• アプリケーションノート

従来の ACQUITY™ UPLC™ システムから ACQUITY Premier システム(FL)への分析法移行

従来の ACQUITY™ UPLC™ システムから ACQUITY Premier システム(FL)への分析法移行

  • Robert E. Birdsall
  • Kellen DeLaney
  • Pawel Bigos
  • Tatyana Friedman
  • Waters Corporation

要約

医薬品の安全性を向上させ、医薬品の製造における知識体系を継続的に拡大する手段として、医薬品のライフサイクル管理において改善できる機会を特定していくことが推奨されます。本研究では、古いシステム(従来の ACQUITY UPLC システム)から、MaxPeak™ High Performance Surfaces(HPS)を採用した ACQUITY Premier システム(固定ループ設計)に、ペプチドマッピング法を適切に移行できることを実証します。分析種/表面間の吸着によるアーティファクトの低減により、ピークテーリングが減少し、重要品質特性の回収率が向上して、バイオ医薬品のより優れたライフサイクル管理が実現しました。

アプリケーションのメリット

ACQUITY Premier システムの固定ループ設計により、以下のメリットがもたらされます:

  • 一貫性および信頼性の高い性能と、再現性の高い結果
  • 古い従来型 ACQUITY UPLC システムからの分析法のシームレスな移行
  • MaxPeak HPS テクノロジーにより、金属に吸着しやすい分析種のピークテーリングが低減し、回収率が向上

はじめに

ライフサイクル管理は、医薬品の製造において重要な役割を担っています。

このプロセスの一環として、ICH ガイダンスでは、フィードバック/フィードフォワード方式で医薬品の安全性を向上させる機会を特定および評価し、医薬品の製造における知識を継続的に拡張することを推奨しています1。 このプロセスは、古くなった分析法や装置に適用できます。より高速かつ頑健で、より高感度な分析機能を提供する最新のテクノロジーにより、メーカーも消費者も、結果の信頼性と効率の向上によるメリットを享受できます。最近、Waters™ は MaxPeak™ HPS を採用した ACQUITY Premier システムを導入しました。これにより、ウォーターズの LC ポートフォリオによって確立されたクロマトグラフィー性能がさらに向上します。MaxPeak HPS は、ピークテーリングや分析種の回収率の低下などの吸着によるアーティファクトを引き起こす、分析種と表面の相互作用を低減するように設計されています。この製品の一部として、ACQUITY Premier システムが固定ループ設計で提供されるようになりました。これにより、科学者は製品パイプライン全体で、この新しい表面テクノロジーを最大限に活用できます。

本研究の目的は、従来の ACQUITY UPLC システムなどの古いシステムから、固定ループ設計を採用した ACQUITY Premier システムにペプチドマッピング法を正常に移行できるだけでなく、MaxPeak HPS テクノロジーによって、クロマトグラフィー性能の面で追加のメリットがもたされることを実証することです。 

実験方法

MS グレードの水およびアセトニトリルは、Honeywell Burdick & Jackson から購入しました。MS グレードのギ酸は Thermo Scientific™ から購入しました。サンプルは、0.1% ギ酸水溶液を使用し、ウォーターズコーポレーションから購入した mAb トリプシン消化標準品(製品番号:186009126)を使用して濃度 0.8 mg/mL になるように調製しました。

LC 条件

LC システム:

ACQUITY Premier システム(BSM-FL バリアント)

ACQUITY UPLC システム

検出:

ACQUITY TUV、FC = Ti 5 mm、λ = 214 nm

バイアル:

QuanRecovery™ MaxPeak バイアル(製品番号:186009186)

カラム:

ACQUITY UPLC CSH™ C18 カラム、130 Å、1.7 µm、2.1 × 100 mm(製品番号:186005297)

ACQUITY Premier Peptide CSH C18 カラム、130 Å、1.7 µm、2.1 × 100 mm(製品番号:186009488)

カラム温度:

60 ℃

サンプル温度:

10 ℃

注入モード:

PLUNO

注入ループ:

10 µL

注入量:

5 µL

弱洗浄容量:

600 µL

強洗浄容量:

200 µL

流速:

0.200 mL/分

移動相 A:

0.1% ギ酸水溶液

移動相 B:

0.1% ギ酸アセトニトリル溶液

弱洗浄溶媒:

50:50 アセトニトリル:水

強洗浄溶媒:

50:50 アセトニトリル:水

シール洗浄溶媒:

20:80 アセトニトリル:水

グラジエント

MS 条件

MS システム:

ACQUITY QDa™ 質量検出器

スキャン範囲:

ポジティブ、フルスキャン

スキャン範囲:

m/z 350 ~ 1,250

サンプリングレート:

5 Hz

プローブ温度:

600 ℃

キャピラリー電圧:

1.5 kV

コーン電圧:

15 V

データ管理

クロマトグラフィーソフトウェア:

Empower™ 3、FR4

結果および考察

この分析法移行の試験では、代表的な分析法としてモノクローナル抗体消化物のペプチドマッピングを選択し、複雑なサンプルに対して、システムがより低い流速で正確なグラジエント組成を送液できるかどうかを課題に据えました。ペプチドマッピングを選択したのは、分離が困難である点に加えて、タンパク質ベースの医薬品の特性解析および品質管理においてペプチド分析が広く普及していることを考慮してのことです。この観点から、ペプチドマッピングは、製品のパイプライン全体にわたって広く導入されている ACQUITY Premier の機能を実証するための代替の分析法となります。最後に、酸性アミノ酸は、タンパク質ベースの医薬品の主な構成要素として、MaxPeak HPS のメリットを本質的に享受できます。グルタミン酸やアスパラギン酸などのタンパク質に天然に存在する酸性残基は、負電荷を示すことがあるため、ペプチドの金属表面への吸着により、図 1 に示すようなピークテーリングが発生することがあります。アスパラギンの脱アミド化によるアスパラギン酸およびイソアスパラギン酸への転換は、薬剤の有効性に関連するモノクローナル抗体(mAb)に共通の翻訳後修飾であるため、バイオ医薬品においてこの点は非常に重要になります。このことを考慮すると、このケーススタディでは、分析法の同等性の実証だけでなく、MaxPeak HPS テクノロジーにより、これらの分析において望ましくない吸着によるアーティファクトが低減することで、医薬品のライフサイクル管理の向上における価値の実証も重要になります。

図 1.  グルタミン酸やアスパラギン酸などのタンパク質中の酸性アミノ酸残基に起因する吸着によるアーティファクトにより、ペプチドマッピングプロファイルにピークテーリングが現れることがあります。

後者の場合、固定ループサンプルマネージャーを搭載した ACQUITY Premier システムでは、古い分析法の移行を容易にするために、ニードル設計およびシステムデュエルボリュームが以前の従来型 ACQUITY UPLC システムに近くなるように、意図的に設計されています。これを図 2 に示します。ここでは、カフェインを使用して 5 ~ 95% 移動相 B での簡単な 25 分間のグラジエントを実行し、両方のシステムのデュエルボリュームを求めました2。 挿入図に示されているように、検出器のレスポンスとプログラムされたグラジエントの差を使用して、ACQUITY Premier システムのデュエルボリューム(158.8 µL)と ACQUITY UPLC システムのデュエルボリューム(149.4 µL)の違いは 10 µL 以内であることが分かりました。デュエルボリューがほぼ同等であることは、システム間で分析法を移行する場合に、同じ分離を達成するためにグラジエントの変更がほとんどまたはまったく必要ないことを意味します。このメリットを強調するために、図 3 に、両方のシステムで同じカラムと分析法を使用して得られた mAb トリプシン消化標準品のペプチドマップを示します。図からわかるように、ペプチドプロファイルは、分析法に変更を加えずに得たクロマトグラム全体にわたって、選択した 22 本のペプチドピークについて、ピーク保持時間と相対強度の点でほぼ一致しています。

図 2.  プログラムされたグラジエントに対する検出器のレスポンスをモニターするためのトレーサー分子としてカフェインを使用して、ACQUITY Premier システムおよび ACQUITY UPLC システムのデュエルボリュームはそれぞれ 158.8 µL および 149.4 µL と測定されました。デュエルボリュームがシステム間でほぼ一致するため、移行された分析法に変更を加えませんました。
図 3.  A)ACQUITY UPLC システムおよび B)ACQUITY Premier システム(固定ループ設計)で ACQUITY UPLC CSH カラム(2.1 × 100 mm、1.7 µm)を使用し、両方のシステムで同じ分析法とカラムを使用した場合の、Waters mAb トリプシン消化標準品の RPLC 分離。

分析法の同等性を評価するために、両方のシステムで得られたデータを使用して、示されている 22 本のピークの保持時間の直交プロットを作成しました。図 4A に示すように、直交プロットは、傾きが約 1.00 で y 切片がゼロに近い(0.003)直線的なレスポンスを示しており、ACQUITY Premier システムで ACQUITY UPLC システムと同様の選択性および保持時間を再現できたことを示しています。さらに、図 4B に示すように、システム間で比較した場合、ピーク面積は維持されており、相対ピーク面積の差は 0.5% 以内でした。これらの結果から、ACQUITY Premier システムで、ACQUITY UPLC システムからの古い分析法を確実に再現でき、分析法のシームレスな移行が容易にできることが実証されました。

図 4.  同じ分析法およびカラムを使用して、ACQUITY UPLC システムと ACQUITY Premier システム(固定ループ設計)で実施したペプチドマッピング法で得られた A)絶対保持時間の直交プロット、および B)ペプチドピークの相対ピーク面積差。

システム間の同等性が確立された後の次の疑問は、MaxPeak HPS テクノロジーにより、ペプチドマッピングアッセイに追加の利点が得られるかどうかでした。この実験では、MaxPeak HPS テクノロジーの採用あり/なしの CSH カラムを使用して、ACQUITY Premier システムで、同様のペプチドマッピング分析を実行しました。図 5 に示すように、MaxPeak HPS テクノロジーを採用したカラムを使用した場合は、4 本のペプチドピークにおいてピークテーリングの顕著な改善が認められました。さらに調査したところ、図 6A の表の配列が示すように、4 本のペプチドピークに 2 ~ 4 つの「酸性」アミノ酸残基が含まれていることが明らかになりました。棒グラフ(図 6B)に示されるように、4 本のピークすべてで観察されたピークテーリングの低減により、ピーク面積の点で回収率の増加が達成されました。最も注目に値するのは、ステンレススチール製カラムを使用した場合に、検出しきい値を下回った LT14 ペプチドフラグメントの回収率でした。さらに、テーリングの低減と酸性ペプチドの回収率の向上により、不純物に関連する重要品質特性を確認することができます。このことは、図 6C で、mAb ベースの医薬品の治療効果に寄与することが知られているペプチドである、重要品質特性に関連する「PENNY」ペプチドの脱アミド化分子種について実証されています3。 この例では、ネイティブピークのピークテーリングが 70% 低減し、関連する脱アミド化不純物を検出することができました。これらの結果から、ペプチドマッピングアッセイにおいて MaxPeak High Performance Surfaces によって付与される価値と、バイオ医薬品のライフサイクル管理が改善する可能性が実証されています。

図 5.  A)ACQUITY UPLC CSH カラム(2.1 × 100 mm、1.7 µm)および B)ACQUITY Premier Peptide CSH カラム(2.1 × 100 mm、1.7 µm)を使用した、ACQUITY Premier システムでの Waters mAb トリプシン消化標準品の RPLC 分離。観察可能なピークテーリングが見られるピークには、注記が付いています。
図 6.  ACQUITY Premier システムで ACQUITY Premier Peptide CSH カラム(2.1 × 100 mm、1.7 µm)を使用して A)2 ~ 4 つの酸性アミノ酸残基を含む 4 種の酸性ペプチドを分離した場合、B)回収率の向上、C)最大 70% のテーリングの 低減、が見られました。

結論

医薬品の安全性を向上させ、医薬品の製造における知識体系を継続的に拡大する手段として、医薬品のライフサイクル管理において改善できる機会を特定していくことが推奨されます。MaxPeak HPS を採用した ACQUITY Premier システムでは、分析種と表面間の相互作用が低減し、クロマトグラフィー性能が向上することで、セパレーションサイエンスに革新的な進歩がもたらされます。ACQUITY Premier システムのポートフォリオに、固定ループ設計を導入したことにより、科学者はこの新しい表面テクノロジーを最大限に活用して、古い分析法を最新化し、より迅速かつ頑健で、高感度のアッセイを開発して、医薬品における消費者の安全性を向上させることができます。

参考文献

  1. Guidance for industry Q10 pharmaceutical quality system.ICH, 2009.
  2. P. Bigos, R. Birdsall, Y. Yu.Obtaining Equivalent IEX Chromatographic Performance Through Automated Method Scaling Using Waters Column Calculator.Waters Application Note 720007807.2022)。
  3. Chelius D, Rehder DS, Bondarenko PV.Identification and Characterization of Deamidation Sites in the Conserved Regions of Human Immunoglobulin Gamma Antibodies. Anal. Chem. 77: 6004 2005.

720007935JA、2023 年 7 月

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