• アプリケーションノート

分析種の安定性に対するサンプルバイアルの影響:LC 分析中の医薬品のバイアル内分解の軽減

分析種の安定性に対するサンプルバイアルの影響:LC 分析中の医薬品のバイアル内分解の軽減

  • Kenneth D. Berthelette
  • Yuehong Xu
  • ZhiLin Zhang
  • Markus Wanninger
  • Clarice Stumpf
  • Waters Corporation

要約

品質管理プロセス(QC)は医薬品の製造に不可欠な部分です。低分子医薬品から高分子の生体分子まで、すべての医薬品は、厳格な試験を行って、消費者に対して有害である可能性のあるレベルの不純物が存在しないことを確認する必要があります。医薬品の正常な試験の実行で役割を果たすいくつかの要因があり、その 1 つはサンプルに対して選択するバイアルの種類です。以前に報告されているように、一部の種類のバイアルでは、医薬品の非特異的な吸着や分解が発生する可能性があります1–5。ここに示されているデータでは、2 種類の低分子医薬品(ドロスピレノンおよびロバスタチン)の分析について 3 種類のバイアルが比較されています。これらの有効医薬品成分の溶液は、ポリエチレンバイアルおよび TruView™ pH コントロール液体クロマトグラフィー-質量分析(LCMS)品質保証バイアル中で保存した場合、エステルの加水分解による分解物生成がないことから明らかなように、安定であることが示されています。一方、標準のガラスバイアルでは、同じ試験条件下で同じ化合物の分解物が、さまざまなレベルで生成されることがわかっています。これらの結果は、QA/QC ワークフローを模倣して、医薬品のアッセイでのバイアルの選択の重要性を示しています。 

アプリケーションのメリット

  • 特別に処理したガラスバイアル(TruView pH コントロール LCMS 品質保証バイアル)の使用により、標準バイアルと比較して分解物の生成が大幅に抑えられて不純物の規格外の誤検出が低減
  • バイアルの繰り返し間およびロット間での一貫した結果により、信頼性の高い LC アッセイ結果が保証される
  • 特別に処理したガラスバイアルでは、ポリエチレン製バイアルと同等の結果が得られる

はじめに

医薬品の QC ワークフローは、許容可能な品質の製品のみが消費者に届くようにするため、厳格に管理されています。これらのワークフローの一環として、特定の不純物のレベルについて限界が設定されています。既知の不純物についてはピーク面積の上限を指定できますが、未知の不純物については、これらの限界を確立することは困難です。一般的に、安定性評価分析法を用いた LC 分析では、有効医薬品成分(API)の製造時に生成される不純物が検出されます。通常ではこの場合、検出される不純物のほとんどを検討対象にしますが、ガラスバイアルによって分解物が生成する可能性も考慮する必要があります。以前に報告されているように、一部の種類のガラスバイアルでは、バイアル内で API の化学変化が起こる可能性があります1-5。 Wallace は、バイアル表面の粒子状物質が少量であっても、再現性のない結果や吸着によるサンプル損失などの(これらが含まれるがこれらに限定されない)データ品質に影響を与える可能性があると指摘しています2。 Arvary および Mangion は、ガラスバイアルによって引き起こされる 2 種類の化合物のリンの擬回転や加水分解により、塩基性サンプル溶液が生成されることを報告しています3。Jin と共同研究者は、ガラスバイアルが医薬品エゼチミブの塩基触媒分解を引き起こすことを示しています4。Huang らにより、サンプルの安定性に対するガラスバイアルの影響に関する別の試験が報告され、その緩和戦略が提案されています5。これらの試験により、不適切なバイアルを使用すると、分析種の吸着や分解が発生し、規格外(OOS)の結果につながる可能性があることが実証されています。

この研究では、選択したガラスバイアルの種類によってサンプルの安定性にどのような影響が出るかを示し、ラクトンが含まれている分析種について示します。ラクトンはエステル基の加水分解を受け、ヒドロキシカルボン酸が生成されます6。特に高濃度の滲出する可能性のあるナトリウムが含まれているバイアルを使用する場合に、QC 試験でこの分解物が出現する可能性があります。ナトリウムの滲出がサンプル希釈液の pH 変化を引き起こして塩基性溶液が生じ、触媒として機能してラクトンの加水分解が発生することがあります。ナトリウムのレベルおよび溶液の pH はバイアルごとに異なることがあり、分解の原因を判定することが困難であり、再現性のない結果が生成されます。ウォーターズの新しい TruView pH コントロール LCMS 品質保証バイアルは、滲出する可能のあるナトリウムやその他の pH を変化させる化合物の含有量が非常に低レベルになるように設計されており、そのため溶液の pH 変化が非常に少なく、塩基触媒反応によるサンプル分解の可能性が低減されます。標準のガラスバイアルに保存すると高レベルの分解を示した 2 種類のラクトンが含まれている化合物の分析に、TruView pH コントロール LCMS 品質保証バイアルを使用しました。 

実験方法

サンプルの説明

70:30(v/v)水:アセトニトリル希釈液を使用して、濃度 1.0 mg/mL のストック溶液を調製しました。これらの溶液をバイアル安定性試験に用いました。強制分解試験では、このストック溶液 100 µL を 0.1 N NaOH 水溶液 10 µL と混合しました。サンプルを、試験前に 24 時間を超えない時間、室温で放置しました。

LC 条件

LC システム:

ACQUITY™ UPLC™ H-Class PLUS(クオータナリーソルベントマネージャー(QSM)、サンプルマネージャーフロースルーニードル(SM-FTN)、カラムマネージャー(CM)、PDA 検出器、QDa™ 質量検出器を搭載)

検出:

UV 254 nm

API および分解物について測定した SIR(表 1 に概要が示されています)

カラム:

ACQUITY Premier HSS T3 1.8 µm、2.1 × 50 mm(製品番号:186009467)

バイアル:

ポリプロピレンバイアル 300 µL(製品番号:186002626)

標準ガラスバイアル 2 mL

TruView pH コントロール LCMS 品質保証バイアル

カラム温度:

30 ℃

サンプル温度:

10 ℃

注入量:

1.0 µL

流速:

0.5 mL/分

移動相 A:

0.1% ギ酸水溶液(Milli-Q 水)

移動相 B:

0.1% ギ酸アセトニトリル溶液

グラジエントプロファイル:

5% から 95% B までの直線ランプ 5 分、95% B を 1.0 分間保持。5% B に 0.1 分で戻り、2.5 分間再平衡化。合計実行時間 8.5 分。

MS 条件

MS システム:

ACQUITY QDa

イオン化モード:

ESI+、ESI-

取り込み範囲:

SIR は表 1 に示されています

キャピラリー電圧:

1.5 kV ESI+ および 0.8 kV ESI-

コーン電圧:

15 V

フルスキャンの範囲:

50~500 Da

サンプリングレート:

5 ポイント/秒

表 1.  モニターする分析種、ニュートラル質量、および予想される M+H イオンまたは M-H イオン 
図 1.  ドロスピレノン、ロバスタチン、および予想される分解物の化学構造。親薬物のエステル加水分解する活性部位は丸で囲まれています。 

データ管理

クロマトグラフィーソフトウェア:

Empower™ 3 FR4

結果および考察

ガラスバイアルには、多くの場合、製造プロセスが原因で、低レベルの滲出する可能性のあるアルカリ金属が含まれています。ガラスバイアル中の最も一般的なアルカリ金属の 1 つはナトリウムで、これが水溶液中に滲出し、溶液の pH を上昇させる可能性があります1。以前の試験で、溶液の保管に用いるバイアルの種類によって pH がさまざまな程度に変化することが示されています。ただし、滲出する可能性のあるナトリウムのレベルが低い種類のバイアルであっても、これは製造者によって異なることや、同じ製造者のバイアルでもバイアル間やバイアルのロット間で異なることがあります。これらの pH 変化を測定する試験法を開発しました。この効果について実証するため、TruView pH コントロール LCMS 品質保証バイアル(以下「処理済み」と記載)、標準のガラスバイアル、他社製ガラスバイアルについて測定した平均 pH 対平均ナトリウム濃度のプロットが図 2 に示されています。ナトリウムレベルは ICP‐OES で測定し、pH 測定は独自の手法を用いて行いました。

図 2.  処理済みバイアル、標準ガラスバイアル、他社製ガラスバイアルについて測定した平均 pH 対平均ナトリウム濃度のプロット 

処理済みガラスバイアル内の水溶液中のナトリウム濃度は低く、溶液の pH は中性または中性に近くなっています。さらに図 3 に示されているように、処理済みガラスバイアル内のすべての溶液の pH 値は 8.0 未満でした。比較すると、標準バイアルおよび他社製バイアル内の溶液の平均ナトリウム濃度と平均 pH は全般的にこれより高く(図2)、異なるロットでの最大 pH はすべて 8.0 を上回り、一部の他社製のバイアルロットでは 9.0 を上回る場合すらありました(図 3)。 

図 3.  処理済みガラスバイアル、標準ガラスバイアル、他社製ガラスバイアルでの最大 pH 対平均 pH のプロット 

さらに、標準バイアルの場合、溶液の pH は、バイアル間でほぼ中性から 9 まで大きく異なっています(図 4 参照)。処理済みバイアルにはこの問題はありません。一部の分析種は、より高 pH で化学反応を受け、分解物が生じることがあります。このバイアル内分解により、有効医薬品成分(API)のアッセイで、不純物の面積割合(パーセント面積)が規格外(OOS)の結果になり、バッチが不合格になることがあります。そのような化学反応の例には、リンの擬回転3、塩基性触媒によるアミドやエステルなどの特定の官能基の塩基性触媒反応による加水分解が含まれます4–5。OOS の結果により、FDA によって概説されているように、その結果の原因を特定するための調査のきっかけとなります7

図 4.  約 200 本の標準バイアルのバイアル繰り返しでの、溶液の pH のばらつき

本研究では、pH 変化の影響を受けやすい化合物をバイアルに入れ、形成された分解物から化合物を分離して、バイアル内の pH シフトの影響を調べました。2 種類の化合物(ドロスピレノンとロバスタチン)を試験用に選択しました。図 1 に示されているように、いずれの化合物にもラクトン(環状エステル基)が含まれています。ドロスピレノンの γ ラクトンとロバスタチンの δ ラクトンはいずれも、ヒドロキシカルボン酸塩への不可逆的な塩基性触媒反応による加水分解を受けやすい性質があります7。 ナトリウムがより高いレベルで滲出したバイアルでは、溶液の pH が上昇し(図 2)、化合物のヒドロキシカルボン酸塩への分解が速くなります(図 1)。バイアルの安定性試験の前に、0.1 N NaOH を用いて強制分解試験を行い、分解物の保持時間と質量スペクトルの情報を収集しました。分解物が確実に API と同時に溶出しないようにし、また QDa 検出器を使用する選択イオンレコーディング(SIR)の条件を最適化するため、LC 分析法開発をオフラインで実施しました。図 5 および 6 に、強制分解試験で得られた API と不純物のクロマトグラムの例、およびドロスピレノンとロバスタチンの分解物の質量スペクトルが示されています。 

図 5.  ドロスピレノンの強制分解試験(下)およびコントロールサンプル(上)。API と予想される分解物の溶出、および分解物の質量スペクトルが示されています。 
図 6.  ロバスタチンの強制分解試験(下)およびコントロールサンプル(上)。API と予想される分解物の溶出、および分解物の質量スペクトルが示されています。 

興味深いことに、ロバスタチンの場合、加水分解されるのはラクトン官能基のみであり、分子中に存在する非環状エステル基は加水分解されません。非環状エステル基の加水分解の生成物に一致する分解物は、検出されませんでした。分解物を同定して、それらを API から分離するメソッド開発した後、さまざまなバイアルを使用する安定性試験を開発し、実行しました。

3 種類のバイアル(ポリプロピレン製バイアル、TruView pH コントロール LCMS 品質保証バイアル、標準ガラスバイアル)を評価して、ドロスピレノンおよびロバスタチンの溶液の安定性に対するこれらの影響を調査しました。それぞれのバイアルの種類と被験化合物について、1 mg/mL のストック溶液を 5 本の繰り返しバイアルに追加しました。分解物生成のベースラインを取得するため、1 バイアルの各標準試料を 3 回繰り返し注入して直ちに試験しました。試験後、バイアルをベンチトップに移し、約 16 時間室温で放置しました。各バイアルからの 3 回の繰り返し注入を用いてバイアルの内容物を分析しました。図 7 と 8 に、異なる種類のバイアル内のドロスピレノンとロバスタチンの分解物のピーク面積が、それぞれ示されています。 

図 7.  繰り返しバイアルおよび異なるバイアル種類にわたるドロスピレノン分解物の UV ピーク面積。エラーバーは、繰り返し注入のピーク面積の結果の標準偏差を示しています。
図 8.  繰り返しバイアルおよび異なるバイアル種類にわたるロバスタチン分解物の UV ピーク面積。エラーバーは、繰り返し注入のピーク面積の標準偏差を示しています。

Waters TruView pH コントロール LCMS 品質保証バイアルおよびポリプロピレンバイアルでは、ドロスピレノンとロバスタチンの両方の分解物のピーク面積が非常に小さくなりました。いずれのバイアル種類のピーク面積も、分解物のピーク面積について収集された時間ゼロのデータと一致しており、サンプルがバイアル内にあった約 16 時間にわたって、分解物生成がほとんどなかった、またはまったくなかったことを示しています。ただし、標準バイアルでは、かなりの分解物の形成が観察されました。さらに懸念されるのは、一部の標準バイアルでは、ポリプロピレン製バイアルと同等の分解物のピーク面積を示す良好な結果が得られたのに対し、他の標準バイアルで最大 8 倍大きい UV ピーク面積が示されることです。標準バイアルの再現性がない性質のため、OOS の結果のトラブルシューティングが困難になる可能性があります。ポリプロピレン製バイアルおよび TruView pH コントロール LCMS 品質保証バイアルでは、バイアルの繰り返し全体にわたって、再現性のある結果が示されています。この新規の TruView pH コントロール LCMS 品質保証バイアルを使用することで、OOS の結果を最小限に抑えることができ、溶液の pH 変化による分解がなく、サンプルの正確な分析が実現します。 

結論

3 種類のバイアルを使用して、塩基性触媒反応による加水分解を受けやすい 2 種類の医薬品(ドロスピレノンとロバスタチン)の分析を行いました。標準ガラスバイアルでは 24 時間にわたってかなりの分解物形成が示され、5 本のバイアルにわたってさまざまなレベルの分解物が形成されました。一方、TruView pH コントロール LCMS 品質保証バイアルでは、同じ時間にわたってほとんどまたはまったく分解物形成が見られませんでした。アッセイに標準バイアルを使用すると、OOS の結果がランダムになり、コストがかかる原因調査が発生する可能性や、実際は許容できる製品の出荷が遅れる可能性があります。TruView pH コントロール LCMS 品質保証バイアルは、高品質のガラスを使用して、滲出する可能性のあるナトリウムのレベルを厳密にコントロールした処理ステップを経て製造されています。これは LC アッセイおよび LC-MS アッセイに適切であり、OOS イベントを最小限に抑えることができます。Waters TruView pH コントロール LCMS 品質保証バイアルのような、ナトリウムの滲出を最小限に抑えるように特別に製造されたバイアルを選択することで、生成された結果が確実にバイアルによって損なわれないように、極めて重要なアッセイを高い信頼度で実行できます。

参考文献

  1. Does an Autosampler Glass Vial Influence the PH of Your Valuable Sample? Thermo Scientific Technical Note.TN21921-EN 0619S (2019).
  2. Wallace A. How Glass Vial Quality Affects Data Accuracy.Sample Preparation and Processing Spotlight Feature.LabMate Online.(2020) Accessed 29-June-2022 https://www.labmate-online.com/article/laboratory-products/3/thermo-fisher-scientific-uk-ltd/how-glass-vial-quality-affects-data-accuracy/2770.
  3. Arvary R, Mangion I. The Importance of Vial Composition in HPLC Analysis: An Unusual Case of Phosphorous Pseudorotation.J. Pharm.Biomed.Anal. 134 (2017) 237–242.
  4. Jin J, Wang Z, Lin J, Zhu W, Gu C, Li M. “Ghost peaks” of Ezetimibe: Solution Degradation Products of Ezetimibe in Acetonitrile Induced by Alkaline Impurities From Glass HPLC Vials.J. Pharm.Biomed.Anal. 140 (2017) 281–286.
  5. Huang Y, et al.Circumventing Glass Vial and Diluent Effects on Solution Stability of Small Molecule Analytes During Analytical Method Development and Validation.J. Pharm.Biomed.Anal. 213 (2022) 114676.
  6. Gomez-Bombarelli R, Calle E, Casado J. Mechanisms of Lactone Hydrolysis in Neutral and Alkaline Conditions.J. Org. Chem. 78 (14) (2013) 6868–6879.
  7. Durivage M. FDA Updates Guidance for Investigating OOS Test Results for Pharma Production.Pharmaceutical Online.June 24, 2022.Accessed 29-June 2022.

720007722JA、2022 年 9 月

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