Ambr® 15 バイオリアクターからの mAb プロセス中のグリコフォームの分布と低分子量不純物の直接 LC-MS 特性解析
要約
開発の上流工程でのバイオ医薬品タンパク質の CQA(重要品質特性)の完全な特性解析は多くの場合、装置に対する要求が多く、結果的にコアラボの所要時間が長くなるため、少数の高性能培養に限定されます。バイオ医薬品タンパク質の液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)特性解析には、プロテイン A 精製またはその他のアフィニティー濃縮アプローチがよく使用されますが、このステップを除くことで、サンプル前処理の複雑さが軽減し、サンプリングから分析までの時間が短縮できます。このアプリケーションノートでは、効率的で頑健な mAb 製品のモニタリング方法を実証しました。mAb 発酵サンプルは、CHO プロセスを実行する Ambr® 15 から直接回収しました。迅速な mAb グリコフォームの確認および mAb の純度評価のために、分析法を小型ベンチトップ LC-MS システムで開発しました。開発した分析法はハイスループットで、CQA の中間プロセスの日内モニタリング用の完全に自動化されたプラットホームとして使用できる可能性があります。
アプリケーションのメリット
BioAccord™ LC-MS システムを使用した、事前のアフィニティー精製を行わない Ambr® 15 細胞培養のグリコフォームの分布および低分子量不純物の迅速な特性解析
はじめに
細胞培養手法の進歩により、二重特異性抗体、融合タンパク質、薬物抗体複合体などのクラスを含む、ますます複雑化するバイオ医薬品分子が開発されてきました。これらのより複雑なハイブリッドの製造は、モノクローナル抗体よりも高頻度でミスペアリングや凝集が起きる傾向があるため、特に注意が必要になります。品質低下を回避するために適切なクローンおよびプロセス条件を選択することで、不適切なクローンや一連の培養条件が下流工程の問題を引き起こすリスクを最小限に抑えることができます。
新規分子は複雑であることから、従来のタイター測定のみよりも、凝集やミスペアリングの傾向などの要因の方が、理想的な候補の選択理由として適している可能性があります。一般に使用されるプロテイン A 精製ステップをバイパスすることで、上流工程の開発およびクローン選抜を行うラボでの Ambr® システムの使用に最適な、インタクト質量分析における簡素化されたワークフローになります。このアプローチは、BioAccord LC-MS システムの頑健性および使いやすさと Ambr® マルチパラレルバイオリアクターシステムのハイスループットの自動化を組み合わせて初めて実現します。
主要なグリコフォームおよび低分子量不純物の特性解析の一般的なアプローチは、逆相液体クロマトグラフィーと質量分析を組み合わせて用いるインタクト質量分析です。高分解能質量分析により、医薬品の質量、比較的存在量の多いグリコフォームの組み合わせ、およびその他の翻訳後修飾の正確な測定が可能になります。このようなプロテオフォームは通常、最小限のサンプル前処理で 1 ~ 5% までの低相対存在量でも信頼性が高い同定が可能です。低分子量の不純物の特性解析には、SDS-PAGE、サイズ排除クロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)と質量分析、および逆相液体クロマトグラフィー質量分析の組み合わせなど、さまざまな分析手法が用いられてきました1,2。このうち、逆相 LC-MS は、迅速な分析時間、高いシステム頑健性、豊富な情報量が特徴です。このような特性の組み合わせにより、逆相 LC-MS は、上流工程のラボに導入する上で特に魅力的な選択肢です。ここでは、24 連 Ambr® 15 システムで行われたモノクローナル抗体開発実験のための、グリコフォームの分布と低分子量不純物を分析するための簡単で直接的なアプローチを実証しています。
Ambr® 15 および Ambr 250 ハイスループットマルチパラレルバイオリアクターを使用するクローン候補の生産性および培地戦略の評価は、上流工程開発における一般的なアプローチです。Ambr® 自動リキッドハンドリング装置を使用することで、多数のサンプルを生成できるため、タイターおよび培地中代謝物の日常的な評価が効率化されます。従来のサンプルパイプラインには物流上の制約があるため、バイオ医薬品 CQA の分析は通常、ハーベスト後のサンプルのサブセットに対してのみ行います。続いて CQA データは多くの場合、培養が完了してから数週間後に分析者から上流工程の科学者に渡されます。この従来のワークフローでは、取得できるサンプルの総数が制限され、多くの CQA がプロセスモニタリングの指標またはプロセス制御ドライバーとして使用できなくなります。BioAccord LC-MS を Ambr® システムと併用して上流工程のラボに導入することで、スループットが向上し、データの処理時間が数週間から 24 時間未満に短縮されます。
実験方法
細胞培養条件
IgG モノクローナル抗体を発現する CHO 細胞株を、Ambr® 15 プラットホーム(24 容器システム)を使用して流加培養しました。すべての容器は Sartorius 4Cell® XtraCHO 細胞培養培地でバッチ処理し、接種までの 24 時間、無菌保持しました。カルチャーステーション 1(CS1-1、CS1-12)内の 12 の容器は、対照温度 36.8 ℃ に維持しました。カルチャーステーション 2(CS2-1、CS2-12)内の 12 の容器は、3 日目まで 36.8 ℃ に保ち、この時点で 33 ℃ に下げて残りの 12 日間培養しました。容器 CS1-1、CS1-5、CS1-9、CS2-1、CS2-5、CS2-9 はグルコースの対照で、12 日間の培養を通してグルコースのターゲット濃度は 5 g/L としました。容器 CS1-4、CS1-8、CS2-4、CS2-8 では、グルコースを 12 g/L の目標値で供給し、5 日目からグルコースの目標値を 5 g/L に下げました。容器 CS1-2、CS1-10、CS2-2、CS2-10 は、グルコースを高レベル(12 g/L)に保ち、3 日目からグルコースの目標値を 5 g/L に下げました。残りの容器(CS1-6、CS1-11、CS2-6、CS2-11)は、13 日間のバッチ処理を通して高いグルコースレベルを保ちました。容器 CS1-03、CS1-07、CS1-12、CS2-03、CS2-07、CS2-12 には、グリコシル化の修飾補助剤をポジティブコントロールとして添加し、わかりやすくするために、本書の残りの部分の説明から除外しました。各容器の条件を表 1 に示します。
細胞計数、pH、pO2 の測定のため、Ambr® 15 リキッドハンドリング装置を使用してすべての容器からサンプルを毎日採取し(475 µL)、Ambr® のデッキ上のサンプルチューブに移しました。2 日目から、各容器からさらに 275 µL を 1 日おきに採取し、余った分を BioAccord での分析用に取り置きました。この大容量サンプリングの日には、100 µL のサンプルを細胞計数用に分け取り、残りのサンプルを 380 rcf で 2 分間遠心分離しました。上清は、Sartorius Minisart® 0.45 µm シリンジフィルターでろ過し、必要に応じて LC-MS グレードの水で希釈してから LC-MS に注入しました。
Ambr® 15 で得られた透明化したサンプルについて、低分子量フラグメントとインタクト糖鎖プロファイルを評価しました。サンプルはプロテイン A で精製しませんでした。BioResolve™ RP ポリフェニルカラムを備えた BioAccord システムに清浄化したサンプルをロードしました(製品番号: 186009016)。BioResolve ビーズの粒子サイズが大きいほど、残存する細胞残滓による汚れに対する耐性の向上および質の高いクロマトグラフィー分離が可能になり、迅速なグラジエントを行って非常に効率的なデューティサイクルが実現します。使用した溶媒および試薬はすべて LC-MS グレードでした。BioAccord システムは、waters_connect インフォマティクスソフトウェアを使用して制御しました。
LC 条件
LC システム: |
ACQUITY™ Premier システム |
検出: |
TUV |
バイアル: |
QuanRecovery™ |
カラム: |
2.1 × 100 mm BioResolve RP ポリフェニル |
カラム温度: |
60 ℃ |
サンプル温度: |
8 ℃ |
注入量: |
1.5 ~ 3 µL |
流速: |
0.4 mL/分 |
移動相 A: |
0.1% ギ酸水溶液 |
移動相 B: |
0.1% ギ酸アセトニトリル溶液 |
グラジエントテーブル
MS 条件
MS システム: |
ACQUITY RDa™ |
イオン化モード: |
ポジティブ |
取り込み範囲: |
m/z 500 ~ 7000 |
キャピラリー電圧: |
1.5 kV |
コリジョンエネルギー: |
NA |
コーン電圧: |
95 V |
結果および考察
生存細胞密度(VCD)、生存率、代謝物などのアップストリームプロセスデータは、対照条件下において予想通りであり、この細胞株と培地の組み合わせの履歴トレンドの範囲内でした。フィードバック条件のグルコース濃度は、目標値が標準の 5 g/L に下がるまで 12 g/L の高いレベルにとどまっていました。この 5 g/L のレベルに戻ると、目標値へのシフトが約 2 日間遅れます。これはおそらく、増殖の低下による消費量の減少および毎日の供給に含まれる標準グルコースによるものと思われます。CS1 では、対照条件で最高のピーク VCD に達し、続いてグルコースフィードバックと高グルコース条件がそれぞれ達しました。CS2 でも同じパターンの傾向が見られましたが、すべての CS2 容器で、CS1 容器と比較して増殖が減少していました。これは、CS2 では 3 日目に温度を下げることから予想されたとおりです。
清浄化した Ambr® 15 バイオプロセスサンプルの直接分析について、BioAccord システムの適合性と性能を 500 回の注入で評価しました。清浄化した上清で 3 つのクロマトグラフィーピークが観察され、ターゲットの抗体、遊離軽鎖および修飾軽鎖、および軽鎖が共有結合したダイマーに対応することがわかりました(図 1a)。軽鎖のクロマトグラフィーピークは、少なくとも 10 種類のプロテオフォーム(図 1b)で構成され、質量は 23,526.89 Da および 23,712.94 Da の分子種が多いことがわかりました。これらの分子種は、追加のシステイン残基とグルタチオンで修飾された軽鎖に対応することが確認されました。軽鎖二量体のデコンボリューション済みスペクトルは、変化していないことがわかりました(図 1c)。これは、おそらく C 末端システインの共有結合によるものと思われます。インタクト mAb のデコンボリューション済みスペクトルは、複雑な N 型糖鎖であることを示す糖鎖分布を示しました(図 1d)。
インタクト抗体ピークの紫外線(UV)面積と、UV 測定に基づく抗体の相対存在量をモニターすることで、繰り返し注入のクロマトグラフィー性能を評価しました(図 2a および 2b)。カラムの汚れや非特異的吸着により、この測定値が時間の経過とともに低下することが予想されました。G0F/G0F グリコフォームの質量精度およびグリコフォームの相対存在量を使用して、質量分析計の頑健性を評価しました。質量分析計のフロントエンドでの物質の蓄積とイオン焼けにより、特徴的な抗体のスペクトル性能の低下を来たし、脱溶媒やイオン収束が減少します。この点が最も明らかに見られるのは、インタクトグリコフォームの分解能低下およびそれに伴う質量精度の低下です。この組み合わせは、MaxEnt1 によりピーク強度がデコンボリューションされる際の正確性に影響を与え、それに続くセンタリングステップの結果に影響を与える可能性があります。結果として、グリコフォームの相対量も 500 回のサンプル注入にわたって追跡しました(図 2c および 2d)。
全般に、頑健性の評価全体で 4 つの測定値すべてに優れた再現性が認められ、シグナルの減衰や歪みの徴候は見られませんでした。生の UV 面積(図 2a)およびインタクトの割合の測定値は、RSD で 2.9% および 0.19% でした。特筆すべき点として、ターゲット mAb の UV ピーク面積とそのフラグメントの相対的な比較によって得られたすべてのインタクト測定の割合は 88 ~ 89% でした(図 2b)。保持時間の測定値も非常に安定していて、すべての注入で 2.3 分であることがわかりました。4 つの主要な糖鎖の質量精度(図 1c)も優れていて、-15 ~ 15 ppm の範囲に入ります。グリコフォームの相対存在量の RSD は、グリコフォーム G0F/G0F、G1F/G0F、および G1F/G1F でそれぞれ 6.7%、5.1%、および 6.5% でした。
Ambr® 15 を使用してプロセス最適化実験を実施しました。この実験では、さまざまな温度条件とグルコース条件を適用しました(表 1)。インタクトグリコフォームの分布とシステイン化およびグルタチオン化された軽鎖の相対存在量を、2 日目、4 日目、6 日目、8 日目、10 日目、11 日目に測定しました。G0F/G0F グリコフォームの相対存在量は、増殖の実験条件ごとに培養時間の関数としてプロットしました(図 3a)。すべての条件下で、このグリコフォームの相対存在量は流加培養実験の過程にわたって変化し、相対存在量は連続的に減少して 6 日目に最小値に達しています。グルコース量を増やし、温度を下げることにより、対照と比較して相対存在量が増加しました。これはおそらく、低ガラクトシル化分子種の生成が増えたか、ガラクトースが除去されたためです。この現象は 6 日目に容易に識別できました。興味深いことに、低温でグルコース量が増加した場合、この効果が大幅に増大し、11 日目の糖鎖プロファイルでは 25% の差が生じました。グルコース供給と温度が糖鎖分布に与える影響から、グルコース、温度、タイミングを調節することで、グリコフォームの測定可能な変化が達成できることが示唆されます。この種のデータを培養実験の初期段階で使用することで、プロセスパラメーターおよび供給パラメーターを戦略的に変えて、望ましい糖鎖分布が得られる可能性があります。
低分子量(LMW)不純物は、患者に対して免疫原性となり、製品の全体的な収量が低下する可能性があります。一般に、mAb の純度は、取り込まれていない軽鎖などの LMW 分子種の増加に対応して、培養全体を通して低下することがわかりました(図 3b)。低温条件では、対照温度よりも純度が低くなることがわかりました。興味深いことに、高濃度のグルコース条件では純度がわずかに高くなり、このシフトは 2 日目と 4 日目の早い時期に明らかでした。これらの結果から、グルコース供給の戦略的調節は、被験プロセスにおける相対的な純度を上げるのに有効である可能性が示唆されました。
システイン化型およびグルタチオン化型の遊離型軽鎖の相対存在量を、RDa 飛行時間型(TOF)質量分析計からの MS シグナルを用いてモニターしました。システイン化は、遊離システインが、一般にモノクローナル抗体の軽鎖の C 末端にあるタンパク質の不対システインとジスルフィド結合を形成する際に生じます。この翻訳後修飾は、培養内で使用可能なシステインの量と相関していると考えられます。タンパク質のグルタチオン化は、酸化ストレスまたはニトロソ化ストレスの条件下で、細胞損傷を媒介するメカニズムとして生じます。その結果、グルタチオン化軽鎖の相対存在量は、細胞培養の酸化ストレスを評価するための指標として使用できます。糖鎖分布で見られるように、修飾軽鎖の相対存在量は時間経過とともに変化し、6 日目にシステイン化型が最小量に達しています(図 4b)。これはグルタチオン化型の最大量に対応しています(図 4a)。興味深いことに、低温で培養した 4 つのカルチャーステーションでは、システイン化軽鎖の存在量が最も多く、対照温度での培養で見られた高グルタチオン化軽鎖への強いシフトは見られませんでした。この差は 4 日目の早い時期に明らかです。このように、グルタチオン化軽鎖の量の減少は、温度低下および細胞増殖の低下と相関していると考えられます。原因がどのような関係にあるかを決定するには、さらなる調査が必要です。ただし、これらの関係を精査する能力があれば強力なツールであることが証明されます。
結論
Ambr® 15 システムを使用して培養した、清浄化したが未精製の細胞培養サンプルに由来する低分子量不純物および mAb グリコフォームの分布について、BioAccord LC-MS システムを使用した直接分析が実証されました。BioResolve カラムに 500 回以上注入した場合に得られる優れた頑健性と再現性により、48 のパラレルバイオリアクターから 1 日おきにサンプリングして製品品質特性を分析することができます。培養の過程にわたる糖質の相対含有量の調査結果からは、低温条件および高グルコース濃度の条件におけるガラクトースの有意な除去または取り込みの低下が示唆されます。興味深いことに、高グルコース濃度の条件では、対照条件よりも高純度が得られました。まとめると、これらのデータセットから、培養全体を通して製品品質特性をモニターすることで、最適なプロセスパラメーターと供給戦略が明らかになり、より高い製品純度とニーズに合わせたグリコフォームの分布が得られる可能性が示唆されます。
参考文献
- Wang S, Liu AP, Yan Y, Daly TJ, Li N. Characterization of Product-Related Low Molecular Weight Impurities in Therapeutic Monoclonal Antibodies Using Hydrophilic Interaction Chromatography Coupled With Mass Spectrometry. J Pharm Biomed Anal. 2018, May 30;154:468–475.doi: 10.1016/j.jpba.2018.03.034.
- Li W, Yang B, Zhou D, Xu J, Li W, Suen WC.Identification and Characterization of Monoclonal Antibody Fragments Cleaved at the Complementarity Determining Region Using Orthogonal Analytical Methods. J Chromatogr B Analyt Technol Biomed Life Sci.2017, Mar 24;1048:121-129.doi: 10.1016/j.jchromb.2017.02.019. Epub 2017 Feb 21.PMID: 28242491.
720007580JA、2022 年 4 月