 12 データポイントになるように、AutoDwell 機能を使用して自動的に設定されました。データは、MassLynx ソフトウェアを使用して取り込み、TargetLynx XS アプリケーションマネージャーを使用して解析しました。表 1 に、MRM トランジションと実際のデュエルタイムの設定がまとめられています。定量トレースは太字で示されています。
2002/657/EC ガイドライン5 に基づいてスパイクしたブランクサンプルを使用してバリデーションを行いました。SANTE/12682/20196 とは異なり、これには複数日にわたる測定が含まれているためです。次記のパラメーターを評価しました:同定、選択性、直線性、真度、室内併行精度(RSDr)、室内再現性(RSDRL)。分析法の選択性は、すべての分析種および内部標準試料の標準溶液を個別に注入し、パプリカの試験を通じて、分析種の保持時間付近で溶出する干渉物質の有無を確認することによって調査しました。曲線の直線性および個々の残差を確認しました。真度、RSDr、RSDRL は、同じ試験者が 3 日間に分けて実施した繰り返しスパイクサンプルから得たデータから導出しました。これらの化合物にはヨーロッパでは最大許容限度がないため、処置限界 0.5 mg/kg の 0.5 倍、1 倍、4 倍で評価しました。同定は、保持時間とイオン比を調べて評価しました。
ACQUITY UPLC BEH C18 カラムにより、すべての分析種について優れた保持とピーク形状が得られ、同重体化合物である保持時間 9.82 分のーダンレッド B と、保持時間 9.98 分のスダン IV がベースライン分離されました(図 2)。グラジエントは、比較的極性の高い化合物であるローダミン、オレンジ II、スダンオレンジ G、ジメチルイエロー、パラレッドに焦点を合わせるために、有機溶媒 B 25% から始めて 70% B まで急勾配で上げ、続いて B 95% まで緩いグラジエントで他の色素を溶出させました。合計分析時間は 14 分です。
マトリックス添加標準試料の分析から、感度が良好であることが実証されました。図 2 に、色素についての最低濃度(0.125 mg/kg)のマトリックス添加標準試料分析の典型的なクロマトグラムが示されています。これにより、抽出物中にはるかに低濃度で検出できること、つまり LC-MS/MS の前に最終抽出物をさらに希釈できることが示されています。
3 日間それぞれの日にサンプル 7 つを調製し、分析しました。適合しないサンプルの偽陽性の報告をもたらす可能性のある抽出物では、シグナルは検出されませんでした。パプリカで微量レベル(最低キャリブレーション試薬の 0.5% 未満)のローダミンが検出されました。マトリックス抽出物を毎日調製し、6 ポイントの検量線を取り込みました。1/x 重み付け線形回帰を、ローダミンを除くすべての化合物に適用しました。ローダミンには 1/x 重み付け二次回帰を適用しました。マトリックスバリデーション曲線からの相関係数(R2)の値はすべて 0.996 を超え、個々の残差は 20% 未満(ほとんどが 10% 未満)であり、すべての色素の定量の信頼性が高いことが示されました。典型的な検量線の一部の例を図 3 に示します。
回収率の測定値として表される真度を、3 日間にわたるスパイクサンプルの分析で得たデータを用いて評価しました。3 日間にわたって調製して分析した 3 濃度の 7 つのスパイクサンプルの各セットの平均回収率は 93.8 ~ 115.2% の範囲内であり、2002/657/EC ドキュメントに記載されている基準を満たしました。この分析法の精度も、RSDr(0.8% ~ 7.7%)および RSDRL(1.6% ~ 7.7%)の試験の両方で、すべての化合物について満足できるものでした。真度と精度は図 4、5、および表 2 に示されています。
このアプリケーションノートでは、Xevo TQ-S micro MS/MS システムと組み合わせた ACQUITY UPLC I-Class を使用し、スダン色素 7 種、ローダミン、ジメチルイエロー、パラレッド、オレンジ II を含むアゾ色素 11 種類を、同時に測定する簡単な方法を説明しました。 この分析法の性能はパプリカで実証されており、食品供給での違法色素の存在のモニタリングに使用されている処置限界を十分に下回る濃度までの、信頼性の高い定量に適していると考えられます。
720007138JA、2021 年 1 月