一般的な β-2 アドレナリン受容体作動薬の HPLC-UV 分離の改善
要約
β-2 アドレナリン受容体作動薬(BA)は、一般的に慢性呼吸器疾患(CRD)の治療のために処方される薬です。ここ数年、BA は処方薬のトップ 10 に入っています。ここでは、14 分以内で数種類の BA および BA 不純物を高い再現性で分離する分析法を開発しました。pH が分析に及ぼす影響を検討しました。さらに、MaxPeak™ High Performance Surfaces(HPS)テクノロジーの高い pH 安定性およびバッチ間一貫性も実証しました。
アプリケーションのメリット
- 単一の分析法により、多様な BA およびその不純物のパネルのベースライン分離が可能に
- この分析法で使用する塩基性条件により、テーリングを最大 65% 低減
- この分析法により、高 pH 条件での MaxPeak™ HPS テクノロジーカラムおよびシステムの信頼性および再現性を実証
はじめに
世界の非感染性疾患による死亡者数は、4,100 万人を超えています。この 4,100 万人のうち、10% は慢性呼吸器疾患(CRD)によるものです1。 喘息と慢性閉塞性肺疾患(COPD)が CRD として認識されています2。 CRD の根治は不可能ですが、β-2 アドレナリン受容体作動薬(BA)などの維持薬を使用して症状を改善することができます3。 さらに、BA には、短時間作用型 B2 作動薬(SABA)、長時間作用型 B2 作動薬(LABA)、超長時間作用型 B2 作動薬(ULABA)の 3 つのクラスがあります。CRD の有病率を考慮すると、ここ数年、アルブテロールなどの BA が、最も多く処方された処方薬のトップ 10 のリストに入っていることは当然であると言えます4。
現在の一部の BA 用 LC 分析法では、酸性逆相条件下でこれらの化合物を分析すると、顕著なテーリングが見られることが報告されています5,6。 一方、高 pH 条件によって BA のクロマトグラフィーが全体的に改善する可能性があるという証拠があります7。 さらに、さまざまな BA を含む完全なパネルを対象とする分析法がありません。そのため、BA パネルを分離するための高 pH 逆相分析法を開発しました。6 種類の BA およびその一部の不純物の分析が 14 分以内で完了し、再現性と直線性のある結果が高感度で得られます。さらに、この分析法を使用してさまざまなカラム吸着剤のバッチを比較したところ、特に高 pH 条件下において、Premier カラムおよび MaxPeak™ High Performance Surfaces(HPS)を採用したシステムの信頼性と安定性の高い性能が実証されました。
実験方法
サンプルの分離法の説明
さまざまな BA を購入して、SABA、LABA、ULABA を含む完全なパネルを構築しました。レバルブテロールは Sigma Aldrich(ペンシルベニア州アレンタウン)から調達しました。ピルブテロールは Toronto Research Chemicals(オンタリオ州トロント)から購入しました。フォルモテロール、インダカテロール、オロダテロール、ビランテロールは、Cayman Chemical(ミシガン州アナーバー)から入手しました。テルブタリンは、Santa Cruz Biotechnology(テキサス州ダラス)から調達しました。
各標準試料を秤量して 20 mL のシンチレーションバイアルに入れ、脱イオン水:アセトニトリル(95:5)で希釈しました。塩係数および純度を考慮に入れました。ストック溶液の濃度は、標準試料の溶解度に応じて、0.5 mg/mL ~ 1 mg/mL の範囲に広がっていました。ストック溶液は 2 ℃ ~ 8 ℃ で保存し、室温に平衡化させてから分析を行いました。
ストック溶液を希釈し、混合して BA 混合物サンプルを作成しました。各分析種の濃度は 100 µg/mL でした。
直線性および不純物サンプルの説明
直線性および不純物に関する標準試料は、欧州医薬品医療品質部門(EDQM)(フランス、ストラスブール)から購入しました。購入した標準試料は、フォルモテロール、フォルモテロール不純物 I、サルブタモール、サルブタモール不純物 B、サルブタモール不純物 D、サルブタモール不純物 F、サルブタモール不純物 G、テルブタリン、テルブタリン不純物 C でした。
各標準試料を秤量して 20 mL のシンチレーションバイアルに入れ、脱イオン水:アセトニトリル(95:5)で希釈しました。塩係数および純度を考慮に入れました。ストック溶液の濃度は、標準試料の溶解度に応じて、0.1 mg/mL ~ 1 mg/mL の範囲でさまざまでした。ストック溶液は 2 ℃ ~ 8 ℃ で保存し、室温に平衡化させてから分析を行いました。ストック溶液を希釈し、組み合わせて、それぞれの主な分析種についてさまざまな検量線ポイントを作成しました。不純物分析では、分析種とそれぞれの不純物を組み合わせました。各不純物の濃度は 10 µg/mL、分析種の濃度は 100 µg/mL としました。
LC 条件
LC システム: |
Arc™ Premier LC システム |
検出: |
Waters™ 2998 フォトダイオードアレイ検出器、276 nm |
カラム: |
XBridge™ Premier BEH™ C18、130 Å、4.6 × 100 mm、2.5 µm |
カラム温度: |
40 ℃ |
サンプル温度: |
室温 |
注入量: |
10 µL |
流速: |
1.0 mL/分 |
移動相 A: |
水酸化アンモニウムを用いて調整した 10 mM ギ酸アンモニウムを含む脱イオン水(pH 10) |
移動相 B: |
アセトニトリル |
グラジエントテーブル
データ管理
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower™ 3.7.0 |
結果および考察
分離法の結果
この分析法は、BA の保持および分離において再現性がありました。BA 混合物サンプルの 12 回の注入にわたる各分析種の面積、保持時間、テーリングの %RSD は <1% でした(表 1、2、3)。以下の 12 回の注入のクロマトグラムの重ね描きにより、分析法の性能の明確な全体像が得られます(図 1)。
pH の影響
ほとんどの逆相アプリケーションに pH が顕著な影響を及ぼすことはよく知られています7,8。 pH が BA に及ぼす影響を検討するため、同じ BA 混合物サンプルを、塩基性および酸性の移動相 A を使用して分析しました。使用した塩基性移動相は、水酸化アンモニウムを使用して調整した 10 mM ギ酸アンモニウムを含む脱イオン水(pH 10)です。酸性移動相には、ギ酸を使用して pH 3 に調整した 10 mM ギ酸アンモニウムを含む脱イオン水を使用しました。
塩基性条件下では、分析種のテーリングが改善し、酸性条件下では、クリティカルペアであるレバルブテロールとテルブタリンの間でベースライン分離が達成されています。塩基性分析法に切り替えると、テーリングが最大 65% 低減しています。以下は、両方の分析法の性能についての代表的なデータの表とクロマトグラムです(図 2a および 2b、表 4 および 5)。
図 2a. BA 混合物サンプルについて塩基性分析法条件の性能の詳細を示す代表的なクロマトグラム
図 2b. BA 混合物サンプルについて酸性分析法条件の性能の詳細を示す代表的なクロマトグラム
直線性の結果
各 EDQM 分析種の直線性を調査しました。各分析種の直線性は、Empower 3 のキャリブレーション機能による直線近似を使用して計算しました。以下のように、この分析法の定量機能は明確であり、品質管理試験で使用できることが示唆されます(図 3a ~ 3c)。
図 3a. 濃度 1 µg/mL ~ 500 µg/mL にわたるフォルモテロールの検量線
図 3b. 濃度 1 µg/mL ~ 500 µg/mL にわたるサルブタモールの検量線
図 3c. 濃度 5 µg/mL ~ 500 µg/mL にわたるテルブタリンの検量線
不純物分析の結果
この分析法の不純物分析への適合性についても検討しました。EDQM 分析種とそれぞれの不純物を合わせて、不純物が主要分析種の濃度の 10% になるようにしました。以下の図では、この分析法を使用して、不純物から分析種を分離できる上、ベースライン分離および良好な感度も得られることが実証されました(図 4a および 4b)。
図 4a. サルブタモール(100 µg/mL)とその関連不純物(10 µg/mL)の分離の代表的なクロマトグラム
図 4b. テルブタリン(100 µg/mL)とその関連不純物(10 µg/mL)の分離の代表的なクロマトグラム
カラムのバッチ間再現性
XBridge™ Premier BEH C18 カラムのバッチの一貫性を証明するために、3 つの異なる製造ロットを調査しました。各カラムを、BA 混合物サンプルの 12 回の注入にわたって検討しました。バッチ間の性能は明らかに同等になりました(図 5a ~ 5c、表 6 および 7)。このデータから、XBridge™ Premier BEH C18 カラムの高い信頼性が明確に示されます。
図 5a. カラムバッチ A での BA 混合物の分離の代表的なクロマトグラム
図 5b. カラムバッチ B での BA 混合物の分離の代表的なクロマトグラム
図 5c. カラムバッチ C での BA 混合物の分離の代表的なクロマトグラム
高 pH でのシステムとカラムの再現性
MaxPeak™ HPS テクノロジーを採用した Premier カラムおよびシステムの高 pH 条件下での強靭さを実証するために、新しい XBridge™ Premier BEH C18 カラムを Arc™ Premier LC システムに取り付けました。このカラムで、BA 混合物サンプルの注入を 300 回(100 時間を超える分析時間に相当)実施しました。300 回の注入の過程にわたる平均保持時間と標準偏差の詳細を以下に示します(表 8)。
結論
CRD に関連する有病率と死亡率が高いことから、BA などの維持薬の品質と有効性は非常に重要です。これをサポートするため、さまざまな BA とその不純物を分離できる分析法を開発しました。結果には再現性および直線性がありました。この分析法の塩基性条件により、テーリングが最大 65% 減少し、一部のクリティカルペアのベースライン分離が改善しました。さらに、この分析法により、長時間にわたって塩基性 pH 条件にさらされた場合における MaxPeak™ HPS テクノロジーの信頼性と再現性が実証されました。最後に、XBridge™ Premier BEH C18 カラムは、異なる吸着剤のロットにわたって信頼できる性能を示すことがわかりました。
参考文献
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- Zhang L, Jia Q, Liao G, Qian Y, Qiu J. A Fast Method for the Simultaneous Analysis of 26 Beta-Agonists in Swine Muscle with a Multi-Functional Filter by Ultra-High Performance Liquid Chromatography-Tandem Mass Spectrometry.Separations.2022 May 1;9(5):121.Available from: https://www.mdpi.com/2297-8739/9/5/121
- Yan K, Zhang H, Hui W, Zhu H, Li X, Zhong F, et al.Rapid screening of toxic salbutamol, ractopamine, and clenbuterol in pork sample by high-performance liquid chromatography—UV method.Journal of Food and Drug Analysis.2016 Apr 1;24(2):277–83.Available from: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1021949816000107?via%3Dihub
- Alkhateeb FL, Wilson I, Maziarz M, Rainville P. Ultra high-performance liquid chromatography method development for separation of formoterol, budesonide, and related substances using an analytical quality by design approach.Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis.2021 Jan 30;193:113729.Available from: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0731708520316150?viewFullText=true
- Dolan J. Back to Basics: The Role of pH in Retention and Selectivity.Chromatography Online.LCGC; 2017.Available from: https://www.chromatographyonline.com/view/back-basics-role-ph-retention-and-selectivity
720007945JA、2023 年 7 月