MaxPeak™ Premier カラムによるピーク形状の改善およびバイオアナリシスワークフローにおける固相抽出の結果に対する影響
要約
分析種が LC カラムまたはシステムの露出した金属表面と相互作用すると、非特異的吸着が発生する場合があります1-2。 この相互作用により、金属表面への吸着によるサンプルの喪失、およびピークのテーリングや全般的なピーク形状の不良が発生することがあります。このことは、固相抽出した化合物の検出など、重要なアッセイにおいて特にやっかいな問題になります。固相抽出は、サンプル由来のリン脂質やタンパク質などの望ましくない物質を除去するだけでなく、サンプルを濃縮して検出および定量をしやすくするためにもよく使用されます。固相抽出したサンプルを適切にクリーニングして干渉物を除去した場合でも、非特異的吸着により回収率の低下やばらつきが大きくなることがあります。このアプリケーションノートでは、ニコチンおよび 3 種類の代謝物を採取した口腔液にスパイクし、ステンレススチール製カラムと MaxPeak Premier High-Performance Surface(HPS)カラムの両方で分析した固相抽出実験を示します。ステンレススチール製カラムでは大きなばらつきおよびノルニコチンのピークの形状不良が見られるのに対して、この種のサンプルに MaxPeak Premier カラムを使用することで、疑念が解消され、固相抽出後に正確な結果が確実に得られるというメリットが浮き彫りになっています。
アプリケーションのメリット
- Oasis™ PRiME MCX 吸着剤および 4 ステッププロトコルを使用した固相抽出分析法は開発されていません。
- 回収率(%)の計算の再現性向上
- LC-MS におけるピーク形状がよりシャープで対称になり、波形解析および定量が向上
はじめに
非特異的吸着(NSA)が LC-MS アプリケーションに大きな影響を及ぼす場合があります3-8。NSA は、ピーク面積の低下から波形解析に影響するピーク形状の不良に至るまで、重要なアッセイに極めて悪い影響を及ぼす場合があります。NSA を低減するには、サンプルマトリックスまたは「犠牲にするサンプル」を用いるシステムの不動態化、移動相中のメドロン酸などの不動態化剤の使用、さらに PEEK カラムや PEEK 被覆カラムおよびシステム配管の使用など、さまざまな方法があります。これらの手法にはそれぞれ用途がありますが、いずれの場合もそれらのマイナス面が NSA より劣ることがあります。メドロン酸などの不動態化剤は、イオン交換体として作用し、分析種のイオン化に影響して LC-MS シグナルに影響を及ぼすことがあります。マトリックスまたはサンプルによるシステムおよびカラムの不動態化は、短期的には有効ですが、コストがかかり、また性能を維持するためにこのプロセスを定期的に繰り返す必要があります。最後に、PEEK カラムおよび PEEK 被覆カラムは、製造時の管理不足のためにカラム間のばらつきが大きく、長期間にわたって使用される分析法において問題が生じます。
MaxPeak Premier High-Performance Surface(HPS)テクノロジーの創造により、カラムおよびシステムハードウェアのステンレススチール製コンポーネントに有機-無機ハイブリッド表面修飾を使用できるようになり、NSA に関するすべての懸念事項に対処することができます。この修飾によって分析種と金属表面の直接相互作用を回避できるため、吸着効果に起因するピーク形状の問題が改善し、サンプルの損失が低減します。このテクノロジーは、固相抽出がよく使用され、分析種が一般的に低濃度であるバイオアナリシスワークフローで特に有用です。多くのバイオアナリシスワークフローで、マトリックス干渉を低減し、分析種の濃度を改善するために固相抽出を使用していますが、固相抽出後でも分析種が低濃度であるのが一般的です。NSA は、分析種濃度が低いほどサンプルの吸着に対する影響が大きくなり、バイオアナリシスワークフローにおける検出限界および定量限界の決定がより困難になることが知られています1,8。MaxPeak Premier HPS カラムにより NSA が低減し、分析種の定量がより正確になります。このことを実証するため、ニコチンおよび 3 種類の代謝物を採取した口腔液サンプルにスパイクし、Oasis PRiME MCX サンプル前処理デバイスを使用して解析しました。次に、同じバッチの BEH™ C18 2.5 µm 粒子を充塡したステンレススチール製カラムおよび MaxPeak Premier HPS ハードウェアカラムを使用してサンプルを分析しました。
実験方法
サンプルの説明
化合物のストック溶液(ニコチンおよびコチニン)は 1 mg/mL 水溶液になるように調製しました。ヒドロキシコチニンとノルニコチンの 1 mg/mL メタノール溶液のストック溶液は Cerilliant から購入しました。固相抽出用の作業用溶液は、6.25 µg/mL(スパイク前溶液)および 2.08 µg/mL(スパイク後溶液)水溶液になるように調製しました。
サンプル前処理
Quantisal 口腔液採取デバイスを使用して、ブランク試料として使用する非喫煙者からの口腔液サンプルを採取しました。サンプルの分解を避けるため、サンプルの採取および使用を同日に行いました。サンプルクリーンアップに Oasis PRiME MCX µElution プレート(製品番号:186008914)を使用しました。採取した口腔液の一部に分析種をスパイクし、4% リン酸水溶液で前処理(1:1)しました。100 mM ギ酸アンモニウム、2% ギ酸、メタノールでの洗浄を含む、Oasis PRiME MCX 4 ステップクリーンアッププロトコルに従いました9。5% 水酸化アンモニウム含有メタノールを用いて溶出し、直ちに注入用にシステムに配置しました。すべてのステップで固相抽出型式(この場合は µElution プレート)に基づく容量を使用しました10。LC-MS 分析の最終サンプル濃度は、4 種類の分析種それぞれについて 50 ng/mL でした。
LC 条件
LC システム: |
ACQUITY™ UPLC H-Class PLUS システム(PDA 検出器および QDa 検出器搭載) |
検出: |
SIR(図 1 参照) |
カラム: |
XBridge™ Premier BEH C18 カラム 2.5 µm、2.1 × 50 mm(製品番号:186009827) XBridge BEH C18、2.5 µm、2.1 × 50 mm(製品番号:186006029) |
カラム温度: |
30 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
2.0 µL(UPLC) |
流速: |
0.5 mL/分 |
移動相 A: |
水 |
移動相 B: |
アセトニトリル |
移動相 D: |
200 mM 水酸化アンモニウム水溶液 |
グラジエント条件: |
グラジエント全体を通して 5% 移動相 D で一定。4.90 分間で 5 ~ 95% の移動相 B95% B で 0.82 分間ホールドし、開始条件に戻って 2 分間ホールド。 |
データ管理
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower™ 3 Feature Release 5 |
結果および考察
ニコチンは、紙巻たばこ、葉巻、さらには電子たばこなどのたばこベースの製品に存在するよく知られている化学物質です。口腔液中のニコチンおよび代謝物のモニタリングは、禁煙治療の一環としてや個人の喫煙レベルを評価するのに使用されています。口腔液は通常、Quantisal 口腔液採取デバイスのようなデバイスを使用して非侵襲的に採取します。採取では、このデバイスを舌の下に置き、十分量の液体が収集されるのを待ちます。次に、輸送および分析のためにデバイスを保存溶液中に入れます。保存溶液には通常、サンプルが分解しないように安定化バッファーが含まれています。
バイオアナリシスワークフローにおける MaxPeak Premier HPS テクノロジーのメリットを明らかにするために、非喫煙者から口腔液を採取しました。この人は喫煙をしたことがなく、体内にニコチンも代謝物もないので、この口腔液はブランクマトリックスになります。Quantisal デバイスを使用してサンプルを採取した後、このサンプルに対して Oasis PRiME MCX プロトコルを使用して固相抽出を行いました。この試験では、サンプルが限られており、口腔液から分析種を濃縮することが目的であるため、Oasis PRiME MCX 96 ウェル µElution プレートを使用しました。ニコチンと 3 種類の代謝物(ノルニコチン、コチニン、ヒドロキシコチニン)はすべて、低 pH では荷電し、高 pH では中性になるため、陽イオン交換固相抽出プレートを選びました。Oasis PRiME MCX 4 ステッププロトコルに従い、XBridge BEH C18 および XBridge Premier BEH C18 カラムを使用して、サンプルを処理し、その後分析しました。いずれのカラムの場合も、同じバッチの 2.5 µm BEH C18 粒子を 2.1 × 50 mm ハードウェアに充塡しました。カラム間の唯一の違いは、MaxPeak Premier HPS テクノロジーハードウェアを使用していることです。BEH パーティクルテクノロジーは高 pH で安定するように設計されているため、高 pH で分析種がよりよく保持および分離されるように BEH C18 粒子を選択しました。
固相抽出およびそれに続く LC-MS 分析の後、両方のカラムを使用した場合の分析種の回収率を計算しました(図 2)。
同じサンプルを同じ日に分析しましたが、それでもステンレススチール製カラムと MaxPeak HPS カラムを使用して収集したデータの間に多少のばらつきがあります。すべての分析種で %回収率が 80 ~ 120 の間でエラーバーも妥当ですが、ノルニコチンのデータの標準偏差は、同じサンプルを MaxPeak HPS カラム(2.5%)で分析した場合と比較して、ステンレススチール製カラム(11%)ではかなり大きくなっています。他の 3 化合物については、2 つのカラムで結果は同等です。ノルニコチンの回収率の標準偏差がより大きくなる原因を調べたところ、2 つのカラムの間でクロマトグラフィーに明確な違いがあることがわかります(図 3)。
赤線からわかるように、ステンレススチール製カラムでは、MaxPeak Premier HPS カラムと比較して、ノルニコチン(3)のピークの幅が広く、わずかにテーリングが見られます。わずかでもピーク形状が悪いと、ピークの波形解析と定量がより困難になり、対称性のピークよりも信頼性が低くなります。そのため、幅の広い非対称性のピークでは、%回収率のばらつきと標準偏差が大きくなります。他の分析種については、ステンレススチール製カラムにおいて MaxPeak Premier HPS カラムと同等のピーク形状が見られます。この例では、MaxPeak Premier HPS カラムを使用することで固相抽出したサンプルをより正確に定量できました。このことはバイオアナリシスワークフローにおいて重要です。この試験ではテストしていませんが、ステンレススチール製カラムを使用して検出限界および定量限界を決定すると、サンプルの喪失によりしきい値が高くなる可能性があります。MaxPeak Premier HPS カラムの使用により、非特異的吸着が解消されてサンプルを正確に測定でき、ピーク形状が改善されます。このことは、より低レベルの分析種の検出および適切な波形解析と定量を可能にします。
結論
MaxPeak Premier High-Performance カラムでは、分析種とシステムおよびカラムの露出した金属表面の間の二次的相互作用が低減します。このような二次的相互作用は通常、非特異的吸着と分析種の喪失により、ピーク形状の歪みやピーク面積の低下として表れます。固相抽出後の分析の場合、ピーク面積の低下やピーク形状の不良は、波形解析および定量に影響し、回収率の低下や長いエラーバーにつながる場合があります。これにより、結果の不確かさが大きくなり、サンプルクリーンアップにおける固相抽出プロトコルの有効性があまり表れない可能性があります。
Quantisal 採取デバイスで採取した口腔液にニコチンおよび代謝物をスパイクしました。推奨されている Oasis PRiME MCX 4 ステッププロトコルおよび µElution プレートを使用して、サンプルを処理しました。この推奨プロトコルを使用することで、固相抽出メソッドの開発が不要になり、さらなる分析のためのきれいなサンプルが得られています。固相抽出の後、溶出液を、ステンレススチール製の XBridge BEH C18 カラムおよび MaxPeak HPS テクノロジーを採用した XBridge Premier BEH C18 カラムの両方で分析しました。いずれのカラムも回収率とエラーバーが妥当ですが、ステンレススチール製カラムでのノルニコチンの結果ではエラーバーがかなり長くなっています。クロマトグラフィーを見ると、ステンレススチール製カラムで分析した場合は、ノルニコチンのピーク形状がテーリングにより悪くなっていることがわかります。MaxPeak Premier HPS カラムでは大幅に優れたピーク形状が見られ、より正確なピーク波形解析が可能になって一貫性のある結果が得られています。MaxPeak Premier HPS ACQUITY を使用して固相抽出したサンプルを分析することで、より信頼性が高く正確なデータが得られ、固相抽出の有効性に関する疑念が解消されて、分析をより明確に把握できることが実証されました。
参考文献
- Delano M, Walter TH, Lauber M, Gilar M, Jung MC, Nguyen JM, Boissel C, Patel A, Bates-Harrison A, Wyndham K. Using Hybrid Organic-Inorganic Surface Technology to Mitigate Analyte Interactions with Metal Surfaces in UHPLC.Anal.Chem. 93 (2021) 5773-5781.
- Walter TH, Alden BA, Belanger J, Berthelette K, Boissel C, DeLano M, Kizekai L, Nguyen JM, Shiner S. Modifying the Metal Surfaces in HPLC Systems and Columns to Prevent Analyte Adsorption and Other Deleterious Effects.LCGC Supplemental.40 (2022).
https://www.chromatographyonline.com/view/modifying-the-metal-surfaces-in-hplc-systems-and-columns-to-prevent-analyte-adsorption-and-other-deleterious-effects - Kellett J, Birdsall R, Yu YQ.Increasing Recovery of Phosphorylated Peptides Using ACQUITY Premier Technology Featuring MaxPeak High Performance Surfaces.Waters application note.2021, 720007198.
- Smith K, Rainville P. Utilization of MaxPeak High Performance Surfaces and the Atlantis Premier BEH C18 AX Column to Increase Sensitivity of LC-MS Analysis.Waters application note.2020, 720006745.
- Tanna N, Plumb R. Advantages of using ACQUITY Premier System and Columns with MaxPeak HPS Technology for Bioanalysis of Gefitinib- an EGFR Inhibitor.Waters application note.2021, 720007122.
- Yang J, Rainville P. Enhancing LC-MS/MS Analysis of B-group Vitamins with MaxPeak High Performance Surfaces Technology.Waters application note.2021, 720007264.
- Clements B, Maziarz M, Rainville P. High-Speed Sensitive Analysis of Sunitinib and Related Metabolites Through UPLC-MS/MS Featuring CORTECS Premier C18 Columns with MaxPeak High Performance Surface (HPS) Technology.Waters application note.2023, 720007845.
- Tanna N, Mullin LG, Rainville P, Wilson ID, Plumb R. Improving the LC/MS/MS-based bioanalytical method performance and sensitivity via a hybrid surface barrier to mitigate analyte-Metal surface interactions.J. Chrom.B. 1179 (2021).
- Oasis PRiME MCX Quick Start Card.Waters Collateral.715005629EN.
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720008128JA、2023 年 11 月