ACQUITY™ Premier UPLC™ システムへの Auto•Blend Plus テクノロジーの導入
要約
この試験では、バイオ医薬品製品の開発および製造において Auto•Blend Plus テクノロジーによって得られる価値とメリットを実証しています。ACQUITY™ Premier UPLC システムに標準装備されている Auto•Blend Plus テクノロジーにより、チャージバリアント分析のための分析法開発プロセスに伴う負担とコストが削減できます。これは、ACQUITY Premier QSM モジュールのクオータナリー混合機能を利用して、純粋溶媒または濃縮ストック溶液のリザーバーを使用して移動相の組成を管理することで達成できます。これにより、ユーザーが実験台で費やす時間が節約され、データの分析により多くの時間をかけることができます。この点を実証するために、単一の移動相成分を使用して、複数の条件にわたってスカウティングする非変性イオン交換クロマトグラフィー(IEX)メソッドを mAb ベースの医薬品向けに開発しました。得られた結果から、ACQUITY Premier システムと Auto•Blend Plus テクノロジーを組み合わせることで、分析法のスカウティングと最適化を効率的に行える解決策が得られることがわかりました。さらに、ユーザーがアクセスできる成分表により、最適化された分析法の完全な透明性が得られ、定義された一連の移動相成分を使用して、分析法のバリデーションと最終的な規制環境への移行の両方を効率化することができます。これらの機能は Waters CDS/インフォマティクスソリューション全体にわたって完全に統合されており、ACQUITY Premier システムは、バイオ医薬品の開発と製造をサポートする理想的なプラットホームとなっています。
アプリケーションのメリット
- Auto•Blend Plus テクノロジーにより、以下を実現しています。
- 柔軟な溶媒管理による効率的な分析法のスカウティング
- 単一のシンプルな移動相の使用によるコストと時間の節約
- ウォーターズの規制対応 Empower™ ソフトウェアと完全に統合
- 統合された成分表を使用して分析法のバリデーションや移行が可能に
はじめに
医薬品につきものの分析法開発プロセスは、複数の分離法のパラメーターの繰り返し評価が必要になり、反復作業になる場合があります。この最適化プロセスは、ラボの実験台での作業時間において多大な労力を要するだけでなく、調査対象の条件ごとに新規サンプルと移動相の調製が必要になるため、コストもかかります。特に、タンパク質ベースのサンプルを、非変性手法(IEX など)を使用して分析することが多いバイオ医薬品業界では、pH およびイオン強度に関連する条件を最適化して、薬剤製品に関連するチャージバリアントを十分に分離する必要があります1,2。 この点で、分析法開発サイクルに伴う負担を軽減できるテクノロジーを導入することは、製薬企業にとって有益であり、結果的に製品をより速く市場投入することができます。
最近、ウォーターズは MaxPeak™ HPS テクノロジーを採用した ACQUITY Premier UPLC システムを導入しました(図 1)。これにより、Waters LC™ バイオセパレーションポートフォリオによって確立されたクロマトグラフィー性能がさらに向上します。この一環として、ACQUITY Premier システムをバイナリーソルベントマネージャーまたはクオータナリーソルベントマネージャーで構成することができます。クオータナリーソルベントマネージャーでは Waters Auto•Blend Plus テクノロジーを活用して、分析法開発プロセスを合理化することができます。クオータナリー混合機能を利用し、濃縮原液のリザーバーを用いて移動相組成をリアルタイムで管理することができるため、実験台でのユーザーの作業時間が短縮され、データの分析により多くの時間を費やすことができます。この試験の目的は、Auto•Blend Plus テクノロジーをインフリキシマブのチャージバリアントの分離の最適化に適用し、医薬品開発プロセスの加速および開発コストの削減における有用性を実証することです3,4。
実験方法
リン酸ナトリウム(一塩基/二塩基)は Sigma Aldrich から購入し、塩化ナトリウムは Fisher Chemical から購入しました。ストック溶液は、MS グレードの水を使用して 100 mM NaH2PO4、100 mM Na2HPO4、1,000 mM NaCl として調製しました。インフリキシマブ製剤のレミケードでの MaxPeak™ HPS テクノロジーは、Amerisource Bergen 社から購入し、製造者の指示に従って用量濃度(10 mg/mL)に調製し、そのまま注入しました。
LC 条件(Auto•Blend Plus テクノロジー)
LC システム: |
ACQUITY Premier システム(QSM の改良版) |
検出: |
ACQUITY TUV、FC = Ti 5 mm、λ = 214 nm |
バイアル: |
QuanRecovery MaxPeak バイアル(製品番号:186009186) |
カラム: |
Protein-Pak™ Hi Res CM カラム(7 µm、4.6 × 100 mm、製品番号: 186004929) |
カラム温度: |
40 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
5 µL |
流速: |
0.750 mL/分 |
移動相 A: |
100 mM NaH2PO4 |
移動相 B: |
100 mM Na2HPO4 |
移動相 C: |
1000 mM NaCl |
移動相 D: |
H2O |
LC 条件(従来法)
LC システム: |
ACQUITY Premier システム(QSM の改良版) |
検出: |
ACQUITY TUV、FC = Ti 5mm、λ = 214 nm |
バイアル: |
QuanRecovery MaxPeak™ バイアル |
カラム: |
Protein-Pak HiRes CM (7 µm、4.6 × 100 mm) |
カラム温度: |
40 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
5 µL |
流速: |
0.750 mL/分 |
移動相 A: |
20 mM リン酸バッファー、pH 6.55 |
移動相 B: |
20 mM リン酸バッファー、200 mM NaCl 含有、pH 6.45 |
移動相 C: |
H2O |
移動相 D: |
H2O |
グラジエントテーブル(従来法)
データ管理
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower 3、FR4 |
結果および考察
Auto•Blend Plus メソッドは、ACQUITY Premier システムの標準機能の一部として、最近リリースされた Empower、MassLynx™、および waters_connect™ ソフトウェアの装置メソッドのパネルを介して導入できます。この試験では、図 2A に示すように、Empower 3 を使用して、装置メソッド画面の関連するアイコン(破線のボックス)を選択し、Auto•Blend Plus テクノロジーを有効にしました。Auto•Blend Plus を選択すると、図 2B に示すようにインターフェースが開きます。このインターフェースのあらかじめ設定されたプルダウンリストから、水系バッファーまたは有機溶媒を選択したり、カスタム定義のリザーバーシステムを使用したりするように選択できます。図に示されているように、カスタムリザーバーシステムを使用すると、pKa または実験で得られたデータを使用して pH をキャリブレーションすることができます。この実験データ法が特に興味深い点として、溶液中の塩がもたらす共通イオン効果を Auto•Blend Plus アルゴリズムで補正でき、イオン強度の範囲全体にわたって正確な pH を維持する能力が向上する点が挙げられます。この実験データ法を利用するため、装置メソッド表に示すストック溶液を用いて、9 種類の移動相組成の pH を実験的に測定しました。一例として、リン酸バッファーシステムについて図 2B に示します。Auto•Blend Plus テクノロジーを有効にしてキャリブレーションすると、図 3 に示すように、pH および塩濃度に関連付けられた直感的な手法でグラジエント情報が表示されます。この単一のバッファーシステムを使用することで、pH や塩の影響を柔軟に調べることができ、効率的な分析法のスカウティングが可能になります。
この原理を実際の場面で実証するため、10 ~ 100 mM NaCl の迅速なスクリーニンググラジエントを使用して、さまざまな pH 値でのインフリキシマブのチャージバリアントのプロファイルを評価しました。図 4A に示すように、Auto•Blend Plus メソッドにより、単一のリザーバーバッファー調製物を用いて pH 値を段階的にスカウティングすることができました。このアプローチを使用することで、pH = 6.5 を超える移動相を使用すると、使用するクロマトグラフィースペースの効率の向上並びにチャージバリアントの許容可能な分解能が得られることが迅速に判定できました。
同じバッファーシステムで同様のアプローチを使用し、移動相を一定の pH 6.8 に維持した上で、緩やかな塩のグラジエントを評価しました。図 4B に示すように、緩やかなグラジエントにより、メインのリジンのチャージバリアント(+0K、+1K、+2K)間の分解能の向上が認められました。酸性分子種と +0K のリジンバリアントの間の分解能の変化はわずかであり、早く溶出する分子種が固定相に強く吸着されず、緩やかなグラジエントの影響をほとんど受けないことを示しており、移動相の pH が低い方がチャージバリアント解析のこの側面の最適化に適している可能性が示唆されます。時間の制約や装置の可用性により、評価できる条件の数が制限されがちな従来の分析法開発の手法では、この点が見過ごされていた可能性がある点で、この観察/相関関係は注目に値します。
初期の分析法のスカウティングから得られた知識を使用し、同じバッファーシステムを用いてさらなる最適化を行うと、移動相の pH = 6.5 と 40 ℃ の高温により、0.750 mL/分の高流量が使用しやすくなりました。10 ~ 45 mM NaCl のグラジエントを適用することにより、チャージバリアント間の分解能が許容可能なクロマトグラフィースペースをうまく使用できるようになりました(図 5A)。付随するデータ(表 1)を見ると、ACQUITY Premier システムでは、繰り返し注入で見られたピーク面積の %RSD が低いことから、高い一貫性と再現性でこれらの結果が得られていることが明らかです。
最後に、グラジエントの傾きを調査し、製造およびハイスループットでの開発環境における効率化ニーズに対応できるように、ハイスループットで一貫した結果が得られるかどうかを調べました。同じバッファーシステムを使用して、1% 塩化ナトリウム/分から 5% 塩化ナトリウム/分まで 1% 刻みでグラジエントの傾きを高め、それに比例して各分析のグラジエント時間を短くして評価を行いました。図 5B および付随するデータ(表 2)に示されるように、ACQUITY Premier システムでは、高い再現性(%RSD ≤ 3%)でピーク面積を 1% 以内に維持しつつ、合計分析時間を 51 分から 23 分に短縮することができ、ハイスループット環境に対応できる可能性が実証されました。
製造現場などの規制対象環境では、分析法の適格性評価、バリデーションが要求され、分析法/テクノロジーの移管が必要になります。また、代替の LC プラットホームを使用している一部の組織では、Auto•Blend Plus などのソフトウェア機能やクオータナリーベースの LC システムさえ利用できない場合があります。この点を考慮し、Auto•Blend Plus テクノロジーにより、そのアルゴリズムによって生成された成分表にアクセスして分析法の移管を容易にすることができます。図 6A に、装置メソッド画面からアクセスできる成分表の例を示します。
このようなより広範な適用性を実証するため、現行の Auto•Blend Plus で開発した分析法を、バイナリー混合移動相システムに適合する分析法に変換しました。そのため、図 6B に示すように、4 種類のストック溶液を新たに調製しました。成分表のリザーバーの容量割合を使用して、140 mL の NaH2PO4(ストック溶液 A)、60 mL の Na2HPO4(ストック溶液 B)、0 mL(ストック溶液 C)および 800 mL(ストック溶液 D)を用いて 1 L の移動相 A を調製し、それ以上 NaCl を追加せずに 20 mM リン酸バッファーを調製しました。実験によって決定した pH は 6.55 で、予測 pH との差が 0.05 以内でした。同様に、成分表の 4 行目を用いて移動相 B を調製しました。ここで使用したストック溶液の容量は図 6B に記載されています。移動相 B の pH は 6.45 であることが実験で確認されました。成分表を用いて得られた各移動相の予測 pH と実験で確認された pH が一致していることから、Auto•Blend Plus は、組成パラメーターの透明性を維持した上で、正確な移動相組成を提供できることが実証されました。
図 7 に、Auto•Blend Plus メソッドと成分表に基づく手動のバイナリー混合法との比較が示されています。図に示されるように、いずれの分析法でも一貫したチャージバリアントプロファイルが見られます。絶対保持時間の微妙な差は、バイナリー移動相システムでは一般的なイオン効果を補正できないことによる pH のわずかな違いに起因する可能性があります。ただし、いずれのメソッドでも報告された平均ピーク面積割合の値が 0.25% の範囲内で一致しているため、結果にはほとんど影響がないことが確認されました。これらの結果から、Auto•Blend Plus メソッドを従来のメソッドに簡単に変換することができ、適格性評価、バリデーション、技術移転が最小限の費用負担で容易に行えることが実証されています。全体として、この試験では最適化された分析法を作成できる Auto•Blend Plus テクノロジーの価値と有用性が実証され、バイオ医薬品の開発と製造に関連する時間とコストが削減できることも実証されました。
結論
ACQUITY Premier UPLC システムの標準機能である Auto•Blend Plus により、単一のシンプルな成分のセットから複数のバッファー組成を試験できるため、分析法開発プロセスに伴う負担とコストが削減できます。成分表にアクセスすることで、規制ガイダンスに適合する分析法を最小限の労力で移管し、バリデーションできます。これらの機能は Waters CDS/インフォマティクスソリューション全体にわたって完全に統合されており、ACQUITY Premier システムは、バイオ医薬品の開発と製造を容易にサポートできる柔軟なプラットホームとなっています。
参考文献
- Fekete et al.Ion-exchange chromatography for the characterization of biopharmaceuticals.J. of Pharmaceutical and Biomedical Analysis.2015; 113:43–55.
- Du et al. Chromatographic analysis of the acidic and basic species of recombinant monoclonal antibodies. mAbs. 2012 Sep–Oct; 4(5):578–85.
- Eyer B et al.How Similar Is Biosimilar? A Comparison of Infliximab Therapeutics in Regard to Charge Variant Profile and Antigen Binding Affinity.Biotechnol J.2019 Apr;14(4).
- Jung et al.Physicochemical characterization of Remsima.mAbs.2014;6(5):1163–77.
720007603JA、2022 年 4 月