• アプリケーションノート

グラフトポリマーの包括的な 2 次元分析

グラフトポリマーの包括的な 2 次元分析

  • Claudia Lohmann
  • Wolfgang Radke
  • Waters Corporation
  • PSS Polymer Standards Service GmbH

要約

同じ出発物質に由来する 2 つのグラフトコポリマーサンプルでも、特に異なる条件で重合された場合は、類似しているとは限りません。構造的な差異には、側鎖や主鎖の長さの違いや、さまざまな分子間の側鎖の分布が含まれることがあります。フラクションの流体力学的体積が十分に異なる場合、サイズに基づく分離手法を使用して分析種フラクションを分離できます。ただし、ポリマーの構造が異なっていても、流体力学的サイズが同じであるために共溶出する場合があります。2 次元(2D)分析アプローチを使用して、サイズに基づく分離に化学に基づく分離を追加することにより、共溶出するフラクションを分離できます。 

アプリケーションのメリット

グラフトポリマーは、WinGPC ソフトウェアを使用して包括的 2D 分析によって分析し、データを取り込みおよび解析することができます。

はじめに

サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)は、単純なポリマーの分析に適した分析ツールです。これにより、バッチ間の比較や単純なスクリーニングが可能になります。共溶出が発生しない場合、信頼性の高い分子量(MW)データを取得できます。2 つの化合物の流体力学的体積が同一である場合、SEC の分離原理(流体力学的体積による分離)に基づいて共溶出が発生します。多くの場合、マルチカラムバンクを使用してクロマトグラフィーの分離能を高めても、この問題は解決されません。ただし、化学的などの別の構造的特徴に基づく別の次元の分離を追加することで、最終的に共溶出に対処できます。繰り返し単位、官能基、および/または分岐部位と充塡剤表面との相互作用を可能にすることで、その親和性の違いに基づく化学による分離を達成できます。グラジエントにより移動相組成を変化させ、相互作用強度を調整することによって、サンプルの成分が順次溶出します。

これらの両次元を組み合わせることで、分解能を大幅に向上させることができます。このような組み合わせにより、さまざまな鎖長、複数の官能基、さまざまなグラフト密度、さまざまなブロック長を持つ複雑なポリマーに対する優れた分離ツールが実現します。これらの構造的ポリマーや機能的ポリマーはすべて、分子量だけでなく、末端基、機能性、化学組成、トポロジーなどに関して不均質な可能性があり、もはや単純なポリマーとは見なされません。さらに、いずれかの次元の単一モードで収集した情報では、複雑なポリマーサンプルの組成は十分に説明されません。

2D 分離アプローチの最初の次元にグラジエント分離を使用することは、サンプルのロードに便利です。2 番目の次元で移送されて分離されるフラクションの分析種濃度が低すぎて検出できないことがないように、サンプルロードを多くする必要があります。MW 情報が必要な場合は、分子量レファレンス物質を使用して、2 番目の次元(SEC)をキャリブレーションできます。

装置の観点から、上記に概説されている 2 つの個別の分離次元は、2 つのサンプルループが含まれている 8 ポートバルブによって接続されています。ソフトウェアにより、両方のループの間でのバルブの交互の切り替えがコントロールされます。最初のループが最初の次元のカラムからの溶出液で満たされると、バルブが切り替わります。すると、2 番目の次元のポンプによって、最初のループの中身が 2 番目の次元のカラムにフラッシュされます。一方、最初のループの中身はサイズで分離されます。1 つのループを満たすのにかかる時間は、2 番目の次元の分析の実行時間と一致する必要があります。2 番目のループは最初の次元のカラムからの溶出液で満たされます。包括的 2D クロマトグラフィーでは、最初の次元で注入されたサンプル全量が 2 番目の次元で分析され、最終的に検出器を通過します。図 1 には、ACQUITY™ アドバンスドポリマークロマトグラフィーシステムコンポーネントを例として使用した、最初の次元用のクオータナリーソルベントマネージャーのスタック、および 2 番目の次元用のアイソクラティックソルベントマネージャーのスタックを特徴とする一般的装置のセットアップが示されています。

図 1.  2D アプリケーション用装置セットアップ

図 2 に、Polymer Standards Services(PSS)の WinGPC のスクリーンショットが示されています。バルブが 1 つのループから別のループに切り替わるたびに「注入」と見なされ、「サンプル」とマークされます(図 2 の下の部分にある灰色の縦線)。

2 番目の次元に入る最初の次元からの分離されたフラクションはすべて、波形解析されます。WinGPC の「クイック分析」機能により、これは簡単に自動化できます。2 次元目のクロマトグラムが波形解析されると、ソフトウェアにより、すべての波形解析された 2 番目の次元のサブフラクションが結合されて 2 次元クロマトグラムが作成されます。このように、数回のクリックで、生データが多色の等高線図に変換されます(図 5 および 6 に表示)。 

図 2.  PSS WinGPC の個々の注入のメソッド画面(左上)、生データ画面(下段)、エルグラム画面(右上)

このアプリケーションブリーフでは、2 種類のグラフトポリマーの分離に焦点を合わせて説明しています。主鎖はポリメタクリル酸メチル(PMMA)とポリスチレン(PS)の側鎖で構成されています。両方のグラフトポリマーは、異なる条件下ですが、同じ PMMA およびポリスチレンの原材料を同一量用いた合成に由来します。

結果および考察

予備のステップとして、分析種を両方の次元で個別に分析しました。図 3 に、グラジエント分析で得られた ELSD トレースの重ね描きが示されています。クロマトグラムには、両方のグラフトコポリマー、サンプル a(赤色のトレース)、サンプル b(青色のトレース)での複数のピークが示されています。全体組成が同じでありながらも、両方のグラフトポリマーとも異なる成分で構成されており、ベースライン分離された一部のピークが含まれているように見えます。 

図 3.  化学に基づくグラジエント分析のサンプル a(赤色トレース)およびサンプル b(青色トレース)の ELSD トレースの重ね描き

図 4 に、両方のグラフトポリマーの単一次元のサイズに基づく分離(SEC)で得られたクロマトグラムが示されています。SEC トレースの重ね描きに、合計 3 つの明確な、全体としてベースライン分離されていないピークが示されています。合成条件が異なることがわかっており、反応していない側鎖や主鎖が存在する可能性があります。トレースの重ね描きからわかるように、分離されたフラクションの量はさまざまであり、グラフトポリマーサンプルのプロダクト組成はさまざまです。1 つの次元モードで実行したどちらの手法でも、これらのポリマーを自信を持って特性解析するのに十分な情報は得られません。

図 4.  グラフトポリマーサンプル a(赤色トレース)および b(青色トレース)のサイズに基づく分離の RI クロマトグラム

次のステップでは、個々の分離(化学に基づくおよびサイズに基づく)を組み合わせて単一の 2 次元(つまり 2D)分析にし、追加情報を取得しました。図 5 および図 6 に、グラフトポリマー a および b の等高線プロットが示されています。図 5 のポリマーサンプル a には 3 つのメインピークが示されています。最上部の溶出したフラクション(約 7 mL、Y 軸)は、グラフト化されていない主鎖(つまり純粋な PMMA)に対応します。左下隅のフラクションは、ターゲットポリマーつまりグラフトポリマーです。グラフトポリマーフラクションのすぐ隣に、未反応側鎖で構成された別個のフラクションがあります。これら 2 つのフラクションは、図 3 と比較して互いに分離されました。

個別の 1 次元 SEC トレースは同じに見えましたが、サンプル b の 2D の結果はサンプル a の結果と大きく異なっています。図 6 のクロマトグラムの上半分に、y 軸に沿って伸びていることによって証明されているように、グラフト密度が異なるグラフトポリマーの大きなフラクションがあります。等高線プロットから、サンプル a で示されているように、y 軸上の最初の次元の溶出量 3 mL にわたって未反応の側鎖が存在することも明らかです。2 つのサンプルの等高線プロットを比較すると、同じ遊離体を同じ量使用しても、異なる合成戦略を用いると非常に異なる 2 つのプロダクト組成になることが明らかになっています。

図 5.  ポリマーサンプル a の等高線プロット
図 6.  ポリマーサンプル b の等高線プロット

1D 分離から 2D 分離への移行によって分離が改善されるだけでなく、標準試料に対する相対的なフラクションの MW などの追加の情報も、2 次元クロマトグラムの各ピークについて得ることができます。MW 測定プロセスは、1 次元 SEC 測定の場合と非常によく似ています。2D 測定をセットアップする前に、2 番目の次元を適切なキャリブレーション標準試料を用いてキャリブレーションする必要があります。グラフトコポリマーの場合、2 番目の次元のカラムの分離範囲すべてをカバーするために、複数のポリスチレン標準試料を注入しました。同じことを、分布範囲が狭い PMMA 標準試料について繰り返しました。グラフトポリマー A を例として使用して、分子量測定の対象フラクションが、等高線プロットにて円で囲まれています(図 7)。分離された各フラクションの体積パーセントを測定するために、フラクションを円で囲むことも使用します。円で囲まれたフラクションにさまざまな検量線を割り当てることができ、関連する化学組成の相違を説明できます。 WinGPC によりそれぞれの MW 数が計算されます。グリッドを用いて定義したフラクションの数値結果が、サンプル a について表 1 に、サンプル b について表 2 に示されています。分離されたサンプル a のフラクションの MW の範囲は、約 3,000 Da ~約 90,000 Da です。サンプル b の MW の範囲は約 3,000 ~約 54,000 Daです。

図 7.  サンプル a の等高線プロット(MW 決定に用いる MW 軸付き)
表 1.  サンプル a のフラクションの分子量および容量パーセント
表 2.  サンプル b のフラクションの分子量および容量パーセント

結論

1 次元クロマトグラムで分離されなかったまたは部分的にしか分離されなかった、2 種類のグラフトポリマーの共溶出フラクションが、2 番目のクロマトグラフィー次元を追加することで完全に分離できます。

適切な狭い分布の標準試料で 2 番目の次元をキャリブレーションした後、等高線プロットの個々の成分の MW 情報を計算できます。分離されたサンプル a のフラクションの MW は、約 3,000 Da ~ 約 90,000 Da の範囲でした。サンプル b の MW の範囲は約 3,000 ~ 約 54,000 Da です。

1 次元の SEC から 2 次元の分析に切り替えることにより、新規複合ポリマーの組成解析および構造の特性解析が改善されます。

2D LC x SEC アプローチに基づくクロマトグラフィー分離が大幅に改善されたことで、分析結果の信頼性が完全に確保され、コストと時間のかかるサンプル分析のやり直しが不要になります。

謝辞

1. Claudia Lohmann - ウォーターズコーポレーション。
2. Wolfgang Radke - PSS Polymer Standards Service。

720007590JA、2022 年 4 月

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