• アプリケーションノート

示差屈折率(RI)検出器を搭載した Arc™ HPLC システムを用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)の分析

示差屈折率(RI)検出器を搭載した Arc™ HPLC システムを用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)の分析

  • Margaret Maziarz
  • Waters Corporation

要約

乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)は、薬物の放出を維持または制御するために、医療用途で広く使用されている生分解性ポリマーです。分子量や多分散度などの PLGA の物理的特性が、薬物の放出挙動に影響することがあります。この試験では、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いた PLGA の分子量分布と多分散度の測定について説明します。強溶媒適合性キットを取り付け、RI 検出器を搭載した Arc HPLC で構成される GPC システムを使用して、ポリスチレン標準試料の検量線を用いて PLGA サンプルの分析を行いました。0.5% ポリビニルアルコール(PVA)水溶液中の PLGA の分解試験において、14 日間の試験期間にわたってポリマーの分子量が減少することが示されました。

アプリケーションのメリット

  • 強溶媒適合性キットを取り付け、RI 検出器を搭載した Arc HPLC システムを使用した PLGA ポリマーの信頼性の高い GPC 分析
  • GPC オプションを備えた Empower™ ソフトウェアを使用した分子量分布の GPC データの効率的な解析
  • 分子量および分子量分布の特性解析により、水系媒体中の PLGA ポリマーの分解のモニタリングが簡単に

はじめに

乳酸グリコール酸共重合体は、その生体適合性、非毒性、非免疫原性という特性により、医薬品や医用工学製品に広く使用されている生分解性の機能性ポリマーです1-3。 このポリマーは、医薬品中の医薬品有効成分(API)のデリバリーの制御において重要な役割を果たします1-2。 薬物は通常、薬物のキャリアとして機能するポリマーマトリックス内に取り込まれ、薬物の放出プロファイルは、分子量など、ポリマーの化学的および物理的性質と関連しています。高分子量のポリマーは一般に分解速度が低いため、低分子量のポリマーと比較して薬物の放出速度が低くなります1-3。 PLGA は、ポリ乳酸(PLA)とポリグリコール酸(PGA)の共重合体です2

GPC は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)とも呼ばれ、ポリマーの分子量分布や多分散度指数(PDI)の特性解析によく使用される手法です。分子量測定値には一般に、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、z 平均分子量(Mz)などがあります。PDI は Mw/Mn の比であり、分子量分布の幅広さの尺度になります。

この試験では、強溶媒適合性キットを取り付け、RI 検出器を搭載した Arc HPLC システムを使用して、PLGA サンプルの分子量と多分散度を測定しました。強溶媒適合性キットにより、ポリマーの GPC 分析に必要なテトラヒドロフランやジメチルホルムアミドなどの強溶媒を使用できるようになります4-5。 ポリスチレン標準試料を使用して作成した相対検量線を使用して、PLGA サンプルの分子量測定値を算出しました。PLGA の分解に対する水の影響を調査したところ、14 日間の試験期間を通してポリマーの分子量が減少していました。すべての計算には、GPC オプションを備えた Empower ソフトウェアを使用しました6–7

実験方法

Fisher Chemicals から購入した、約 0.025% のブチルヒドロキシトルエンを含む認定済みテトラヒドロフラン(THF)(カタログ番号:T397-4)。Honeywell から購入したイソプロピルアルコール(IPA)(カタログ番号 LC323-4)。MP Biomedicals から購入したポリビニルアルコール(PVA)(カタログ番号 151941)。 

サンプルの説明

標準溶液

ACQUITY™ APC ポリスチレン中分子量キャリブレーションキット(製品番号:186007540)。この試験では、3 つの標準試料のうち 2 つを使用しました。

  • 赤色のキャップのバイアル:Mp 130 K、21.5 K、6.54 K、1.25 K のポリスチレン各 1.5 mg
  • 白色のキャップのバイアル:Mp 35.5 K、9.13 K、2.28 K、0.266 K のポリスチレン各 1.5 mg

ポリスチレンの標準溶液は、各バイアルに 1.0 mL のテトラヒドロフランを添加し、数時間かけて溶解させることにより調製しました。濃度は 1.5 mg/mL です。

PLGA サンプル溶液

PLGA サンプルは、ラクチド:グリコリド比(L:G)が異なるものを Sigma-Aldrich から入手しました。

  • 50:50、分子量:30,000 ~ 60,000
  • 65:35、分子量:40,000 ~ 75,000
  • 75:25、分子量:66,000 ~ 107,000
  • 85:15、分子量:50,000 ~ 75,000

PLGA サンプルは、数時間かけてテトラヒドロフラン中に溶解して 5 mg/mL になるように調製しました。溶液は、GPC 分析の前に、ガラスシリンジを用いて 0.45 µm PTFE シリンジフィルター(製品番号:186009315)を通してろ過しました。

PLGA 分解サンプル

分解試験では、ラクチド:グリコリド比 50:50 および 75:25 の PLGA を約 25 mg ずつ別々のシンチレーションバイアルに量り取って使用しました。各バイアルを、0.5% PVA を含む 1 mL の脱イオン水中で 37 ℃ でインキュベーションし、1、2、6、8、12、14 日目にバイアルをインキュベーターから取り出しました。水系媒体を廃棄した後、サンプルを脱イオン水ですすぎ、真空下で乾燥させて残留している水を除きました。最後に、サンプルを THF 中に濃度 5 mg/mL になるように溶解し、ガラスシリンジを用いて PTFE シリンジフィルター(製品番号:186009315)を通してろ過してから GPC 分析を行いました。 

分析条件

システム:

クオータナリーソルベントマネージャー(QSM)とフロースルーニードル(FTN)サンプルマネージャーを搭載し、強溶媒適合性キット(製品番号:205002572)を取り付けた Arc HPLC システム

移動相:

テトラヒドロフラン

分離:

アイソクラティック

流量:

1.0 mL/分

カラム:

すべてのカラム(7.8 × 300 mm、5 µm)は、カラムに付属の接続チューブ(製品番号:WAT084080)を使用して直列に接続しました。

カラムヒーター/クーラー(製品番号:186179100)

Styragel™ HR 4、10,000 Å、分子量範囲:5,000 ~ 600,000、製品番号:WAT044225

Styragel HR 2、500 Å、分子量範囲:500 ~ 20,000、製品番号:WAT044237

Styragel HR 1、100 Å、分子量範囲:100 ~ 5,000、製品番号:WAT044234

カラム温度:

35 ℃

検出:

示差屈折率(RI)

サンプリングレート:10 ポイント/秒

極性:ポジティブ

フローセル温度:35 ℃

注入量:

50 µL

バイアル:

LCMS マキシマムリカバリー、容量 2 mL(製品番号:600000670CV)

サンプル温度:

15 ℃

洗浄溶媒:

サンプルマネージャー/パージ洗浄溶媒:テトラヒドロフラン

シール洗浄溶媒:イソプロピルアルコール

データ管理

クロマトグラフィーソフトウェア:

Empower 3 Feature Release 5Service Release 5(FR5 SR5)。データ解析およびレポート作成に使用した GPC オプション。

結果および考察

GPC 分析では、ポリスチレン標準試料と PLGA サンプルの分子量範囲をカバーするために、空隙率が異なる 3 種類のカラムのセットを選択しました。カラムの空隙率がさまざまであることにより、ポリマーの十分な分離と正確な分子量測定が確保できました。背圧を最小限に抑えるために、最大のポアサイズから始めて最小のポアサイズまで、直列にカラムを接続しました。THF 溶媒に溶解した標準溶液およびサンプル溶液を、THF を移動相として使用してアイソクラティックに分析しました。データ解析および分子量の計算は、Empower ソフトウェアの GPC オプションを使用して行いました。

ポリスチレン標準試料と PLGA サンプルの代表的なクロマトグラムを図 1 に示します。保持時間はポリマーの溶出量に対応しています。分子量最大のポリマーが最初に溶出し、最小のポリマーが最後に溶出しました。

図 1.強溶媒適合性キットを取り付け、RI 検出器を搭載した Arc HPLC システムを使用して得られたポリスチレン標準試料と PLGA サンプルのクロマトグラフィー分離。

GPC 検量線

各ポリスチレン標準試料のピーク最大(Mp)の分子量を用いて GPC 検量線を作成しました。Empower により、x 軸の保持時間に対して、y 軸に分子量(Mp)の対数をプロットすることにより、曲線が生成されました。相関係数(R2)0.9998 超の三次曲線フィッティングを使用して、このメソッドにより、許容可能な GPC 較正曲線が得られました(図 2)。

図 2.強溶媒適合性キットを取り付け、RI 検出器を搭載した Arc HPLC システムを使用して取り込んだポリスチレン標準試料を使用して生成された GPC 較正曲線。

PLGA サンプルの分析

ラクチド:グリコリド比 85:15、75:25、65:35、50:50 の PLGA サンプルの分子量測定値を、ポリスチレン標準試料を使用して作成した相対検量線を用いて算出しました。算出された Mw 値は 39,722 ~ 74,688 ダルトンの範囲で、多分散度指数は 1.6 ~ 1.7 でした(図 3)。

図 3.強溶媒適合性キットを取り付け、RI 検出器を搭載した Arc HPLC システムを使用して得られた PLGA サンプルの分子量。

PLGA の分解試験

この試験では、水系媒体中で 37 ℃ で 2 週間インキュベーションした PLGA 50:50 および PLGA 75:25 の分解について調査しました。以前に発表した研究結果に基づき、0.5% PVA を含む水系媒体を使用して PLGA サンプルをインキュベーションしたところ、ポリマー内の親水性基と水の相互作用により分解しやすくなることが示唆されました3。 このような相互作用により、ポリマーの特性が変化する可能性があります。また、ドラッグデリバリーシステムの性能に影響を及ぼす可能性があります3

この試験では、THF 中 1 mg/mL になるように調製したポリスチレン標準試料(Mp:266 ~ 130,000 Da)を使用して、さまざまな時間間隔で抜き取ったサンプルの分子量を算出しました。その結果、PLGA サンプルを 14 日間の試験期間にわたってインキューベーションすることにより、その Mw が減少することが示されました(図 4)。

図 4.0.5% PVA 水溶液中で 37 ℃ でインキューベーションした PLGA ポリマーの重量平均分子量(Mw)。

試験の開始時(0 日目)に取り込んだ L:G 比 50:50 および 75:25 の PLGA サンプルの GPC の結果を、インキュベーション 8 日目および 14 日目の結果と比較して、分子量の経時変化を評価しました。クロマトグラフィー分離により、インキュベーションしたサンプルは、0 日目のサンプルと比較して、遅く溶出することが示されました(図 5)。さらに、分布プロットを用いて分子量分布を評価しました。Empower により、dwt/d(log M)および累積割合(%)分子量分布をスライス対数分子量に対してプロットすることにより、分布プロットが生成されました(図 6)。プロットから、インキュベーションした PLGA 50:50 サンプルでは、0 日目のサンプルと比較して、高分子量側に分布していることが示されました(図 6A)。PLGA 50:50 の場合、8 日目と 0 日目のサンプルでは最大多分散度指数(PDI)がそれぞれ 1.8 および 1.6 であったのに対し、14 日目のサンプルでは 2.4 でした。PLGA 75:25 サンプルでは、試験期間全体にわたって同様の多分散度指数が見られました(図 6B)。

図 5.0.5% PVA 水溶液中で 37 ℃ でのインキュベーション 0、8、14 日目の PLGA サンプルのクロマトグラフィー溶出。
図 6.0.5% PVA 水溶液中で 37 ℃ でのインキューベーションによる PLGA 50:50(A)および PLGA 75:25(B)の分解試験で得られた分子量分布プロット。PDI:多分散度指数。

結論

ラクチド:グリコリド比が異なる PLGA ポリマーの分子量分布を、強溶媒適合性キットを取り付けた Arc HPLC システムで構成された GPC システムを用いて算出しました。ポリスチレン標準試料を使用して作成した相対分子量検量線を使用して、PLGA サンプルの分子量を算出しました。この分解試験により、0.5% PVA を含む水の存在により、PLGA の分子量が減少することが示されました。Empower ソフトウェアの GPC オプションにより、ポリマーの分子量および分子量分布の特性解析を効果的に行うための、迅速なデータ分析が可能になりました。

参考文献

  1. Lu Y, Cheng D, Niu B, Wang X, Wu X, Wang A. Properties of Poly (Lactic-co-Glycolic Acid) and Progress of Poly (Lactic-co-Glycolic Acid)-Based Biodegradable Materials in Biomedical Research Yue Lu.Pharmaceutical, 2023, 16, 454.
  2. Makadia HK, Siegel SJ.Poly Lactic-co-Glycolic Acid (PLGA) as a Biodegradable Controlled Drug Delivery Carrier.Polymers, 2011, 3, 1377–1397
  3. D’Souza S, Dorati R, DeLuca PP.Effect of Hydration on Physicochemical Properties of End-Capped PLGA.Advances in Biomaterials, 2014, Article ID 834942
  4. Arc HPLC Strong Solvent Compatibility Guide, Waters Corporation User Guide, 715009279.
  5. Maziarz M. Accurate Molecular Weight Determination of Polystyrene-Tetrahydrofuran Solutions using the Arc HPLC with a Strong Solvent Compatibility Kit and Refractive Index (RI) Detector.Waters Application Note, 720008301, 2024.
  6. Empower GPC Software Getting Started Guide, Waters Corporation User Guide, 71500031303.
  7. Waters Knowledge Base, Get Empowered: Review Window and the Processing Method - Working with GPC/SEC data in Empower - Tip125. 

720008449JA、2024 年 7 月

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