• アプリケーションノート

紅茶とココア豆などの困難なマトリックスの、LC-MS/MS に基づく残留農薬一斉分析における同重体干渉を低減するためのスマートクリーンアップアプローチ

紅茶とココア豆などの困難なマトリックスの、LC-MS/MS に基づく残留農薬一斉分析における同重体干渉を低減するためのスマートクリーンアップアプローチ

  • Simon Hird
  • Claudia Rathmann
  • Hazel Dickson
  • Frank Schreiber
  • Stefan Bammann
  • Waters Corporation
  • GALAB Laboratories

要約

複雑な食品を扱う場合、脂肪、リン脂質、色素、その他の植物化学物質などの内因性成分が多量に存在するため、クリーンアップを行わずに汎用 QuEChERS プロトコルを適用することは困難です。これらの成分は、残留農薬の検出と定量に悪影響を及ぼすマトリックス効果および同重体干渉を引き起こすことが知られています。抽出後にクリーンアップのステップを追加することにより、マトリックス成分を除去することができ、より信頼性の高い結果が得られるとともに、感度と選択性が向上し、装置の頑健性が維持されます。パススループロトコルに基づいて固相抽出(SPE)を使用すると、農薬が固定相を通過すると同時に、マトリックス成分は SPE 吸着剤に保持されます。

この試験の目的は、QuEChERS に基づいて、Oasis™ PRiME HLB カートリッジを用いてシンプルなパススルー SPE クリーンアップを行ってから、Xevo™ TQ-XS 質量分析計に接続した ACQUITY™ I-Class UPLC システムを使用して UPLC-MS/MS を行う分析法の性能を確立することです。QuEChERS 抽出液をカートリッジに通し、最初の 1 mL を捨ててから残りの溶出液を回収して LC-MS/MS で分析する、という 2 ステップのプロトコルを最適化しました。分析法の性能は、紅茶とココアにおいてそれぞれ 0.01 mg/kg および 0.1 mg/kg で正常に評価しました。395 種類の分析種のほとんどについて、回収率と併行精度がいずれも、SANTE ガイドラインで設定された許容範囲(それぞれ 70 ~ 120% および ≤20% RSD)内でした。Oasis PRiME HLB カートリッジを使用するシンプルな SPE プロトコルは、「希釈して注入」または分散型 SPE の迅速かつ効果的な代替手段であることがわかり、紅茶およびココア中の残留農薬の MRL 遵守の確認に適していることが示されました。

アプリケーションのメリット

  • Oasis PRiME HLB カートリッジを使用するパススルークリーンアップは、対象農薬についての優れた回収率を維持しつつ、QuEChERS 抽出物から脂肪、リン脂質、色素を迅速かつ効果的に除去できる
  • 分析法の性能が、SANTE 合否基準を使用して正常に評価されている
  • この分析法は、紅茶とココアの MRL の遵守を確認するのに適していることが実証されており、はるかに低濃度で測定できる可能性があります。

はじめに

多くのさまざまな食料品に含まれる何百もの残留農薬の検出、定量、同定には、信頼性の高い分析法が必要です。各国の所轄官庁は、農作物および食品のサンプリングおよび分析などを行って最大残留基準(MRL)の遵守を確認するための、農業食品サプライチェーン法制を施行する責任を負っています。すべての食品事業者は、同じ要件を確実に遵守しなければなりませんが、ブランドの保護も考慮しなければなりません。複雑なマトリックス(茶、ココア)の分析は、脂肪、色素、その他の植物化学物質などの内因性成分が大量に存在するため、困難です1,2。 これらの成分は、残留農薬の検出と定量に悪影響を及ぼすマトリックス効果および同重体干渉を引き起こすことが知られています。シンプルなプロトコルを用いる固相抽出(SPE)などの効率的なクリーンアップを使用して共抽出物のレベルを低減することで、信頼性の高い結果が得られるとともに装置の頑健性を維持でき、洗浄の必要性が最小限に抑えられます。

ハンブルグにある Galab Laboratories GmbH と協力して実施したこの試験の目的は、QuEChERS に基づいて、Oasis PRiME HLB を用いてシンプルなパススルー SPE クリーンアッププロトコルを実行して、Xevo TQ-XS に接続した ACQUITY UPLC で UPLC-MS/MS 分析を行う分析法の性能を確立することでした。

実験方法

サンプルは、QuEChERS CEN メソッド 156624 の改良版を使用して、GALAB によって均質化、抽出、分析しました3。 Xevo TQ-XS に接続した ACQUITY UPLC での UPLC-MS/MS の前の、オプションの分散型 SPE ステップを、この分析用に最適化された Short Plus 型式の Oasis PRiME HLB を使用するシンプルな SPE プロトコルに置き換えました(図 1 参照)。LC-MS/MS 分析法の詳細は GALAB の独自技術ですが、ウォーターズが以前に公表した分析法と類似しています4。 両方の農産物についてそれぞれ 0.01 mg/kg および 0.1 mg/kg で、SANTE ガイドラインを使用して、395 種類の分析種を対象とする分析法のバリデーションが実施されています5

図 1.  紅茶およびココアの分析におけるサンプル抽出およびクリーンアップの詳細の概要

結果および考察

クロマトグラフィーは分析したバッチ全体にわたって安定しており、保持時間に大きな変化がないことがわかりました。ACQUITY UPLC BEH Phenyl カラムでは、最も極性の強い分析種を除くすべての分析種が十分に保持され、分析時間 43 分以内に 395 種類の分析種が良好に分離され、分散されていました。化合物数が多いにもかかわらず、各ピーク全体にわたって十分な数のデータポイントが取得できているという点で、データの質は損なわれていません。

紅茶およびココアの抽出物から調製したマトリックス添加標準試料の分析から、感度が優れていることが実証されました。図 2 に、紅茶中の 0.01 mg/kg のマトリックス添加標準試料の分析で得られた一部の農薬の代表的なクロマトグラムを示します。以前の試験において、レスポンスがこの評価に必要な範囲にわたって直線的であることが示されていました4。 スパイク内の分析種の濃度を決定するため、直線近似および内部標準としてリン酸トリフェニルを用いて、2 種類のマトリックス添加標準試料の分析からキャリブレーショングラフを作成しました。分析法の選択性は、ブランクの紅茶抽出物およびココア抽出物を分析することで決定しました。分析種と同じ保持時間に顕著な干渉物質は検出されませんでしたが、残留しているバイオサイド BAC 12 および 14、DDAC 10、塩化セトリモニウムが検出されました。ただし、同じブランク試料をスパイクに使用したので、これについては回収率および併行精度(RSDr)の決定はできませんでした。

図 2.  紅茶中の 0.01 mg/kg のマトリックス添加標準試料の分析で得られた一部の分析種のクロマトグラム

複数の吸着剤を使用する分散型 SPE を QuEChERS におけるマトリックス共抽出物の除去に使用することはできますが、特定の農薬が失われる可能性があります。パススルー SPE プロトコルは、従来の SPE アプローチの逆で、対象分析種を通過させ、共抽出された脂肪、リン脂質、色素を吸着剤に保持させます。Short Plus 型式の Oasis PRiME HLB カートリッジでは、シリンジを用いて抽出液を手動でカートリッジに通し、わずか数分で溶出液を得て LC 注入に備えることができます5

Oasis PriME Short Plus カートリッジは、短いクロマトグラフィーカラムとして挙動します。分析種がどの段階でカートリッジを通過するかを評価して、抽出サンプルのクリーンアップを最適化しました。溶出する最初の 1 mL を捨ててから分析種を回収することで、分析種の大部分を十分な回収率で回収すると同時に、マトリックス共抽出物を効果的に除去できました(図 3 参照)。

図 3.  3 種類の化合物とマトリックス共抽出物を含む抽出物を使用している Oasis PRiME HLB のパススルー SPE プロトコルの基本を示した図

SANTE ガイドラインでは、各被験スパイクレベルの平均回収率は 70% ~ 120% と規定されています5。 紅茶とココアにおける 0.01 mg/kg でのスパイクの分析の結果を図 4 に示します。いずれの農産物でも 、395 種類の分析種の大半(紅茶では 79%、ココアでは 90%)は 0.01 mg/kg という許容範囲内でした。紅茶からの回収率の実際の値は、ココアからの回収率より若干低い値でした。一部の分析種(395 種類のうち 5%)は 0.01 mg/kg で検出されませんでした。図には、一部の外れ値にアイデンティティーの注釈が付けられています。高濃度(0.1 mg/kg)では、84% および 90% の分析種がそれぞれ紅茶およびココアの許容範囲内でした。図 5 に、両方の農産物の両方の濃度における回収率の測定値すべての分布を示します。図 6 に RSDr の分布を示します(1 つの外れ値を除く)。SANTE ガイドラインでは、各被験スパイクレベルでの RSDr は 20% 以下である必要があると勧告しています。0.01 mg/kg で検出されなかった分析種を除くと、すべての被験バッチの分析種の 99% が規定の許容範囲内でした。回収率 30 ~ 140% の化合物はほとんどすべて、一貫して RSDr ≤20% という結果になりました。

図 4.  紅茶(A)およびココア(B)に 0.01 mg/kg になるようにスパイクした残留農薬の回収率
図 5.  紅茶およびココアにおける両方の濃度でのバリデーションデータの回収率の分布
図 6.  紅茶およびココアにおける両方の濃度でのバリデーションデータの併行精度の分布

結論

このアプリケーションノートでは、2 種類の複雑な食品(紅茶とココア)中の残留農薬定量における、UPLC-MS/MS(Xevo TQ-XS)を使用した高感度の残留農薬一斉分析法について説明しました。Oasis PRiME HLB を用いるシンプルな SPE プロトコルは、「希釈して注入」や dSPE の迅速かつ効果的な代替手段であることが証明されました。分析法の性能が、SANTE 合否基準を使用して正常に評価され、分析種のほとんどは、設定された許容範囲内の回収率および RSDr を示しました(回収率 70 ~ 120%、RSDr ≤20%)。この分析法は、紅茶およびココア中の残留農薬を測定して EU MRL への遵守を確認するのに適している上、はるかに低い濃度で測定できる可能性があることが示されました。

参考文献

  1. Ly T-K et al. Quantification of 397 Pesticide Residues in Different Types of Commercial Teas: Validation of High Accuracy Methods and Quality Assessment.Food Chem. (2022) 370:130986.
  2. Comprehensive Strategy for Pesticide Residue Analysis in Cocoa Beans Through Qualitative and Quantitative Approach.Food Chem. (2022) 368:130778.
  3. European Committee for Standardisation (CEN) EN 15662:2018.Foods of Plant Origin - Multimethod for the Determination of Pesticide Residues Using GC- And LC- Based Analysis Following Acetonitrile Extraction/Partitioning and Clean-up by Dispersive SPE - Modular QuEChERS-Method.
  4. Shah D., Wood J., Fujimoto G., McCall E., Hird S., Hancock P. Multiresidue Method for the Quantification of Pesticides in Fruits, Vegetables, Cereals and Black Tea using UPLC-MS/MS.Waters Application Note.720006886.2020.
  5. Young M., Shia J. Oasis PRiME HLB Cartridges Now Available in Syringe Compatible Plus Format.Waters Application Note.720006017.2017.
  6. Document No.SANTE/11312/2021.Guidance Document on Analytical Quality, Control, and Method Validation Procedures for Pesticides Residues Analysis in Food and Feed.2021.

720008039JA、2023 年 9 月

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