Arc HPLC システムおよび示差屈折率検出器を使用した糖アルコールとアルロースの分析
要約
砂糖(ショ糖)の過剰摂取は、肥満、糖尿病、歯科疾患、ADHD(注意欠陥多動性障害)など、多くの健康上の問題につながる可能性があります。このような問題を減らすため、食品・飲料の製造者の多くは、消化後のグリセミック指数やカロリーが砂糖よりも低い単糖類フルクトースのエピマーである糖アルコール(ポリオール)やアルロースなどの代替糖を配合した新製品を開発しています。糖アルコールの 1 日摂取量は規定されていませんが、糖アルコールの一部ではその過剰摂取により下痢などを招く可能性があるため、食品や医薬品に含まれる糖アルコールやアルロースの値を把握し、過剰摂取を防ぐことが重要になります。飲料やその他の低カロリー製品に含まれる糖アルコールとアルロースを検出および定量するための分析法が開発されました。Arc HPLC-RI に Atlantis Premier BEH Z-HILIC 分析カラムを組み合わせて使用することで、極性分析種の保持が増強し、他の親水性相互作用液体クロマトグラフィー(HILIC)ケミストリーとは異なる選択性が得られます。ここで提案する分析ワークフローは、無糖製品または低糖製品における糖アルコールとアルロースの分析が標準化される点で、製造者や受託分析機関に適しているかも知れません。
アプリケーションのメリット
- 複数の甘味料を混合した製品に対する効率の良い Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラムを使用した 7 種の糖アルコールとアルロースの保持および分離
- シンプルなアイソクラティック液体クロマトグラフィー(LC)分析法で、ルーチンの製品品質管理に適した簡単な分析法セットアップを実現
- Arc HPLC サイクルインジェクターバルブにより、サンプルの沈殿によるダウンタイムおよび分析法のリスクを低減
- 紫外・可視光を吸収しない成分の RI 検出
- Arc HPLC-RI 検出器および Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラムにより、優れた再現性、正確度、精度を実現
はじめに
糖アルコール(ポリオール)は、アルデヒド基やケトン基が還元されてアルコールに転換した炭水化物に由来します1。 糖アルコールは甘味料で、通常の砂糖よりも低カロリーです。糖アルコールは、リンゴ、バナナ、桃、梨、アプリコット、オレンジなどの果物に天然に存在し、また焼き菓子や飲料に添加されています。糖アルコールの 1 日の摂取量は規定されていません。一方、糖アルコールの過剰摂取は、下痢の原因となり、血糖値を乱す場合があります。そのため、様々な食品に含まれる糖アルコールの数について、消費者に正確な情報を提示する必要があります2,3。 食品製造者は、消費者の砂糖の摂取を減らし、肥満レベル低減を支援するため、一部の低カロリー製品に糖アルコールやアルロースなどの代替糖を導入しています。
アルロースは、単糖のフルクトースのエピマーであり、食品・飲料製造者が低カロリー甘味料として使用しています4。アルロースは小麦、干しブドウ、イチジク、糖蜜に少量含まれます。アルロースを代替糖として使用することについて、米国食品医薬品局(FDA)は、3 回の Generally Recognized as Safe(一般に安全とみなされる、GRAS)通知に異議なしと返答しています。2020 年、FDA は、栄養補助食品の成分表示におけるアルロースおよびカロリー情報の表示についてガイダンスを提示しました5。欧州連合(EU)または英国(UK)では、アルロースは代替糖としての使用が承認されていません。アルロースは新規食品として分類されており、欧州食品安全機関(EFSA)および英国食品安全機関(UKFSA)による販売認可および安全性レビューが必要です6。
糖アルコールやアルロースには発色団がなく、示差屈折率(RI)、エバポレイト光散乱(ELS)、質量分析(MS)などの検出器で測定します。このアプリケーションノートでは、様々な低カロリー製品に含まれる糖アルコールとアルロースの定量を行うための分析法の一例について、その概要を示します。分離は、Arc HPLC-RI に Atlantis Premier BEH Z-HILIC 分析カラムを組み合わせて実施しました。
実験方法
材料と試薬
標準品およびバッファー塩。
糖アルコール(エリスリトール、グリセロール、マルチトール、マンニトール、キシリトール、ソルビトール)は Sigma-Aldrich から入手し、アルロース(プシコース)は Fisher Scientific から入手しました。
試薬
アセトニトリルは Honeywell Research Chemicals から入手しました。
ターゲットの甘味料を含む製品は、最寄りの小売店およびオンラインショップで購入しました。
サンプル前処理
標準試料の調製:
糖アルコールとアルロースの標準は、水中に濃度 100 mg/mL になるように調製し、4 ℃ で保管しました。糖アルコールとアルロースの混合標準は、アセトニトリル:水 50:50 中に 5 mg/mL になるように調製しました。検量線の範囲は 0.16 ~ 5 mg/mL でした。
サンプル製品:
ガム、子供用風邪薬、アルロースの粉末飲料をそれぞれ 3 回繰り返しで計量し(1 g)、20 mL の水に溶解しました。100 µL の溶液を 400 µL の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)水で希釈し、ボルテックスして 500 µL のアセトニトリルを添加しました。
飲料は 0.2 μm PVDF シリンジフィルターでろ過しました。100 µL のサンプルを 400 µL の水で希釈し、ボルテックスして 500 µL のアセトニトリルをサンプルに添加しました。5 µL を注入しました。
LC 条件
LC システム: |
Arc HPLC システム |
検出: |
RI 2414 (サンプリングレート:10 ポイント/秒) |
バイアル: |
LCGC 品質証明透明ガラス、マキシマムリカバリー、キャップおよびプレスリット PTFE/シリコーンセプタム付き、1.5 mL(製品番号:186000327C) |
フィルター: |
シリンジフィルター 0.2 µm PVDF(製品番号:WAT200806) |
カラム: |
Atlantis Premier BEH Z-HILIC、4.6 × 150 mm、2.5 µm(製品番号 186009994) |
カラム温度: |
55 ℃ |
サンプル温度: |
25 ℃ |
検出器温度: |
55 ℃ |
注入量: |
5 µL |
流速: |
0.3 mL/分 |
移動相: |
アセトニトリル:水 75:25 |
サンプル希釈液: |
アセトニトリル:水 50:50 |
シール洗浄溶媒: |
アセトニトリル:水 5:95 |
ニードル洗浄液: |
アセトニトリル:水 5:95 |
パージ溶媒: |
アセトニトリル:水 50:50 |
データ管理
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower 3 クロマトグラフィーデータソフトウェア(CDS) |
結果および考察
Arc HPLC および 2414 示差屈折率(RI)検出器を使用して、糖アルコールとアルロースの分析を実施しました。RI 検出にはアイソクラティック溶媒移動相が必要となります。このことにより、糖アルコールとアルロースを単一の方法で分離することが困難になる場合があります。使用した Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラムでは、極性の高い化合物の分析種保持が強くなります。これにより、他の HILIC カラム固定相とは異なる選択性が得られ、エリスリトール、アルロース、ソルビトール、マンニトールの分離が可能になりました。このカラムでは、優れた糖アルコールとアルロースのピーク形状と分離が得られました(図 1)。Empower 3 クロマトグラフィーデータソフトウェアを使用して、装置のコントロール、取り込み、データ解析を行いました。図 2 に糖アルコールとアルロースの分析ワークフローを示します。
検量線:直線性、面積の精度、および保持時間
糖アルコールとアルロースのマルチポイント検量線を、50:50 アセトニトリル:水中での連続希釈により作成しました。検量線は 0.16 ~ 5 mg/mL で作成され、良好な直線性(R2 > 0.998)を示しました。糖アルコールとアルロースの検量線を図 3 に示します。
糖アルコールとアルロースのピーク間測定に基づくシグナル対ノイズ比(s/n)を用いて、検出限界(LOD、3:1)と定量限界(LOQ、10:1)を Empower ソフトウェアで計算しました。表 1 に、糖アルコールとアルロースの LOD および LOQ のまとめを示します。
分析法の頑健性
カラム性能および圧力トレース
移動相中に高濃度のアセトニトリルを使用してサンプルを分析しました。これにより、インジェクターバルブで溶解性やサンプル沈殿の問題が発生し、全体的なシステム圧力が上昇する場合があります。Arc HPLC のサンプルマネージャー(SM FTN-R)にはサイクルインジェクターバルブがあり、これを分析法に含めることで、複雑なマトリックスサンプルでの詰まりやキャリーオーバーの問題を防止できます。カラムの圧力トレースを、150 回目の注入についてモニターしました。図 4A および 4B に示すように、圧力トレースの間に大きな変化は見られませんでした(10 psi 未満)。
カラムでの保持時間の再現性を 150 回の注入についてモニターし、1 回目の 5 mg/mL 標準の注入を、間にマトリックスサンプルを組み入れて、最後の 5 mg/mL 標準の注入と重ね描きしました(図 5A)。図 5B に、小児用医薬品サンプルの 3 回の注入の前後に注入したブランク注入のクロマトグラムを示します。これらのサンプルからキャリーオーバーは認められませんでした。
糖アルコールとアルロースを含む製品の分析:
糖アルコールとアルロースを含む製品の分析から得られた定量結果を表 2 に示します。
フルーツ栄養ドリンク P のサンプル中に、19.7 g のエリスリトールが検出されました。ラベル表示は糖質合計 18 g、砂糖 2 g で、エリスリトールの値はありませんでした。
ガム錠中に検出された糖アルコール 1.7 g は、含まれているキシリトール、マンニトール、マルチトールの合計であり、ラベル表示では 1 個に計 2 g の糖アルコールが含まれるとなっていました。
子供用医薬品には、サンプル 1 g につき 0.22 g のグリセロールおよびソルビトールが検出されました。
アルロース粉末飲料では、サンプル 1 g あたり 0.84 g のアルロースが検出されました。
糖アルコール・アルロース製品の分析の代表的なクロマトグラムを図 6 に示します。
結論
- Waters Arc HPLC-RI システムを Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラムと組み合わせることで、糖アルコールとアルロースの分離が可能になりました。
- RI 検出による単純なアイソクラティックメソッドを使用して、糖アルコールとアルロースが分離されました。
- Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラムにより、極性分析種の保持が増強し、他の HILIC ケミストリーとは異なる選択性が得られます。
- この分析ワークフローは、食品および飲料中の糖アルコールとアルロースの分析が標準化される点で、製造者を支援できます。
参考文献
- Wolever Th, A. Piekarz, M. Hollands, K. Younker, Rapaille.A, Goosens.J, etc.2002. Sugar Alcohols and Diabetes: A Review.Canadian Journal of Diabetes.26(4): 356–362.
- Rapaille.A, Goosens.J, & Heume.M. (2016) Sugar alcohols.Encyclopedia of Food and Health, 211–216.
- Ruskone-Fourmestraux.A, Attar.A, Chassard.D, Coffin.B, Bornet.F, Bouhnik.Y. (2003) A Digestive Tolerance Study of Maltitol after Occasional and Regular Consumption in Healthy Humans.European Journal of Clinical Nutrition, 57, 26–30.
- Akram Hossain; Fuminori Yamaguchi; Tatsuhiro Matsuo; Ikuko Tsukamoto; Yukiyasu Toyoda; Masahiro Ogawa; Yasuo Nagata; Masaaki Tokuda.(November 2015) "Rare Sugar d-allulose: Potential Role and Therapeutic Monitoring in Maintaining Obesity and Type 2 Diabetes Mellitus".Pharmacology & Therapeutics.155: 49–59.
- U.S. FDA (2020) Guidance for Industry: The Declaration of Allulose and Calories from Allulose on Nutrition and Supplement Facts Labels.https://www.fda.gov/regulatory-information/search-fda-guidance-documents/guidance-industry-declaration-allulose-and-calories-allulose-nutrition-and-supplement-facts-labels.
- Southey, F. (2021) Allulose approval in Europe to be sought by New Ingredients Consortium.Food Navigator.https://www.foodnavigator.com/Article/2021/12/07/Allulose-approval-in-Europe-to-be-sought-by-new-ingredients-consortium.
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720007499JA、2022 年 1 月