親水性相互作用液体クロマトグラフィーを使用した医薬品カウンターイオンの分析法および定量法
要約
親水性相互作用液体クロマトグラフィー(HILIC)とエバポレイト光散乱検出器(ELSD)を組み合わせることで、医薬品の陰・陽カウンターイオンの分離、検出、定量が可能になります。この分析法により、単一の分析法を使用して医薬品有効成分(API)である遊離塩基を塩カウンターイオンから分離できることがさらに実証されます。
アプリケーションのメリット
はじめに
報告によれば、薬剤の約 50% が何らかの形態の塩と結合しています1。 多くの API には、治療薬のバイオアベイラビリティに必要な可溶性がありません2,3。 そこで、不溶性 API を可溶性の塩と組み合わせることで、バイオアベイラビリティを高め、治療効果を得るために必要な API の量を削減することができます。遊離塩基および塩カウンターイオンの同定および定量は、製薬業界の品質管理に不可欠です4。 API とその塩の間の化学的相違により、最終的な医薬品の同定および定量には、逆相やイオン交換などの複数の分析法が使用されます。この課題は、従来の逆相クロマトグラフィーとは逆の働きをする手法である HILIC を使用して解決することができます。HILIC では、水系移動相が強溶媒で、有機移動相が弱溶媒です。水系と有機溶媒の混合移動相は、極性固定相の周囲に水の層を形成します。これにより、分析種の極性に基づいて、水層と有機層の間で分析種を分配することができます。
HILIC 固定相は、異なる官能基で修飾することもできます。これによりテクノロジーの選択性が向上します。今回使用する双性イオン HILIC 固定相には、負に荷電したスルホン酸基と正に荷電した第 4 級アンモニウム基を有するスルホベタイン官能基が含まれています5。 これにより、陽イオンと陰イオンを同じ分析法で保持および分離できます。医薬品を分析する際のもう 1 つの課題として、一部の成分には発色団がない場合があることが挙げられます。汎用検出器を使用することで、このハードルを軽減できます。そのため、この試験では ELSD を利用しました。ELSD は、移動相を噴霧して、カラムから分析種を脱離させる手法です。揮発性移動相が蒸発し、乾燥した溶質の粒子が残ります。この乾燥粒子が ELS 検出器に流入し、光のビームを散乱します。散乱光の量を測定すると、溶出する物質の濃度と相関性があります6。 HILIC と ELSD の組み合わせは、API の遊離塩基から医薬品カウンターイオンを分離および定量するための戦略的アプローチを提供します。
実験方法
サンプルの分離法の説明
本試験で使用した塩は、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カルシウム、リン酸カリウム、塩化マグネシウムで、これらは Sigma-Aldrich (Allentown、PA)から購入しました。これらのさまざまな塩を、個別のストック溶液として 50% アセトニトリル中に濃度 1 mg/mL になるように調製しました。続いて、これらの塩のストック溶液を組み合わせて濃度 0.1 mg/mL になるように 60% アセトニトリルで希釈し、溶解済みカウンターイオンスタンダードを調製しました。溶液は 2 ℃ ~ 8 ℃ で保存し、室温に平衡化してから分析を行いました。
直線性サンプルの説明
本試験の直線性の部分で使用した塩は、硫酸ナトリウム、塩化マグネシウム、リン酸カリウムで、これらは Sigma-Aldrich (Allentown、PA)から購入しました。これらのさまざまな塩を、個別のストック溶液として濃度 100 mM になるように 60% アセトニトリル中に調製しました。続いて、塩のストック溶液を 60% アセトニトリル中に個別に希釈して 1 ~ 100 mM のさまざまなキャリブレーションスタンダードを作成し、これらを用いて 3 種類の線形検量線を作成しました。溶液は 2 ℃ ~ 8 ℃ で保存し、室温に平衡化してから希釈または注入しました。
LC 条件
LC システム: |
ACQUITY™ Arc™ Premier LC システム |
検出: |
Waters™ 2424 エバポレイト光散乱検出器 |
カラム: |
Atlantis™ Premier BEH™ Z-HILIC、4.6 × 100 mm、2.5 μm |
カラム温度: |
40 ℃ |
サンプル温度: |
室温 |
注入量: |
10 µL |
流速: |
1.4 mL/分 |
移動相 A: |
アセトニトリル |
移動相 B: |
脱イオン水(DI 水) |
移動相 C: |
200 mM ギ酸アンモニウム |
移動相 D: |
2% ギ酸 |
グラジエントテーブル
データ管理
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Waters Empower™ 3 ソフトウェアビルド 3471 |
結果および考察
分離法の結果
Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラムを使用して開発した手法により、良好な保持性、分離能、再現性でさまざまなカウンターイオンを分離することができます。カウンターイオンの構造中に発色団が存在しないため、ELS 検出器を選択しました。
カウンターイオンスタンダードの分析には再現性がありました。10 回の注入の過程で面積と保持時間の両方について RSD は 5% でした(図 1a、表 1、および表 2)。カリウム、リン酸、マグネシウムの各イオンでは、保存時間が 5% RSD、面積が 6% RSD の範囲内でした(表 1)。これらの %RSD は、ELSD などのネブライザーベースの検出法を使用する場合に予測される値です。
さらに、この分析法ではカウンターイオンを分離できることが示されましたが、API 遊離塩基を塩から分離して塩を定量することもできます。ナプロキセンナトリウム、メトホルミン塩酸塩、ロサルタンカリウムは、60% アセトニトリル中にさまざまな濃度で調製しました。これらのピークは、薬物塩の遊離塩基から分離されたイオンを同定するために、カウンターイオンスタンダードに揃えています(図 2a ~ 2d)。
図 2a. カウンターイオンスタンダード(黒)の ELSD クロマトグラム。クロマトグラム中のピークは、硝酸(1)、カリウム(2)、ナトリウム(3)、塩化物(4)、リン酸(5)、マグネシウム(6)、カルシウム(7)です。これを既知のカウンターイオンのレファレンスとして使用して、図 2b、2c、2d の薬物サンプルと比較します。既知のカウンターイオンは、図 2a から薬物サンプル中のそれぞれのイオンまでの長い矢印で示しています(図 2b、2c、2d)。
図 2b. 濃度 3 mg/mL で調製した医薬品ナプロキセンナトリウムの ELSD クロマトグラム(赤)。ナプロキセン遊離塩基性化合物は約 0.6 分、ナトリウムイオンは約 3.1 分に現れています。このナトリウムピークは、図 2a の既知のナトリウムピークと一致しています。ナトリウムイオンは 16.397 mM と定量されました。
図 2c. 濃度 0.5 mg/mL で調製した薬物メトホルミン塩酸塩の ELSD クロマトグラム(オレンジ色)。メトホルミン遊離塩基は約 1.7 分、塩化物イオンは約 3.4 分に検出されています。この塩化物のピークは、図 2a の既知の塩化物のピークと一致しています。塩化物イオンは、2.788 mM と定量されました。
図 2d. 濃度 10 mg/mL で調製したロサルタンカリウムの ELSD クロマトグラム(青)。ロサルタン遊離塩基は約 0.7 分、カリウムイオンは約 3.0 分に現れています。このカリウムのピークは、図 2a の既知のカリウムのピークと一致しています。カリウムイオンは 21.205 mM と定量されました。
直線性の結果
さまざまな塩を 100 mM のストック溶液として調製し、2.5 mM ~ 100 mM の範囲でスクリーニングしました。塩の溶解度と検出器のキャパシティーに基づいて、それぞれの塩の線形範囲を個別に再計算しました。それぞれのカウンターイオンの具体的な直線性の範囲を以下の表 3 に示します。
表 3
それぞれのカウンターイオンの直線性を、ELSD の操作ガイドで推奨されている直線性の対数/対数近似を使用して計算しました6。 検量線は Empower 3 で作成しました(図 3a ~ 3c)。これらの線形検量線を使用して、図 2 に示す薬物サンプル中のイオンを定量しました。
図 3b. 2 mM ~ 20 mM の濃度範囲の塩化物の検量線
図 3c. 8 mM ~40 mM の濃度範囲のカリウムの検量線
カウンターイオン曲線の R2 値は 0.997 を上回っています。このことは、HILIC と ELSD を併用することでカウンターイオン濃度を正確に計算できることを示しており、医薬品カウンターイオンの定量分析の解決策となります。
この試験を通して、システムデータの再現性を維持するために推奨される一連の対策を取りました。約 100 回の注入の後、ELSD の操作ガイドに記載されているように、ネブライザーを超音波洗浄し、ドリフトチューブをフラッシュ洗浄して ELSD のクリーニングを行いました6。 ほとんどの一般的なカウンターイオンは不揮発性の塩であるため、ELSD に蓄積して析出することがあります。
また、水系移動相を毎週調製し直し、注入前にテストブランク注入を行ってベースラインを平滑化することが推奨されています。
結論
製薬業界では、分析法の品質と効率が重要になります。この試験では、Waters Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラムと ELSD を組み合わせて使用することで、塩中のさまざまなカウンターイオンの保持と分離、およびカウンターイオンを関連する API 遊離塩基から分離することができることが示されました。さらに、この分析法のダイナミック直線性により、カウンターイオンの正確な定量が行えます。結果には再現性があり、この分析法により原薬中のカウンターイオン分析における課題が解決されることが示されました。
参考文献
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- Staiger Pharm D. B. What Are “Salt Forms” Of Drugs And Why Are They Different? [Internet].Walrus. Walrus Health; 2018 [cited 2022 Jan 5].Available from: https://walrus.com/questions/what-are-salt-forms-of-drugs-and-why-are-they-different.
- Savjani KT, Gajjar AK, Savjani JK.Drug Solubility: Importance and Enhancement Techniques.International Scholarly Research Notices Pharmaceutics [Internet].2012;2012:1–10.Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3399483/.
- Dotzel M. Q6A Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for New Drug Substances and New Drug Products: Chemical Substances [Internet].U.S. Food and Drug Administration.U.S. Food and Drug Administration; 2000 [cited 2022 Jan 5].Available from: https://www.fda.gov/regulatory-information/search-fda-guidance-documents/q6a-specifications-test-procedures-and-acceptance-criteria-new-drug-substances-and-new-drug-products.
- Walter T, Berthelette K, Patel A, Alden B, McLaughlin J, Field J, Lawrence N, Shiner S. Introducing Atlantis™ BEH Z- HILIC : A Zwitterionic Stationary Phase Based on Hybrid Organic/Inorganic Particles [Internet].www.waters.com.Waters Corporation; Waters Application Note: 720007311 2021.
- Waters™ Corporation.2424 Evaporative Light Scattering Detector Operator’s Guide 71500121802 Revision B. 2006.
720007564JA、2022 年 3 月