Arc™ HPLC システムで Maxpeak™ Premier カラムテクノロジーを使用した 11 種のボロン酸の分離法の開発
要約
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、ここ数年にわたって分析ラボに不可欠な要素となっています。この手法の有用性は、幅広いさまざまな分析種の分析に使用できるという点にあります。高い投資額で高い性能を発揮する UHPLC 装置と比較して、HPLC は低コストの代替品になります。HPLC システムは、現在も医薬品業界でバッチリリーステストや分析法開発などの QA や QC などの作業に日常的に使用されています。
このアプリケーションノートでは、HPLC 装置を使用した 11 種のボロン酸化合物の分離法の開発に焦点を当てます。ボロン酸は、合成化学において、さまざまな化学反応を促進するために使用されています。また、糖化合物など、UV 検出や蛍光検出では検出されにくい化合物用のタグとしても使用されています。XSelect™ Premier HSS T3 カラムを使用して最終的な分析条件を確立し、11 種の化合物すべての完全な分離が得られました。
アプリケーションのメリット
- 1 回の実行で構造が類似した 11 種のボロン酸のベースライン分離を取得
- 5 種類の HPLC カラムのカラムスクリーニングにより選択性の違いが浮き彫りに
- 体系的スクリーニングプロトコルの適用により分析法開発が合理化
はじめに
ボロン酸は、ボロン酸を有機ハロゲン化物にクロスカップリングさせる鈴木-宮浦カップリング反応を受けることから、合成化学で日常的に使用されている化合物のクラスです。これにより、さまざまな生理活性分子の生成が可能になり、構造と活性の関係を試験するための化合物ライブラリーが作成できます1。ボロン酸は、特定のジオール含有化合物のタグ付けに使用することもできます2。これらのワークフローでボロン酸が使用されるようになったことにより、ジオール化合物の標識の一部として、あるいはカップリング反応のモニタリング用に、その分析が必要になります。最も一般的なボロン酸の分離法により、他の反応前駆体や最終生成物とともに、ボロン酸の使用状況をモニターすることができるようになるため、このような分析法は重要です。
分析法を開発するために、一般的に使用されている 11 種のボロン酸を文献検索によって選択し、分析しました。図 1 に、このアプリケーションノートで試験した 11 種のボロン酸の化学構造を示します。この分析法は、以前に文書化された体系的スクリーニングプロトコルを使用して開発し、シングルカラムヒーターと PDA 検出器を搭載した Arc HPLC システムに適応させたものです3-5。このアプローチでは階層的スクリーニングモデルを適用しています。これにより、完全実施要因分析が不要になるとともに、プロセスがより小さく簡単なステップに分割されて、分析法開発が合理化されます。各ステップには明確に定義されたパラメーターがあるため、「最適な」条件を決定しなければというストレスが軽減されます。この分析法開発アプローチは既に数回導入されて成功しており、MaxPeak Premier カラムを使用することでさらに改善されます。MaxPeak Premier カラムでは、MaxPeak High Performance Surfaces(HPS)テクノロジーが採用されており、これによって、フリットなどのカラムの金属表面への分析種の非特異的吸着が解消されます。このテクノロジーは、リン酸とカルボン酸部分を含む酸性化合物、およびその他の金属に吸着しやすい化合物に極めて有用であることが示されています6-8。 このテクノロジーは他の酸基に対しても成功しているため、これらの化合物において発生する可能性のある非特異的吸着(NSA)を解消するために、今回 MaxPeak Premier カラムを使用しました。NSA を解消することにより、クロマトグラフィーに見られる影響が、表面と分析種の相互作用に起因するものではなく、移動相と固定相のみに関連していると確信できます。
数日間にわたる分析法開発により得られた最終的な分析法を、このアプリケーションノートに記載します。
実験方法
サンプルの説明
1 mg/mL になるように作成した各ボロン酸のストック溶液。分析のため、ストック溶液を合わせて各ボロン酸が 0.09 mg/mL になるように混合液を作成しました。
LC 条件
LC システム: |
Arc HPLC システム(2998 PDA 検出器搭載) |
検出: |
UV @ 254 nm |
カラム: |
XBridge™ Premier BEH™ C18、4.6 × 100 mm、3.5 µm (製品番号:186010660) XBridge Premier BEH Phenyl、4.6 × 100 mm、3.5 µm (製品番号:186010676) XBridge Premier BEH C8、4.6 × 100 mm、3.5 µm (製品番号:186010951) XSelect Premier HSS T3、4.6 × 100 mm、3.5 µm (製品番号:186010935) XSelect Premier CSH™ C18、4.6 × 100 mm、3.5 µm (製品番号:186010643) |
カラム温度: |
30 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
3.0 µL |
流速: |
1.0 mL/分 |
移動相 A: |
Milli-Q 水 |
移動相 B: |
アセトニトリル |
移動相 C: |
メタノール |
移動相 D: |
2% ギ酸水溶液または 200 mM 水酸化アンモニウム |
グラジエント条件: |
グラジエント全体にわたって一定の 5% D を維持。開始条件 5% 有機(ライン B または C)で、16.43 分で 95% 有機になるリニアグラジエント(カラム容量あたり有機溶媒が 6.01%)。95% 有機で 2.76 分間ホールド。0.02 分後に 5% B に戻り、5.51 分間ホールド。合計分析時間:24.72 分。 |
データ管理
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower™ 3 Feature Release 4 |
結果および考察
体系的スクリーニングプロトコルに概説されている分析法開発の最初のステップはサンプルを試験することです。このケースでは、C18 固定相を使用し、11 種のボロン酸の混合物を高 pH および低 pH で試験して保持力を評価しました。この化合物の化学構造を考慮すると、この分析種は、低 pH では中性で、高 pH では酸性ボロン酸基が少なくとも部分的に荷電していると考えられます。ボロン酸基に含まれる 2 つの酸素の pKa 値が約 8 ~ 10 あたりであることから、約 pH 10 で動作させると、酸素の 1 つが完全に荷電することになります。ただし、pH は存在する有機モディファイヤーの関数であることを考慮すると、分離時の実際の pH はおそらく pH 7 により近くなる可能性があり、ボロン酸基の一部は負に荷電することになります。有機モディファイヤーを導入すると pH が変化するという現象は、液体クロマトグラフィーでは既知の側面ですが、複雑であるために見過ごされることがよくあります9-10。 図 2 に、低 pH および高 pH の移動相添加剤であるギ酸および水酸化アンモニウムをそれぞれ使用した場合の、XBridge Premier BEH C18 カラムでの 11 種のボロン酸の分離を示しています。
分析法開発プロセスのこのステップでは、保持力を評価する必要があります。高 pH では、一部のボロン酸は低 pH の場合よりも保持されにくくなります。特に成分 3 と成分 5 は、カラムのボイドに保持されます。成分 2 は、化合物のアミン基が中性であるため、高 pH でよりよく保持されます。全体として、化合物の保持は低 pH の方が良好です。これは、高 pH と比較してより多くの化合物が保持されるためです。後続のステップを用いて適切な分離条件を見つけるため、分析法開発のこのステップで必要な唯一の決定事項は保持力の評価です。
体系的スクリーニングプロトコルの 2 番目のステップでは、より一般的なスクリーニングパネルを使用します。ここでは、前に選択した移動相添加剤を用いたアセトニトリルとメタノールの移動相を使用して、さまざまなカラム固定相を選択および試験します。このステップでは、多様な固定相を選択してスクリーニングすることが重要です。適切な固定相を選択することで、結果に広範な選択性を反映させられると同時に開発のスピードのバランスを取ることができます。通常は 3 ~ 4 本のカラムを選択しますが、試験するカラムの数は、分析者が自由に選択でき、装置の構成によって決まる場合もあります。
この研究では、XBridge Premier BEH C18 カラムに加えて、別の 4 本のカラムを選択しました。まず、XSelect Premier CSH C18 カラムを選択しました。その理由は、結合リガンドは同じですがベースパーティクルが異なるためです。CSH 粒子はわずかに正に荷電するように製造されており、低 pH における塩基性分析種のピーク形状が改善するだけでなく、わずかにイオン交換機能も有する場合があります11。
次に、XBridge Premier BEH Phenyl カラムを選択しました。このカラムでは、フェニル環を含む分析種(このアプリケーションでは選択したボロン酸すべて)と異なる相互作用を示すように特別に設計された、さまざまな結合リガンドが使用されています。次に、XBridge Premier BEH C8 カラムを選択しました。その理由は、短いリガンドの方が通常の C18 より疎水性が低く、分析時間を短縮できるためです。最後に、早く溶出する化合物の保持を高めるために、XSelect Premier HSS T3 カラムを選択しました。HSS T3 固定相では、他の固定相で使用されている 2 種類のハイブリッド粒子とは異なる、純粋なシリカベースの粒子と、中程度のカバレッジの C18 リガンドが使用されています。T3 カラムは、リガンドのカバレッジが低く、保持力の高いシリカベースの粒子が使用されているため、より極性の高い分析種の保持に適しています。示したカラムでメタノール移動相を使用した場合の低 pH におけるボロン酸の分離を、図 3 に示しています。
スクリーニングおよび適切な分離条件を見つける試みにおいて、いくつかの選択性の違いが見られます。まず、成分 9 は、XBridge(XB)Premier(Prem)BEH C8 カラムでは溶出順序が変わり、成分 10 の後に溶出しています。他のすべてのカラムでは、成分 9 は成分 10 の直前または成分 10 と同時に溶出しています。成分 5 と成分 6 も、溶出順序が一部変わっています。試験したカラムのほとんどで、成分 6 の後に成分 5 が溶出しています。しかし、XB Prem BEH Phenyl カラムでは、成分 5 は成分 6 の前に溶出しています。この溶出順序のシフトは、メタノールを使用した場合に、フェニル基を含む分析種と固定相のフェニル結合リガンドの間で発生し得る二次的相互作用が原因である可能性があります。メタノールを使用すると、良好な範囲の選択性および分離が得られますが、いずれも共溶出する化合物が少なくとも 1 組あるか、あるいは保持が不良であるため、これ以上の使用に適しません。さらに、一部のカラムではピーク形状に問題があり、共通してテーリングが生じています。同じ 5 本のカラムを使用して、強溶媒としてアセトニトリルを用いて同じ分析種を試験した結果を、図 4 に示します。
アセトニトリルを使用した場合も、メタノールの場合と同様に、5 本のカラムで選択性に多少の違いが生じています。成分 9 は成分 10 と共溶出しなくなりましたが、成分 5 と成分 6 は依然としてカラム間で移動が見られます。特に、XSelect(XS)Prem CSH C18カラムでは、アセトニトリルの場合、成分 6 が成分 5 の前に溶出しています。成分 6 は、CSH 粒子では、試験した他のカラムで使用されている BEH 粒子や HSS 粒子と比較して相互作用が異なっています。この相互作用から、分析法開発において、結合リガンドのスクリーニングだけでなく、異なるベースパーティクルのスクリーニングも重要であることが示されています。これは、選択性がこの 2 点のいずれもの影響を受ける可能性があるためです。この例では、最適な分離は XSelect Premier HSS T3 カラムを使用した場合に得られています。HSS T3 カラムでは、成分 1 と成分 2 が十分に分離されておらず、十分な保持も得られていませんが、2 つの成分の分離が最も良く、したがって、最適化後に適切な分離が得られる可能性が最も高いと考えられます。
分析法の最適化は、体系的スクリーニングプロトコルのステップのうちで最も制御しにくいため、最も時間がかかるステップです。最適化は、分析者の経験、およびカラムの可用性などのその他の要因に基づいて行います。この場合、最適化の目的は、プローブの保持を高めると同時に、プローブの分離度を向上させることです。分離のその他の性能を損なうことなく、この 2 つの目標を達成することが理想的です。最初の最適化ステップは、100% 水系移動相でグラジエントを開始することでした。これにより、移動相の強度が低下して、プローブの保持力が高まると考えられます。ただし、化合物の適切な分離を確保するために、グラジエントの傾き(カラム容量あたり 6.01%)を同じに維持する必要があります。一部の固定相では、100% 水系移動相ではポアの脱濡れが起きやすいため、すべての固定相が 100% 水系移動相に適合するとは限りません。ただし、HSS T3 固定相は、粒子の形状においてリガンド密度の差が小さいため、適合しています12。 図 5 に、元のグラジエント、および次に 100% 水系から開始する改変したグラジエントを使用したボロン酸の分離を示します。
新しいグラジエント条件が元の条件よりも優れているかどうかを判定するために、ピーク 1 の USP 分離度と保持係数の計算を行いました。USP 分離度が 2.09 から 3.43 に増加し、保持係数が約 15 倍増加していることから、新しい分析条件がより優れていることが実証されます。成分 1 と成分 2 は依然として十分に保持されていませんが、少なくともカラムのボイドの外には保持されています。これらの成分の特性を考慮すると、得られた保持は、このアプリケーションノートの許容範囲内にあると考えられます。この結果が得られたことで、分析法開発プロセスをここで止めて、これらのボロン酸の 1 つを含む混合物の反応進行状況を追跡するなど、さらなる作業にこの分析法を使用することができます。この分析法では、体系的スクリーニングプロトコルを導入し、汎用性の高い MaxPeak Premier カラムを使用することで、開発が容易になりました。これら 2 つをともに使用することで、分析者は得られた結果に確信を持つことができ、分析法をより迅速かつ確実に開発することができます。
結論
ボロン酸は、生理活性分子生成の重要な成分です。さらにボロン酸は、多くのワークフローで、分析種の検出および分離を容易にするために、分析種を「タグ付け」するのに使用されています。重要なワークフローおよびプロセスにおいてボロン酸は重要であるため、これらの成分の分析法が必要です。一般的に使用されている 11 種のボロン酸の分析法開発を、体系的スクリーニングプロトコルを使用して実施しました。このアプローチにより、分析者の指針となる強固な構造とステップが提供されるため、新しい分析法の開発プロセスが合理化します。このアプローチを MaxPeak Premier カラムと組み合わせることで、分析種とカラムの金属表面の間の二次的相互作用が解消し、分析法を迅速かつ確実に開発することができます。XSelect Premier HSS T3 カラムとギ酸含有アセトニトリル移動相を使用した、11 種類のボロン酸を分離するための単一の分析法が開発されました。この分析法により、PDA 検出器を搭載した Arc HPLC システムを使用して 11 分以内にすべての成分を分離することができます。
参考文献
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720008307JA、2024 年 4 月