ACQUITY™ QDa ™ II 質量検出器の分析法開発によるミルクおよび乳児用調製粉乳の遊離脂肪酸分析の進歩
要約
品質管理、製品開発、規制遵守のために、ミルクおよび乳児用調製粉乳サンプル中の遊離脂肪酸 (FFA) 分析が行われています。食品業界での簡単な FFA 分析にはギャップが見られます。この試験では、LC-MS を使用した FFA 分析法開発プロセスについての洞察を提供します。広範囲の LC カラム、移動相、LC グラジエント、流量について調査した後、選択された市販のサンプルを使用して感度、再現性、および最終的な分析法の初期バリデーションを行いました。開発された分析法は、ミルクおよび乳児用調製粉乳サンプル用の信頼できる FFA スクリーニングソリューションとなるだけでなく、さらに最適化することで、多種多様なサンプルのスペクトルにわたる FFA のルーチン定量における信頼性も得られます。
アプリケーションのメリット
- リアルタイムでの定性および定量 LC-MS 分析法開発
- C8:0 ~ C24:0 の範囲の 19 種の FFA における 6 分以内の高速クロマトグラフィー分離
- 保持時間は類似しているが、質量が異なる化学成分を区別するための質量情報を取得
- 高感度で再現性の高いメソッド
- 真正サンプルからの簡単で迅速な FFA 抽出
はじめに
脂肪酸(FFA)は、乳製品に特徴的な官能的特性および視覚的特性の形成において、中心的な役割を果たします。一方、FFA は風味に大きな影響を与えます。高濃度の FFA により、好ましくない強烈な風味が生じ、腐敗臭の一因となるため、慎重な管理が必要となります1。 さらに、これらの脂肪酸の酸化により、乳製品の味が低下し、品質が低下するなど、別の課題が発生します。この分解プロセスの結果、脂質のアルデヒド、ケトン、アルコールへの分解により、望ましくない「腐敗」した風味プロファイルが形成されます2。特に乳児用調製粉乳は、乳児の食事摂取の基礎となる成分であるため、最適な風味プロファイルを維持する作業が、最も重要になります。
乳児用調製粉乳およびミルク内の FFA の体系的なスクリーニングは、品質管理(QC)、製品の向上、認証、法規制遵守など、複数の必須機能を果たしており、最も重要になります。これらの FFA は、乳児用調製粉乳やミルクに含まれる栄養と風味の両方のプロファイルに不可欠な成分です。FFA は、エネルギー源としての役割に留まらず、ビタミン A、D、E、K などの脂溶性ビタミンの重要な輸送体として機能します。さらに、保護脂肪層の形成により、乳児の身体的保護をもたらすと同時に、視覚および神経系の発達を促進するなど、広範囲にわたって重要となります。その結果、世界的に乳児用調製粉乳に対するきめ細かい調査が義務付けられており、規制当局による厳格な検査が強調されています。さらに、奇数鎖の飽和脂肪酸(特に C15:0 および C17:0 の同定および定量)は、2 型糖尿病、脳卒中などの疾患や、原因別死亡率のバイオマーカーとして重要な意味を持っています。したがって、乳児用調製粉乳およびミルクの評価の範囲を超えて、FFA 分析の幅広い関連性と影響が強調されます3,4。
脂肪酸の特徴として、非極性の性質が挙げられます。効率的なクロマトグラフィー分離を行うために、比較的低極性のクロマトグラフィーカラムが必要となります。さらに、溶出プロセスでは、最適な分離を行うためにシャープな有機グラジエントが必要です。現在、遊離脂肪酸の評価は主にガスクロマトグラフィー(GC)に依存しており、多くの場合、水素炎イオン化(FID)または高分解能質量分析計(HRMS)と組み合わせて使用されます。一方、GC 分析では脂肪酸を脂肪酸メチルエステル(FAMES)に変換する必要があります。このステップでは、MS ノイズレベルの上昇、レスポンス感度の低下、アーティファクトの生成、費用の増加、分析の複雑さなどの課題が頻繁に発生します。
対照的に、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)を代替手段として利用することで、顕著な利点が得られます。LC-MS の方が使いやすい上に、GC とは異なり、脂肪酸の誘導体化が不要になるため、分析者によるミスなど、関連する複雑な問題がなくなるのと同時に、サンプルの完全性が維持されます。
前述したような一般的な FFA 分析手法は、一般的に複雑で、コストがかさみ、複雑な質量分析法の設定が必要になるなどの特徴があります。対照的に、この試験では FFA 分析のための合理化されたルーチンアプローチを導入しています。ACQUITY QDa II 質量検出器に接続された LC で、標準化された FFA 混合液を使用して、1 サンプルあたり 6 分以内に結果が得られます。
実験方法
データ管理
データ取り込みは MassLynx™ 4.2 により実施し、データ解析は TargetLynx™ で行いました。
サンプル
C6:0 ~ C24:0 の範囲の 20 種の遊離脂肪酸を含む GLC レファレンス標準試料 426 は、分析用に Nu-Chek Prep(米国、ミネソタ州)から購入しました。標準試料には、各成分が 2 ~ 16% の範囲の重量で含まれています(表 3)。標準試料混合液中の各 FFA 成分の濃度は、真正サンプルに類似していました。
市販のミルクおよび乳児用調製粉乳サンプルをメタノール(MeOH)で 1:5 に希釈し、10,000 g で 5 分間遠心分離しました。得られた上清を脱イオン水(1:5)でさらに希釈しました。次に、溶液を移動相 A および移動相 B(1:1)で希釈し、LC-MS 分析用に LC バイアルに移しました。
結果および考察
クロマトグラフィー分離
LC-MS 分析法開発の最初のステップは、適切な LC カラムと移動相のスクリーニングです。FFA は、炭化水素鎖の長さとカルボン酸などの官能基の存在により、極性が異なる場合があります。炭素の少ない短鎖 FFA は一般的に極性が高い一方、炭素の多い長鎖 FFA は、カルボン酸基が存在するため、極性が低い傾向があります。
このアプリケーションでは、AX BEH C18、CSH C18、および BEH phenyl カラムの 3 種類の ACQUITY UPLC カラムをテストしました。AX および CSH カラムでは、ターゲット FFA のピーク分離が不十分であり、80% を超える高有機グラジエントが必要となります。これにより、MS ソースでは最適な効率でイオン化を実行するために水が必要なことから、ピークレスポンスが低下します。Phenyl カラムでは、混合液の 20 成分のうち 19 成分(C8:0 ~ C24:0 の範囲)について、6 分間のグラジエント内で最適なピーク分離が得られました。
移動相 B の組成に関係なく、サンプル中の FFA をイオン化するには、移動相 A 中の 1 mM ギ酸アンモニウム水溶液(NH4HCO4)が必須であると結論付けられました。濃度が 1 mM NH4HCO4 を超えると、シグナルが大幅に低下します(図 1)。
上記の最終的な分析法を確立する前に、3 つの分析法をテストしました(表 5)。すべての分析法で同じ移動相 A を使用しました。移動相 B はピーク分離および MS レスポンスに影響を与えます。移動相 B としてイソプロパノール(IPA)とアセトニトリル(ACN)(1:1)を使用すると、ピーク形状およびレスポンスが改善されました。一方、一貫して高いバックグラウンドノイズが観察されました(図 2)。
移動相 B としてメタノールを使用すると、ACN と同様のレスポンスおよび感度が得られました。一方、非常に高い有機グラジエント(70 ~ 90%)が必要であるため、イオン化が不十分になり、幅の広いテーリングピークが見られました。
最終的な分析条件では、移動相 B として ACN を使用しました。これにより、すべての成分について良好なピーク分離が得られ、標準試料混合液中のほとんどの FFA で高い感度と 8% RSD 未満の再現性が実現されました(表 6)。感度の定義として、乳児用調製粉乳またはミルクサンプルの 0.01 mg/L に対応する 10 pg/µL(ppb)未満の定量下限(LLOQ)を用いました(表 7)。
標準試料混合液に含まれる広範な FFA 成分と、FFA の化学的性質により、グラジエントの開始時の組成とサンプル希釈液を一致させることが重要になりました。移動相 B として ACN を使用する場合、サンプル希釈液として MeOH:H2O(1:1)の代わりに移動相 A:B(1:1)を使用すると、遅く溶出する成分についてレスポンスが 10 倍増加することが観察されました(図 3)。
ピークレスポンスを低下させることなくピーク分離を向上させるために、さまざまな流量と移動相グラジエントでテストを行いました。0.8 mL/分 ~ 0.3 mL/分の流量範囲を評価した結果、QDa II の最適な性能が得られる流量が 0.4 mL/分であることが確立されました(図 4)。
FFA を LC カラムから溶出させるには、高有機条件が必要となりました。そのため、早く溶出する成分、つまり C8:0 ~ C12:0 のピークを取得するために、高有機開始条件(55% 移動相 B)が選択されました。
移動相 B% を 55% から 90% に増加すると、カラムからのすべての化合物の高速溶出が 1 分以内に観察されました。これとは対照的に、55% から 80% への緩やかなグラジエントのトランジションでは、良好な結果が得られ、十分に分離されたピークが示されました(図 5)。この最適化されたピーク分離により、混合液中の個々の FFA へのシングルイオンレコーディング(SIR)取り込みモードの適用が容易になります。実装時には、取り込みメソッドを 5 つの個別の SIR 時間幅に分割すると、それぞれに 3 ~ 5 種の異なる FFA 成分が包含されます。
SIR 取り込みの選択により、各成分に費やされる時間が長くなり、ピークレスポンスと分離が改善されました。この結果、シグナル対ノイズ(S/N)比が低減して、感度が向上し、レスポンスの再現性が向上しました(図 6)。
図 6 は、FFA 分析用に選択された最終的な LC-MS メソッドを表すクロマトグラムを示しています。様々な分析法開発要因を評価した結果、1 mM 水性 NH4HCO4 および ACN がそれぞれ移動相 A および B として確立され、phenyl BEH カラムで B% が 55% ~ 80% で使用されました(表 1 および 2)。
感度および再現性の評価
さらに、この分析法は、すべての FFA 成分について 10 pg/µL 未満のレベルの高感度が得られました。また、高濃度および低濃度のいずれにおいても、すべての成分について % RSD が 0.3 ~ 8.2% と再現性が高いことが判明しました。
定量下限(LLOQ)は、20:1 S/N 二乗平均平方根(RMS)およびブランクレスポンスと比較して 5 倍のピーク面積で決定されました。
マトリックスサンプルを用いた予備的な分析法バリデーション
この分析法の適合性を評価するために、選択したマトリックスサンプルを使用して、評価を実行しました(図 7)。ミルクおよび乳児用調製粉乳サンプルから、シンプルな MeOH 抽出法を使用して FFA が抽出され、1:1 の移動相 A および B でさらに希釈された後、LC-MS 分析が行われました。ミルクおよび乳児用調製粉乳に占める FFA の脂肪は 2% 未満ですが、分析したサンプルで検出された FFA の濃度は、メーカーおよび文献の報告レベルと一致していました5,6
。
この分析法は、FFA の高速でハイスループットのサンプル分析(1 日あたり最大 240 サンプル)に適していることが示されました。ただし、定量試験を実施するための、信頼できる直線性(R2)≥ 0.99 は、まだ実証されていません。
結論
結論として、ACQUITY QDa II 質量検出器に接続された ACQUITY I-Class UPLC ならびに ACQUITY UPLC BEH Phenyl カラムを活用した、新しい革新的な分析法の実装によって、遊離脂肪酸の分析における明確なメリットが実証されました。
この分析法により、C8:0 から C24:0 までの広範囲の FFA の迅速で正確な分離が 6 分以内に確実に行えるだけでなく、大幅なコスト削減と複雑な手順の最小化など、ラボに大きなメリットがもたらされる可能性があります。
さらに、この分析法により、(通常は 1 サンプルごとに 20 分 ~ 1 時間かかる一般的な GC-MS 分析と比較して)時間を大幅に短縮できる可能性があるため、研究者の生産性とスループットを向上させることができ、ラボでの作業の効率化に役立ちます。
全体として、この分析アプローチの速度、感度、シンプルさを組み合わせることにより、ルーチンの FFA 分析を大幅に飛躍させる可能性があり、この分析を実施するラボにとって、重要なツールとしての価値が強調されます。
参考文献
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720008134JA、2024 年 1 月