AccQ•Tag™ Ultra 誘導体化キットを使用する、アルコール飲料およびノンアルコール飲料中の遊離アミノ酸含量の測定
要約
必須アミノ酸および非必須アミノ酸は風味や味に影響を与えるため、飲料製造者は必須アミノ酸および非必須アミノ酸のモニタリングが望ましいと考えています。アミノ酸分析では、一般に従来の長時間かかる高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法を使用するか、あるいは他のアプリケーションでは使用できない特殊なアミノ酸アナライザーが必要となります。この研究では、アミノ酸を簡単に定量できる 10 分間のグラジエントを用いた超高速液体クロマトグラフィー(UPLC™)分析、ならびにその他のアプリケーションでのシステム使用の柔軟性について説明します。
白ワイン、サイダー、紅茶キノコなどの発酵飲料の小売サンプル、およびソフトドリンクやスポーツ栄養飲料の粉末を、AccQ•Tag Ultra 誘導体化キットを用いて誘導体化しました。分離は、波長 260 nm のフォトダイオードアレイ(PDA)検出器搭載の ACQUITY™ UPLC H-Class PLUS システムで確立された一連のメソッドを用いて行いました。アミノ酸食品・飼料標準品キットを調査対象に、ノルバリンを内部標準として使用して、定量を一例として実施しました。さまざまな飲料の希釈係数を最適化し、一般的な飲料中のアミノ酸分析の詳細なガイダンスをユーザーに提供しました。
アプリケーションのメリット
はじめに
飲料、とりわけ発酵により製造された飲料は、遊離アミノ酸のプロファイルが幅広い範囲で異なる可能性があります。そのために味が変わり、消費者の受け入れに影響を与える可能性があります。ワインやビールの生産における研究においては、アミノ酸の存在など、化学的な分析種の特性解析が含まれます。ビール醸造では、味のプロファイリングを裏付けるためにアミノ酸が測定されてきました1,2。 ワイン醸造所の酵母株3 やブドウの品種4 の違いは、ワインの遊離アミノ酸プロファイルに大きな影響を与えます。ワイン酵母(Saccharomyces cerevisiae)による窒素の供給と利用は、発酵速度とワインの香りにとって重要な揮発性化合物の生成に大きく影響します5。複雑なワインの熟成プロセスにおいてこれらのプロファイルを確実にモニターすることができれば、製品開発およびワイン研究における特性解析に有用なツールになります。
微生物株が異なると、発酵プロセス中のアミノ酸プロファイルの変化に基づく風味プロファイルの違いが生まれます。さらに、微生物株は、例えばテキーラ発酵のように、酢酸エチル、プロパノール、アセトアルデヒドなどの揮発性物質などの代謝物の生成に影響を与える窒素源に固有の選好性を示します6。植物病原体である糸状菌は、利用可能な窒素源とアミノ酸に応じて、産生するマイコトキシンのレベルが変わることがわかっています7。ジベレリン酸、ペニシリン、セファロスポリン C などの糸状菌の生成物、またパツリンやアフラトキシンなどの毒素は、窒素の可用性によって制御されており8、これらが飲料製造における食品安全性に影響を与える可能性があります。
スポーツ栄養やタンパク質サプリメントなどのその他の飲料製造部門でも、製造バッチの特性解析を行って原材料の供給者を明らかにし、一貫した製品品質を保証する必要があります。遊離アミノ酸の分析は、従来の HPLC 分析法やアミノ酸アナライザーでは時間がかかる場合があります。AccQ•Tag 誘導体化と光学検出を組み合わせた UPLC 分析は、迅速で信頼性の高い品質管理アプリケーションになるとともに、食品研究用のツールにもなり、代謝物の生成と遊離アミノ酸の存在を関連付けることができます。
実験方法
サンプル前処理
内部標準(製品番号:186009301)として使用したノルバリンは、6 mL の 0.1 M HCl に再溶解し、濃度 0.25 µmol/mL にしました。この溶液のうち 10 µL を AccQ•Tag Ultra 誘導体化キットに含まれるホウ酸バッファー 60 µL に添加してから使用しました。次に、このバッファーを使用し、AccQ•Tag Ultra Derivatization Kit Care and Use Manual(『AccQ•Tag Ultra 誘導体化キットの取扱説明書』)(715001331EN)に従って(内部標準を含むホウ酸バッファーを使用する点を変更)、飲料サンプルを誘導体化しました(図 1)。検量線は、21 種のアミノ酸を含むアミノ酸食品・飼料標準試料キット(製品番号:186009299)を用いて作成しました。この標準試料は、アミノ酸の同定および定量分析の両方に対応するように設計されています。手順については、Amino Acid Standard Kits Care and Use Manual(『アミノ酸標準試料キット取扱説明書』)(720006663EN)を参照してください。誘導体化は Waters トータルリカバリーバイアル(製品番号:186000384C)中で行いました。これにより、反応容器を UPLC オートサンプラーに直接移してシームレスに分析が行え、使用する試薬量を低く抑えることができました。誘導体化のワークフローに若干の変更を加え、反応ミックスをヒーターから取り外した後、冷却し、続いて 500 rcf で 10 秒間の短い遠心分離を行いました。遠心分離は、結露を落とすために行ったもので、バイアルを 15 mL のプラスチックチューブに入れて行いました。ACQUITY UPLC H-Class PLUS システムは、確立された Empower™ CDS ソフトウェアメソッドを使用してセットアップし、この分析のために変更を加える必要はありませんでした。このアプリケーションでは、前述の希釈と 1 µL の既定注入量を反映させて、解析メソッドにおけるノルバリンの既定値を 25 µM に調整しました。
サンプルは、ブラケット検量線を使用して定量分析しました。アミノ酸の量がさまざまであることを考慮し、また検量線の範囲内で適切な定量を行うために、未希釈の各液体サンプルを 1:10、1:20、1:100 希釈で誘導体化することを推奨します。調査した液体サンプルでは、これより高い希釈倍率は不要でした。スポーツドリンクのアミノ酸粉末は、製造者の表示に基づいて 5 g あたりアミノ酸が 1 ~ 2 g 含まれるように希釈を行い、100 mL の脱イオン水中に 6.55 g の粉末を希釈しました。分析用の希釈倍率の推奨値は、脱イオン水中に 1:400 です。表 1 に、特定の飲料サンプル中のほとんどのアミノ酸が定量できる希釈倍率を示します。
サンプル前処理を開始する前に、内部標準をホウ酸塩バッファーに添加することができます。1 サンプルあたり 60 µL のホウ酸バッファーのストック混合液を、上記のように 10 µL のノルバリン溶液(製造者の指示に従って 6 ml の 0.1 M HCl に再溶解した場合 250 µM)を加えて調製しました。これにより、1 バイアルあたりの反応量 100 µL 中のノルバリン濃度が 2500 pmol になります。この方法では、注入量が 1 µL の場合、25 µM になります。これは、既定値の 1 µM とは異なるため、Empower の解析メソッドにおいて調整する必要があります。
未知ピークの調査
アスパラギンの標準的な 3 つのインキュベーションを、1)水、2)0.1 M HCl 水溶液、3)リンゴジュース中で、誘導体化反応あたりのアスパラギン 500 pmol の条件で行いました。500 pmol という量は、ウォーターズが推奨するさまざまな用途の AccQ•タグ誘導体化に適したサンプル量が示されている表 2 の中間範囲の値として導出したものです。
グラジエント
AccQ•Tag 溶液に付属の Waters Empower メソッドセットの食品・飼料用グラジエントメソッドを使用しました。
結果および考察
すべてのサンプルセットで、7 点のブラケット検量線を実行しました。R2 の範囲は 0.984(MetSO2) ~ 0.9999(Val、Ile、Leu、Ser、Thr、Pro)でした。Empower 3 ソフトウェアで提供されるメソッドで解析した後の検量線の例を図 2 に示します。検量線相関係数の代表的な結果を、Empower ソフトウェアによる解析のスクリーンショットとして図 3 に示します。
分析した化合物の面積カウントを計算したところ、標準試料の 3 回繰り返しの誘導体化では、繰り返し測定の標準偏差が平均 4% という低い値でした。誘導体化は、Waters トータルリカバリーバイアルを使用して従来の加熱ブロック中で迅速に行えます。このバイアルを、同日中に、または最長 1 週間室温で保管した後、UPLC オートサンプラーに移します。これにより、サンプル前処理をやり直すことなく、サンプル分析のスケジュールを柔軟に設定できます。
図 4 に、未希釈飲料の代表的なクロマトグラムを示し、調査した製品に含まれる化合物の概要を示します。提供されている Empower CDS メソッドセットを使用してサンプルを定量しましたが、結果を比較できるレファレンス物質がないため、タウリンの結果のみを示し、ラベルと比較しています。サンプル C(栄養ドリンク)中のタウリン含量の計算値は 0.44 g/100 mL で、製品ラベルに記載されている 0.4 g/100 mL とほぼ一致しています。
分析した 3 種類のリンゴを含む製品(アップルジュース、サイダー、アップル&エルダーベリービタミン水)では、ヒスチジンとタウリンの間に共通の未同定ピークの溶出が認められました(図 5)。以前に、AccQ•Tag Ultra 誘導体化キットを用いて、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-グルタミンが、ほとんどのリンゴジュースに見られる主要なアミノ酸として同定されています(9)。 溶出時間に基づき、この未知ピークはアスパラギンであることが疑われました。この点は、AccQ•Tag Ultra 誘導体化キットで誘導体化した単一のアスパラギン標準試料の注入(3 種類のサンプル溶媒中で実行)によって確認できました(データは示していません)。AccQ•Tag 誘導体化の一般的な問題として、レファレンス標準試料に複数のアミン基が存在し、これがダブルピークにつながる可能性があることが挙げられます(アスパラギンなど)。ピークの同定を調査する際には、検量線の濃度範囲内で行って誘導体化試薬の比率がサンプルと比較して過剰になるようにし、レファレンス標準試料のインキュベーションをサンプルの pH に近い pH でインキュベーションを行うことを推奨します。タンパク質またはペプチドの加水分解物を調査する場合は、表 2 に記載した量(ウォーターズの社内文書から算出)を推奨します。
結論
AccQ•Tag アミノ酸分析ソリューションは、装置を柔軟に使用できる包括的ソフトウェア解析パッケージにより、迅速にメソッド開発が行える「すぐに使える」アプリケーションでありながら、専用のアミノ酸アナライザーと比較して、柔軟な装置使用が可能です。サンプル前処理にわずかな変更(遠心分離ステップ)を加え、幅広い飲料サンプルを試験して、検出の直線性を 7 点検量線で調査しました。未知成分の同定に関して、調査対象ピークの迅速な確認に役立つレファレンス標準試料の調査に関する推奨事項を提供しています。飲料中の遊離アミノ酸分析は、サンプル前処理を最小限に抑えた直接的なアプローチであり、調査対象のすべての分析種がキャリブレーション標準試料の濃度範囲に入るように、誘導体化の前に液体サンプルを希釈することのみが求められます。AccQ•Tag Ultra 誘導体化および UPLC 分離により、品質管理と発酵飲料の研究で多忙なラボにおける分析法開発が最小限に抑えられ、分析法の導入が容易になることで、アミノ酸のルーチン分析において再現性と信頼性の高い分析ソリューションが確保できます。
参考文献
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720007707JA、2022 年 8 月