• アプリケーションノート

APGC™ 搭載 GC-MS/MS を使用した QuEChERS による抽出およびクリーンアップ後の米ベースのベビーフード中の残留農薬の測定

APGC™ 搭載 GC-MS/MS を使用した QuEChERS による抽出およびクリーンアップ後の米ベースのベビーフード中の残留農薬の測定

  • Simon Hird
  • Janitha De-Alwis
  • Stuart Adams
  • Mette Erecius Poulsen
  • Waters Corporation
  • National Food Institute, Technical University of Denmark

要約

多くのさまざまな食料品に含まれる何百もの残留農薬の検出、定量、同定には、信頼性の高い分析法が必要です。このアプリケーションブリーフでは、米ベースのベビーフードに含まれる 166 種類の農薬を測定するための、ガスクロマトグラフィー-タンデム質量分析(GC-MS/MS)に基づく包括的分析法の開発とバリデーションについて説明します。公開済みの穀物向けの QuEChERS メソッドを使用して抽出物を前処理してから、GC-MS/MS で測定しました。残留農薬分析において、大気圧イオン化(APGC)を活用した GC-MS/MS を使用することで、選択性、特異性、および分析速度の点で、電子衝突イオン化(EI)よりも大幅に性能が向上することが示されています。APGC Xevo™ TQ-XS システムは、極めて感度が高く、注入量がわずか 1 µL であっても、濃度 0.0003 mg/kg の分析種のほぼすべてが確実に検出されることが実証されています。この分析法は、米ベースのベビーフードにおいて、SANTE ガイドライン文書を使用して正常にバリデーションされています。両方の濃度のスパイクについての分析結果から、分析種の回収率および再現性はそれぞれ 91% および 98% で、必要な許容範囲内であることが示されました。この分析法は、高感度で、特異的かつ正確であり、広範な GC 分析が可能な残留農薬を測定して、乳幼児用の食品に対して設定された特定の最大残留物レベル(MRL)への準拠を確認するのに適しており、非常に低濃度で測定できる可能性があります。

アプリケーションのメリット

  • この分析法により、極めて高感度が実現し、ベビーフード中の残留農薬の測定に要求される規制限界を満たすことが可能に
  • この分析法は、食品業界やリスク評価の目的に通常要求される低濃度での測定にも適している
  • 1 µL のアセトニトリル抽出物の従来型のスプリットレス注入により、高感度を達成

はじめに

食品の生産原料となる農作物に対する植物保護製品の使用に起因する残留農薬は、公衆衛生上のリスク要因となる可能性があります。乳幼児は、体重比での食物摂取量が成人よりも相対的に多く、摂取食物の種類が限定され、内臓や中枢神経系がまだ未発達であるため、食品中の残留農薬への暴露の影響を受けやすいと考えられます。米国では、食品に含まれる農薬の許容範囲は EPA で設定されており、米国の乳児用調製乳の法的要件には含まれていません。ヨーロッパでは、乳幼児用の食品に特定の MRL が設定されています。欧州指令 2006/125/EC は特に加工穀類ベースの食品および乳幼児用ベビーフードに適用されています。欧州委員会委任規則(EU)2016/127 を修正する委任規則(EU)2021/1041 には、乳児用調製乳およびその次の段階の調製乳中の農薬の要件が記載されています1.2。 予防原則にしたがって、この種の食品の法的限度は非常に低レベルに設定されています。一般に既定の MRL 0.01 mg/kg が適用されますが、農薬や農薬の代謝物に対してはより厳しい制限が課されており、ADI は、0.0005 mg/kg 体重/日未満です。特定の農薬には低濃度(0.004 ~ 0.008 mg/kg)の MRL が設定されており、その他の農薬については、乳児用調製乳およびベビーフード向け農産物での使用が全面禁止されています。これらの分析種は、報告限界値以下(最低 0.003 mg/kg)の濃度で試験する必要があります。

この MRL への準拠は、多成分残留物法など適切なバリデーション済みの分析法を使用する、小児用のさまざまな種類の食品の残留物モニタリングにより確認します。これは多くの場合、QuEChERS によるサンプル前処理に、液体クロマトグラフィーとタンデム質量分析法(LC-MS/MS)や GC-MS/MS による測定ステップを組み合わせて行います。検出対象の分析種の物理化学的特性がさまざまであることから、LC-MS/MS および GC-MS/MS の両方の手法が必要になります。タンデム質量分析検出により、非常に低濃度の残留農薬の測定に必要な感度と選択性が得られ、ベビーフードの規制準拠が確認できます。残留農薬が指定の法的限度を十分に下回っていることを正確に測定し、リスク評価目的のデータを生成するには、分析法にしばしば高い感度が必要です。通常、政府が残留農薬検査プログラムを運用しており、食品業界でも独自の検査を行っています。

大気圧イオン化(APGC)を用いた GC-MS/MS を使用することで、残留農薬分析における選択性、特異性、および分析速度の点で、性能が EI よりも大幅に向上することが示されています3。ウォーターズでは最近、QuEChERS での前処理後に APGC を搭載した Xevo TQ-XS を使用して、GC-MS/MS によりキュウリの残留農薬を測定するための分析法の性能を実証しました4。この試験の目的は、APGC を搭載した Xevo TQ-XS を使用した GC-MS/MS による、ベビーフードの MRL 準拠の確認に適した濃度以下の残留農薬およびその代謝物の測定のための分析法の性能を実証することでした。バリデーション用バッチは、デンマーク工科大学国立食品研究所内の欧州連合基準試験所 - 穀物・飼料中残留農薬(EURL CF)により調製されました。サンプル抽出は、穀物の分析用に設計された CEN QuEChERS メソッドを調整して行いました5

結果および考察

米ベースのベビーフードのスパイクサンプルの繰り返し分析により、バリデーションを実施しました。以前に発表した条件で、抽出物を APGC を搭載した Xevo TQ-XS を使用した GC-MS/MS によって分析しました4。 選択性、感度、キャリブレーショングラフの特性、回収率、室内併行精度(RSDr)について評価しました。回収率および併行精度は、2 濃度(0.0005 mg/kg および 0.001 mg/kg)で調製した 6 回繰り返しの分析により決定しました。

フルフェノクスロンとピメトロジンのクロマトグラムではいずれも、大きなピークテーリングが見られました。また、カルバリルのクロマトグラムでは、両方の MRM トランジションに対して顕著な同重体干渉の影響が見られました。カルボスルファンは、良好なキャリブレーションを示しましたが、スパイクサンプル中では検出されませんでした。カルボスルファンは酸性抽出物中で(通常はカルボフランに)急速に分解される傾向があります。ジコホールおよびトリルフルアニドは、おそらく安定性の問題により、マトリックスマッチド標準試料またはスパイクサンプル中に検出されませんでした。これらの分析種の代わりに、それぞれの農薬の分解物である 4,4'-ジクロロベンゾフェノン(DBP)およびジメチルスルホトルイジド(DMST)をモニターしました。残り 166 の分析種全てについて結果を示します。

ガスクロマトグラフィー法により、カルバリル以外のすべての分析種について、マトリックスに由来する同重体干渉物からターゲット分析種を分離できました。一部の分析種の主な MRM トランジションのクロマトグラムを図 1 に示します。

図 1.  マトリックスマッチド標準試料中の一部の分析種(0.004 mg/kg)の分析で得られたクロマトグラム

最低濃度(0.0003 mg/kg)で調製したマトリックスマッチド標準試料のレスポンスを評価し、ブランク試料のレスポンスを考慮して、この分析法の感度を評価しました。ブランクのベビーフードには 2-フェニルフェノールの残留物が含まれていることがわかりましたが、定量には不十分な濃度でした。ブランクの値は、報告限界(RL)に対応する残留レベルの 30% を上回らないことが必要であるため、RL の値を 0.001 mg/kg に引き上げました。また、スパイクした分析種の分析で得られた結果は参照目的にしか使用できません。残りの 165 種の分析種(全リストは付録を参照)のうち、1 種を除くすべての分析種が 0.0003 mg/kg で検出できました。チオメトンの検出限界(LOD)は 0.0005 mg/kg でした。これにより、APGC 法の感度が極めて高く、注入量がわずか 1 µL でも、0.0003 mg/kg という低濃度の分析種のほぼすべてが確実に検出されることが実証されました。図 2 に、ベビーフードのマトリックスマッチド標準試料中の優先度の高い一部の農薬(0.0005 mg/kg)の分析で得られたクロマトグラムを示します。

図 2.  ベビーフードのマトリックスマッチド標準試料中の優先度の高い一部の農薬(0.0005 mg/kg)の分析で得られたクロマトグラム

各分析種の最低キャリブレーションレベル(LCL)を、ブラケットキャリブレーショングラフを評価して確立しました。フルオキサストロビンおよびピロリン酸テトラエチル(TEPP)は幅広い濃度範囲でキャリブレーショングラフの残留レベルが不良(20% 超)で、決定係数(r2)の値が 0.95 未満であったため、これらの物質のパフォーマンスは半定量のみで検討しました。チオメトンの低濃度でのデータポイントは、残留レベルが不良(20% 超)であったため、キャリブレーショングラフから除き、それにともなって LCL の値を 0.001 mg/kg に調整しました。分析種の 96% では ±20% という SANTE の許容範囲を十分に下回る残留物を示しました6。分析種の 95% についてのキャリブレーショングラフの値は r2 >0.98 でした。ベビーフードのマトリックスマッチド標準試料中の一部の優先度の高い農薬の分析で得られたキャリブレーショングラフを図 3 に示します。

図 3.  ベビーフードのマトリックスマッチド標準試料中の優先度の高い一部の農薬の分析で得られたキャリブレーショングラフ

TargetLynx を用いて同定基準、保持時間、イオン比を算出し、フラグを付けました。各スパイクサンプル中に検出された各分析種の保持時間とイオン比は、レファレンスであるキャリブレーション標準試料の保持時間とイオン比に対応している必要があります6。 全 166 種の分析種の保持時間は、±0.1 分という許容範囲内であることが分かりました。スパイクサンプル分析におけるイオン比は、分析種の 94% について、同じシーケンスのキャリブレーション標準試料の平均の ±30% 以内でした。

回収率は、2 濃度での 6 回繰り返しスパイクの分析で得られたデータを使用して評価しました。SANTE ガイドラインでは、試験した各スパイク濃度での平均回収率は 70% ~ 120% と指定されています6。2 濃度のスパイクサンプルの分析結果により、分析種のそれぞれ 90% および 92% が許容範囲内であることが示されました。カルボフランの回収率は常に高く(140% 超)、これはおそらく、スパイクに含まれるカルボスルファンの分解によるものと考えられます。残りの化合物はすべて 30 ~ 140% の回収率を示しましたが、回収率は一貫しています(RSD ≤ 20%)。回収率の結果のサマリーを図 4 に示します。

図 4.  スパイク済みベビーフードの分析での回収率(%)のサマリー

この分析法の併行精度(RSDr)も十分でした。SANTE ガイドラインでは、試験するスパイク濃度での RSDr は 20% 以下である必要があると規定されています6。 0.0005 mg/kg では、分析種の 96% がこの許容範囲内でした。より高濃度の 0.001 mg/kg では、すべての分析種が RSDr ≤ 20% の値を示しました。併行精度の結果を図 5 にまとめています。

図 5.  スパイク済みベビーフード分析での併行精度(%RSDr)のサマリー

各化合物の定量限界(LOQ)を、上記の許容基準を満たす最小スパイク濃度として決定しました6。 表 1 に、EURL で優先度が高いとみなされた一部の農薬の性能データのサマリーを示します。

表 1.  優先度が高い農薬の性能データのサマリー(*イオン比は許容範囲外)

結論

このアプリケーションノートでは、GC-MS/MS(APGC を搭載した Xevo TQ-XS)を使用する残留農薬の測定のための高感度で正確な多成分残留物分析法について説明しました。この分析法により、乳幼児用食品で指定されている MRL よりもはるかに低濃度で、信頼性の高い定量が可能になりました。SANTE ガイドラインに基づき、バリデーションが正常に行われ、米ベースのベビーフード中の 166 種の農薬の結果が得られました。両方の濃度のスパイクについての分析結果から、分析種の回収率および再現性はそれぞれ 91% および 98% で、必要な許容範囲内であることが示されました。この分析法では、溶媒交換や PTV や大量注入を必要とせずに、非常に高い感度(LOD は通常 0.0003 mg/kg 以下)が得られました。この分析法は、高感度で、特異的かつ正確であり、広範な GC 分析が可能な残留農薬を測定して、乳幼児用の食品に対して設定された特定の MRL への準拠を確認するのに適しており、非常に低濃度で測定できる可能性もあります。

参考文献

  1. Commission Directive 2006/125/EC of 5 December 2006 on Processed Cereal-Based Foods and Baby Foods for Infants and Young Children.OJ L 339, 6.12.2006, p. 16–35.
  2. Commission Delegated Regulation (EU) 2021/1041 of 16 April 2021 Amending Delegated Regulation (EU) 2016/127 as Regards the Requirements on Pesticides in Infant Formula and Follow-on Formula.OJ L 225, 25.6.2021, p. 4–6.
  3. Cherta L et al. Application of Gas Chromatography-(Triple Quadrupole) Mass Spectrometry With Atmospheric Pressure Chemical Ionization for the Determination of Multiclass Pesticides in Fruits and Vegetables.J Chromatogr.A (2013) 1314:224–240.
  4. Determination of Pesticide Residues in Cucumber Using GC-MS/MS with APGC After Extraction and Clean Up Using QuEChERS.Waters Application Note 720007654, 2022.
  5. EURL-CF.Validation Report 38. Determination of Pesticide Residues in Rice Based Babyfood By LC-MS/MS and GC-MS/MS (QuEChERS method), 2021.
  6. Document No.SANTE/12682/2019.Guidance Document on Analytical Quality, Control, and Method Validation Procedures for Pesticides Residues Analysis in Food and Feed.2019.

Annexure

720007682JA、2022 年 8 月

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