液体クロマトグラフィーにおいては、カラムコンパートメントの温度調節および移動相プレヒーティングのメカニズムを理解し、クロマトグラフィー分離に及ぼす影響を理解することが重要です。このアプリケーションノートでは、カラムコンパートメント設計の違いが、LC 装置ベンダー各社でのクリティカルペアの温度感受性化合物の分離能と選択性に及ぼす影響について説明します。分析法開発および分析法移管の際の、カラムコンパートメント温度調節の設計および移動相プレヒーティングに関する一般的な考慮事項についても記載しています。
分離温度は、保持時間、選択性、ピーク形状に影響を及ぼす可能性があるため、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)において重要な役割を果たします。温度は LC 分析法の開発時および移管時に管理すべき重要な要素の 1 つですが、多くの場合、カラム温度調節および移動相プレヒーティング、およびそれらがクロマトグラフィーに及ぼす影響についての理解が不完全なままになっています。
今日の分析装置市場では、ほとんどの LC システムに、専用のカラムコンパートメントまたはさまざまなタイプのカラムコンパートメントの選択肢が提供されています。一般的に、カラムコンパートメントにはブロックヒータータイプと空気循環タイプの 2 種類があります1,2。 温度調節機構の違いにより、熱伝導効率、温度平衡、およびカラム内の温度勾配の生成に違いが生じる可能性があります。ほとんどの LC ベンダーは、十分な移動相のプレヒーティングを行うために、溶媒をカラムに導入する前に、設定した分析法の温度まで移動相を加熱するプレヒーターを提供しています。移動相プレヒーティングはパッシブの場合もアクティブの場合もあります。パッシブプレヒーターは、カラムコンパートメント内の温度制御された表面に直接固体接触する、指定長さのキャピラリーです。アクティブプレヒーターは、内部ヒーターエレメントを使用して溶離液の温度をアクティブに制御します。これらの変数はすべて、温度感受性の分離の移管性に影響を及ぼす可能性があります。
この点を説明するために、ACQUITY Arc および ACQUITY Arc Bio ファミリーのカラムコンパートメントの新しい拡張形である ACQUITY カラムマネージャ(CMA)で構成した ACQUITY Arc システムで、温度感受性の高い分離を実施しました3。 また、カラム温度調節とプレヒーターの設計が異なるさまざまなベンダーの LC システムでも同じ実験を行いました。LC での分離に影響を及ぼす可能性のある装置パラメーターは多くありますが、このアプリケーションノートでは、カラムコンパートメント特性および移動相のプレヒーティングの影響に焦点を当てます。
Waters 鎮痛剤混合物標準品(製品番号 186006350)を 90% 水/10% アセトニトリルに添加し、濃度が 50 μg/mL になるように調製しました。
LC 条件 |
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LC システム: |
CMA 付きACQUITY Arc |
カラム温度: |
35 ℃、40 ℃、45 ℃、50 ℃、55 ℃、60 ℃ |
各温度での平衡化時間: |
30 分 |
アクティブプレヒーター: |
プレヒーティングあり – プレヒーティング有効 プレヒーティングなし – プレヒーティング無効 |
検出: |
2998 フォトダイオードアレイ(PDA)検出器 |
波長: |
245 nm |
カラム: |
XBridge BEH C18 カラム、130 Å、3.5 µm、4.6 mm × 150 mm(製品番号:186003034) |
注入量: |
5 µL |
流速: |
1 mL/ 分 |
移動相 A: |
0.1% ギ酸水溶液 |
移動相 B: |
0.1% ギ酸アセトニトリル溶液 |
グラジエント: |
15 ~ 30% B/7 分 |
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower FR3 |
以前の研究により、鎮痛剤混合物の分離は温度感受性であることが分かっています4。図 1 では、CMA で構成した ACQUITY Arc システムで、設定したカラムコンパートメント温度での鎮痛剤混合物の分離を、アクティブプレヒーターを有効または無効にした場合で比較しています。このサンプル混合物では、成分 6(フェナセチン)および成分 7(サリチル酸)が、分離能と選択性において温度の影響を強く受けるクリティカルペアとなっています。このペアをプローブとして使用し、カラムコンパートメントの温度調節およびプレヒーティングが LC 分離に及ぼす影響を試験しました。
図 1 に示すように、移動相のプレヒーティングありの場合となしの場合で、クリティカルペアの選択性と分離能に非常に大きな違いが認められました(カラムコンパートメントは図 1 に示す温度に設定しました)。一般的な傾向として、プレヒーティングなしの高温での分離プロファイル(図 1B の 45 ℃ を参照)は、プレヒーティングありの低温での分離プロファイルと類似していました(図 1A の 35 ℃ を参照)。プレヒーティングなしでは、カラムに入る移動相がカラムオーブンの設定温度に完全に平衡化されていないため、カラムコンパートメントの設定温度より低い温度で分離が行われます。すべての鎮痛剤混合物のピークが、温度の上昇とともに短い保持時間にシフトしていますが、プレヒーティングありでの保持時間シフトの程度の方が、プレヒーティングなしの保持時間シフトよりも大きくなっています。
図 2 に、アクティブプレヒーターが有効(プレヒーティングあり)およびアクティブプレヒーターが無効(プレヒーティングなし)の状態で、温度によって変化するピーク 6 の保持時間を示します。プレヒーターが有効の場合、温度による保持時間の変化の勾配は、プレヒーティングなしの場合の勾配よりも大きくなっています。これにより、プレヒーティングなしよりもプレヒーティングありの方が、分析カラムの移動相が設定温度に速く到達したことが示されています。プレヒーターを無効にすると、カラム壁とカラム内の移動相の流れの温度が一致せず、カラム内で温度勾配が生じる可能性があります。
溶媒プレヒーティングに加え、カラム温度調節の設計も分離に影響を及ぼす可能性があります。この試験では、異なるタイプのカラムコンパートメント温度調節機構を備えた 4 つの UHPLC システムを選択しました(表 1)。そのうち、ACQUITY Arc システム(アクティブプレヒーター付き)とベンダー X(パッシブプレヒーター付き)はブロックヒータータイプです。ベンダー Y(パッシブプレヒーター付き)およびベンダー Z(プレヒーターなし)は空気循環タイプです。一般に、ブロックヒータータイプの場合、カラムは熱源に直接接触するため、効率的でリアルタイムにカラム壁が加熱されます。空気循環タイプは空気浴の概念に基づいています。金属と比較して空気は熱伝導が悪いため、空気浴は、リアルタイムでカラム温度を制御する効果は低くなります。ただし、空気循環タイプのカラムコンパートメント内の空気を循環させると、カラムの加熱が効果的になります2。
ACQUITY Arc システムとベンダー X(いずれも同様の U 型設計のブロックヒーターを備えているタイプ)では、クリティカルペアについて、それぞれプレヒーティングあり(図 3A)とプレヒーティングなし(図 3B)で、同様の選択性と分離能が得られました。プレヒーターのタイプ(アクティブとパッシブの違い)によって、クリティカルペアの分離プロファイルに大きな影響はありませんでした。
一方、移動相をプレヒーティングしない場合、ブロックヒータータイプでのクリティカルペアの選択性と分離能(図 4A、ACQUITY Arc およびベンダー X)は、空気循環タイプの場合(図 4B、ベンダー Y およびベンダー Z)と大きく異なっていました。ブロックヒータータイプでは、高温でのクリティカルペアの分離プロファイル(図 4A、45 ℃ を参照)は、空気循環タイプでの低温での分離と類似しています(図 4B、35 ℃ を参照)。
ただし、移動相をプレヒーティングした場合、クリティカルペアの分離プロファイルは、ブロックヒータータイプ(ACQUITY Arc システム)と空気循環タイプ(ベンダー Y)で同様の挙動を示しました(図 5)。この観察結果は、移動相をプレヒーティングすることで、異なる温度調節設計によるカラム内の温度平衡化の違いを最低限に抑えることができることを示しています。
このアプリケーションノートでは、CMA 付きの ACQUITY Arc システムおよびさまざまなベンダーの異なる温度調節設計を持つ LC システムで、温度感受性の高い分離の試験を実施しました。本研究により、温度調節のタイプや移動相プレヒーティングを含むカラムコンパートメントの特性が、温度感受性の分離に大きく影響することが示されました。異なる LC システム間で分析法を開発または移管する場合の一般的な考慮事項は次のとおりです。
720007137JA、2021 年 2 月