• アプリケーションノート

PeptideWorks™ キットを用いた簡単な自動ワークフローによる、トリプシンペプチドマッピングのための迅速かつ頑健なサンプル前処理

PeptideWorks™ キットを用いた簡単な自動ワークフローによる、トリプシンペプチドマッピングのための迅速かつ頑健なサンプル前処理

  • Caitlin M. Hanna
  • Jonathan P. Danaceau
  • Stephan M. Koza
  • Steve Shiner
  • Mary Trudeau
  • Waters Corporation

要約

本研究では、PeptideWorks トリプシンタンパク質消化キットを使用した、ペプチドマッピング用の自動化可能なサンプル前処理プロトコルを紹介します。このキットは、規制対象の研究用ペプチドマッピングアプリケーションのために開発された、再現性のあるトリプシンタンパク質消化を提供するものです。

アプリケーションのメリット

  • 品質管理(QC)、バイオプロセス、分析法開発、研究環境向けのトリプシンタンパク質消化の前処理用の包括的なキットとプロトコル
  • 2.5 時間以内で 24 種のトリプシンペプチドマッピングのサンプルの自動化可能な前処理
  • 消化の完全性が損なわれたり、分析法に起因する高レベルのペプチド修飾が生じたりすることなく、トリプシンペプチドマッピングのサンプルを高い再現性で前処理
  • 主流の固定化トリプシン消化キットと比較して、切れ残りが 93% 低減、非特異的切断が 55% 低減

はじめに

ペプチドマッピングは、バイオ医薬品タンパク質の一次構造に関する包括的な情報を得るために、QC、バイオプロセス、分析法開発、および研究環境で使用されています1。 一般的に、被験物質のペプチドマッピングを、レファレンス物質のペプチドマッピングと比較します。サンプル間の再現性は、被験物質とレファレンス物質の間の実際の変化を検出するために不可欠です。また、信頼性の高い日々のサンプル前処理も、効果的なペプチドマッピング法を作成する上で重要な要因です。ペプチドマッピングにおけるサンプル前処理は複雑です。分析前に、タンパク質サンプルをアルカリ性バッファー中で高温処理し、酵素消化を行って、ペプチドを生成します。これらの条件により、分析法に起因するペプチド修飾、タンパク質の過剰消化または過小消化、タンパク質分解酵素の自己消化が発生することがあります。いずれの要因によっても、データの分析および解釈が複雑になります。

Waters™ PeptideWorks トリプシンタンパク質消化キットにより、医薬品タンパク質のルーチンペプチドマッピング用の、迅速で信頼性の高いサンプル前処理が実現します。サンプル前処理キットの中核になるのは、ウォーターズの均一にメチル化された組換えブタトリプシンである RapiZyme™ トリプシンです。RapiZyme トリプシンの自己消化耐性、純度、および高活性により、スピード、忠実度の高い消化、低レベルのトリプシン由来ペプチドの生成が可能になります2,3,4。 RapiZyme トリプシンを高濃度で使用することにより、高温を必要とせず、消化の完全性を損なうことなく、より迅速に消化を行うことができます。PeptideWorks ワークフローを図 1 に示します。PeptideWorks キットで使用されている試薬および反応条件は、RapiZyme トリプシンによるタンパク質の迅速かつ完全な消化を実現できるように最適化されています。

図 1.  PeptideWorks トリプシンタンパク質消化キットを使用した、トリプシンタンパク質消化物の前処理ワークフロー。プロトコルは、手動で、または Andrew+™ ピペッティングロボットで自動で実行できます。

実験方法

試薬の調製

NIST モノクローナル抗体(NISTmAb)Reference Material® は NIST(製品番号:8671)から、トリス塩酸(1 M、pH 7.5)は ThermoFisher Scientific(製品番号:15567027)から、ギ酸は Fisher(製品番号:A117-50)から入手しました。他のすべての試薬および必要なデバイスは PeptideWorks トリプシンタンパク質消化キット(製品番号:176005311)に含まれており、PeptideWorks トリプシンタンパク質消化キットの維持管理マニュアル(720007980)に記載されているプロトコルに従って調製しました。

サンプル前処理

NISTmAb トリプシン消化サンプルは、手動および以下に説明する手順を使用した自動化の両方を用いて前処理しました。自動サンプル前処理は、Extraction+ コネクテッドデバイスを搭載した Andrew+ ピペッティングロボットで実行しました。NISTmAb サンプル(10 mg/mL)を、5 M グアニジン塩酸塩(GuHCl)と 5 mM ジチオスレイトール(DTT)を含む溶液中で、室温で 30 分間変性および還元しました。次に、ヨードアセトアミド(IAM)を最終濃度 10 mM になるように添加し、サンプルを室温の暗所で 30 分間インキュベーションしました。サンプルを Sep-Pak™ SEC 脱塩カートリッジで脱塩し、消化バッファー(10 mM CaCl2 および 100 mM トリス HCl、pH 7.5)にバッファー交換しました。脱塩したサンプルの濃度を UV プレートリーダーで測定し、消化バッファーを希釈液として使用して 0.1 mg/mL にノーマライズしました。RapiZyme トリプシンを酵素:タンパク質比 1:5 で各サンプルに添加し、37 ℃ で 30 分間消化しました。最後に、最終濃度が 0.1% になるように 1% ギ酸を加えて反応を停止しました。

LC 条件

LC システム:

ACQUITY™ UPLC I-Class PLUS

サンプルプレート:

Eppendorf twin.tec® PCR プレート 96 ウェル、スカート付き、緑色(製品番号:951020443)

カラム:

ACQUITY Premier Peptide CSH™ C18 カラム、1.7 µm、2.1 × 150 mm(製品番号:186009489)

カラム温度:

65 ℃

サンプル温度:

6 ℃

注入量:

10 µL

移動相 A:

0.1% ギ酸水溶液

移動相 B:

0.1% ギ酸アセトニトリル溶液

グラジエントテーブル

ACQUITY RDa 検出器の設定

質量範囲:

m/z 50 ~ 2000

モード:

フラグメンテーションによるフルスキャン

イオン化モード:

ESI+

サンプリングレート:

2 Hz

コーン電圧:

20 V

フラグメンテーションコーン電圧:

60 ~ 120 V

脱溶媒温度:

350 ℃

キャピラリー電圧:

1.20 kV

ロックマス:

waters_connect™ ロックマスソリューション

データ管理

クロマトグラフィーソフトウェア:

waters_connect

結果および考察

PeptideWorks のワークフロー

PeptideWorks ワークフローは、RapiZyme トリプシンにより、タンパク質の迅速かつ完全な消化ができるように最適化されています。ワークフローは、手動で、または Andrew+ ピペッティングロボットで自動実行できます。手動および自動のいずれのワークフローも、図 2 に詳述されているステップに従って行われます。

図 2. PeptideWorks サンプル前処理ワークフローの概要を示すフロー図。手動前処理および自動前処理はいずれも、示されているワークフローに従って行われます。

自動 PeptideWorks ワークフローは 2 つのプロトコルに分かれています:プロトコル A では変性、還元、アルキル化を実行し、プロトコル B では濃度のノーマライズおよび消化を実行します。自動ワークフローは、最大 24 サンプルに対応できます。完全な 24 サンプルワークフロー用のデッキレイアウトを図 3 に示します。消化中に正確な酵素:タンパク質比を確保するために、濃度のノーマライズを推奨しますが、濃度のノーマライズを行わない自動ワークフローも開発されました。24 サンプルの合計実行時間は、濃度のノーマライズを行った場合は 2 時間 40 分、濃度のノーマライズを行わなかった場合は 2 時間 30 分です。

図 3.  24 サンプルの自動 PeptideWorks ワークフローのデッキレイアウト。プロトコル A では変性、還元、アルキル化を実行し、プロトコル B では濃度のノーマライズおよび消化を実行します。

手動および自動サンプル前処理

PeptideWorks トリプシンタンパク質消化キットを使用して、手動および自動(Andrew+ ピペッティングロボットを使用)で NISTmAb 消化を行いました。NISTmAb 消化物を UPLC-MS で分析しました。手動および自動の PeptideWorks ワークフローを使用して前処理を行った NISTmAb 消化物のクロマトグラムを図 4 に示します。手動および自動の両方のサンプル前処理で、高いシーケンスカバー率(予想ペプチドの 88% 超)の同等のクロマトグラフィー結果が得られました。さらに、以下で説明するように、修飾ペプチドの相対存在量は、手動および自動のサンプル前処理ワークフローの間で一貫していました。

図 4.  手動および自動の PeptideWorks ワークフローを使用して前処理を行った NISTmAb 消化物の BPI クロマトグラム。同等の結果を示しています。

waters_connect でペプチドマッピングワークフローを使用して、クロマトグラフィーデータを解析しました。切れ残りおよび非特異的切断の相対レベルを、公表されているメソッドを使用して計算しました5。 図 5 には、手動および自動の PeptideWorks ワークフローを使用して前処理した NISTmAb 消化物の、切れ残りおよび非特異的切断の相対量の結果が示されています。いずれの PeptideWorks ワークフローでも、切れ残りおよび非特異的切断が 5% 以内の NISTmAb 消化物が得られました。これにより、タンパク質の過剰消化がなく、消化効率が高いことがわかります。主流の固定化トリプシン消化キットを使用して前処理を行った NISTmAb 消化物の、切れ残りおよび非特異的切断は、公表された結果に基づいており、図 5 では赤色で示されています6。 PeptideWorks により、固定化トリプシン消化キットと比較して、切れ残りが 93%、非特異的切断が 55% 低減します。全体として、PeptideWorks では、はるかに完全で特異的な消化が実現でき、信頼性の高い、迅速なデータ解析が可能になります。

図 5.  手動および自動の PeptideWorks ワークフローに基づいて、主流の固定化トリプシンキットを使用して前処理した NISTmAb 消化物の、切れ残りおよび非特異的切断の相対的存在量。エラーバーは 1 標準偏差を表します。PeptideWorks により、より完全で特異的な消化が実現します。

ペプチド修飾の特性解析および再現性

自動 PeptideWorks ワークフローを使用して、3 日間にわたって前処理を行った NISTmAb 消化物の 3 つのバッチについて、一部のペプチド修飾の相対存在量を図 6 に示します。手動サンプル前処理と自動サンプル前処理の間の一貫性を実証するために、手動ワークフローで前処理された NISTmAb 消化物の結果も示しています。図 6 で報告された値は、公表されている NISTmAb トリプシン消化データの範囲内に十分に収まっていました6-9。 本研究で報告した修飾の値と文献で報告された値の一貫性により、PeptideWorks の有効性が強調されます。PeptideWorks により、消化の完全性が損なわれたり、分析法に起因する高レベルの脱アミド化や酸化が誘導されたりすることなく、トリプシンペプチドマッピングのサンプルを迅速に前処理できます。

相対標準偏差(RSD)として表される、非修飾ペプチドの存在量および修飾ペプチドの相対存在量の変動の詳細を、図 6 の表に示します。非修飾ペプチドの存在量の日間のばらつきは、各ペプチドで 15% 未満であることから、PeptideWorks をサンプル前処理に使用する場合に、一貫したペプチド回収率が得られ、そのため一貫した定量限界が得られることが実証されました。修飾ペプチドの相対存在量の日間のばらつきは、各ペプチド修飾について 10% 未満でした。

図 6.  左:自動 PeptideWorks ワークフローを使用して前処理した 3 バッチの NISTmAb 消化物における、一部のペプチド修飾の相対存在量を表す棒グラフ。手動のワークフローで前処理した NISTmAb 消化物の測定結果から、手動と自動のサンプル前処理の間に一貫性があることがわかります。エラーバーは 1 標準偏差を表します。右:非修飾ペプチドの存在量および修飾ペプチドの相対存在量の %RSD の概要表。サンプル前処理に PeptideWorks を使用することにより一貫したペプチド回収率が得られ、そのため一貫した定量限界が得られることが実証されています。

結論

PeptideWorks トリプシンタンパク質消化キットは、QC、バイオプロセス、分析法開発、研究環境に適した、トリプシンペプチドマッピングのサンプル前処理用の包括的なキットです。 PeptideWorks プロトコルは手動または自動で実行でき、24 の消化サンプルを 2.5 時間以内で得ることができます。NISTmAb で実証されたように、PeptideWorks により、消化の完全性が損なわれたり、高レベルのペプチド修飾が誘導されたりすることなく、トリプシンペプチドマッピングのサンプルを高い再現性で前処理することができました。

参考文献

  1. Hada V., Bagdi A., Bihari Z., Timari S. B., Fizil A., Szantay Jr.C. Recent Advancements, Challenges, and Practical Considerations in the Mass Spectrometry-Based Analytics of Protein Biotherapeutics: A Viewpoint From the Biosimilar Industry. Jour.of Pharm.and Biom.Anal.2018, 161, 214–2382.
  2. Ippoliti S., Zampa N., Yu, Y. Q., Lauber M. A. Versatile and Rapid Digestion Protocols for Biopharmaceutical Characterization Using RapiZyme™ Trypsin.Waters Application Note.720007840. January 2023.
  3. Finny A. S., Zampa N., Addepalli B., Lauber M. A. Fast and Robust LC-UV-MS Based Peptide Mapping Using RapiZyme™ Trypsin and IonHance™ DFA.Waters Application Note. 720007864. February 2023.
  4. Yang H., Koza S. M., Yu Y. Q. Automated High-Throughput LC-MS Focused Peptide Mapping of Monoclonal Antibodies in Microbioreactor Samples.Waters Application Note. 720007885. April 2023.
  5. Mouchahoir T., Schiel J. E. Development of an LC-MS/MS Peptide Mapping Protocol for the NISTmAb.Anal.Bioanal.Chem.2018, 410, 2111–2126.
  6. Millan-Martin S., Jakes C., Carillo S., Buchanan T., Guender M., Kristensen D. B., Sloth T. M., Orgaard M., Cook K., Bones J. Inter-Laboratory Study of an Optimised Peptide Mapping Workflow using Automated Trypsin Digestion for Monitoring Antibody Product Quality Attributes.Anal.Bioanal.Chem.2020, 412, 6833–6848.
  7. Dong Q., Liang Y., Yan X., Markey S. P., Mirokhin Y. A., Tchekhovskoi D. V., Bukhari T. H., Stein S. E. The NISTmAb Tryptic Peptide Spectral Library for Monoclonal Antibody Characterization.MABS, 2018, 10, 354–369.
  8. Arndt J. R., Wormwood Moser K. L., Van Aken G., Doyle R. M., Talamantes T., DeBord D., Maxon L., Stafford G., Fjeldsted J., Miller B., Sherman M. High-Resolution Ion-Mobility-Enabled Peptide Mapping for High-Throughput Critical Quality Attribute Monitoring.J. Am.Mass.Spec.2021, 32, 2019–2032.
  9. Jalili P., Turner J., Ray K., Dube M. An Optimized Protocol for Peptide Mapping of Therapeutic Monoclonal Antibodies with Minimum Deamidation and Oxidation Artifacts.Analytix Reporter, 2022, 11. 

720008019JA、2023 年 7 月

トップに戻る トップに戻る