• アプリケーションノート

USP メラトニンモノグラフアッセイと不純物分析法の最新化によるスループットの向上および溶媒廃液の削減

USP メラトニンモノグラフアッセイと不純物分析法の最新化によるスループットの向上および溶媒廃液の削減

  • Jinchuan Yang
  • Paul D. Rainville
  • Waters Corporation

要約

メラトニンは、ヒトの睡眠サイクルを調節することができる神経ホルモンです。栄養補助食品として容易に入手でき、睡眠関連障害の緩和によく使用されます。最近のデータでは、小児のメラトニン誤飲事故の件数が大幅に増加していることが示されています。栄養補助食品製品中のメラトニン含量が、表示値よりも顕著に高いことが報告されています。メラトニン製品の製造プロセスにおける品質管理を支援するため、XBridge BEH C18 カラム(2.5 µm、4.6 mm × 75 mm)を搭載した Waters Arc HPLC システムで、最新バージョンの USP メラトニンモノグラフ分析手順を開発しました。液体クロマトグラフィーの条件を USP <621> ガイドラインの範囲内で適切に調整したところ、得られた分離性能は USP システム適合性要件を満たしており、分析時間の短縮と溶媒廃液の削減というメリットがありました。 

アプリケーションのメリット

  • 5 分間のアイソクラティック分析でのメラトニンのアッセイ
  • 13 分間のグラジエント溶出プログラムでの不純物の定量
  • すべてのシステム適合性要件を充足

はじめに

メラトニン(N-アセチル-5-メトキシトリプタミン)は、ほ乳類の松果体で生成される神経ホルモンです。メラトニンは、脊椎動物の睡眠周期において重要な役割を果たしているため、不眠症、不安、時差ぼけなどの睡眠関連障害の緩和によく使用されます1。 メラトニンは、フレーバー配合リキッド、チュアブル錠、ソフトゲル、カプセル、グミなど、さまざまな剤形の栄養補助食品として購入できます。最近では、小児のメラトニン誤飲事故の件数が 2012 年 ~ 2021 年に 530% 増加しており、これらの事故が 287 件の集中治療室入室および 2 件の死亡につながっていたことが報告されています2。 最近の研究では、一部の栄養補助食品に含まれるメラトニン含量が、ラベル表示値をはるかに上回っていることも明らかになっています。栄養補助食品およびメラトニングミにおいて、それぞれ表示値の 478% および 347% もの量が検出されています3,4。 このことから、メラトニンを含む栄養補助食品の品質と安全性に大きな懸念が寄せられています。栄養補助食品メーカーは、正確なラベル表示を保証するために、品質管理を改善することが求められています。米国薬局方(USP)のメラトニンモノグラフには、メラトニンのアッセイおよび不純物についての業界規準が記載されています5。 このアプリケーションノートの目的は、XBridge BEH C18(2.5 µm、4.6 mm × 75 mm)カラムを使用し、Waters 2998 PDA 検出器を搭載した Waters Arc HPLC システムで USP 分析法を最新化することです。

実験方法

米国薬局方が推奨する標準試料とサンプルの溶液調製、および液体クロマトグラフィー(LC)の条件を、若干調整して採用しました5。 USP メラトニン RS、5-メトキシトリプタミン(5-MT)は Sigma-Aldrich(ペンシルベニア州アレンタウン)から購入しました。

バッファー:0.5 g/L の一塩基性リン酸カリウム水溶液。リン酸で pH 3.5 に調整し、ろ過しました。

標準試料溶液:0.1 mg/mL USP メラトニン RS 含有移動相(アセトニトリル/バッファー 22:78(v/v))。

システム適合性溶液:0.1 mg/mL USP メラトニン RS および 0.02 mg/mL 5-MT(メラトニン類縁物質 A)含有移動相(アセトニトリル/バッファー 22:78(v/v))。

サンプル溶液:0.1 mg/mL メラトニン含有移動相(アセトニトリル/バッファー 22:78(v/v))。

LC 条件

システム:

Arc HPLC システム(2998 PDA 検出器搭載)

サンプルループ:

50 µL(標準)

カラム:

XBridge BEH C18 カラム、130 Å、2.5 µm、4.6 mm × 75 mm(製品番号:186006038)

カラムプレヒーター:

なし(バイパス)

バイアル:

スクリューネックキャップ(製品番号:186000305)付き 2 mL ガラス製スクリューネックバイアル(製品番号:186000273)

温度:

30 ℃

サンプルマネージャーパージ溶媒:

アセトニトリル/バッファー(22:78 v/v)

サンプルマネージャー洗浄溶媒:

アセトニトリル/水(22:78 v/v)

シール洗浄溶媒:

メタノール/水(1:1 v/v)

注入量:

2.0 μL

UV 波長:

222 nm

ソフトウェア:

Empower 3 CDS

アッセイの場合

移動相 A(アイソクラティック):

アセトニトリル/バッファー(22:78 v/v)

分析時間:

5.0 分

不純物の場合

移動相 A:

アセトニトリル

移動相 B:

バッファー(0.5 g/L の一塩基性リン酸カリウム水溶液、pH 3.5)

グラジエント溶出プログラム:

表 1 参照。

分析時間:

13.0 分

表 1

結果および考察

USP 分析法の最新化

USP メラトニンモノグラフでは、メラトニンのアッセイと不純物の分析手順が規定されています。これらの分析法を Arc HPLC システムに実装し、USP の許容調整ガイドラインに基づいて軽微な調整を行いました6。 単位長さあたりの分離効率が高いため、USP モノグラフに記載されている 5 μm 粒子のカラムではなく、2.5 μm 粒子径の XBridge BEH C18 カラムを使用しました。カラム長を 75 mm に調整し、L/dp(カラム長と粒子径の比)を USP モノグラフと同じに保ちました。USP モノグラフでは、アセトニトリル/バッファー 25:75(v/v)の移動相が推奨されていましたが、類縁物質 A(5-MT)とメラトニンの RRT(相対保持時間)のシステム適合性要件(それぞれ 0.4 および 1)を満たすためには、移動相組成を 22:78(アセトニトリル/バッファー)にわずかに調整する必要があることがわかりました。このわずかな組成の調整は、USP ガイドラインの調整の限度内(移動相の微量成分について、絶対値で 10% 以下、または相対値で 30% 以内)に収まっていました。2.5 μm 粒子カラムのスケーリングされた流速は、5 μm カラム(同じカラム内径)の USP 推奨流速 1.0 mL/分に基づいて、2.0 mL/分でした。一方、分離性能の調査(表 2 参照)に基づいて、このアッセイでは流速 1.0 mL/分を選択しました。これは、1.0 ~ 2.0 mL/分の範囲内では、この流速で分離効率(理論段数)が最適になるためです。カラムをインジェクターに接続した際、カラムヒーター内のプレヒーターチューブをバイパスしていることに注意してください。これにより、この長さ 75 mm(4.6 mm × 75 mm)のカラムにおいて、カラム外でのバンドの広がりが低減し、分離効率が向上しました。図 1 および 2 に、アイソクラティック溶出条件(アッセイの場合)およびグラジエント溶出条件(不純物の場合)での、メラトニンおよび類縁物質 A(5-MT)のクロマトグラムを示します。分析時間は、アイソクラティック溶出では 5 分、グラジエント溶出では 13 分でした。これらの分析時間は USP 分析法の分析時間の約半分でした。これらの短い分析時間とそれに伴う溶媒廃液の削減により、分析の処理時間が短縮し、運用コストが削減できると考えられます。 

表 2.  メラトニンとその類縁物質 A(5-MT)の分離における流速の影響
図 1.  アイソクラティック溶出条件(メラトニンアッセイの場合)でのシステム適合性溶液(0.1 mg/mL メラトニンおよび 0.02 mg/mL 5-MT 含有移動相)のクロマトグラム
図 2. グラジエント溶出条件(不純物の場合)でのシステム適合性溶液(0.1 mg/mL メラトニンおよび 0.02 mg/mL 5-MT 含有移動相)のクロマトグラム

システム適合性性能

USP メラトニンモノグラフでは、アッセイおよび類縁物質のシステム適合性要件が指定されています。これらの要件には、類縁物質 A とメラトニンの相対保持時間、類縁物質 A とメラトニンの分離、メラトニンにおける相対標準偏差(RSD)が含まれます(表 3 を参照)。表 4 に、XBridge BEH C18 カラム(2.5 µm、4.6 mm × 75 mm)を搭載した Arc HPLC システムで得られたメラトニンとその類縁物質 A(5-MT)のシステム適合性性能および併行精度の結果を示します。メラトニンのピーク面積について RSD 0.11% が得られました。RRT 値、分離度、併行精度のすべてにおいて、USP システム適合性要件が満たされていました(表 3 を参照)。 

表 3.  USP システム適合性要件および Arc HPLC の性能
表 4.  XBridge BEH C18 2.5 µm 4.6 mm × 75 mm カラムを搭載した Arc HPLC システムでのシステム適合性性能および分離の併行精度

結論

このアプリケーションノートでは、Waters Arc HPLC システムと XBridge BEH C18 カラム(130 Å、2.5 µm、4.6 mm × 75 mm)を使用した USP メラトニンモノグラフ分析手順の最新化について紹介しています。LC 条件は、USP ガイドラインに沿って適切に調整しました。メラトニンと類縁物質 A の分離は、相対保持時間、分離度、相対標準偏差など、すべての USP システム適合性要件を満たしていました。粒子径 2.5 µm の XBridge BEH C18 カラム(4.6 mm × 75 mm)を使用することで、分析時間の短縮と溶媒の消費量削減が得られ、処理時間が短縮して運用コストを削減できます。

参考文献

  1. Auld F, Maschauer EL, Morrison I, Skene DJ, Riha RL.Evidence for the Efficacy of Melatonin in the Treatment of Primary Adult Sleep Disorders.Sleep Med Rev.2017;34:10–22. doi: 10.1016/j.smrv.2016.06.005
  2. Lelak K, Vohra V, Neuman MI, Toce MS, Sethuraman U. Pediatric Melatonin Ingestions—United States, 2012-2021. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2022;71(22):725–729.doi:10.15585/mmwr.mm7122a1.
  3. Lauren A.E. Erland, Praveen K. Saxena.Melatonin Natural Health Products and Supplements: Presence of Serotonin and Significant Variability of Melatonin Content.J Clin Sleep Med.2017 13(2):275–281. doi: 10.5664/jcsm.6462.
  4. Cohen P.A., Avula B., Wang Y-H, Katragunta K., Khan I. Quantity of Melatonin and CBD in Melatonin Gummies Sold in the US. JAMA. 2023; 329(16): 1401–1402. doi:10.1001/jama.2023.2296.
  5. Melatonin Monograph.United States Pharmacopeia, Docid: GUID-454646BE-F1DF-458C-9011-1FBBCCEFE5BC_4_en-US, 2023.
  6. Chapter 621 Chromatography.United States Pharmacopeia, Docid: GUID-6C3DF8B8-D12E-4253-A0E7-6855670CDB7B_7_en-US, 2023.

 

720007978JA、2023 年 6 月

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