粒子径 2 µm 以下の 100 mm カラムを用いた mAb HMWS の SEC-UV 分析の高速化
要約
モノクローナル抗体(mAb)サンプル中の高分子量分子種(HMWS)の分析において、合計実行時間 1.6 ~ 1.4 分(37 ~ 43 回の分析/時間)が可能な、迅速で単純なシングルカラムサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)分析法を紹介します。これらの分析法では、モノマーとダイマーの HMWS の間のベースライン分離(Rs > 1.5)を得るために、高い直線速度で効率を最適化するため、1.7 µm の粒子を充塡した長さ 100 mm の SEC カラムを利用しています。
今回示すハイスループット(HT)SEC-UV 分析法では、ACQUITY™ Premier Protein SEC(250Å、1.7 µm、4.6 × 100 mm)カラムを流量 0.75 mL/分または 0.9 mL/分で使用し、UV 吸光度(280 nm)で検出を行います。ACQUITY Premier UPLC™ システムでは、これらの流量でカラムの性能と頑健性(1500 回の注入サイクル)が実証されました。
アプリケーションのメリット
- プロテイン A 精製細胞培養サンプル、アップストリームの精製サンプル、製剤安定性試験用サンプル中に含まれる mAb の HMW および約 50 KDa の LMW サイズバリアントの、分析間の時間が 1.4 分または 1.6 分の迅速 SEC-UV 分析
- 1500 回を超える分析にわたるカラムの頑健性を実証
はじめに
HMWS mAb の不純物は、タンパク質医薬品の安全性および有効性に悪影響を与える可能性があります1。 以前の試験において、長さ 150 mm(内径 4.6 mm)の ACQUITY Premier Protein SEC 250Å、1.7 µm カラムおよび 2.5 µm カラムにより、頑健で高分離能の分離および HT SEC 分析機能が得られることが実証されていました2。 この試験から、粒子径 1.7 µm のカラムは、HMWS 分析では十分な効率を示すものの、過剰なカラム圧力により HT キャパシティーの最大化が制限されることが判明しました。
そのため、カラム長を短くして(100 mm および 50 mm)、サンプルスループットを向上させることの有用性を検討しました。この研究により、カラム長 100 mm が、mAb HMWS の HT 分析の速度と分離効率の間の妥当な妥協点であると判断されました。50 mm のカラムは、効率が低下し、LC のシステム拡散の影響を受けやすいため、このアプリケーションでの有用性が大きく限定されました。mAb サンプルのこれらの HT SEC 分離の効率が低下すると、一般に通常レベルの Fc:Fab(約 100 KDa)の低分子量分子種(LMWS1)をモニターすることができなくなる点に注意が必要です。一方、Fc ドメインおよび Fab ドメイン(約 50 KDa、LMWS2)は観察を行えます。
1.7 µm(100 mm)カラムの性能を、推奨最大流量で実行した 1.7 µm(150 mm)カラムおよび 2.5 µm(150 mm)カラムの性能と比較しました。さらに、1.7 µm(100 mm)カラムおよび 2.5 µm(150 mm)カラムを最大動作圧力で評価しました。カラム寿命のデータを生成するため、推奨最大流量(0.75 mL/分)で 1000 回の注入サイクルを行った後、最大推奨カラム圧力(0.9 mL/分で 6000 PSI または 414 bar)でさらに 500 回の注入を行いました。
アプリケーションのメリット
- プロテイン A 精製細胞培養サンプル、アップストリームの精製サンプル、製剤安定性試験用サンプル中に含まれる mAb の HMW および約 50 KDa の LMW サイズバリアントの、分析間の時間が 1.4 分または 1.6 分の迅速 SEC-UV 分析
- 1500 回を超える分析にわたるカラムの頑健性を実証
実験方法
サンプルの説明
NISTmAb RM-8671 原液(10 mg/mL)。
LC 分析法条件
LC システム: |
ACQUITY Premier UPLC、クオータナリーソルベントマネージャー(QSM)および CH-A カラムヒーター搭載 |
検出: |
ACQUITY UPLC TUV 検出器(5 mm チタンフローセル付き)、 波長:280 nm、データ収集レート:20 ~ 40 ポイント/秒 |
バイアル: |
ポリプロピレン 12 × 32 mm スクリューネックバイアル(キャップ付きおよびスリット入り PTFE/シリコーンセプタム付き)、容量 300 µL、100 個入り(製品番号:186002639) |
カラム: |
ACQUITY Premier Protein SEC 250 Å、1.7 μm、4.6 × 100 mm カラム(製品番号:186011018) ACQUITY Premier Protein SEC 250 Å、1.7 μm、4.6 × 150 mm カラム(製品番号:186009959) ACQUITY Premier Protein SEC 250 Å、2.5 μm、4.6 × 150 mm カラム(製品番号:186009963) |
カラム温度: |
25 ℃ |
サンプル温度: |
6 ℃ |
注入量: |
表示されているように 0.5 µL または 0.8 µL |
流量: |
表示されているように 0.5 mL/分または 1.0 mL/分 |
移動相: |
カルシウムとマグネシウムを含まない Dulbecco のリン酸バッファー生理食塩水(DPBS)(1.5 倍濃度)(Sigma-Aldrich カタログ番号D1408)0.1 µm 滅菌フィルターでろ過済み(Thermo Scientific 製造番号5670010) |
データ管理
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower™ 3(FR 4) |
結果および考察
分析法開発
以前の結果では、移動相として DPBS を含む Premier SEC カラムを使用して、一連のバイオシミラー mAb を分析できることが示されましたが、その条件では NISTmAb の HMWS の回収率が低いことがわかっています3。 そのため、NISTmAb の移動相条件の迅速な最適化を、DPBS の希釈レベル 1 倍 ~ 2 倍の範囲で行いました。多量体型 HMWS の最大回収率は、1.25 倍以上の DPBS で認められました。結果として、頑健性を期して 1.5 倍 DPBS を移動相として使用する分析法が確立されました。
分析法の評価
1.7 µm(150 mm)カラム、2.5 µm(150 mm)カラム、1.7 µm(100 mm)カラムの性能を、推奨最大流量で評価しました(図 1)。さらに、2.5 µm(150 mm)カラムおよび 1.7 µm(100 mm)カラムでは、流量をさらに大きくしたため、カラム圧力がそれぞれの上限近くになりました。評価した分離特性には、主要な mAb HMWS1(主に二量体型)と mAb モノマーの間のピークバレー比(P/V)を含めました。RHH では HMWS2(主に多量体)のサイズの不均一性のために顕著な交絡効果があるため、半値幅の分離能(RHH)の代わりに P/V 比を使用しました。1.7 µm(150 mm)カラムで測定された P/V 比は、HMWS1 とモノマーの間に見られるベースライン分離よりも大きく(RHH=2.26)、2 つのピークの間に溶出する微量レベルのサイズバリアントが存在するため、その価値が限定的であることにも注意してください。HMWS1 および HMWS2 の不純物の合計および LMWS2(約 50 KDa)の定量も評価しましたが、これらの条件下では、LMWS1(約 100 KDa)を確実に定量することはできません。
図 1 に示すクロマトグラフィー結果の傾向は、充塡粒子の径が小さいこと、カラム長が長いこと、流量が低いことから予測される SEC の分離能向上という傾向と一致しています。さらに、定量結果(n=2)は、総 HMWS の相対存在量 2.92% ~ 3.04% および微量レベルの LMWS2 の相対存在量 0.16% ~ 0.20% と一致していました。
カラムの最小分析時間も比較しました。割り当てた分析時間には、オートサンプラーがサンプルを注入するための追加の 0.3 分の割り当て、および LMWS が溶出してベースラインが再確立された後に次の注入が開始されるインターレース SEC 実行の使用にかかる時間が含まれます。1.7 µm(100 mm)カラムでの効果的な HT HMWS 分析機能に関して注目される点の比較を表 1 にまとめます。注目点として、1.7 µm(100 mm)カラムの分析時間は 1.7 µm(150 mm)カラムの半分を下回ると同時に分離能が低下しており、大幅に分離能が優れている 2.5 µm(150 mm)カラムの最大スループットよりも最大 20% 高速です。
分析法の信頼性
1.7 µm(100 mm)カラムの寿命は、推奨最大流量(0.75 mL/分)で 1000 回の注入サイクルに続いて、最大推奨カラム圧力(0.9 mL/分で 6000 PSI または 414 bar)でさらに 500 回の注入を行って実証しました。この試験では、移動相を 0.1 µm 滅菌フィルターでろ過し、サンプルを 10000 x g で 1 ~ 2 分間遠心分離しました。目に見えない大きな粒子を除去してカラム寿命を延ばすために、この作業が推奨されます。HMWS の分離は、1500 回すべての注入の後、維持されていました(図 2)。ただし、0.9 mL/分での 500 回の注入後、低レベルのテーリングの若干の増加が見られました。これらの結果から、このカラムの性能は、0.75 mL/分では維持されるが、0.9 mL/分では若干低下することがわかります。これにより、注入間の時間 1.4 ~ 1.6 分の分析が可能になります。
結論
迅速 SEC 分析法は、バイオ医薬品の細胞培養プロセスおよび精製プロセスの開発、ならびに原薬および医薬品製剤の開発の支援に有用である可能性があります。ACQUITY Premier Protein SEC(250Å、1.7 µm、4.6 × 100 mm)カラムを使用した、流量 0.75 mL/分および 0.90 mL/分での、モノクローナル抗体の HMWS フラグメントおよび LMWS2(約 50 KDa)フラグメントのハイスループット(実行時間 1.6 分および 1.4 分)SEC-UV 分析法を紹介しました。
さらに、0.75 mL/分で 1000 回の注入サイクルに続いて 0.90 mL/分で 500 回の注入サイクルを行った場合のカラム寿命の性能も実証されました。この評価では、移動相を 0.1 µm 滅菌フィルターでろ過し、サンプルを 10,000 x g で 1 ~ 2 分間遠心分離しました。これにより、カラム汚染の可能性を大幅に低減することができます。
参考文献
- Moussa EM, Panchal JP, Moorthy BS, Blum JS, Joubert MK, Nari LO, Topp EM.Immunogenicity of Therapeutic Protein Aggregates.J Pharm Sci.2016 Feb;105(2):417–430.
- Stephan M. Koza and Ying Qing Yu.Rapid Size Variant Analysis of Monoclonal Antibodies Using UPLC™ and HPLC Compatible MaxPeak™ Premier Protein SEC Columns, 720007584, March 2022.
- Stephan M. Koza, Hua Yang, and Ying Qing Yu.Modern Size-Exclusion Chromatography Separations of Biosimilar Antibodies at Physiological pH and Ionic Strength, 720007484, January 2022.
720008292JA、2024 年 3 月