• アプリケーションノート

Alliance iS HPLC System によるクロルヘキシジンキャリーオーバー性能の向上

Alliance iS HPLC System によるクロルヘキシジンキャリーオーバー性能の向上

  • Jennifer Simeone
  • Paula Hong
  • Waters Corporation

要約

キャリーオーバーは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)システムのユーザーにとって、よくありがちな問題です。キャリーオーバーには、容量によるキャリーオーバー(流路内のボイドボリュームに起因するキャリーオーバー)と、吸着によるキャリーオーバー(サンプルの流路表面への「吸着」による)など、複数の形態があります。メソッドでキャリーオーバーが発生する場合、キャリーオーバーの形態を判定して、キャリーオーバーの原因を最も効果的に除くことが重要です。多くの場合、メソッドでは容量性キャリーオーバーと吸着性キャリーオーバーの両方が見られます。このアプリケーションノートでは、クロルヘキシジンのキャリーオーバーを、さまざまなベンダーのさまざまな HPLC システムで評価します。さらに、軽減戦略、つまりニードル洗浄の実施および/または洗浄時間の延長についても検討します。

アプリケーションのメリット

  • Alliance iS HPLC System の使用によるキャリーオーバー性能の向上
  • Alliance iS システムでは、使いやすい工具不要のフィッティングを使用して、容量性キャリーオーバーが排除される
  • 洗浄機能の向上により、吸着性キャリーオーバーを大幅に低減

はじめに

医薬品業界バイオ医薬品業界全体に、さまざまな HPLC プラットホームで分析法を開発して実行するという共通のニーズがあります。異なる LC システム(多くの場合異なるベンダーによって製造されたもの)間でメソッドを移管する場合、使用する LC システムとは無関係に、一貫したメソッド性能を得ることが非常に重要です。重要なメソッド性能をいくつか例を挙げると通常、保持時間と面積の精度、ピーク分離度、シグナル対ノイズ比などの特性が含まれますが、見過ごされがちなメソッド性能パラメーターの 1 つに、サンプルのキャリーオーバーがあります。キャリーオーバーとは、ある注入の分析種が次の注入で検出されることですが、これは、分析種が流路のどこかに付着する吸着性による、あるいは流路のボイドボリューム、つまり洗い流されていない容積に残存した対象分析種が後続の注入で示されることによります。このアプリケーションノートでは、塩酸クロルヘキシジンの有機不純物の USP モノグラフに基づいてスケーリングしたメソッドを使用して、いくつかの HPLC システムにわたってキャリーオーバー性能を評価しました。

実験方法

サンプルの説明

クロルヘキシジンチャレンジ溶液は、クロルヘキシジン二塩酸塩(Sigma-Aldrich、ミズーリ州セントルイス)を秤量し、移動相 A に溶解して最終濃度 1.13 mg/mL クロルヘキシジン(1.4 mg/mL クロルヘキシジン二塩酸塩)になるように調製しました。クロルヘキシジン標準溶液は、最終濃度 11.3 µg/mL クロルヘキシジン(14 µg/mL クロルヘキシジン二塩酸塩)になるようにストック溶液を移動相 A で希釈して調製しました。すべてのブランク注入(移動相 A)は、別々のバイアルから行いました。

LC 条件

LC システム:

Alliance iS HPLC System 、ベンダー X の HPLC システム(HPLC システム 1 および 2)、ベンダー Y の HPLC/UHPLC システム(HPLC システム 3)、ベンダー Z の HPLC システム(システム 4)

検出:

すべてのシステムで UV

バイアル:

LCGC 品質保証透明ガラス 12 × 32 mm スクリューネックバイアル、マキシマムリカバリー、キャップおよびスリット入り PTFE/シリコンセプタム付き(製品番号:186000327C)

カラム:

XSelect HSS C18 カラム、100 Å、2.5 µm、3 mm × 100 mm(製品番号:186006143)

カラム温度:

30 ℃

サンプル温度:

8 ℃

注入量:

5 µL

流速:

0.6

移動相 A:

0.1% トリフルオロ酢酸含有 80:20 水:アセトニトリル

移動相 B:

0.1% トリフルオロ酢酸含有 90:10 アセトニトリル:水

ニードル洗浄溶媒:

50:50 アセトニトリル:水

グラジエントテーブル

データ管理

クロマトグラフィーソフトウェア:

Empower 3.7.0

結果および考察

容量性キャリーオーバーと吸着性キャリーオーバーの比較

規制対象の HPLC メソッドを実行する場合、一貫性のある正確な定量的測定を行える性能が最も重要です。このため、キャリーオーバーに関する LC システムの性能は重要特性です。ただし、装置設計、フィッティング、ニードル洗浄動作は HPLC システムによって大きく異なります。これらの違いにより、ユーザーは適切なパラメーターおよび/または洗浄溶媒を特定して、システムの高性能を実現する必要があります。キャリーオーバーは通常、容量性または吸着性に分類されるため、キャリーオーバーへの対処はさらに複雑になります。ただし、同じメソッド内で両方の形のキャリーオーバーが発生する可能性もあります。いずれの種類のキャリーオーバーもクロマトグラフィーの結果に影響する可能性がありますが、その原因は大きく異なります。

容量性キャリーオーバーは、流路内にボイドボリューム(洗い流されない容積)があり、そこにサンプルが次の注入まで留まる場合に発生します。これは通常、システムと接続が機械的にどの程度整っているかを示す指標です。例えば、接続を行ったときにポートでチューブが最も低い位置にない場合や、バルブの製造プロセスにおける機械的な許容度などが洗い流されない容積の原因になる可能性があります。製造と組み立てのプロセスがここで重要な役割を果たすことは明らかですが、ユーザーが行う接続も極めて重要です。各ベンダーはさまざまなフィッティングを使用し、適切な接続方法がそれぞれわずかに異なるため、ユーザーは、知らないうちに誤った方法で接続してしまうことがあります。Alliance iS HPLC System に付属する工具不要のフィッティングは、不適切な接続が絶対にできないように設計されているため、容量性キャリーオーバーの一般的な原因を排除することができます。

発生するキャリーオーバーのもう 1 つの形態は吸着性キャリーオーバーで、この場合、対象の分析種が LC システムの一部に吸着します。吸着性キャリーオーバーは、LC 流路に使用されている材料、分析種の化学構造、分析で使用されるメソッド条件など、複数の要因によって起きます。クロルヘキシジンは、「付着しやすい」ことが知られていて、吸着性キャリーオーバーの測定に一般的に使用される化合物です。また、その吸着性のために、ベンダーのキャリーオーバー仕様の文書によく使用されています。LC 流路に使用されている材料に関しては、サンプルニードルを含め、この試験で評価するすべてのシステムは、主にステンレススチールから成る流路を使用しています。このニードルは、サンプルに直接接触する唯一の部品であるため、吸着の影響を受けやすいと考えられます。ただし、この試験では、すべての HPLC システムがフロースルーニードル注入設計であり、ニードルの内部が流路の一部であり、プログラムされたグラジエントによって継続的に洗浄されます。このため、サンプルニードルの洗浄メカニズムと洗浄溶液が、ニードルの外での吸着性キャリーオーバーに最も大きく影響します。LC のそれぞれのベンダーおよびモデルで、洗浄メカニズムと推奨洗浄法が異なりますが、既定の洗浄法または推奨洗浄法をすべてのシステムで最初に使用しました。さらに徹底した洗浄を行って、追加の洗浄がキャリーオーバーに与える影響を判定しました。すべてのシステムで、クロルヘキシジンの溶出条件よりわずかに強い 50:50 水:アセトニトリル混合液を洗浄溶媒として用いました。

メソッドのスケーリングと最適化

さまざまなベンダーとシステムにわたってクロルヘキシジンのキャリーオーバーを評価するために、塩酸クロルヘキシジンの USP モノグラフ1 を出発点としましたが、キャリーオーバー性能に対するニードル洗浄の設定と設計の影響を観察するには変更が必要でした。スループットを向上させるために、メソッドを 4.6 × 250 mm、3.5 µm カラムから 3 × 100 mm、2.5 µm カラムに幾何学的スケーリングしたことで、分析時間が 65 分から 19 分に短縮されました。注入量をスケーリングした値 1.7 µL から 5 µL に増やすことで、さまざまなパラメーターの変更がキャリーオーバーに与える影響が大きくなるようにしました。最終的に、スケーリングしたメソッドには、グラジエントステップ 4(80:20 A:B)に延長したホールドが含まれ、これによりクロルヘキシジンのピークがベースラインが平坦な部分で溶出するため、波形解析の主観性が減って、注入間およびシステム間での一貫性が高くなります。また、さまざまなシステムの間でデュエルボリュームが異なるにもかかわらず、クロルヘキシジンのピークがベースラインの安定した部分で溶出することも確保できました。

図 1.  A)チャレンジサンプル(上)とポストブランク 1(下)での実測キャリーオーバー対注入量、および
B)クロルヘキシジンのピークの溶出領域で平坦なベースラインを得るためのグラジエントステップの延長

実験デザイン

各キャリーオーバー測定のシーケンスは次のように設定しました:プレブランク 3 回、クロルヘキシジン標準溶液(11.4 µg/mL)3 回、クロルヘキシジンチャレンジ溶液(1.14 mg/mL)3 回、ポストブランク 1(固有のバイアル 1)、ポストブランク 2(固有のバイアル 2)、ポストブランク 3(固有のバイアル 3)。それぞれのキャリーオーバー測定を開始する前に、複数のプレブランク注入を行って、システムが「きれい」であることを確認しました。移動相は最大 3 日間を使用し、その後新しいバッチを調製しました。 

キャリーオーバーの結果

上記のメソッド条件およびサンプルシーケンスに従って、各システムのキャリーオーバーを測定しました。キャリーオーバー率は以下のように計算しました。

式 1

前述のように、ベンダーごとに独自の推奨洗浄モードまたは既定の洗浄モードがあります。ニードル洗浄などの装置メソッドのより高度な設定は、通常は既定から変更しないため、初期のキャリーオーバー評価はベンダーの既定設定を使用して行いました。図 2 に、ベンダー推奨/既定の洗浄モードを使用して評価した各システムで得られたクロルヘキシジンのキャリーオーバーの測定結果を示します。

図 2.  ベンダー推奨または既定の洗浄モードを使用して各 LC システムで得られたクロルヘキシジンのキャリーオーバーの測定結果

HPLC システム 1 ~ 3 では、既定または推奨の洗浄は「洗浄なし」です。当然のことながら、「洗浄なし」では、特に HPLC システム 1 および 2 で、クロルヘキシジンに著しいキャリーオーバーが観察されました。逆に、システム 4 および 5 では、いずれも既定でニードル洗浄が採用されており、大幅に少ないキャリーオーバーが見られました。既定で 1000 µL のニードル洗浄を行う(2 つのセグメント(注入前および注入後)で行う)Alliance iS HPLC System では、全体的なキャリーオーバーが試験したシステムのうちで最も少なく、キャリーオーバーはわずか 0.00055% でした(図 3)。

図 3.  Alliance iS HPLC System で見られたクロルヘキシジンのキャリーオーバー(0.00055%)

ニードル洗浄設定の調整の影響を評価するために、既定の洗浄モードの評価に加えて、追加の洗浄モードおよび/または洗浄時間(洗浄メカニズムによって異なる)も各システムで調査しました。その目的は、洗浄設定を最適化した後、すべてのシステムで見られるキャリーオーバーを比較し、各システムでキャリーオーバーを最小限にすることでした。さまざまな洗浄モードを使用して試験した各システムでの結果を図 4 に示します。

図 4.  A)ベンダー推奨/既定の洗浄モードを使用した場合とオプションの追加の洗浄を行った場合に、各 LC システムで得られたクロルヘキシジンのキャリーオーバーの測定結果のフルスケール表示
B)キャリーオーバーの割合の拡大表示(0 ~ 0.01%)

予想どおり、推奨設定が「洗浄なし」であるシステムでは、ニードル洗浄ステップを追加すると、実測キャリーオーバーの減少が見られました。洗浄のメカニズムとデザインによって、キャリーオーバーの改善度は大きく異なりました。キャリーオーバーへの影響に加えて、正確な洗浄メカニズムが注入のサイクル時間にも影響する可能性があります。例えば、洗浄ステーションと注入ポートが分れているシステムでは、ニードルが 2 つのステーションの間を移動するのに時間がかかるため、サイクル時間が長くなります。一方、Alliance iS HPLC System では、ニードル洗浄と注入が単一のポートから行われ、時間効率が高い設計になっています。さらに、Alliance iS HPLC System では、既定のニードル洗浄設定およびニードル洗浄設計が最適化されており、非常に優れたキャリーオーバー性能が得られます。

HPLC システム 1 および 2 では、ニードルでサンプルを吸引した後、洗浄溶液のバイアルにニードルを浸漬します。HPLC システム 3 では、(サンプル吸引の前または後のいずれかの時点で)ニードルを洗浄ステーションに移動させることによって、洗浄メカニズムが実行され、低圧シリンジから供給されるアクティブに流れる溶媒でニードルが洗浄されました。HPLC システム 4 の洗浄メカニズムでは、ニードルがインジェクターアセンブリーのシールパックにある状態でニードルの外面の洗浄も行われます。最後に、Alliance iS HPLC System ではニードル洗浄が 2 段階で行われ、ニードルが注入ポートまで下がって、ニードル洗浄溶媒がニードルの外側をアクティブに流れます。洗浄が注入と同じ場所で行われるため、洗浄によるサイクル時間の増加はわずかです。図 5 に、既定の「洗浄なし」を使用した場合と、高度なニードル洗浄ステップを追加した場合の、各システムでの相対的なサイクル時間を示します。

図 5.  既定の「洗浄なし」を使用した場合と洗浄ステップを追加した場合のさまざまな HPLC システムでのサイクル時間

洗浄溶液の入ったバイアルにニードルを浸漬する洗浄メカニズムを使用する 2 つの HPLC システム(HPLC 1 および HPLC 2)では、注入サイクル時間が平均 30 ~ 35 秒増加しました。分かれている洗浄ステーションを使用し、ニードルの外側に溶媒を流す HPLC システムでは、注入サイクル時間の増加は、使用するニードル洗浄溶媒の容量によって大きく異なりました。200 µL のニードル洗浄では、注入サイクルの時間が約 50 秒増加し、1000 µL の長いニードル洗浄を行うと、サイクル時間が途方もなく 214 秒増加しました。参考のために、最も少ない実測キャリーオーバー量が得られた既定の洗浄条件を使用する Alliance iS HPLC System でのサイクル時間は、既定の「洗浄なし」を使用する 3 種類の HPLC システムのどれよりも短いという結果になりました。そのため、極めて低いキャリーオーバー性能では、サイクル時間の大幅な増加をもたらす高度な洗浄メカニズムは必要ではなく、システム自体の設計により大きく依存します。

結論

医薬品およびバイオ医薬品業界では、さまざまな LC システム(多くの場合製造元が異なる)で HPLC メソッドを実行することがよくあります。さらに、メソッドのキャリーオーバーは重要な性能パラメーターであり、異なる LC システム間でメソッドを移管する際にはこれを検討およびモニターする必要があります。このアプリケーションノートでは、塩酸クロルヘキシジンの有機不純物の USP モノグラフに基づいてスケーリングしたメソッドを使用して、キャリーオーバーを複数の LC システム間で評価した結果、試験したシステムすべてのうち、Alliance iS HPLC で全体的に最もキャリーオーバーが低いことが実証されました。Alliance iS HPLC System では、カラム接続部を含むすべての使用頻度の高いタッチポイントに、工具不要のフィッティングを利用しています。これらのフィッティングはデッドボリュームがゼロになるように設計されているため、不適切な接続による流路でのボイドが生じるリスクが低減されます。さらに、Alliance iS システムの向上したニードル洗浄メカニズムにより、クロルヘキシジンのような分析が困難な化合物についても、優れたキャリーオーバー性能が得られます。Alliance iS HPLC System の実証されたキャリーオーバー性能により、時間のかかるメソッドの最適化も、注入サイクル時間が大幅に増加する可能性のある徹底した洗浄メカニズムも不要になりました。

参考文献

  1.  Monograph: USP.Chlorhexidine Hydrochloride.In: USP–NF.Rockville, MD: USP; May 1, 2022.
    DOI: https://doi.org/10.31003/USPNF_M15650_03_01.

720007868JA、2023 年 2 月

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