ACQUITY™ Premier UPLC™ システムおよび Xevo™ TQ Absolute 質量分析計を使用した、創薬バイオアナリシス向けのヒト血漿およびラット血漿中のワルファリンとフロセミドの定量
要約
創薬および開発プロセスにおいては、医薬品化合物の正確かつ精密な定量が不可欠です。このような分析には、タンデム四重極型質量分析計と組み合わせた UHPLC が最適です。低濃度の医薬品候補やバイオマーカーの定量の重要性が高まる中で、より感度の高い装置プラットホームへのニーズも高まっています。このアプリケーションノートでは、2 つの代表的なモデル化合物(ワルファリンとフロセミド)のヒト血漿およびラット血漿からの抽出および定量における一般的な分析法について説明しています。
ワルファリンは抗凝血剤であり、血栓塞栓症の治療および予防に使用されます。ワルファリン濃度が狭い治療濃度域に留まっていることを確認するためには、その慎重かつ継続的なモニタリングが重要になります。フロセミドは利尿剤であり、心不全、肝疾患、または腎疾患を有する患者における浮腫の治療に使用されます。
ACQUITY™ Premier UPLC システムおよび Xevo™ TQ Absolute 質量分析計をネガティブイオン ESI モードで操作することで、ラット血漿およびヒト血漿のいずれにおいても、ワルファリンでは 0.025 ~ 100 ng/mL、フロセミドでは 0.1 ~ 100 ng/mL の範囲の直線的な検量線が得られました。検量線のすべてのポイントでの %CV および QC は、いずれの分析種についても両方のマトリックスで 13% 未満でした。
アプリケーションのメリット
- 正確、精密および高感度の定量
- ワルファリンとフロセミド
- ACQUITY Premier UPLC システム
- Xevo TQ Absolute 質量分析計
はじめに
創薬および医薬品開発の各段階において、薬物、その代謝物、および関連する体内のバイオマーカーの濃度についての定量的な情報を提供することで、バイオアナリシスは重要な役割を担っています。このデータにより、医薬品の吸収、分布、代謝、排泄、毒性(ADMET)プロファイルについて、また創薬および医薬品開発のパイプラインのさまざまなステップで、適時に意思決定を下すことが可能になります。創薬バイオアナリシスラボでは、LC-MS 分析法を日常的に開発し、PK(薬物動態)サンプルを、毎週数百もの化合物について分析しています1。そのため、サンプル抽出、LC 分析法および MS 分析法のできるだけ多くのステップを簡素化していく必要性があります。一方、汎用的な分析法を用いる実用面でのニーズと、特定の分子や分子のパネルについて適切な感度を達成するニーズの間のバランスを保つ必要があります2。 このようなシナリオにおいて、あらゆる種類の分析種に問題なく対応できる装置プラットホームがあれば、成功のチャンスが大幅に高まります。ラボで遭遇する最も困難な分析種には、非荷電アミン、リン酸、脱プロトンカルボン酸などの存在により金属をキレート化する特性を有する化合物や、質量分析計のイオン源でプロトンを失って負に荷電する分析種などがあります。適切な分析プラットホームがないと、この種の分子の分析は困難になります。このアプリケーションノートでは、一般的な創薬バイオアナリシスラボにおける代表的な分子として、ワルファリンとフロセミドを使用しています。
ヒト血漿およびラット血漿から抽出したワルファリンとフロセミドを、ACQUITY Premier UPLC システムおよび Xevo TQ Absolute 質量分析計を用いて、それぞれ LLOQ 25 pg/mL および 100 pg/mL で定量しました。検量線のすべてのポイントでの %CV および QC は、いずれの分析種についても両方のマトリックスで 13% 未満でした。
実験方法
ワルファリンとフロセミドのストック溶液(100 ng/mL)を使用して、ラット血漿およびヒト血漿にスパイクし、0.025 ~ 100 ng/mL の検量線を作成しました。別のストック溶液(100 ng/mL)を使用して、LLOQ、LQC、MQC、HQC の QC サンプルを調製しました。アセトニトリルによる 1:3 除タンパクを使用して、すべてのサンプルについて 100 µL を 3 回繰り返しで抽出しました。サンプルを遠心分離し、上清を LC-MS バイアルに移して分析を行いました。
LC 条件
LC システム: |
ACQUITY™ Premier UPLC システム |
検出: |
Xevo™ TQ Absolute 質量分析計 |
バイアル: |
Waters トータルリカバリー LCMS バイアル |
カラム: |
MaxPeak™ UPLC HSS T3 2.1 x 50 mm カラム |
カラム温度: |
60 ℃ |
サンプル温度: |
5 ℃ |
注入量: |
1 μL |
流速: |
600 μL/分 |
移動相 A: |
0.01% ギ酸 100% 水溶液 |
移動相 B: |
0.01% ギ酸 100% アセトニトリル溶液 |
グラジエント: |
1.5 分間で 5 ~ 95% |
MS 条件
MS システム: |
Xevo™ TQ Absolute |
イオン化モード: |
ESI- |
キャピラリー電圧: |
0.5 kV |
MRM トランジション
結果および考察
ACQUITY Premier システムは、新規 MaxPeak™ High Performance Surfaces(HPS)テクノロジーを採用しており、これによって、金属との相互作用に起因する非特異的吸着によるサンプル損失が効果的に低減します。創薬バイオアナリシスラボの設定では、創薬可能な物理化学的スペース全体にわたる多数の分析種を扱っていますが、このようなテクノロジーにより、誘導体化や難度の高いクロマトグラフィーカラム、バッファー、移動相などの複雑なサンプル前処理ステップが不要になり、分析法開発およびサンプル分析にかかる時間を大幅に短縮することができます。Xevo TQ Absolute タンデム四重極型質量分析計は、コンパクト設計を採用した新しい高性能タンデム四重極型質量分析計で、陰イオン検出の強化、取り外し可能なイオンソースシールドにより、サンプルマトリックスおよび移動相のバッファー塩によるイオン源の汚染が低減しています。これらの特性はルーチンの頑健で高感度の検出器に最適であり、ポジティブモードとネガティブモードの両方で業界トップクラスの感度が得られ、クリーニングによるダウンタイムを最小限に抑えられることから、毎週数百のサンプルを分析しているラボにも対応できます。
上述のサンプル抽出および LC-MS 分析法を使用して、ラット血漿およびヒト血漿からのワルファリンの LLOQ 25 pg/mL が達成できました(図 1)。これらの LLOQ は、ブランク抽出サンプルでの同じ保持時間との比較におけるシグナル/ノイズ比 5 に基づいて決定したものです。同様に、ヒト血漿およびラット血漿中のフロセミドの LLOQ は 100 pg/mL と決定されました(図 2)。
両方の分析種で観察された MS レスポンスは、検量線全体にわたる濃度での代表的なクロマトグラムに示されるように、直線的に増加していました(図 3)。
検量線および QC のすべてのポイントで、毎日 3 回繰り返しで抽出を行いました。すべてのポイントの % CV は、すべての濃度にわたって 12% 未満でした(表 1)。
結論
ヒト血漿およびラット血漿から抽出したワルファリンおよびフロセミドを、ACQUITY Premier UPLC システムおよび Xevo TQ Absolute タンデム四重極型質量分析計を使用して定量したところ、以下の結果が得られました。
- ヒト血漿およびラット血漿のいずれにおいても、ワルファリンおよびフロセミドの LLOQ はそれぞれ 25 pg/mL および 100 pg/mL でした。
- 検量線全体のすべてのポイントでの %CV および QC レベルは 12% 未満で、大幅にバイオアナリシスの許容範囲を下回っていました。
ACQUITY Premier UPLC システムおよび Xevo TQ Absolute タンデム四重極型質量分析計では、妥協のない優れた頑健性と感度が得られるため、創薬バイオアナリシスラボ内における理想的なプラットホームとして使用できる可能性があります。
参考文献
- Bateman KP, Cohen L, Emary B, Pucci V., Standardized Workflows for Increasing Efficiency and Productivity in Discovery Stage Bioanalysis, Bioanalysis.2013 Jul;5(14):1783–94.
- Meng M, Wang L, Voelker T, Reuschel S, Van Horne K, Bennett P., A Systematic Approach for Developing a Robust LC-MS/MS Method for Bioanalysis, Bioanalysis.2013 Jan;5(1):91–115.doi: 10.4155/bio.12.295.
720007573JA、2022 年 3 月