• アプリケーションノート

Oasis™ MCX SPE を用いた血漿からの医薬品レナリドミドの、シンプルで迅速かつ選択的なバイオアナリシスサンプル抽出

Oasis™ MCX SPE を用いた血漿からの医薬品レナリドミドの、シンプルで迅速かつ選択的なバイオアナリシスサンプル抽出

  • Faizali Rahim
  • Kim Van Tran
  • Mary Trudeau
  • Waters Corporation

要約

以下の試験では、低分子医薬品レナリドミドのための、除タンパク(PPT)、液-液抽出(LLE)、固相抽出(SPE)などのいくつかの一般的なバイオアナリシス抽出手法について、メソッド開発が不要な、シンプルで汎用的かつ広く適用できる全自動のバイオアナリシスサンプル前処理戦略について実証します。完全自動リキッドハンドリングを実現する Andrew+™ ピペッティングロボットおよび固相抽出(SPE)サンプル前処理用の Extraction+ コネクテッドデバイスと組み合わせて用いた、Oasis WCX による血漿からのミックスモード SPE を使用した LC-MS でのバイオアナリシス定量性能について紹介します。

アプリケーションのメリット

  • 生体マトリックスから分析種を抽出するための、メソッド開発が不要な簡素化したバイオアナリシス用サンプル前処理戦略
  • 抽出血漿からの分析種の回収率が高く、再現性のある結果が得られる、最適化が不要な汎用抽出メソッドプロトコル
  • 96 ウェル µElution 抽出プレート型式を使用した迅速バイオアナリシス抽出(30 分以内)。
  • 手作業による人的ミスのリスクが低減し、分析性能が向上し、研究者の時間を節約できる、「無操作」のメソッドを実行するための自動サンプル抽出
  • ACQUITY™ Premier HSS T3 カラムを使用した、3 分間の迅速 UPLC™ 分析
  • 0.5 ~ 100 ng/mL での優れた定量性能、96 ~ 112% で RSD 5% 以下の QC 精度

はじめに

レナリドミド(レブラミド®)は、多発性骨髄腫の治療、および肥満治療法である幹細胞移植の維持薬として使用される低分子医薬品です1,2。 この医薬品や次世代治療薬の研究開発が継続される中、頑健で高感度かつ選択的なバイオアナリシスサンプル前処理および液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)法が引き続き必要とされています。バイオアナリシス分析法の開発では、ターゲット分析種の高感度で選択的かつ再現性のある定量を確保するために、1)検出、2)分離、3)さまざまなバイオマトリックス成分からの分析種の抽出という 3 つの主要な側面に焦点が当てられています。

この試験では、血漿からの医薬品レナリドミドの抽出について除タンパク(PPT)、リン脂質(PL)除去を伴う PPT、液-液抽出(LLE)、逆相(RP)SPE、PL 除去を伴う RP-SPE、ミックスモード SPE などの複数の一般的なバイオアナリシス手法を評価しました。抽出手法はすべて、メーカーが推奨する汎用プロトコルを使用して評価し、回収率およびサンプルの清浄度を評価しました。次に、最終的なサンプル前処理および抽出を Andrew+ ピペッティングロボットで自動化し、ワークフローを簡素化および合理化して、生産性を最大化するとともに分析法の全体的な性能を確保しました。

実験方法

試料

レナリドミドは Sigma-Aldrich から購入し、内部標準(IS)として使用した D5-レナリドミドは Cayman Chemicals(www.caymanchem.com)から入手しました。LC-MS グレードのギ酸、リン酸、水酸化アンモニウム、酢酸エチルは Sigma-Aldrich(www.sigmaaldrich.com)から購入しました。メタノールとアセトニトリルは、Honeywell(lab.honeywell.com)から購入しました。 

LC/MS 分析

LC-MS/MS 分析は、Xevo™ TQ-XS タンデム四重極 MS(ESI-)、および ACQUITY I-Class PLUS UPLC システムと ACQUITY UPLC HSS T3 カラム(製品番号:186003538)を使用したクロマトグラフィー分離を用いて行いました。0.1% ギ酸水溶液(MP A)および 0.1% ギ酸含有アセトニトリル溶液(MP B)を流速 0.7 mL/分で使用しました。開始時の LC 条件を 0.5 分間保持し、次いで 1 分間で 30% MP に増加させました。次に、MP B を 90% に増やしてカラムをフラッシュ洗浄し、2 分後に開始グラジエント条件に戻しました。合計分析時間は 3 分でした。抽出サンプルの注入量は 5 µL でした。

サンプル前処理

レナリドミドおよび d5-レナリドミドのストック溶液(1 mg/mL)はメタノール(MeOH)中に調製しました。作業用ストック溶液(10 µg/mL)もメタノール中に調製し、血漿中のキャリブレーション試薬および QC サンプルの調製に使用しました。レナリドミドを市販の Sprague-Dawley ラットの血漿に添加しました。検量線用サンプルは 0.250 ~ 500 ng/mL で調製し、品質管理(QC)サンプルは 0.75、7.5、75 ng/mL で調製しました。検量線および QC 血漿サンプルは 3 回繰り返しで調製しました。

サンプル抽出

各バイオアナリシス抽出手法の抽出プロトコルを表 1 に示し、図 1 に図表で示します。いずれの場合も、プロトコルはメーカーのガイダンスを使用しました。

図 1.  評価したさまざまな抽出メソッドに使用したすべてのサンプル前処理抽出プロトコルの図示。すべてのメソッドは、それぞれの取扱説明書に記載されている容量および溶媒に関するメーカーのガイダンスに基づいています。 
表 1.  レナリドミド抽出メソッドの評価に使用したサンプル抽出メソッド、取扱説明のレファレンス、および出発点のプロトコルの表

回収率およびマトリックス効果の計算

分析種の回収率は下記の式で計算されます:

ここで、面積 A = 抽出サンプルのピーク面積、面積 B = 抽出後に化合物を添加した抽出マトリックスサンプルのピーク面積。

マトリックス効果は下記の式で計算されます:

マトリックス有りのピーク面積は、抽出後に化合物を添加したブランクマトリックスサンプルのピーク面積を指します。マトリックス無しのピーク面積は、純溶媒溶液中の分析種のピーク面積を指します。

リン脂質のモニタリング

サンプルの清浄度を評価する尺度として使用した残存リン脂質(PPL)を、レナリドミドと同じ UPLC グラジエントを使用して分析しました。184.1 の親スキャンイオンを使用して MS システムを ESI+ で動作させ、スキャン時間 1 秒間で質量範囲 m/z 400 ~ 1000 をスキャンしました。コーン電圧は 30 V に設定し、コリジョンエネルギー 30 eV を印加しました。

自動化プラットホーム

Extraction+ コネクテッドデバイスを装備し、クラウドベースの OneLab™ ソフトウェアで制御される Andrew+ ピペッティングロボットを使用して、血漿からのレナリドミドの定量評価に使用する最終的なサンプル前処理およびバイオアナリシス抽出プロトコルを設計し、実行しました。

結果および考察

ESI+ モードで動作する Xevo TQ-XS MS システムに接続した ACQUITY UPLC I-Class を使用して、レナリドミドの LC-MS/MS 定量を行いました。MS/MS マルチプルリアクションモニタリング(MRM)トランジションを検出および定量に使用しました。この分析では、レナリドミドおよび d5-レナリドミド ISTD についてそれぞれ、260.2 > 148.85(CE 25 eV)および 265.0 > 149.9(CE 20 eV)でした。レナリドミドは、cLogP -0.685 と極性が極めて高い分子です。このため、この分析では ACQUITY UPLC HSS T3 100 Å、1.8 µm、2.1 mm × 50 mm カラムを使用して、最良のクロマトグラフィー保持を確保しました。レナリドミドおよび ISTD として使用した d5-レナリドミドのクロマトグラフィーパフォーマンスを図 2 に示します。LC グラジエント分離には、いずれも 0.1% ギ酸を含む水(MP A)およびアセトニトリル(MP B)からなる移動相を使用しました。MP A 100% で 0.5 分間保持し、続いて 0.5 分間にわたって 70% まで緩やかなグラジエントをかけ、次いで高有機溶媒でのフラッシュ洗浄を行いました。カラム温度は 45 ℃、流速は 0.7 mL/分でした。合計分析時間は 3 分でした。

図 2.  ACQUITY UPLC HSS T3 100Å、1.8 µm、2.1 mm × 50 mm カラムを使用したレナリドミドおよびレナリドミド d5 ISTD(1 ng/mL)の LC クロマトグラフィー分離

回収率およびマトリックス効果

すべてのバイオアナリシス手順において、重要なステップは、抽出効率および清浄度を評価するステップです。さまざまな抽出手法にわたって、ターゲット分析種の回収率およびマトリックス効果を計算することによってこれを行います。計算式は「試料および分析法」セクションに記載しています。図 3 に、ベンダーが推奨するさまざまな汎用サンプル抽出手順で得られた回収率およびマトリックス効果(ME)の結果を示します。サンプル前処理手法は、選択性の高い順に並べられています。除タンパクなどのより汎用性の高いメソッドから始まり、より選択的で特異的なミックスモード SPE 手順へと進んでいます。特異性の高い SPE メソッドでは、回収率が向上し、マトリックス効果が減少するという全般的な傾向が見られました。Sirocco PPT、PL 除去を伴う Ostro PPT、Oasis MCX で最高の回収率(80% 超)が得られ、SSLE および逆相 HLB SPE で前処理したサンプルは、すべての手法のうちで回収率が最も低いという結果になりました。ここでは、すべての製品においてベンダーが推奨するプロトコルに従うことが目標の 1 つであったため、この手法も含めてすべての手法で、最小限の最適化しか行っていないことに注意してください。レナリドミドは極端に極性が高いことから(cLogP -0.685)、逆相 SPE では当然のことながら回収率が低く、ロードステップの間に保持が失われます。逆に、MCX ミックスモード吸着剤を使用すると、高い回収率(88%)が見られました。この場合、pKa 10.75 のレナリドミドの塩基性の性質と、負に荷電した MCX 吸着剤を組み合わせて利用したことで、SPE でのロードにおける保持が最大限になっています。マトリックス効果は、PL 除去を伴う Ostro PPT を使用することで(-8.4%)、標準の Sirocco PPT(-26.7%)より大幅に低減しましたが、Oasis MCX SPE を使用するとマトリックス効果は 9.3% であったことから、抽出に選択性があることがわかりました。

図 3.  図 1/表 1 に記載した手法を使用して血漿からレナリドミドを抽出した場合の、代表的な回収率およびマトリックス効果。回収率とマトリックス効果の最適なバランスが、リン脂質除去を伴う Ostro PPT(Rec 82.8、ME -8.4%)および Oasis MCX SPE(Rec 88.2、ME 9.3%)で見られます。

残存リン脂質

しばしば評価するサンプルの清浄度の別の尺度として、抽出サンプル中の残存リン脂質(PL)があります。血漿の主な成分はリン脂質であり、主なサブコンポーネントはホスファチジルコリンです。MS 検出を活用して、ホスファチジルコリン分子種の極性ヘッドグループに対応する m/z 184 のプリカーサーをモニターすることができます。このトランジションをモニターすることにより、抽出サンプルに残っているさまざまなホスファチジルコリンを検出することができます。この手順は、「試料および分析法」セクションに記載しています。さまざまな抽出プロトコルにわたって、サンプル濃度および/または希釈について補正し、標準の有機 PPT 抽出に対して標準化した微量残存 PL の MS 強度を図 4 に示します。当然のことながら、単純な PPT を使用した場合に、PL の存在量が最も多いという結果になりました。PL 除去を伴う Ostro PPT および Oasis MCX SPE では、抽出サンプル中の PL 含有量が大幅に低減しており、Sirocco PPT プレートを使用した標準 PPT と比較して、98% 超が除去されています。

図 4.サンプル抽出手法の清浄度の図示による説明。Ostro PPT およびリン脂質除去を伴う Oasis PRiME HLB、Oasis ミックスモード MCX 抽出を使用した場合に、最もよくリン脂質が除去されることを示しています(Sirocco による除タンパクに対して標準化済み)。この評価では、各サンプル前処理手法で検出された残存リン脂質の MS 強度(184 回のスキャンの MS プリカーサー)を、開始時のサンプル容量および結果として得られた分析済みサンプル溶出液の差について補正しています。

バイオアナリシス定量

Oasis MCX SPE96 ウェルプレートにより、回収率、マトリックス効果、残存リン脂質の最適なバランスが得られるため、血漿からのレナリドミド抽出用にこれを最終的に選択しました。表 2 に、Extraction+ コネクテッドデバイスで構成された Andrew+ ピペッティングロボットを使用した完全な前処理および抽出によって得られた、血漿中の標準試料(A)および QC 標準試料(B)の定量結果の概要を記載します。リニアダイナミックレンジは 0.5 ~ 100 ng/mL(> 0.996 線形回帰)、キャリブレーション精度の範囲は 92.7 ~ 115.9、% RSD の範囲は 1.38 ~ 16.6% でした。QC 標準試料の性能は、QC レベル全体にわたって精度 96.5 ~ 111.8%、RSD 2.84 ~ 4.81% の範囲で同様でした。この定量性能は、推奨されるバイオアナリシス分析法のバリデーションのガイダンス基準を容易に満たしています3。ブランクと比較した QC サンプルの代表的なクロマトグラムを図 4 に示します。

表 2.  Andrew+ ピペッティングロボットおよび Oasis MCX 96 ウェルプレート抽出を使用して前処理した血漿から抽出したレナリドミドの定量性能。セマグルチドの検量線(A)および QC サンプル(B)の統計データ(精度および RSD は 15% 以下)。
図 5.  Oasis MCX(SPE)を使用して血漿から抽出したレナリドミドの QC サンプルの代表的なクロマトグラム

結論

このアプリケーションでは、分析法開発を必要とせずに、血漿からのレナリドミドの SPE 抽出および LC-MS/MS 定量が正常に行えたことについて紹介しました。Oasis MCX を用いた SPE 抽出により、分析種の高回収率(88%)および低マトリックス効果(10% 未満)が得られたとともに、抽出サンプル中の残存リン脂質が非常に少ないという結果が得られました。汎用的なプロトコルと、Extraction+ コネクテッドデバイスを装備した Andrew+ ピペッティングロボットを使用した自動サンプル前処理の組み合わせにより、サンプル抽出が大幅に簡素化および合理化し、ラボの生産性が最大化するとともにミスが減少し、全体的な分析法の性能が保たれました。

参考文献

720008140JA、2023 年 12 月

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