• アプリケーションノート

臨床研究における Xevo™ TQ Absolute 質量分析計を使用した人工脳脊髄液中のアミロイド β ペプチドの LC-MS/MS 分析

臨床研究における Xevo™ TQ Absolute 質量分析計を使用した人工脳脊髄液中のアミロイド β ペプチドの LC-MS/MS 分析

  • Bilgin Vatansever
  • Lisa J. Calton
  • Waters Corporation

研究目的のみに使用してください。診断用には使用できません。

要約

36 ~ 43 アミノ酸を含む配列からなるアミロイドベータ(Aβ)ペプチドは、神経変性障害を有する患者の脳に沈着するアミロイドプラークの主成分であるため、臨床研究の対象になっています。このアプリケーションブリーフでは、人工脳脊髄液(aCSF)中の複数の Aβ ペプチドアイソフォーム(1–38、1–40、1–42)の分析的感度が高く、選択的な定量のための臨床研究におけるツールとしての、Xevo™ TQ Absolute 質量分析計を搭載した ACQUITY™ Premier UPLC I-Class システムの適合性を実証します。

図 1.  Xevo™ TQ Absolute 質量分析計を搭載した Waters ACQUITY™ Premier UPLC I-Class システム

はじめに

36 ~ 43 アミノ酸を含む配列からなるアミロイドベータ(Aβ)ペプチドは、神経変性障害を有する患者の脳に沈着するアミロイドプラークの主成分であるため、新規医薬品の薬力学調査を行う臨床研究の対象になっています。従来、体液中の Aβ ペプチドの定量は、主に ELISA などの免疫測定法によって行われてきました1,2。 これらの手法は、交差反応性の影響を受ける可能性があり、これが分析法のバッチ間のばらつきを引き起こして、結果の信頼性に影響を及ぼす可能性があります。さらに、複数のバイオマーカーを含む評価では、各ペプチドごとに個別の ELISA 法が必要であり、分析時間とコストが全体的に増加します。したがって、分析の選択性がより高い単一の頑健な分析法があれば、これらの課題の克服に役立ちます。液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS/MS)が、Aβ ペプチドの臨床研究に有用な手法になる可能性があります。そのメリットとして、分析の選択性の改善、多成分の質量検出を 1 回の分析で行える性能などが挙げられます。代用マトリックス法を利用することで、Aβ ペプチドのアイソフォームを、サンプル前処理、クロマトグラフィー分離、マルチプルリアクションモニタリング(MRM)質量検出によって得られる選択性をもって測定することができます。

この試験では、濃度範囲 0.1 ~ 10 ng/mL にわたる 200 µL の人工脳脊髄液(aCSF)から抽出した、複数のインタクトな Aβ ペプチドアイソフォーム(1–38、1–40、1–42)において、臨床研究での分析的感度が高く、選択的な定量のためのツールとして、Xevo™ TQ Absolute 質量分析計を搭載した ACQUITY™ Premier UPLC I-Class システムの適合性を実証します。

サンプル前処理および LC-MS 分析

アプリケーションノート(720006517)に詳しく記載されているサンプル前処理および LC-MS 分析を使用し、分析種の保持を改善するために、このセクションで説明しているいくつかの軽微な変更を加えました3

キャリブレーションおよび品質管理(QC)用の各レベルの作業溶液を、0.4%(w/v)ウシ血清アルブミン(BSA)と共にブランクの人工 CSF にスパイクしました。200 µL のスパイクサンプルを 200 µL の 5 M グアニジン-HCl および 200 µL の 4%(v/v)リン酸で希釈してから、内部標準の作業溶液を添加しました。室温で 1 時間インキュベーションした後、このサンプルを Oasis™ MCX SPE µElution プレートにロードしました。このプレートを洗浄し、続いて図 1 の 720006517 のプロトコルを用いて溶出しました。溶出液を窒素を用いて蒸発乾固させてから、50 µL の 20:80:1(v:v:v)アセトニトリル:水:アンモニアに再溶解しました。

ACQUITY Premier UPLC I-Class FTN システムで、ACQUITY UPLC BEH Peptide C18 300Å、2.1 × 150 mm、1.7 µm カラムを使用して、0.3% NH4OH/水/アセトニトリル中 10 ~ 55% 移動相 B のグラジエントで Aβ ペプチドアイソフォームを分離し、表 1 に記載した MRM トランジションおよびプリカーサースキャンパラメーターを使用して、Xevo TQ Absolute 質量分析計で分析しました。移動相は毎日新しく調製しました。 

表 1.  インタクト Aβ ペプチドアイソフォームおよびその内部標準(IS)の分析に使用した MRM トランジション

結果および考察

最低濃度のキャリブレーション試薬(0.1 ng/mL)の分析感度は、5 回の分析にわたって、すべての Aβ ペプチドアイソフォーム(1–38、1–40、1–42)について S/N(PtP)> 10:1 であることが示されました(図 2 )。 

図 2.  Xevo™ TQ Absolute 質量分析計を搭載した ACQUITY™ Premier UPLC I-Class を使用した、Aβ ペプチドアイソフォーム(1 ~ 38、1 ~ 40、1 ~ 42)についての 0.1 ng/mL での分析法の感度(20 µL 注入

検量線は、各ペプチドの 5 回の分析実行にわたって 0.1 ~ 10 ng/mL の範囲で r2 > 0.999 の直線性を示しました。

Xevo™ TQ Absolute 質量分析計で得られる Aβ ペプチド全体の合計精度と併行精度を、3 濃度(0.2、1.0、7.5 ng/mL)の QC を使用して、5 回の繰り返し注入を 5 回の分析実行で評価しました(n = 25)。合計精度と併行精度は CV < 5% と判定され、QC の正確性は、公称濃度と比較して、Aβ ペプチドアイソフォーム全体にわたって 96.1 ~ 100.4% の範囲でした(表 2)。 

表 2.  Aβ ペプチドアイソフォームの合計精度と併行精度に関する性能

結論

人工 CSF 中の Aβ ペプチドバイオマーカー分析用の LC-MS/MS 分析法を、臨床研究用に開発しました。ACQUITY Premier UPLC I-Class システムと Xevo TQ Absolute 質量分析計を併用することで、優れた日間直線性、分析感度、精度、正確性が得られ、Aβ ペプチドアイソフォーム(1–38、1–40、1–42)の定量で得られる結果の信頼性を高めることができます。

参考文献

  1. Jensen M, Hartmann T, Engvall B, Wang R, Uljon SN, Sennvik K, Naslund J, Muehlhauser F, Nordstedt C, Beyreuther K et al: Quantification of Alzheimer Amyloid Beta Peptides Ending at Residues 40 and 42 by Novel ELISA Systems.Mol Med 2000, 6(4):291–302.
  2. Lachno DR, Evert BA, Maloney K, Willis BA, Talbot JA, Vandijck M, Dean RA: Validation and Clinical Utility of ELISA Methods for Quantification of Amyloid-beta of Peptides in Cerebrospinal Fluid Specimens from Alzheimer's Disease Studies.J Alzheimers Dis 2015, 45(2):527–542.
  3. Salcedo J, Ph.L, Davey L, Lame M, Dunning C, Chambers E: Amyloid Beta Peptides Quantification by SPE-LC-MS/MS With Automated Sample Preparation for Preclinical Research and Biomarker Discovery.Waters Application Note, 720006517.

720007900JA、2023 年 3 月

トップに戻る トップに戻る