• アプリケーションノート

USP <621> ガイドラインおよび MaxPeak™ Premier HPS テクノロジーを使用した、不純物を分析するアセトアミノフェン USP モノグラフグラジエント HPLC 分析法の最新化

USP <621> ガイドラインおよび MaxPeak™ Premier HPS テクノロジーを使用した、不純物を分析するアセトアミノフェン USP モノグラフグラジエント HPLC 分析法の最新化

  • Kenneth D. Berthelette
  • Jonathan E. Turner
  • Thomas H. Walter
  • Kim Haynes
  • Waters Corporation

要約

USP モノグラフには、医薬品のアイデンティティー、強度、純度など、医薬品に期待される品質が明確に記載されています。また、医薬品またはその成分がこれらの基準を満たしていることをバリデーションする試験についても記載されています。モノグラフに記載されている分析法はバリデーションされており、点眼剤から経口剤に至るまで、さまざまな医薬品の分析に使用することができます。これらの分析法では、適切ではあるものの、大きな粒子(例:5 µm)を長いカラムに充塡した古い HPLC カラムを使用することが多いため、分析時間が長くなり、移動相の使用量が多くなります。より小さな粒子が充塡された最新のカラムを使用することで、分析時間と移動相の消費量を大幅に削減でき、時間と費用の両方の節約につながります。

グラジエント分離を利用する USP モノグラフ分析法を、USP <621>ガイドラインに従って最新化しました。元の液体クロマトグラフィー分析法は、アセトアミノフェン中の有機不純物の分析向けに設計されており、4.6 × 250 mm、5 µm カラムでの 73 分間のグラジエントを使用します。MaxPeak Premier High Performance Surfaces(HPS) 4.6 × 150 mm、2.5 µm カラムに最新化すると、分析法の実行にわずか 36 分のグラジエントしか要しません。すべてのシステム適合性要件が満たされると同時に、分析時間と溶媒消費の大幅な削減が実現しました。 

アプリケーションのメリット

  • 最新化した分析法条件で同等のクロマトグラフィー結果が得られる
  • 最新の条件を使用して分析時間が 51% 短縮
  • 溶媒使用量を 40% 削減

はじめに

米国薬局方(USP)のモノグラフには、市販の製剤または医療の一部として処方される特定の製剤向けに設計されたバリデーション済みの分析法が記載されています。これらの分析法はすでにバリデーションされているため、試験ラボでは、分析法をゼロから開発するよりも容易にこれらを採用することができます。このことは、製品を迅速に市場に投入することが非常に重要である後発医薬品の製造者にとって特に重要です。これらの分析法は容易に採用できますが、多くの場合、5 µm 粒子を充塡した内径の大きなカラムなどの古いカラムテクノロジーが採用されています。これらの種類のカラムは単位長さあたりの効率が低いため、分析時間が長くなることがよくあります。一方、カラムテクノロジーの進歩により、特に小さな粒子を短いカラムに充塡することにより、分析時間を短縮することができます。

最新化の最大のメリットは、粒子径 2 µm 以下のカラムに移行した場合に見られます。ただし、これらのカラムには、高圧で使用でき、低拡散の LC システムが必要です。古い HPLC 分析法を 2.5 µm カラムに最新化すると、大きなメリットが得られる一方で、最高の性能の LC システムを必要としません。USP モノグラフ分析法の最新化は、適切に行わないと、費用のかかる再バリデーションが必要になることがあります。USP の General Chapter <621> に概説されているように、プロセスと最新化に関する情報を提供するガイドラインが存在します。これらのガイドラインには、流速、カラム寸法、粒子径など、許容されるパラメーターの変更が記載されています。USP <621> ガイドラインは、グラジエント分析法の最新化を可能にするために 2022 年 12 月に改訂され、これには新しい試験条件のグラジエントプロファイルが元の条件と一致することを保証するために必要な計算が含まれています。<621> で概説されている計算は複雑で、間違いにつながることがあります。Waters™ カラムカリキュレーターのようなツールにより、計算間違いの可能性なしに、新しい条件を見つけることができます。

このアプリケーションノートでは、カラムカリキュレーターを使用して、アセトアミノフェンの有機不純物分析を、元のモノグラフ分析法から 2.5 µm 粒子を充塡した UHPLC カラムを使用する分析法に最新化する方法について実証します。元の分析法と最新化した分析法をシステム適合性基準についてトラッキングして、いずれも分析要件を満たしていることが確認されました。元の分析法には 4.6 × 250 mm 5 µm の L7 カラムが必要で、サンプルあたりの分析時間は 73 分です。最新化した分析法では 4.6 × 150 mm 2.5 µm のカラムを使用し、分析時間は 36 分です。分析後に溶媒と時間の節約について計算したところ、この分析を最新化することのメリットが浮き彫りになりました。

実験方法

サンプル前処理

USP モノグラフ分析法で概説されているように、3 種類の別々の溶液を作製しました。システム適合性標準試料には、メタノール中に 20 µg/mL のアセトアミノフェン、および類縁物質 B と C がそれぞれ 80 µg/mL の濃度で含まれています。この標準溶液には、メタノール中に 1.25 µg/mL の類縁物質 D および 0.25 µg/mL の類縁物質 J が含まれます。サンプル溶液には、メタノール中に 25 mg/mL のアセトアミノフェンが含まれます。

LC 条件

LC システム:

UV 検出器搭載 1260 Infinity LC(モノグラフ分析法)

2998 PDA 搭載 ACQUITY Arc™(最新化した分析法)

検出:

UV @ 254 nm

カラム:

Zorbax Eclipse Plus C8、5 µm、4.6 × 250 mm(モノグラフ分析法)

XBridge™ Premier BEH C8、2.5 µm、4.6 × 150 mm(最新化した分析法)

カラム温度:

40 ℃

サンプル温度:

10 ℃

注入量:

5.0 µL(モノグラフ分析法)

3.0 µL(最新化した分析法)

流速:

0.9 mL/分(モノグラフ分析法)

1.1 mL/分(最新化した分析法)

移動相 A:

メタノール:水:氷酢酸(50:950:1)

移動相 B:

メタノール:水:氷酢酸(500:500:1)

グラジエント条件:

表 1.

表 1.  元のモノグラフ分析法と最新化した分析法のグラジエントプロファイル

データ管理

クロマトグラフィーソフトウェア:

Empower™ 3 Feature Release 4

結果および考察

アセトアミノフェンの有機不純物を分析する元の分析法は USP モノグラフに概説されています1。 この分析法のシステム適合性基準には、USP テーリング、分離度、ピーク面積の相対標準偏差の測定が含まれます。類縁物質 D の USP テーリング係数は 2.0 を超えてはなりません。USP 分離度は、アセトアミノフェンと類縁物質 B の間で 2.0 以上、類縁物質 B と類縁物質 C の間で 1.5 以上であることが必要です。類縁物質 D のピーク面積の相対標準偏差は、5.0% 未満であることが必要です1。 これらの条件をまず、Agilent 1260 Infinity LC システムと 4.6 × 250 mm、5 µm Zorbax Eclipse C8(L7 を指定)カラムを使用して試験しました。各標準試料の注入の代表的なクロマトグラムを図 1 に示します。サンプル溶液は注入しましたが、関連するシステム適合性基準がないため、データを示していません。

図 1.  4.6 × 250 mm、5 µm Zorbax Eclipse C8 カラムおよび Agilent 1260 Infinity LC システムで USP モノグラフの条件を使用した、アセトアミノフェンの有機不純物の分離を示すクロマトグラム 

システム適合性溶液および標準溶液のすべての成分について、良好な分離が得られました。標準溶液とシステム適合性溶液の間で正確なグラジエント性能を確保するために、アセトアミノフェンを標準溶液に添加していることに注意が必要です。通常、アセトアミノフェンは標準溶液には存在しません。類縁物質 D の USP テーリング係数は 1.16 であり、システム適合性限度を下回っていました。アセトアミノフェンと類縁物質 B の USP 分離度は 21.2 で、必須の最小値 2.0 を十分超えています。類縁物質 B および C の USP 分離度は4.31であり、これも 1.5 以上という要件を十分に超えています。最後に、類縁物質 D の相対標準偏差は、保持時間で 0.40%、ピーク面積で 0.82% で、いずれもこの試験の要件である 5.0% を下回っていました。すべてのシステム適合性基準が満たされていたので、材料のロットを試験して有機不純物の濃度を測定することができました。

これらの条件を使用して材料のロットを試験するには、計 18 回の注入が必要です。本モノグラフで必要とされる相対標準偏差は 2.0% を超えるため、各標準試料とサンプル溶液を 6 回繰り返しで測定する必要があります2。1 回の注入あたりの分析時間が 73 分で 18 回の注入を行うとすると、USP モノグラフの分析法を記載通りに使用すると、1 ロットの材料につき、装置での分析時間が 21.9 時間になります。流速 0.9 mL/分の場合、試験で合計 1,183 mL の移動相が必要になります。1 ロットをリリースするのに毎日試験することが必要なため、かなりの数量になります。それだけでなく、試験を開始してから 21 時間後にシステムまたはカラムに何か問題が発生すると、丸 1 日の試験が無駄になり、その間に消費した移動相も無駄になります。

Waters カラムカリキュレーターと USP <621> ガイドラインを使用して、このモノグラフを適切な UHPLC カラムに最新化することで、分析時間と溶媒消費量の両方を削減することができます。ただし、実際の試験の前に、適切な UHPLC カラムを選択する必要があります。USP モノグラフでは、L7 カラムの使用が指定されています。USP <621> では、L/dp(長さと粒子径の比)が元のモノグラフカラムの -25% ~ +50% の範囲内である限り、カラム構成の変更が許容されます。5 µm の粒子が充塡された 250 mm カラムの L/dp 比は 50,000 です。これを粒子径 2.5 µm カラムに最新化する際、この比を維持するために、150 mm カラムを使用しました。100 mm カラムに同様に充塡しても、L/dp が 40,000 なので許容されます。この最新化したカラムの L/dp 比 60,000 は、<621> で設定されているガイドラインの範囲内に十分入っています。XBridge Premier BEH C8 4.6 × 150 mm 2.5 µm カラムは、頑健な粒子を Premier High Performance Surfaces(HPS)テクノロジーと組み合わせて採用されているため、これを最新化のために選択しました。XBridge BEH C8 固定相は、三官能基結合 C8 リガンドを含む全多孔性ハイブリッドシリカ粒子に基づいており、L7 指定に適合します。XBridge BEH C8 固定相は最新の L7 全多孔性カラムであり、5 µm から 2 µm 以下の粒子までスケーリングが可能です。

これで、適切なカラム構成が選択できたので、新しいカラムの内径、長さ、粒子サイズを考慮して、モノグラフの条件を最新化する必要があります。これには、分析法の流速、注入量、グラジエントプロファイル、分析時間が含まれます。General Chapter <621> には、この最新化に必要な計算が概説されていますが、本研究では、Waters カラムカリキュレーターを使用しました。このカラムカリキュレーターでは、<621> に概説されているのと同じ式を使用して新しい分析法条件を計算しますが、これを行うのにユーザーによる入力はほとんど要りません。図 2 に、元の分析法条件と新しい最新化されたカラム情報が入力されたカラムカリキュレーターを示します。さらに、システムのデュエルボリュームの測定値も含まれています。

図 2.  アセトアミノフェンの有機不純物の USP モノグラフ分析法の最新化に使用したカラムカリキュレーターのスクリーンショット

青色で強調表示した部分には、元のカラム寸法、粒子径、流速、システムのデュエルボリューム、注入量、温度、分析時間など、ユーザーによる入力が必要です。さらに、グラジエント分析の場合、新しいグラジエントを計算できるように、カリキュレーターの左下にグラジエントプロファイルを入力する必要があります。最後に、右上の部分に、最新化したカラム情報を、新しいシステムデュエルタイムおよび最大圧力とともに入力する必要があります。オレンジ色で強調表示した部分は、ユーザーによる入力に基づいて計算されています。スケーリングされた流速(このケースでは 1.8 mL/分)は、元の流速とカラムサイズに基づいています。スケーリングされた流速では使用するシステムにかかる圧力が大きすぎる場合は、カスタム流速を設定することもできます。このケースでは、カスタム流速 1.1 mL/分を選択しました。これは、スケーリングされた流速ではシステムにかかる圧力が大き過ぎたためです。選択したカスタム流量、および元の条件と最新化した条件のカラム寸法に基づいて、新しいグラジエントプロファイルを計算することができます。右下に、新しいグラジエントプロファイルが、注入量、合計実行時間などの重要な情報とともに表示されています。これらの条件を使用して、以前と同じサンプルを、以前に説明したカラムを搭載した ACQUITY Arc システムで分析しました。ACQUITY Arc システムは、HPLC システムと比較して低バンド拡散で、2.X µm の粒子に十分適合するように設計されています。図 3 の代表的なクロマトグラムは、これらの新しい条件を使用した場合のシステム適合性溶液と標準溶液の分離を示しています。 

図 3.  4.6 × 150 mm、2.5 µm XBridge Premier BEH C8 カラムおよび ACQUITY Arc システムで、最新化した条件を使用した、アセトアミノフェンの有機不純物の分離を示すクロマトグラム 

一見すると、最新化した分析法条件を使用して得られたクロマトグラフィーは元の条件の場合と同等です。しかし、システム適合性の結果を詳細に見ると、最新化した条件がこの分析に適していることが確認できます。類縁物質 D の USP テーリング係数は 1.08 でした。USP 分離度は、アセトアミノフェン/類縁物質 B および類縁物質 B/C についてそれぞれ 17.0 および 3.5 でした。類縁物質 D の保持時間およびピーク面積の相対標準偏差は、それぞれ 0.03% および 0.50% でした。これらの結果により、すべてのシステム適合性基準が満たされていることがわかりました。さらに、全体的な分析時間が、注入あたり 73 分から 36 分に短縮されました。試験全体で、元の試験条件では 22 時間もかかっていたのが、最新化した条件ではほぼ 11 時間弱で完了しました。移動相の使用量も削減でき、元の条件では約 1,180 mL 必要でしたが、最新化した条件ではわずか約 700 mL です。時間と移動相の節約についての詳細な比較を表 2 に示します。

表 2.  元の分析法と最新化した分析法における所要時間と移動相使用量の比較

この 1 つの分析の最新化により、分析時間と溶媒を大幅に節約することができます。ラボでの複数の分析にわたる最新化の取り組みを組み合わせることで、費用をさらに削減することができます。UPLC カラムから UHPLC カラムに最新化することにより、粒子径が 2 µm 以下のカラムで生じる極端な圧力について評価されていない従来の HPLC システムで、この分析法を実行することができます。XBridge Premier カラムファミリーには、HPLC 分析、UHPLC 分析、UPLC 分析に適したさまざまな粒子径が含まれるため、このカラムファミリーは将来を支える分析法に対応できる優れたプラットホームファミリーです。粒子の拡張性により、古い USP モノグラフ分析法の最新化が容易に行えます。XBridge Premier カラムとカラムカリキュレーターを使用することにより、USP モノグラフ分析法の最新化を、やり直しをほとんどすることなくスムーズに行うことができます。

結論

USP 分析法は、さまざまな医薬品の試験に広く使用されています。これらの分析法の一部(特に、長期間販売されてきた製品向けの分析法)では、古いカラムテクノロジーを使用しています。粒子径の小さいカラムを含む新しいテクノロジーにより、分析時間と移動相の使用量を削減しつつ、同様の結果を得ることができます。新しい分析法条件を正確に決定するためのカラムカリキュレーターなどのツールを使用することで容易になる USP General Chapter <621> のガイドラインに従うことで、USP モノグラフに含まれる LC 分析法を新しいテクノロジーに最新化することができます。

今回、アセトアミノフェンの有機不純物分析に用いるグラジエント HPLC 分析法の最新化について実証しました。モノグラフの分析法では、1 ロットを試験するのに、ほぼ 1 日の実行時間と 1 リットル以上の移動相を必要とする 4.6 × 250 mm、5 µm カラムを使用します。4.6 × 150 mm、2.5 µm XBridge Premier BEH C8 カラムへの最新化を実施したことで、分析時間が 51% 短縮し、移動相使用量が約 40% 削減できました。分析法の最新化は困難な作業と思われるかもしれませんが、適切なツールを使用することで、プロセスをシームレスに実行でき、運用コストを大幅に削減することができます。

720007846JA、2023 年 1 月

トップに戻る トップに戻る