MaxPeak Premier Protein SEC カラムを使用した流体力学的半径の測定
要約
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)は、サイズベースの分析に幅広く使用されています。ここでは、流体力学的半径(Rh)の値が既知のタンパク質を Waters ACQUITY™ Premier Protein SEC 250 Å、1.7 μm または XBridge™ Premier Protein SEC 250 Å、2.5 μm カラムで分離し、それぞれの検量線を作成することで、生体分子の Rh を簡単かつ効果的に測定できることを示します。Rh は溶液中のタンパク質の配座や相互作用特性を調べる際に有用なパラメーターであるため、製剤開発において有用であり、タンパク質配座の変化のモニタリングにも使用できます。
Log(Rh)と保持時間の間に良好な直線関係がある場合、タンパク質と Waters MaxPeak™ Premier High Performance Surfaces(HPS)および BEH™ SEC ポリエチレンパーティクルテクノロジーの相乗効果を利用した ACQUITY または XBridge Premier Protein SEC カラムの間の二次的相互作用が非常に小さいことを示します。
アプリケーションのメリット
- Waters XBridge Premier Protein SEC 250 Å、2.5 μm および Waters ACQUITY Premier Protein SEC 250 Å、1.7 μm カラムによる Rh 測定
- タンパク質と MaxPeak Premier Protein SEC 粒子およびカラムハードウェアの間の望ましくないイオン性または疎水性の二次相互作用を低減
はじめに
SEC により、溶液中のサイズまたは流体力学的容積に基づいて分析種が分離されます。Rh は、被験分子と同じ速度で拡散する同等の硬い球体の半径と定義され、SEC によって決定することができます。Rh の測定では、分子のサイズだけでなく、溶媒効果も考慮に入れています。タンパク質の場合、硬い球体として存在しないため、決定された Rh は、溶媒和した生体分子の見かけのサイズを反映すると言った方が近くなります。NMR で測定した場合、ネイティブタンパク質と変性タンパク質では、おそらく配座の違いのために Rh が異なることが示されています1。 SEC は、タンパク質の配座変化を引き起こすタンパク質と低分子の相互作用の Rh 測定による検出およびモニタリングに使用されてきました2。また、ターゲットタンパク質の配座が、同じ溶液中に含まれる他の分子との相互作用によって影響を受ける場合、Rh データの比較を、安定なタンパク質バイオ医薬品の最終製剤の開発に使用することができます。このように、Rh は、周囲の環境中でのタンパク質のサイズを考慮するため、生物学的に重要なパラメーターとなり得ます。
このアプリケーションノートでは、Waters XBridge Premier Protein SEC 250 Å、2.5 μm、7.8 × 300 mm カラムおよび ACQUITY Premier Protein SEC 250 Å、1.7 μm、4.6 × 300 mm カラムによる、Rh が既知の複数のタンパク質の分離を示します。モノクローナル抗体(mAb)であるトラスツズマブの Rh を測定するための検量線を作成しました。さらに、イオン強度が異なる移動相条件で作成した検量線を比較しました。Log(Rh)と保持時間の間に良好な直線関係がある場合、タンパク質と MaxPeak Premier Protein SEC 粒子およびカラムハードウェアの間の望ましくないイオン性または疎水性の二次相互作用が非常に小さいことを示します。
実験方法
サンプルの説明
ゲルろ過マーカーキット(MWGF1000)およびオボアルブミン(A5503)は Sigma から購入しました。タンパク質ごとに 10 ~ 20 mg/mL のストック溶液を作成しました。すべてのタンパク質を合わせて、各タンパク質を 1 mg/mL にしました。トラスツズマブ(21 mg/mL)は、液体クロマトグラフィー(LC)システムにそのまま注入しました。
分析条件
LC 条件 |
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LC システム: |
ACQUITY UPLC H-Class PLUS Bio システム(平均バンド拡散:4 σ< 22 mL) |
検出: |
ACQUITY™ UPLC TUV 検出器および 5 mm チタンフローセル、波長 280 nm |
バイアル: |
ポリプロピレン 12 × 32 mm スクリューネックバイアル(キャップ付きおよびスリット入り PTFE/シリコーンセプタム付き)、容量 300 μL、100 個入り(製品番号:186002639) |
カラム: |
XBridge Premier Protein SEC 250 Å、2.5 μm、7.8 × 300 mm およびモノクローナル抗体サイズバリアント標準(製品番号:176005070) ACQUITY Premier Protein SEC 250 Å 1.7 μm、4.6 × 300 mm(製品番号:186009964) |
カラム温度: |
室温 |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
10 μL(タンパク質混合液)、1 μL(トラスツズマブ)、内径 7.8 mm のカラムに対して 内径 4.6 mm のカラムに対して、3.5 μL(タンパク質混合液)、0.4 μL(トラスツズマブ) |
流速: |
0.75 mL/分(内径 7.8 mm のカラム) 0.38 mL/分(内径 4.6 mm のカラム) |
移動相: |
ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)の 10 倍濃縮液(Alfa Aesar、J61917)、0.1 μm 滅菌フィルターでろ過済み、1 倍、1.5 倍、および 2 倍に希釈済み |
データ管理 |
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クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower 3(FR 4) |
結果および考察
XBridge Premier Protein SEC 250 Å 2.5 μm、7.8 × 300 mm カラムで、さまざまな Rh を持つタンパク質の混合物を分離しました。表 1 に、検量線の作成に使用したタンパク質の Rh を示します。分離は、DPBS 1 倍濃縮液(リン酸緩衝生理食塩水、Dulbecco 調剤)、DPBS 1.5 倍濃縮液、DPBS 2 倍濃縮液(図 1a)の異なるイオン強度を持つ 3 種類の移動相条件で行いました。DPBS 1 倍濃縮液には、8 mM のリン酸水素二ナトリウム、2.7 mM の塩化カリウム、0.137 M の塩化ナトリウムが含まれています。検量線は、各タンパク質の保持時間に対して Rh の 10 を底とする対数をプロットして作成しました。図 1b でわかるように、トレンドラインの R2(R2 > 0.995)から明らかなように、検量線において有効な線形相関が得られています。さらに、イオン強度を変えてもトレンドラインの傾き、y 切片、および R2 は同様であり、これらの条件は検量線に大きく影響しませんでした。DPBS 1 倍濃縮液の移動相条件では、ACQUITY Premier Protein SEC 250 Å 1.7 μm、4.6 × 300 mm カラムを使用して同様の結果が得られました(R2 = 0.9954)(図 1c)。これらの結果は、MaxPeak Premier High Performance Surfaces(HPS)テクノロジーを使用した両者において、タンパク質と SEC 粒子またはカラムハードウェアの間の二次的相互作用が非常に小さいことを示しています。
検量線を使用して、トラスツズマブの Rh を保持時間から決定しました(表 2)。すべての移動相条件において、DLS(動的光散乱)の文献値 5.2 nm との差は 6% 未満です3。 ACQUITY Premier Protein SEC 250 Å 1.7 μm、4.6 × 300 mm カラムにおいて、DPBS 1 倍濃縮液の移動相条件でのこの差は 5.84% です。今回報告した SEC による Rh 測定値と文献で報告されている値との間の不一致は、Rh 測定の方法に関連している可能性があります。
から取得
トラスツズマブの分子量は、表 1 に示したと同じタンパク質で作成した検量線を使用して決定しました。図 2 に示すように、XBridge Premier Protein SEC 250 Å 2.5 μm、7.8 × 300 mm カラムでの異なるイオン強度条件において、検量線も非常によく似ています。ただし、線形相関(R2> 0.988)は、Rh を使用する場合ほど高くありません。Rh を使用した場合、パーセント差(> 22%)も理論上の MW より大きくなります(表 3)。ACQUITY Premier Protein SEC 250 Å 1.7 μm、4.6 × 300 mm カラムにおいて、DPBS 1 倍濃縮液の移動相条件での R2 は 0.9882 で、パーセント差は 22.15% です。これらの結果は予想の範囲内と言えます。SEC では、分析種の分子量ではなくそのサイズに基づいて分析種を分離するためです。MW は、溶媒中の分子の形状や配座とは関係ありません。一方、流体力学的半径では溶媒中の分子のサイズが測定されます。おそらくこちらの方が、SEC の移動相中の分子の挙動が正しく反映されると考えられます。その結果、タンパク質と固定相またはカラムハードウェア間の相互作用が非常に小さい SEC カラムを使用する場合、MW よりも Rh の方についてよい推定値が得られます。
結論
Rh は生物学的に重要なパラメーターであると考えられます。その理由は、Rh が生体分子の溶媒効果を考慮しており、Rh の変化はタンパク質の配座の変化も示す可能性があり、薬剤の製剤開発時に有用な情報が得られるためです。
このアプリケーションノートでは、SEC を用いてタンパク質の Rh を簡単かつ効果的に測定する方法を説明します。Rh が既知のタンパク質を MaxPeak Premier Protein カラムで分離し、Log(Rh)を保持時間に対してプロットして検量線を作成しました。線形相関が高いことは、タンパク質と Premier カラム固定相およびカラムハードウェアの間の二次的相互作用が非常に小さいことを示します。SEC 検量線から決定されたモノクローナル抗体トラスツズマブの Rh は、文献で報告されている DLS Rh 値の 6% 以内です。また、トラスツズマブなどのモノクローナル抗体を SEC によって評価した場合、Rh と MW の間に通常の相関関係がないことが示されました。SEC は分子を MW ではなく溶液中のサイズに基づいて分離するため、この点は予想の範囲内でした。
また、これらのタンパク質およびモノクローナル抗体の SEC 結果は、生理的な pH(7.4)および塩濃度(約 150 mM)の移動相(DPBS)を使用して得られたものであり、より極端な pH や塩濃度を使用して行った SEC 測定と比較して、より重要である可能性のあるタンパク質配座の測定が行えることにも注意が必要です。
参考文献
- Wilkins D. K. Grimshaw S. B. Receveur V. Dobson C. M. Jones J. A. Smith L. J. Hydrodynamic Radii of Native and Denatured Proteins Measured by Pulse Field Gradient NMR Techniques.Biochemistry 1999; 38 (50):16424–16431.
- Verde V. L. Dominici P. Astegno A. Determination of Hydrodynamic Radius of Proteins by Size Exclusion Chromatography. Bio-protocol. 2017; Vol 7, Issue 08.
- Ramos J. Vega J. F. Cruz V. Sanchez-Sanchez E. Cortes J. Martinez-Salazar J. Hydrodynamic and Electrophoretic Properties of Trastuzumab/HER2 Extracellular Domain Complexes as Revealed by Experimental Techniques and Computational Simulations.Int.J. Mol.Sci. 2019; 20: 1076.
720007625JA、2022 年 5 月