双性イオン HILIC カラムを用いた LC-MS/MS による食品中のアミノグリコシド類の測定についての確認法の開発およびバリデーション
要約
アミノグリコシド類(AMG)は、好気性細菌感染に対して殺菌作用を有する広域スペクトル抗生物質であり、食用動物用の動物用医薬品やヒト用医薬品に一般的に使用されています。したがって、AMG の使用を管理するためには、食品中の残留量をモニターすることが重要です。多くの国で、動物への使用が承認されているアミノグリコシド類の最大残留限度(MRL)が設定されています。ハチミツ、卵、ミルク、食用動物の組織および生体液の管理およびモニタリングの目的で、AMG の分析がしばしば行われています。AMG は極性の高い化合物であり、逆相カラムではほとんどまたはまったく保持されません。C18 カラムでの AMG のクロマトグラフィーを正常に行うためにイオン対試薬が使用されていますが、液体クロマトグラフィータンデム四重極型質量分析法(LC-MS/MS)でこのアプローチを使用すると、イオン化抑制や LC システムおよび MS/MS システムの汚染が発生します。親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)の導入により、極性化合物の分析において、この方法がより MS に適合した選択肢になりました。今回、スルホベタイン双性イオンケミストリーを有する Atlantis™ Premier BEH™ Z-HILIC カラムを、AMG の測定について評価した結果を示します。10 mM 酢酸アンモニウム、0.4 mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、0.5% NaCl、2% トリクロロ酢酸(TCA)を含む溶液を使用して、ミルク、卵、ハチミツのサンプルを抽出し、Oasis™ HLB カートリッジでの固相抽出(SPE)によるクリーンアップを行ってから LC-MS/MS を行いました。分析法の性能を、欧州委員会実施規則(EU)2021/808 に従って正常に検証することができました。この分析法は、残留物の世界的な MRL への準拠の確認や、その物質の使用が許可されていない場合において、信頼性の高い残留物の確認に適しています。
アプリケーションのメリット
- MS に適合する移動相を使用して、イオン対試薬を使用せずに、Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラムによって、クロマトグラフィーでの保持および分離を達成
- MRL への準拠を確認する目的や、その物質の使用が許可されていない場合における、信頼性の高い残留物の測定に適した分析法
- 欧州委員会実施規則(EU)2021/808 に従って、3 種類のサンプルで正常にバリデーションされた分析法
はじめに
アミノグリコシド類(AMG)は、好気性細菌感染に対して殺菌活性がある広域スペクトル抗生物質です。これらは、食用動物に用いる動物用医薬品、飼料添加剤、成長促進剤として使用されています。これらの薬剤は低コストであるため、商業的な動物生産における過剰使用が懸念されています。食品中に AMG 類が存在すると、アレルゲン性反応や組織毒性を引き起こす可能性があるため、消費者の健康にリスクを及ぼす可能性があります。また、これらの薬剤に対する曝露によって抗菌薬耐性が高まる可能性があります。動物用医薬品を誤用すると、動物の組織中に許容範囲を超える残留物が蓄積する可能性があります。食用動物種のさまざまな組織、卵、ミルクにおける最大残留限度(MRL)が、一部の AMG 類について定められています1。 一部の AMG 類は、ヒトが摂取するミルクや卵を生産する動物に対する使用が承認されていないため、ミルクや卵中には、これらの AMG 類の MRL は存在しません。さらに、ハチミツでの使用は承認されていないため、ハチミツ中の AMG 類の MRL はありません。
AMG 類は弱塩基性化合物で水溶性であり、極性が高すぎて一斉分析アプローチの適用範囲に含められないため、別のクラス固有の分析法に頼っています2,3。 また AMG 類には、イオン化抑制や LC-MS/MS システムの汚染をもたらすイオン対試薬(HBFA など)を使用しないと、逆相クロマトグラフィーも使用できません。別の方法として、AMG 類は親水性相互作用液体クロマトグラフィー(HILIC)でも測定できますが、アミドまたはアミノプロピルを HILIC の固定相として使用すると、これらの化合物の分離の選択性が制限されます。この試験では、UniSpray™ を使用して、以前に開発した Atlantis™ Premier BEH™ Z-HILIC カラムに基づく分析法を実施し、ミルク、卵、ハチミツ中の 8 種類の AMG 類の測定について、さらに性能を評価しました4,5。
実験方法
サンプルの説明
地元の小売店から購入したミルク、卵、ハチミツのサンプルを、ドイツメクレンブルク-フォアポンメルン州の農業食品安全性漁業州政府庁のラボで前処理および分析しました。LC-MS/MS の前に、サンプルをホモナイズし、10 mM 酢酸アンモニウム、0.4 mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、0.5% NaCl、2% トリクロロ酢酸(TCA)を含む溶液を使用して抽出し、Oasis HLB を用いて SPE クリーンアップしました。完全な詳細は、以下の図 1 に記載しています。
事前にブランクであることが示されているミルクおよび卵中に、目的のレベル(通常は MRL、MRL がない場合は外挿値)の 0.1 倍、0.5 倍、1 倍、1.5 倍、2 倍のレベルになるように添加サンプルを調製しました。ハチミツには残留 AMG の MRL がないため、ハチミツ中の残留 AMG の存在は承認されていません。このような未承認の物質の目的のレベルは、EURL によって分析法の最低性能要件(MMPR)に設定されているため、添加サンプルは MMPR(20 µg/kg)の 1 倍、1.5 倍、2 倍、3 倍になるように調製しました6。 マトリックスマッチド標準試料を同じ範囲にわたって調製しました。トブラマイシンを内部標準(IS)として一貫して使用しました。目的のレベルの濃度を下の表 1 に示します。
*この農産物ではこれらの分析種の MRL がないため、このバリデーション計画では、他の使用した添加濃度の MRL から目的のレベルを外挿しています
LC 条件
LC システム: |
FTN SM を搭載した ACQUITY I-Class UPLC |
カラム: |
Atlantis Premier BEH Z-HILIC(2.5 μm、2.1 × 150 mm)製品番号:186009987 |
カラム温度: |
50 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
5 µL |
移動相 A: |
20 mM ギ酸アンモニウム水溶液(pH 3.0) |
移動相 B: |
0.1% ギ酸アセトニトリル溶液 |
グラジエントテーブル
MS 条件
MS システム: |
Xevo TQ-XS |
イオン化モード: |
UniSpray(ポジティブイオンモード) |
インパクター電圧: |
3.0 kV |
イオン源温度: |
150 ℃ |
脱溶媒温度: |
500 ℃ |
脱溶媒ガス流量: |
1,000 L/時間 |
コーンガス流量: |
150 L/時間 |
データ管理
MS ソフトウェア: |
MassLynx v4.2 |
インフォマティクス: |
TargetLynx™ XS |
分析法のバリデーション
ミルク、卵、ハチミツを対象に、欧州委員会実施規則(EU)2021/808 の要件に基づき、添加済みの代表的なサンプルを使用してバリデーションを行いました7。 同定は、保持時間、イオン比、同定要素を調べることによって評価しました。実測回収率、併行精度(RSDr)、室内再現性(RSDR)および決定限界(CCα)を使用した真度は、繰り返しで添加したサンプルを、別々の 3 日に分析して得られたデータから導出したものです。この代替のバリデーションアプローチでは、従来のバリデーションアプローチとは異なり、明確な濃度レベルではなく一定の濃度範囲をバリデーションしています。したがって、バリデーションに使用するサンプルを、欧州委員会実施規則(EU)2021/808 の付属書 I に記載されている正確な濃度レベルにする必要はありません。ただし、必要な濃度レベルは、選択したバリデーション済み濃度範囲内に十分収まっている必要があります。MRL がある物質と未承認物質に関するすべての計算は、InterVAL 3.4.0.4、CD 2002/657(代替法)に基づいています。
結果および考察
Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラムには、BEH 粒子に結合した両性イオン性スルホアルキルべイン固定相が充塡されています。両性イオン性スルホベタインリガンドには、正荷電基と負荷電基が 1 対 1 の比で含まれるため、正味で中性になっています。スルホベタイン結合により、独自の選択性が得られ、表面が非常に高親水性になります。表面の高密度で厚く、水を多く含む層によって、極性分析種の保持がさらに高まります。シリカベースのスルホアルキルベタイン固定相では移動相に高バッファー濃度が必要ですが、BEH スルホアルキルベタイン固定相では、中程度のバッファー濃度(20 mM)で最適な分析種の分離が得られました。HILIC 分析法の開発の詳細については、以前のアプリケーションノートおよび最近の論文を参照してください4,5。
Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラムにより、最も極性の高い分析種についても十分な保持が得られ、欧州委員会実施規則(EU)2021/808 の「試験対象の分析種の最小許容保持時間はカラムのボイドボリュームに対応する保持時間の 2 倍とする」という要件を満たしています。すべてのピークが 1.5 ~ 4.2 分に溶出し、総実行時間は 10 分でした。クロマトグラフィーは、安定しており、分析したバッチ全体にわたって保持時間に大きな変化がないことがわかりました(さまざまなマトリックスで RSD 0.01 ~ 0.91%、n=57)。このアプローチにより、移動相へのイオン対試薬や高濃度バッファーが不要になり、すべての AMG 類について優れた保持とピーク形状が得られました。これにより、移動相関連のイオン化抑制が低減し、それにともなって感度が向上します。
ミルク、卵、ハチミツの抽出物から調製したマトリックスマッチド標準試料の分析により、優れた感度が得られることが実証されました。図 2 に、目的のレベル(表 1 参照)の 1 倍のマトリックスマッチド標準試料の分析で得られた AMG 類のクロマトグラムを示します。図に示したクロマトグラフィー、感度、選択性は 3 種類の農産物すべてを代表するものであり、この分析法が、適切なバリデーションを行った後、規制遵守の確認に使用できることを示しています。すべての AMG 類のレスポンスは評価した範囲にわたって直線的でした。グラフは 1/x 重み付けを使用して作成されています。決定係数(R2)の値は > 0.99 でした。
欧州委員会実施規則(EU)2021/808 には、「MRL の 0.1 倍の濃度の特定の薬理活性物質をバリデーションすることが合理的に不可能な場合、MRL の 0.1 倍という濃度を、合理的に実行可能な MRL の 0.1 倍 ~ 0.5 倍の最低濃度で置き換えることができる」と記載されています。初期の評価で、目的のレベルの 0.1 倍になるように添加したサンプルの分析の精度は許容範囲外であることが示されているため、これらのデータはそれ以降の計算から除外し、目的のレベルの 0.5 倍での添加が最低濃度になりました。
実測回収率によって決定される真度を、添加したサンプルの分析で得られたデータを使用して評価しました。3 種類の農産物すべてに含まれるすべての AMG 類について、すべての添加レベルにわたる実測回収率の平均値は 87 ~ 106% の範囲に収まり、これらの値は最小真度について設定した許容範囲の範囲内(実測回収率として 80 ~ 120%)でした。室内再現性試験の条件下における添加物質の繰り返し分析の精度限界は、欧州委員会実施規則(EU)2021/808 に明記されており、添加濃度によって異なります。再現性の基準(RSDwR が、120 ~ 1000 μg/kg では ≤22%、10 ~ 120 μg/kg では ≤25%)および併行精度の基準(RSDr が、120 ~ 1000 μg/kg では ≤15%、10 ~ 120 µg/kg では ≤17%)は、ミルクおよび卵の 1 ケース(目的のレベルの 0.5 ~ 2 倍で添加)以外、すべてのケースで満たされていました。目的のレベルの 0.5 倍 ~ 2 倍になるように添加したミルクおよび卵では、すべての化合物が、再現性および併行精度について設定された限度(それぞれ、RSDwR 10 ~ 19%、RSDr 1.6 ~ 16%)を満たしていました。低濃度(20 ~ 60 µg/kg)で添加したハチミツでは、すべての化合物が再現性について設定された限度(RSDwR 11 ~ 22%)を満たしていました。併行精度は RSDr 3.5 ~ 19% の範囲内であり、1 種類の化合物のみが、20 µg/kg になるように添加した場合に、併行精度の合否基準(RSDr ≤17%)を満たしていませんでした。
承認済み物質の確認のための決定限界(CCα)は、MRL より高いけれども分析可能な MRL に近いレベルであることが必要ですが、未承認の禁止 AMG 類の場合は、分析が可能なレベルと同程度の低いレベルである必要があります。表 2、3、4 に、CCα の値を含めて計算された重要なバリデーションパラメーターのサマリーを記載します。
さらに、繰り返し添加の分析で得られたデータが、必要な同定基準を満たしているかどうかを評価しました。各分析種の 2 つのトランジションは、MRL のある物質および未承認物質に必要な同定要素(それぞれ 3 要素および 4 要素)を十分に満たしており、標準試料と比較して、イオン比と保持時間が推奨許容範囲内にあるピークが得られました。
結論
このアプリケーションノートでは、さまざまな食品中の残留 AMG 抗生物質の測定法について説明しました。抽出およびクリーンアップを行った後、残留 AMG 類を、Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラムを使用した LC-MS/MS によって測定しました。分析法の性能は、3 種類の動物製品において、欧州委員会実施規則(EU)2021/808 に従って正常に検証できました。いくつかの例外を除き、真度、併行精度、室内再現性の基準は満たされていました。決定限界(CCα)の値により、この分析法が EU MRL への準拠を確認するための残留物の確認に適していること、および物質の使用は許可されていないが、その物質が他の所轄当局によって指定された MRL を超えていないこと確認する場合にも適していることが実証されました。
参考文献
- Luan Y et al.Advances in the Application of Aptamer Biosensors to the Detection of Aminoglycoside Antibiotics.Antibiotics. 2020. 9:787.
- Farouk F et al. Challenges in the determination of aminoglycoside antibiotics, a review.Anal.Chim.Acta. 2015. 890:21–43.
- Glinka M et al. Determination of aminoglycoside antibiotics: Current status and future trends.TrAC. 2020. 131:116034.
- Yang J and Rainville P. Analysis of Aminoglycosides in Foods Using a Zwitterionic Stationary Phase and Liquid Chromatography-Tandem Mass Spectrometry. Waters Application Note.720007442.2022.
- Yang J and Rainville P. Liquid Chromatography–Tandem Mass Spectrometry Analysis of Aminoglycosides in Foods Using an Ethylene-Bridged Hybrid Zwitterionic Stationary Phase and Hydrophilic–Lipophilic-Balanced Solid-Phase Extraction Cartridges.J. Agric.Food Chem.(2023) 71(19):7593–7603.
- EURL Guidance on Minimum Method Performance Requirements (MMPRs) For Specific Pharmacologically Active Substances in Specific Animal Matrices, v2.0 June 2022.
- Commission Implementing Regulation (EU) 2021/808 of 22 March 2021 on the Performance of Analytical Methods for Residues of Pharmacologically Active Substances Used in Food-Producing Animals and on the Interpretation of Results as Well as on the Methods to Be Used for Sampling and Repealing Decisions 2002/657/EC and 98/179/EC.OJ (2021) L 180:84–109.
720008022JA、2023 年 9 月