RADIAN ASAP を用いた鉱油中の添加剤の迅速な直接分析
要約
このアプリケーションノートでは、Waters RADIAN™ 大気圧固体試料分析プローブ(ASAP)質量検出器を使用した、鉱油中の化学添加剤の定量分析に用いる迅速かつ直接的な分析法を評価しました。
アプリケーションのメリット
シンプルなシステム操作およびデータの解釈、最小限のサンプル前処理(サンプル希釈)を用いた、対象化合物のクロマトグラフィー分離に関する要件のない、最終製品の品質管理向けの潤滑油中添加剤の直接分析。
はじめに
鉱油は、原油の蒸留により生じる石油化学製品であり、ほとんどの場合、摩擦を減らし、効率を高め、機械部品を保護するための、エンジンや機械部品の潤滑剤として使用されます。これらに加え、自動車のエンジンの、腐食からの保護、汚泥の蓄積防止、混入物の除去または低減、冷却のために設計されています。
鉱油は、酸化や分解のために、時間とともに自然に劣化します。劣化を避け、油としての性能を高めるのに、基油にさまざまな化学添加剤が添加されています。一般に使用されている添加剤には、酸化防止剤、腐食防止剤、界面活性剤/分散剤、摩耗調整剤、消泡剤、アルカリ剤、増粘剤があります1。 通常、ほとんどの潤滑油に 15 ~ 30% の添加剤が含まれています。潤滑油の配合の分析および継続的なモニタリングは、潤滑油の製造において、また潤滑油の経時的な化学組成の変化や性能劣化についての理解を深めるために不可欠なステップです。一例として、一例として、配合を行うラボを行うラボでは、油の組成について明確に理解しておくことが必要です。鉱油は複雑な化学的プロファイルを有するため、これは困難な作業であり、適切な時間スケールで信頼性の高い結果を得るためには、適切な分析手法を選択することが不可欠です。鉱油サンプルに含まれる化学物質の複雑性および多様性を考慮して、従来、液体クロマトグラフィー(LC)あるいはガスクロマトグラフィー(GC)をノミナル質量または高分解能質量分析(MS)検出器と組み合わせた分析手法が使用されていました。このような手法は、利点はあるものの、時間がかかり、ある程度のサンプル前処理が必要なために分析費用がかさみ、品質管理ラボのサンプルスループットに影響を及ぼします。このアプリケーションノートでは、さまざまな鉱油添加剤について信頼性の高い測定を行うための、シングル四重極質量分析計に大気圧固体試料分析プローブ(ASAP)を組み合わせた小型の RADIAN ASAP 質量検出器を使用する、迅速かつ直接的な分析法を開発して試験しました。
実験方法
市販の鉱油サンプル 2 種(S444137 および S444192)を、分析する前に、0.1% ギ酸含有トルエン:メタノール(9:1)を用いるシンプルな希釈ステップで、最終濃度 0.1 mg/mL にしました。
次に、希釈したサンプルを密閉ガラスキャピラリーを使用して分析しました(図 1)。各サンプルに対して、別個のガラスキャピラリーを使用しました。各ガラスキャピラリーをまずキャピラリーブランクとして、そして溶媒キャピラリーブランク(鉱油サンプルの希釈溶媒にキャピラリーを浸す)として分析してから、希釈済み液体油サンプルをロードしました。
分析の構成:分析装置に、Waters RADIAN ASAP をポジティブおよびネガティブ ASAP モードで使用しました。分析法で使用したパラメーターの詳細は表 1 に示します。サンプルを RADIAN ASAP の密閉ガラスロッド上のコロナ放電領域に導入し、加熱した窒素流により蒸発させました。気化した分析種の分子は、窒素プラズマでイオン化された後、装置に導かれ、フォトマルチプライヤー検出器を搭載したシングル四重極アナライザーで分析されました。装置のコントロールおよびデータ取り込み/解析は MassLynx™ 4.2 ソフトウェアで行いました。
結果および考察
使い捨てガラスキャピラリーを使用して、装置正面から鉱油サンプルを RADIAN ASAP イオン源に導入しました。蒸発した分子から窒素プラズマにより間接的に生成するイオンは、装置に導かれ、異なる質量電荷比(m/z)に基づいて並べ替えられた後、検出されてマススペクトルが生成されます。温度上昇プログラムを使用して分析した鉱油サンプルの代表的なトータルイオンクロマトグラム(TIC)プロファイルを図 2 に示します。
サンプルキャリーオーバーは、特に鉱油などの複雑なサンプルの分析測定に影響を及ぼす大きな問題です。鉱油サンプルの分析後、サンプル間のわずかなキャリーオーバーが観察されました。キャリーオーバーの評価のためのトータルイオンカレント(TIC)クロマトグラムの例を図 3 に示します。
両方の鉱油サンプル(S444137 および S444192)について、ポジティブ ASAP イオンモードで、酸化防止剤および基油が正常に検出されました(図 4)。サンプル S444137 には主に t-ブチルヒドロキノン(m/z 167 [M+H]+)およびフェノール系酸化防止剤(m/z 390)が含まれていたのに対し、サンプル S444192 にはアミンを含む酸化防止剤が含まれ、ジノニルジフェニルアミン(m/z 422 [M+H]+)と同定されました。これらについては以前、微量の極性溶媒がプロトン供与体として機能する場合に一般的な、アミンベースの酸化防止剤のプロトン化が報告されています2.3。
ポジティブ ASAP イオン化モードに加えて、鉱油サンプルをネガティブ ASAP イオンモード(ASAP-)でも取り込みました。ほとんどの[M-H]- 脱プロトン化分子種が、フェノール系酸化防止剤イオン(m/z 389)、ジチオリン酸亜鉛(m/z 241 および m/z 255)、アルキルサリチル酸(m/z 333 および m/z 361)、硫黄結合フェノール(m/z 533)に対応する主な付加イオンとともに観察されました。ASAP- データによると、サンプル S444137 には主にジアルキルジチオリン酸亜鉛、フェノール系酸化防止剤、硫黄結合フェノールが含まれていたのに対して、サンプル S444192 には多量のジチオリン酸亜鉛、フェノール系酸化防止剤、アルキルサリチル酸が含まれていました(図 5)。
結論
市販の鉱油サンプルの添加剤の分析に、Waters RADIAN ASAP 質量検出器を用いた迅速かつ直接的な分析法を使用しました。得られた結果により、この分析法では、市販の鉱油サンプルに含まれるさまざまな目的化学成分が幅広くカバーできることを示しています。鉱油サンプル中からフェノール、亜鉛、アミン系酸化防止剤、硫黄ベースのフェノール類、基油成分が検出されました。
RADIAN ASAP により、迅速でサンプルあたりのコストが低い鉱油分析が可能になり、トレーニングや質量分析についての知識が少なくても分析結果が得られ、ペースの速い品質管理ラボや配合を行うラボに適しています。これらのラボで、鉱油サンプルに含まれる主な化学成分を簡単に検出でき、意思決定プロセスを加速することが可能になります。サーマルグラジエント分析などの機能は、このような複雑なサンプルに適しており、単純な分析法を使用することで、分析結果を迅速に生成できます。
参考文献
- Kreisberger G, Klampfl CW, Buchberger WW.Determination of Antioxidants and Corresponding Degradation Products in Fresh and Used Engine Oils. Energy Fuel.2016;30(9):7638–7645.doi:10.1021/acs.energyfuels.6b01435.
- Basham V, Hancock T, McKendrick J, Tessarolo N, Wicking C. Detailed Chemical Analysis of a Fully Formulated Oil Using Dielectric Barrier Discharge Ionisation–Mass Spectrometry.Rapid Commun Mass Spectrom.2022;36(14):e9320.doi:10.1002/rcm.9320.
- Riches E, Da Costa C. RADIAN ASAP for Quick and Simple QC Screening for Additives in Lubricant Oils.Waters Corporation Application Note 720007090, 2020.
ソリューション提供製品
720007685JA、2022 年 7 月