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拡張 LC-MS オリゴヌクレオチド分析における IonHance ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)の評価

拡張 LC-MS オリゴヌクレオチド分析における IonHance ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)の評価

  • Christian Reidy
  • Makda Araya
  • Catherine Tremblay
  • Balasubrahmanyam Addepalli
  • Matthew A. Lauber
  • Waters Corporation

要約

IonHance ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を移動相添加剤として使用することで、オリゴヌクレオチドの LC-MS 分析におけるイオン化および全体的なスペクトルの質を改善できることを実証します。

はじめに

LC-MS 分析は、siRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、CRISPR 一本鎖ガイド RNA(sgRNA)、メッセンジャー RNA(mRNA)などの RNA 分子種の正確な分離、同定、定量において重要です。イオン対逆相(IP-RP)はオリゴヌクレオチドの LC-MS において最も一般的なメソッドであり、多くの場合、アルキルアミンと HFIP の組み合わせからなる揮発性バッファーの使用が必要となります。これにより、質量分析との適合性が得られるとともに分離効率が高まります。LC-MS グレードの試薬を用いても問題が発生する可能性があるため、移動相添加剤の質とそのデータ解析への影響を考慮することが重要です。オリゴヌクレオチドサンプルは、移動相試薬や添加剤に由来する微量の金属不純物にすぐに結合し、付加イオン生成が増加するためにデータの解釈が複雑になります。IonHance HFIP は、これらの課題に対処するために開発されました。そのため、製造パラメーターに細心の注意を払い、より厳格なレベルの純度保証を追求しています。

HFIP は、従来の酸性バッファーと比較して、MS シグナルの強度を最大 10 桁高めることができます1。HFIP は非常に揮発性が高い酸であり、イオン化中にすぐに蒸発します。このますます重要性を高めている試薬を、時間をかけて詳細に調査しました。

HFIP の品質に加えて、HFIP の一貫した供給を確保することが、信頼性の高いワークフローと再現性のある結果を維持するために重要です。重要な試薬が使用できなくなると、サンプルスループットやプロジェクトの処理時間に悪影響が及ぶ可能性があります。IonHance HFIP は、信頼できる製造者による確実な生産と入手可能な最高純度の試薬を提供することで、性能と供給の両方の懸念事項に対処しています。これにより、ラボでの供給の中断リスクを避けつつ、常に分析上の需要を満たすことが可能になります。

図 1.1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)の化学構造式と pKa1

実験方法

ソリューション

IonHance HFIP(製品番号:186010781)は、精製された高純度のヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)であり、LC-MS 分析において優れた性能を発揮します。独自の蒸留プロセスにより、LC-MS グレードの HFIP 試薬に必要な厳格な金属仕様(<100 ppb Na かつ <100 ppb K)が満たされています。これにより、金属不純物が確実に最小限に抑えられ、MS シグナルの明瞭さと正確さが向上します。

移動相には 50 ~ 100 mM HFIP の使用が推奨されます。このような試薬濃度により、最適なクロマトグラフィー分離能と高い MS シグナル感度のバランスが得られます。IonHance HFIP バイアルには、移動相 1 L がルーチンで調製できるように、過充填した 10 mL 量の試薬が入っています。この濃度(0.5 ~ 1% v/v HFIP)範囲により、複雑な骨格、糖、塩基の修飾を含む長鎖オリゴヌクレオチド(最大 100 mer)の分離が可能になります。移動相の酸素への暴露を最小限に抑えるように注意し、新しい移動相を定期的に調製する必要があります2

結果および考察

質の高い HFIP

ICP-MS 分析を実施して、IonHance HFIP の製造および精製のプロセス後の金属含有量を評価しました。表 1 に、IonHance HFIP を用いた精製後の 2 つの製造バッチの 5 回繰り返しにおけるナトリウム(Na)およびカリウム(K)の濃度を記載しています。結果は、ナトリウムおよびカリウムのレベルが、IonHance HFIP の分析証明書に記載されている 100 ppb 未満という仕様を十分に下回っていることを示しています。

IonHance HFIP 製造プロセスが質の高い MS 結果の取得に及ぼす影響をさらに示すために、ACQUITY™ Premier Oligonucleotide BEH™ C18 300 Å 1.7 µm カラム(製品番号:186010539)を使用して、10 ~ 60 mer の一本鎖 DNA(ssDNA)ラダー(製品番号:186009449)の分析を実施しました。N,N-ジイソプロピルアミン(DIPEA)および 1%(v/v)HFIP(精製前および精製後)で構成される等価の移動相を調製しました。次に、10 mer オリゴヌクレオチドの質量スペクトルを比較しました。純度が高くなると、より多くのシグナルが脱プロトン化されたベースピークイオンの形で観察されることがわかりました。さらに、チャージ状態 [M-2H+]²⁻ では、ナトリウムとカリウムの付加イオン生成が 2 分の 1 まで減少することが判明しました。スペクトルをベースピーク高さに重ね描きしてノーマライズすることにより、精製した IonHance HFIP を使用した場合のナトリウムおよびカリウムの付加イオン生成が相対的に減少することがわかっています。

図 2.10 ~ 60 mer ssDNA ラダー(製品番号:186009449)の IP-RP-LC-UV-MS 分析。A. LC-MS 後の ssDNA ラダーの TIC(トータルイオンクロマトグラム)および UV クロマトグラムを示します。B. 14.4 分に溶出する 10 mer の質量スペクトル。IonHance HFIP(赤)のチャージ状態の分布を蒸留していない HFIP(黒)と比較しています。右側のプロットは、[M-2H+]2- ベースピーク(* で示す)に対してノーマライズされており、蒸留した IonHance HFIP では、蒸留していない IonHance HFIP と比較して、ナトリウムとカリウムの付加イオンが減少していることがわかります(質量スペクトルの赤色のトレースと黒色のトレースの比較)。

これらのメリットは、IonHance HFIP を市販の別の LC-MS グレードの HFIP 試薬と比較した場合にも見られます。比較のために、LC-MS システムを、ギ酸で酸性化した MeOH:ACN:IPA:H2O の 25:25:25:25 混合液で一晩フラッシュ洗浄しました。ベンダー S の HFIP を含む IP-RP 移動相を使用して、サンプルを分析しました。IonHance HFIP に切り替える前に、LC-MS システムを再度、前述の混合液で一晩フラッシュ洗浄しました。Waters™ 品質保証ガラス製の同じ移動相ボトルを、2 回蒸留 H2O で 2 回すすいだ後に使用しました。品質保証 LDPE 容器(製品番号:186009110)も移動相の保管用に検討することができます。図 3 では、対応する LC-MS 分析からの 100 mer オリゴヌクレオチド分析種を調査しています。各試薬例について得られた生質量スペクトル、ベースピークのチャージ状態イオンの拡大図、デコンボリューション後の質量スペクトルを示しています。IonHance HFIP の使用により、データの質が大幅に改善されました。

10 億分の 1 重量(ppbw)

注:(<)は LOD を下回ることを示します

図 3. ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18 300 Å 1.7 µm 2.1 × 50 mm カラム(製品番号:186010539)での 100 mer オリゴヌクレオチド標準試料の IP-RP-LC-MS 分析。ベンダー S の HFIP と IonHance HFIP で観察された付加イオンを示すデコンボリューション後の質量スペクトルを示します。

結論

LC-MS データの質は、移動相試薬の純度と直接相関する場合があります。IonHance HFIP(186010781)は、LC-MS を用いたオリゴヌクレオチド分析のパフォーマンスを向上させるように設計された高純度移動相添加剤です。独自の精製プロセスにより、IonHance HFIP では、極めて低いナトリウム(<100 ppb)およびカリウム(<100 ppb)のレベルを維持することができます。一方、IonHance HFIP で調製した移動相を用いると、低レベルのナトリウムおよびカリウムの付加イオンを含む質量スペクトルが確実に得られます。この減少により、質量スペクトルデータの質が改善し付加イオン生成が低減して、シグナルがより明瞭になります。

10 mer および 100 mer のオリゴヌクレオチド標準試料を使用した比較試験において、IonHance HFIP によって、ナトリウムおよびカリウムの付加イオンが顕著に減少することが判明しました。このデータの質の向上により、解釈が簡素化され、信頼性が高まるため、IonHance HFIP は、イオン対逆相 LC-MS 分析を定期的に行うラボに最適と考えられます。

参考文献

  1. Donegan, M., Nguyen, J. M., & Gilar, M. (2021).Effect of Ion-Pairing Reagent Hydrophobicity On Liquid Chromatography and Mass Spectrometry Analysis of Oligonucleotides. Journal of Chromatography A, 1666, 46286.
  2. Guilherme J. Guimaraes, Jack G. Saad, Vidya Annavarapu, and Michael G. Bartlett (2023) Mobile Phase Aging and its Impact on Electrospray Ionoization of Oligonucleotides.

720008540JA、2024 年 9 月

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