• アプリケーションノート

LC-MS でのペプチド分離において移動相 pH が逆相カラムの選択性に及ぼす影響

LC-MS でのペプチド分離において移動相 pH が逆相カラムの選択性に及ぼす影響

  • Hua Yang
  • Stephan M. Koza
  • Steve Shiner
  • Waters Corporation

要約

ペプチド分離では、移動相の pH を変えることで選択性を変えることができます。このアプリケーションノートでは、XBridge™ Premier Peptide BEH ™ C18 130 Å カラムと XSelect™ Premier Peptide CSH™ C18 カラムで pH 範囲 2.7 ~ 9.2 の移動相を使用して、ペプチド標準試料および選択した NISTmAb™ 重要品質特性(CQA)トリプシンペプチドを分離する際の選択性の違いを示します。BioAccord™ LC-MS システムおよび waters_connect™ で得られた抽出イオンクロマトグラム(XIC)には、選択されたペプチドとその脱アミド型の間に明確な選択性の差が見られます。

アプリケーションのメリット

  • 移動相 pH により、逆相でのペプチド分離の選択性が変化し、クリティカルペアの分離を促すことが可能に

はじめに

移動相の pH によって逆相分離の選択性が変化することが示されています。ペプチド分離の pH を変えた場合に、高度の直交性が得られています1。 このアプリケーションノートでは、移動相 pH 2.7、3.1、3.8、5.5、6.5、9.2 でのペプチド標準試料混合物およびモノクローナル抗体(mAb)のトリプシン消化サンプルの分離における選択性の違いについて紹介します。一例として、BioAccord LC-MS システムおよび waters_connect で得られた抽出イオンクロマトグラム(XIC)におけるペプチドとその脱アミド型の分離を示します。さまざまな移動相 pH 条件下における分離での選択性は大きく異なります。このことは、移動相 pH を変化させることが、困難なクリティカルペアを分離する上で役立つ可能性があることを示しています。

実験方法

サンプルの説明

MassPREP™ ペプチド混合物(製品番号:186002338)および mAb トリプシン消化標準試料(製品番号:186009126)をそれぞれ 100 µL および 80 µL の 0.1% ギ酸に再溶解しました。

LC 条件

LC システム:

ACQUITY™ UPLC I-Class PLUS(トータルシステムバンド拡散 5σ≤7 µL)

検出:

ACQUITY BioAccord MS 検出、TUV @ 214 nm

カラム:

XBridge Premier Peptide BEH C18 130 Å、2.5 µm、2.1 × 150 mm(製品番号:186009835)

XSelect Premier Peptide CSH C18 130 Å、2.5 µm、2.1 × 150 mm(製品番号:186009906)

カラム温度:

60 ℃

サンプル温度:

10 ℃

注入量:

15 µL、10 µL

流速:

0.2 mL/分

移動相

A:0.1% ギ酸含有水溶液(pH 2.7)
B:0.1% ギ酸含有アセトニトリル

A:0.1% ギ酸、10 mM ギ酸アンモニウム含有水溶液(pH 3.1)
B:0.1% ギ酸、10 mM ギ酸アンモニウム含有 80% アセトニトリル

A:10 mM ギ酸アンモニウム水溶液(pH 3.8)
B:10 mM ギ酸アンモニウム含有 80% アセトニトリル

A:10 mM 酢酸アンモニウム水溶液(pH 5.5)
B:10 mM 酢酸アンモニウム含有 80% アセトニトリル

A:10 mM 酢酸アンモニウム水溶液(pH 6.5)
B:10 mM 酢酸アンモニウム含有 80% アセトニトリル

A:10 mM ギ酸アンモニウム水溶液(pH 9.2)
B:10 mM ギ酸アンモニウム含有 80% アセトニトリル

MassPREP ペプチド混合液、移動相 pH 2.7* のグラジエントテーブル

*:移動相 pH 3.1 ~ 9.2 では、移動相 B に 80% ACN が含まれるため、グラジエントは 0.6% B から 68.8% B にします。

mAb トリプシン消化標準試料、移動相 pH 2.7** のグラジエントテーブル

**:移動相 pH 3.1 ~ 9.2 では、移動相 B に 80% ACN が含まれるため、グラジエントは 0.6% B から 62.5% B にします。

ACQUITY RDa 検出器の設定

モード:

フラグメンテーションによるフルスキャン

質量範囲:

m/z 50 ~ 2000

極性:

ポジティブ

サンプリングレート:

5 Hz

コーン電圧:

30 V

フラグメンテーションコーン電圧:

60 V ~ 120 V

キャピラリー電圧:

1.20 kV

脱溶媒温度:

350 ℃

データ管理

LC/MS ソフトウェア:

waters_connect

結果および考察

さまざまな移動相 pH 条件下での 2 種類の Premier Peptide C18 カラムでの MassPrep ペプチド標準試料混合物の分離(表 1:成分)の UV トレースを図 1 に示します。BioAccord RDa 質量検出器および waters_connect で得られた質量に基づいて、ピークを同定しました。使用した 2 種類のカラムで選択性が多少異なりますが、移動相 pH を変えることでより大きな選択性の違いが見られました。pH が 5.5 を超えると、ピーク 9(エノラーゼ T37)およびピーク 10(メリチン)の回収率が低下したことが注目に値します。その原因は調査していませんが、高 pH 移動相では、低 pI の大きなエノラーゼ T37 ペプチドの溶解度が低下し、高 pI (>12)の大きなメリチンペプチドのイオン性保持が増大したことが推測されます。それでも、より塩基性の条件下で大きいペプチドを分離する場合は注意が必要です。さらに、移動相の pH のわずかな変化により選択性が大きく変わる可能性があるため、高 pH 移動相を使用する場合は、分析法の再現性を慎重に評価する必要があります。

表 1.  さまざまな pH 条件下で、アセトニトリル濃度を増加させるグラジエントを使用して分離されたペプチド(MassPREP ペプチド混合物、製品番号:186002338)のリスト(図 1 を参照してください)
図 1.  2 種類の Premier Peptide C18 カラム、XBridge Premier Peptide BEH C18 130 Å、2.5 µm、2.1 × 150 mm カラム(製品番号:186009835)および XSelect Premier Peptide CSH C18 130 Å、2.5 µm、2.1 × 150 mm カラム(製品番号:186009906)で、さまざまな移動相 pH 条件下でアセトニトリル濃度を増加させるグラジエントを使用した場合のペプチド標準試料混合液の分離の UV トレース

図 2a に、XBridge Premier Peptide BEH C18 130 Å カラムで、さまざまな移動相 pH 条件下でアセトニトリル濃度を増加させるグラジエントを使用した場合の、NISTmAb トリプシン消化物の分離におけるベースピーク強度(BPI)を示します。同じ色の矢印は、waters_connect によって同定された同じトリプシンペプチドを表します。重鎖 T37 ペプチド(GFYPSDIAVEWESNGQPENNYK)を赤色で強調表示しています。図 2b に、重鎖 T37 ペプチドおよびその脱アミド型の抽出イオンクロマトグラム(XIC)を示します。異なる移動相 pH 条件下では選択性が大きく異なります。図 2c に、42 種類のペプチドのさまざまな pH 条件下での保持時間と、pH 2.7 条件下でのこれらのペプチドの保持時間の相関プロットを示します。相関(R2)は、移動相 pH の上昇につれて減少しています。このことは、高 pH 条件では低 pH 条件(pH 2.7)よりも直交性が高い(R2 が低い)ことを示しており、以前の報告と一致しています1。最も高強度の 10 個のペプチドイオンに基づくと、pH 9.2 のギ酸アンモニウムでの平均レスポンスは、0.1% ギ酸(pH 2.7)で見られた平均レスポンスの約 1/3 でした。

図 2.  XBridge Premier Peptide BEH C18 130Å 2.5 µm 2.1 × 150 mm カラムでさまざまな移動相 pH 条件で得られた NISTmAb トリプシンペプチドの分離。a. BioAccord LC-MS システムで得られたベースピーク強度(BPI)クロマトグラム。同じ色の矢印は、waters_connect によって同定された同じペプチドを表します。HC T37 ペプチド(GFYPSDIAVEWESNGQPENNYK)を赤色で強調表示しています。b. さまざまな移動相 pH 条件で得られた HC T37 ペプチドおよびその脱アミド型の抽出イオンクロマトグラム(XIC)。c. さまざまな移動相 pH における保持時間の相関。

結論

ペプチド標準混合物および mAb トリプシン消化物サンプルの逆相分離を、2 種類の Premier Peptide C18 カラムを使用して、pH 2.7 ~ pH 9.2 のさまざまな移動相 pH 条件下で行いました。アセトニトリル濃度を増加させるグラジエントを使用し、異なる移動相 pH を使用することで、選択性にかなりの差が見られました。このことは、困難なペプチドのクリティカルペアを分離するための分析法開発に役立ちます。一般に、ルーチンの合成ペプチドおよびペプチドマッピング分離には、低 pH のギ酸(例えば MS 検出では 0.1% FA)またはトリフルオロ酢酸(例えば光学検出では 0.1% TFA)の逆相溶離液添加剤を使用します。一方、今回示したように、高 pH での分離を高度な特性解析同等性試験の一環として展開すると、ペプチド分離において異なる選択性(直交性)が得られるため、より徹底した評価が行えます。さらに、ハイブリッドシリカベースの BEH ペプチドカラムおよび CSH ペプチドカラムは pH 安定性が高いため、同じサンプルセットについて、低 pH 分析法および高 pH 分析法を同じカラムで実行できます。

参考文献

  1. Gilar M., Olivova P., Daly A.E., Gebler J.C. Development of Orthogonal Separation Methods for 2D-HPLC (MS/MS) Analysis of Peptides.Waters Poster, 2005.

720008017JA、2023 年 8 月

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