• アプリケーションノート

臨床研究用全血中のシクロスポリン、エベロリムス、シロリムス、タクロリムスの同時分析

臨床研究用全血中のシクロスポリン、エベロリムス、シロリムス、タクロリムスの同時分析

  • Stephen Balloch
  • Lisa J. Calton
  • Gareth Hammond
  • Waters Corporation

研究目的のみに使用してください。診断用には使用できません。

要約

このアプリケーションノートでは、少量のヒト全血のシンプルで迅速なタンパク質沈殿を使用した臨床研究法について説明しています。

アプリケーションのメリット

  • クロマトグラフィーおよび高選択性質量検出器によって分析選択性を実現
  • 少量のサンプルを使用したシンプルで低コストなサンプル前処理
  • 4 種類の分析種の同時分析により分析時間を加速

はじめに

免疫抑制剤であるシクロスポリン、エベロリムス、シロリムス、タクロリムスについては、高い個体間および個体内の薬物動態変動が知られています1。そのため、正確で高感度の分析法は、投与の薬物動態効果および薬力学効果の研究において有用な可能性があります。

ここでは、少量のヒト全血のシンプルで迅速な除タンパクを使用した臨床研究法について説明しています。FL システムを搭載した Waters ACQUITY UPLC I-Class で Waters™ ACQUITY™ UPLC™ HSS C18 SB カラムを使用したクロマトグラフィー溶出は、1.5 分以内で完了しました。4 種類の分析種すべての同時分析、およびその後の Xevo™ TQ-S micro 質量分析計による検出(図 1)では、注入から次の注入までが 2 分未満で達成されました。

図 1.  FL システムおよび Xevo TQ-S micro 質量分析計を搭載した Waters ACQUITY UPLC I-Class

実験方法

サンプル前処理

全血キャリブレーション試薬およびシクロスポリン、エベロリムス、シロリムス、タクロリムスが含まれている品質管理試料を使用しました。それぞれについて、2H12-シクロスポリン、13C22H4-エベロリムス2H3-シロリムス、アスコマイシンを内部標準試料として使用しました。

キャリブレーション試薬および QC の濃度(低、中、高濃度)については、表 1 に詳細に示されています。

表 1.  キャリブレーション試薬および QC の濃度

サンプル抽出

サンプル 50 µL を 2 mL 96 ウェルサンプル収集プレート(製品番号 186002482)にピペットで注入します。200 µL の 0.1 M ZnSO4(aq)を加えて、ボルテックス混合してから、500 µL の内部標準試料(ISTD)アセトニトリル溶液を加えて、ボルテックス混合します。このプレートを 4,696 g で 2 分間遠心分離し、上清を分析します。

UPLC 条件

システム:

ACQUITY UPLC I-Class、FL 搭載

ニードル:

20 µL

ループ:

50 µL

カラム:

ACQUITY UPLC HSS C18 SB カラム、1.8 µm、2.1 × 30 mm(製品番号:186004117)

カラム温度:

55 ℃

サンプル温度:

8 °C

注入量:

20 µL

注入モード:

PLNO(先行ロード有効)

移動相 A:

水 + 2 mM 酢酸アンモニウム + 0.1% ギ酸

移動相 B:

メタノール + 2 mM 酢酸アンモニウム+ 0.1% ギ酸

弱洗浄溶媒:

水:メタノール 95:5(v/v)、600 µL

強洗浄溶媒:

水:メタノール:アセトニトリル:IPA 1:1:1:1(v:v:v:v)、200 µL

シール洗浄溶媒:

水:メタノール 80:20(v/v)

分析時間:

1.5 分(注入間時間 1.9 分)

グラジエント溶出:

表 2

表 2.  免疫抑制剤分析用グラジエント

MS 条件

システム:

Xevo TQ-S micro

分離:

MS1(0.7 FWHM)、MS2(0.7 FWHM)

取り込みモード:

マルチプルリアクションモニタリング(MRM)(詳細は表 3 を参照)

極性:

ESI+

キャピラリー電圧:

0.8 kV

イオン源温度:

120 ℃

脱溶媒温度:

400 ℃

スキャン間遅延:

0.01 秒

チャンネル間遅延:

0.01 秒

データ管理

データ管理:

MassLynx™ v4.2(TargetLynx XS™ アプリケーションマネージャを搭載)

MRM パラメーター

表 3.  この試験で使用した分析種および内部標準のガイドライン MRM パラメーター

結果および考察

図 2 には、キャリブレーション試薬 1(25 ng/mL シクロスポリンおよび 1 ng/mL エベロリムス、シロリムス、タクロリムス)のクロマトグラムの例が示されています。

図 2.  FL/Xevo TQ-S micro IVD システムを搭載した ACQUITY UPLC I-Class を使用した、25 ng/mL のシクロスポリン、および 1 ng/mL のエベロリムス、シロリムス、タクロリムスの分析で得られたクロマトグラム

3000 ng/mL のシクロスポリン、および 60 ng/mL のエベロリムス、シロリムス、タクロリムスが含まれている全血サンプル分析の直後に、システムキャリーオーバーは認められませんでした。

5 日間にわたって全血中に調製した低濃度サンプルを 10 回繰り返し抽出・定量することで、分析感度を評価しました(n = 50)。調査の結果、この分析法では、表 4 に示す濃度で正確な定量(≤ 20% CV、≤15% バイアス)が可能であることが示されました。

表 4.  分析感度サマリー(LLMI は測定間隔の下限です)

合計精度は、連続しない 5 日間にわたって 3 濃度の全血プールを 5 回繰り返しで抽出・定量することによって測定しました(n = 25)。各レベルで QC 試料を 5 回繰り返し分析することによって再現性を評価しました。表 5 にこれらの実験の結果を示しています。評価した 3 濃度での合計精度と再現性は ≤8.4% RSD でした。

表 5.  合計精度と再現性の性能

さまざまな比率の高濃度および低濃度の全血プールを組み合わせて分析した結果、この分析法は、シクロスポリンでは 19.3 ~ 1500 ng/mL の範囲で、エベロリムス、シロリムス、タクロリムスでは 0.77 ~ 39.0 ng/mL の範囲にわたって直線性があることが分かりました。

高濃度サンプルの 1:1 の希釈(ブランク全血を使用)の後、10.4% 以下のバイアスが達成され、分析法のキャリブレーション範囲内になりました。

93.2 ~ 108.4% の QC 濃度範囲にわたる回収率(抽出効率)。

マトリックス効果は、全血中の低 ~ 高 QC 濃度(n = 5)で、同等の濃度になるように添加した抽出溶媒サンプルの割合として評価しました。分析種対内部標準のレスポンス比を用いる計算を、内部標準によるシグナルの増強または抑制の補正の指標としました(表 6)。

表 6.  定量マトリックス効果のサマリー

さらに、ポストカラム注入実験により、著しいイオン化促進やイオン化抑制のない範囲で分析種が溶出することが示されました。

高濃度で添加した内因性化合物(アルブミン、ビリルビン、コレステロール、クレアチニン、トリグリセリド、尿酸)からの潜在的な干渉を、低濃度および高濃度のプールした全血サンプル(150 および 900 ng/mL のシクロスポリン、4 および 22 ng/mL のエベロリムス、シロリムス、タクロリムス)からの回収率を測定することによって評価しました(n = 3)。すべての回収率は 85 ~ 115% の範囲内でした。例外は 120 mg/mL で補完したアルブミンで、達成値は 84.1 ~ 115% でした。

分析法の正確性を評価するため、LGC(Bury、英国)全血外部品質保証サンプルを調達して、分析しました。サマリーは表 7 に示されています。 

表 7.  正確性のサマリー(注:ALTM:All-Laboratory Trimmed Mean、全ラボトリム平均)

結論

わずか 50 µL の全血を使用して、高速で低コストなサンプル前処理手順により、2 分間未満(注入と注入の間)の単一の分析で、免疫抑制剤シクロスポリン、エベロリムス、シロリムス、タクロリムスの同時分析を達成できます。

この分析法の性能特性からは、試験したすべての分析種および濃度にわたって、良好な分析感度、全体精度、再現性(≤8.4% RSD)が示されています。マトリックス効果は内部標準試料の使用によって補正され、キャリーオーバーは認められませんでした。

さらに、EQA サンプルの分析で良好な一致が得られ、この分析法の正確性への信頼が得られました。 

参考文献

  1. Crossart A, Isbel M, Schuder C, Campbell SB, and Staatz CE.Pharmacokinetic and Pharmacodynamic Considerations in Relation to Calcineurin Usage in Elderly Kidney Transplant Recipients.Frontiers in Pharmacology. April 2021; Volume 12; Article 635165. 

720007586JA、2022 年 4 月

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