• アプリケーションノート

臨床研究用の UPLC-MS/MS による 6 種類のビタミン D 代謝物の低濃度定量

臨床研究用の UPLC-MS/MS による 6 種類のビタミン D 代謝物の低濃度定量

  • Robert Wardle
  • Lisa J. Calton
  • Waters Corporation

研究目的のみに使用してください。診断用には使用できません。

要約

このアプリケーションノートでは、血清中の 6 種類のビタミン D 代謝物の分析用に開発され、優れた分析感度を示す臨床研究分析法を実証します。この分析法では、わずか 200 µL の血清を使用して、比較的単純なサンプル抽出手順で 5 pg/mL の 1,25diOHD3 を定量できており、ブランクの処理済み血清サンプルと 1.25 pg/mL の 1,25diOHD3 をスパイクした同じマトリックスを区別できます。

アプリケーションのメリット

  • PTAD 誘導体化を利用する、簡素化された除タンパクおよび SPE サンプル抽出手順
  • 優れた分析感度により、ブランクサンプルと処理済み血清中の 1,25-ジヒドロキシビタミン D3 1.25 pg/mL の区別が可能
  • 必要なサンプル量はわずか 200 µL

はじめに

骨代謝におけるビタミン D の役割はよく知られているのに対して、他の疾患におけるビタミン D の役割については比較的知られていませんが、最近の研究により、ビタミン D 欠乏とさまざまな疾患の関連性が示唆されています。液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)により、必要な分析感度と選択性が得られ、1 回の分析で多成分の定量検出が可能です。ただし、これまで報告されている分析法では、蒸発乾固ステップや移動相添加剤の使用を含む複雑なワークフローが使用されることが多く、他の研究での使用が困難になる可能性があります。

そこで、ヒト血清から 6 種類のビタミン D 代謝物を抽出・分析するための半自動臨床研究法が開発されました。抽出サンプルのクロマトグラフィー分離は、CORTECS™ フェニルカラムを装備した Waters™ ACQUITY™ UPLC™ I-Class と Xevo™ TQ-XS タンデム四重極型質量分析計を使用した質量検出によって行いました(図 1)。このシステムにより、必要な分析感度が得られました。Hamilton STAR リキッドハンドリングロボットを使用して抽出ワークフローを自動化および簡素化し、最初のチューブから解析結果までのサンプル追跡が可能になりました。

図 1.  Waters ACQUITY UPLC I-Class および Xevo TQ-XS 質量分析計

実験方法

UPLC 条件

システム:

ACQUITY UPLC I-Class(FTN)、カラムマネージャーを搭載

ニードル:

30 µL

カラム:

CORTECS フェニル 2.1 × 100 mm、1.6 µm(製品番号:186008381)

移動相 A:

LC-MS グレードの水 + フッ化アンモニウム

移動相 B:

LC-MS グレードメタノール/アセトニトリル + フッ化アンモニウム

ニードル洗浄溶媒:

LC-MS グレードメタノール/アセトニトリル/LC-MS グレード水/2-プロパノール + ギ酸

パージ溶媒:

LC-MS グレードメタノール/LC-MS グレード水

カラム温度:

40 ℃

注入量:

25 µL

グラジエント:

表 1 参照

分析時間:

9.5 分

分析条件

表 1.  ビタミン D 代謝物分離のためのグラジエントテーブル 

MS 条件

システム:

Xevo TQ-XS

分解能:

MS1(0.7 FWHM)

MS2(0.7 FWHM)

取り込みモード:

マルチプルリアクションモニタリング(MRM)(詳細は表 2 を参照)

極性:

ESI+

キャピラリー:

3.0 kV

イオン源温度:

150 ℃

脱溶媒温度:

600 ℃

表 2.  ビタミン D 代謝物の定量イオン、定性イオン(括弧内)、およびそれらの内部標準試料の MRM パラメーター(*ジヒドロキシビタミン D2 代謝物はモニターしましたが定量しませんでした)

C3-epi-25OHD3 および C3-epi-25OHD2 の MRM パラメーターは、それぞれ 25OHD3 および 25OHD2 と同じです

C3-epi-25OHD3 にはそれ自体の標識付き [2H3]-C3-epi-25OHD3 内部標準試料を、C3-epi-25OHD2 には [2H3]-25OHD2 内部標準試料を使用しました。 

データ管理

MassLynx v4.2(TargetLynx XS アプリケーションマネージャーを搭載)

サンプル前処理

25-ヒドロキシビタミン D2(25OHD2)、25-ヒドロキシビタミン D3(25OHD3)、C3-epi-25-ヒドロキシビタミン D2(C3-epi-25OHD2)、C3-epi-25-ヒドロキシビタミン D3(C3-epi-25OHD3)、24,25-ジヒドロキシビタミン D3(24,25diOHD3)、1,25-ジヒドロキシビタミン D2(1,25diOHD2)、1,25-ジヒドロキシビタミン D3(1,25diOHD3)の認定済みレファレンス溶液は、Merck Life Sciences(英国、Gillingham)から購入しました。24,25-ジヒドロキシビタミン D2(24,25diOHD2)の認定済みレファレンス溶液および [2H3]-25OHD2、[2H3]-25OHD3、[2H3]-C3-epi-25OHD3、[2H6]-24,25diOHD3、[2H3]-1,25diOHD3 の認定済み標識付き内部標準溶液は、IsoSciences(ペンシルバニア州、Ambler)から購入しました。

キャリブレーターおよび QC 試料は、Golden West Biologicals(カリフォルニア州、Temecula)から購入した MSG2000 処理済み血清の代用マトリックス中に、以下の濃度範囲(表 3)にわたって、括弧内に示されている QC 濃度で調製しました。

表 3.  ビタミン D 代謝物のキャリブレーター範囲と QC 濃度

LC-MS グレードの水およびメタノールは Honeywell(英国、Bracknell)から購入しました。アセトニトリルとギ酸は Greyhound(英国、Birkenhead)から購入しました。フッ化アンモニウムと硫酸亜鉛は Sigma-Aldrich(英国、Gillingham)から購入しました。 

サンプル抽出

サンプル抽出は Hamilton STAR リキッドハンドリングロボットで行いました。

200 µL のサンプルに、20 µL の内部標準試料を加えて混合しました。硫酸亜鉛(水溶液)を添加し、続いてメタノールを添加し、各添加後にサンプルを十分に混合して、除タンパクを行いました。サンプルを遠心分離した後、上清を Oasis PRiME HLB µElution プレート(製品番号:186008052)に移しました。サンプルは、メタノール/水溶液で洗浄し、真空中に放置して抽出吸着剤を乾燥しました。次に、アセトニトリルを用いてサンプルを溶出し、PTAD 試薬を用いて誘導体化しました。誘導体化に続いて、蒸留水を添加して反応を終了させ、サンプルを直接 UPLC-MS/MS システムに注入しました。誘導体化の前に蒸発乾固ステップは必要なく、抽出ワークフローは簡素化されています。

結果および考察

ヒト血清サンプルのビタミン D 代謝物のクロマトグラム例が、以下に示されています(図 2)。

注: 1,25diOHD2 と 24,25diOHD2 は、低濃度で検出可能なピークを取得するために、モニタリング目的のみで、補足しました。

図 2.  ヒト血清中ビタミン D 代謝物の検出の代表的なクロマトグラム

QC L、QC M、QC H サンプルを 5 回繰り返して 5 日間にわたって抽出および測定して、精度を評価しました。表 4 に示されているように、すべてのビタミン D 代謝物の全濃度にわたる、分析内精度および合計精度は 7.2%CV 以下でした。

*pg/mL
表 4.  ビタミン D 代謝物の精度性能のサマリー

4 日間にわたって処理済み血清中で調製した低濃度ビタミン D 代謝物サンプルを、10 回繰り返しで抽出および定量して、分析感度を評価しました。LLOQ は、精度が 20%CV 以下、シグナル/ノイズ比(S:N(ptp))が 10:1 以上である最低濃度に決定しました。ビタミン D 代謝物の LLOQ が表 5 に示されています。25OHD3、C3-epi-25OHD3、25OHD2 では、MSG2000 処理済みヒト血清中に含まれる内因性寄与により、LLOQ のそれ以上の低下は制限されました。

*pg/mL
表 5.  ビタミン D 代謝物の分析感度のサマリー

図 3 に、ブランク試料、および MSG2000 処理済みヒト血清に 1,25diOHD3 をスパイクした低濃度サンプルの、代表的なクロマトグラムが示されています。LLOQ 2.5 pg/mL が、%CV 20%CV 以下、平均 S:N 比(ptp) 10:1 以上で達成されましたが、一部の繰り返しでシグナル対ノイズ比要件に適合しませんでした。このため、1,25diOHD3 の LLOQ に 5.1 pg/mL を選択しました。さらに、ブランクの処理済み血清サンプルを、1.25 pg/mL の 1,25diOHD3 をスパイクした同じ血清サンプルから区別できます。 

図 3.  1,25diOHD3 に対する、ブランク試料および処理済み血清の低濃度サンプルのクロマトグラム

この分析法では、低濃度のプールと高濃度のプールを一定の範囲にわたって既知の比率で混合して最大 10 サンプルにした場合、ビタミン D 代謝物について、表 3 に示されている範囲にわたって直線性であることが示されました。スパイク済み処理済み血清でのすべての検量線は、すべてのビタミン D 代謝物について、10 回の別々の測定にわたって、決定係数(r2) > 0.99 で直線性でした。

すべてのビタミン D 代謝物について、一連のブランク試料および高濃度(3 × キャリブレーター 7)サンプルを分析して、アッセイのキャリーオーバーを評価しました。意味のあるキャリーオーバーは観察されず、すべてのレスポンスが低濃度キャリブレーターサンプルの 20% 未満でした。サンプルのキャリブレーター 0 に対する割合 1: 1 および 1:4 を用いるサンプル希釈プロトコルを開発し、回収率が 85 ~ 115% 以内であることを実証しました。これにより、定量したすべてのビタミン D 代謝物について、キャリブレーションの範囲外のサンプルを希釈できます。

代表的な内因性干渉物質(ビリルビン、コレステロール、イントラリピッド、トリグリセリド、尿酸)を試験し、対照群と比較した試験サンプルの回収率は ±15% 以内でした。マトリックス効果の調査を、6 名のドナーの血清サンプルを用いて行いました。分析種のピーク面積のみを評価する際にイオン化抑制が観察されましたが(回収率が 1.0 未満)、これは正規化マトリックス係数の結果で示されているように、使用した内部標準試料によって補正しました。分析種:内部標準試料のレスポンス比に基づき、すべての正規化マトリックス係数の計算値は 0.85 ~ 1.15 の範囲内でした(表 6)。取得したサンプル内に存在する 25OHD3 および C3-epi-25OHD3 の内因性濃度が高いため、低濃度のスパイクは評価できませんでした。

表 6.  ビタミン D 代謝物のマトリックス効果のサマリー

代謝物 25OHD3 および 1,25diOHD3 について DEQAS 40 サンプル(英国、Charing Cross Hospital)を分析し、それぞれの濃度計算値を NIST 割り当て値または LC-MS トリム平均(LC-MS TM)と比較して、正確性を評価しました。25OHD3 および 1,25diOHD3 の正確性が表 7 および図 4 に示されています。25OHD3 では、DEQAS NIST 割り当て値と比較して、バイアスが最小の良好な一致が観察され、1,25diOHD3 では、DEQAS LC-MS トリム平均と比較して、負のバイアスとの良好な一致が観察されました。負のバイアスの可能性のある説明の 1 つは、図 2 に示されているように、この分析法でクロマトグラフィー分離される他のジヒドロキシビタミン D 代謝物からの干渉の可能性です。

表 7.  25OHD3 および 1,25diOHD3 の正確性のサマリー
図 4.  DEQAS NIST 割り当て値(25OHD3)または LC-MS TM 値(1,25diOHD3)(割り当て値)とウォーターズの UPLC-MS/MS 分析法(計算値)を比較したデミング回帰プロット

結論

血清中の 6 種類のビタミン D 代謝物の分析のための、分析感度が良好な臨床研究法が開発されました。この分析法では、わずか 200 µL の血清を使用して、比較的単純なサンプル抽出手順で、ブランクの処理済み血清サンプルと 1.25 pg/mL の 1,25diOHD3 をスパイクした同じマトリックスを区別できており、1,25diOHD3 を 5 pg/mL で定量できます。Hamilton STAR リキッドハンドリングロボットを使用して、サンプル抽出を半自動化することができ、サンプルチューブのバーコードから解析結果までのサンプル追跡が可能です。

説明したアッセイにより、5 日間にわたる優れた精度、正確性、および測定範囲全体にわたる直線性が実証されています。試験した内因性化合物からの顕著なキャリーオーバーや干渉はなく、マトリックス効果は内部標準試料の使用によって補正され、最大 1:4 の希釈を行えます。

720007589JA、2022 年 4 月

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