• アプリケーションノート

ACQUITY™ Premier UPLC™ および Xevo™ G3 QTof 質量分析計を用いたインタクトリジン結合 ADC の LC-MS 分析

ACQUITY™ Premier UPLC™ および Xevo™ G3 QTof 質量分析計を用いたインタクトリジン結合 ADC の LC-MS 分析

  • Samantha Ippoliti
  • Ying Qing Yu
  • Waters Corporation

要約

このアプリケーションブリーフでは、リジンが結合したインタクト抗体薬物複合体(ADC)の分析における、Xevo G3 QTof 質量分析計と組み合わせた ACQUITY Premier UPLC システムが使用できることを実証します。MaxEnt1 デコンボリューションしたデータを使用して、ADC 医薬品の安全性と有効性の重要な測定値である薬物抗体比(DAR)を計算しました。データの取り込みおよび解析は、コンプライアンス対応の waters_connect インフォマティクスプラットフォームで動作する waters_connect™ UNIFI™ アプリの Intact Mass ワークフローを使用して行いました。

アプリケーションのメリット

  • UNIFI アプリでのカスタム計算を採用した ADC ワークフローの合理化により、自動 DAR 計算および手動解析や報告エラーのリスク低減を実現
  • 高性能表面(HPS)を採用した ACQUITY Premier UPLC システムにより、システム稼働時間の向上と分析種の一貫した回収率を実現
  • 高分解能ベンチトップ型 Xevo G3 QTof 質量分析計を用いて、生体分子の高感度かつ頑健な検出を実施

はじめに

抗体薬物複合体(ADC)には、がん治療を改善するための治療法としてここ数年大きな勢いが見られます。実際、2023 年現在、FDA は、さまざまながんに対する 11 種類の ADC 医薬品を承認しています1-2。 ADC は、リンカーを介して薬物/毒素に結合されたモノクローナル抗体(mAb)であり、がん細胞に標的を絞り、薬物を送達します。リンカーと薬物は一般に、mAb タンパク質配列内のアミノ酸(リジンまたはシステイン)との化学反応によって、または標的部位のタンパク質エンジニアリングによって結合します。このアプリケーションブリーフでは、Kadcyla™(ado-トラスツズマブエムタンシン)をこのケーススタディのモデル分子として使用し、リジン結合クラスの ADC に焦点を当てます。リジン結合型 ADC は、配列内に多数の表面でアクセス可能なリジン残基があり、反応は特定の部位に特異的でないため、著しい不均一性を示す傾向があります。その結果、モノクローナル抗体(mAb)へのリンカー-薬物部分の結合型がさまざまなレベルで分布します。

全体的な薬物分布と DAR を評価するには通常、これらの不均一な ADC のインタクト mAb LCMS 分析を行うようになっています。このアプリケーションブリーフでは、Xevo G3 QTof 質量分析計に接続した ACQUITY Premier UPLC システムを利用して、質が高く高感度の ADC 分析を実施できることを実証します。コンプライアンス対応の waters_connect インフォマティクスプラットフォーム内の UNIFI アプリを使用して、データを自動的に取り込み、分析しました(図 1)。

図 1.  取り込みは、ACQUITY Premier UPLC(BSM、FTN、TUV)に接続された Xevo G3 QTof 質量分析計で行いました。waters_connect インフォマティクスプラットフォーム内の UNIFI アプリを使用して、データの取り込み、解析、レポートを行いました。

結果および考察

このアプリケーションブリーフでは、インタクト mAb および結合型 mAb 構造の逆相 LCMS 分析を簡素化するために、トラスツズマブおよび Kadcyla(ado-トラスツズマブエムタンシン)ADC のサンプルを PNGaseF 酵素で処理しました(N-グリカンの除去)。インタクト mAb RP-LCMS に関する分析法の詳細については、アプリケーションノート 720007635JA を参照してください3。 この分析では、リアルタイムのバックグラウンドノイズ低減のために、インテリジェントデータキャプチャー(IDC)機能を有効にしました。

得られたコンバインされた生スペクトルのミラープロット(図 2)から、脱グリコシル化 ADC(赤)は脱グリコシル化非結合トラスズマブ(青)と比較して複雑であることがわかります。Xevo G3 QTof 質量分析計は、オンカラムで 500 ng の注入で、これらの複雑な分子種を検出する機能を備えています。UNIFI アプリ内で、インタクトタンパク質ワークフローを使用してデータを取り込み、分析しました。MaxEnt1 デコンボリューションを使用し、荷電状態エンベロープの低荷電側および高荷電側にあるピークに対して、手動で測定した FWHM 値を使用する手動ピーク幅モデルを使用して、自動データ解析を行いました。この場合、測定値はいずれも m/z 0.8 でした。入力 m/z の範囲は 2200 ~ 3400 で、出力質量範囲は 140 ~ 155 kDa に設定し、出力分解能は 1.0 Da でした。スペクトルのデコンボリューションで、最大 25 回の MaxEnt1 解析サイクルの繰り返しを行いました。得られたデコンボリューション済み質量(図 3)を、リンカー-薬物に 0 ~ 10 個付加されたさまざまな修飾に対して質量マッチングし、出力スペクトルの複雑さを考慮して、50 ppm という質量誤差の許容範囲を平均予想質量精度の 3 倍として設定しました。予想された DAR 分子種および追加のリンカーのみのシリーズが、デコンボリューションスペクトル中に検出されました。これらのリンカーのみの分子種は、この分析法を使用してモニターできますが、DAR の計算では考慮されない不純物です。図 4 に示すように、0 ~ 9 の結合分子種の薬物分布が認められました。

図 2.  脱グリコシル化 Kadcyla ADC(赤色)および非結合トラスズマブ抗体(青色)のコンバインされた生 m/z スペクトルのミラープロット。それぞれの右側に拡大図を挿入して、結合サンプルの複雑さを示しています。
図 3.  脱グリコシル化 Kadcyla ADC の MaxEnt1 デコンボリューションスペクトル。挿入された拡大図は、微量分子種が分離されていることを示しています。
図 4.  Kadcyla ADC サンプルのデコンボリューションマススペクトル(ピーク面積でのセントロイド)。DAR(薬物抗体比)の計算に使用する 0 ~ 9 の薬物の薬物分布が見られます。各分子種について質量精度値が示されており、これらは 50 ppm という質量マッチングの許容範囲のしきい値を十分下回っています。

DAR 値は、存在する非結合分子種および結合分子種のレスポンスの加重平均であり、ADC の結合プロセスの一貫性と潜在有効性を判断するための指標として一般に使用されます。ワークフロー内でカスタム計算を使用して、DAR 値の自動計算が可能になりました。UNIFI により、分子種ごとの薬物ロードと MS レスポンスを使用して、加重平均が自動的に計算されました。この Kadcyla(ado-トラスツズマブエムタンシン)サンプルの DAR 計算値は 3.53 であり、以前に発表された特性解析試験の値と同等です2。 自動 DAR 計算を含むテンプレートが、waters_connect で展開される既定のメソッドに含まれているため、このメソッドを ADC DAR 計算用に速やかに最適化することができます。 

結論

Xevo G3 QTof 質量分析計と接続した ACQUITY Premier UPLC システムにより、脱グリコシル化 Kadcyla(ado-トラスツズマブエムタンシン)ADC の質の高い mAb データが得られました。インタクトタンパク質の UNIFI ワークフローにより、データ取り込み、自動 MaxEnt1 デコンボリューション、質量マッチング、DAR 計算、レポート作成を、すべて waters_connect インフォマティクスプラットフォームのコンプライアンス対応アーキテクチャー内で行うことができます。Kadcyla は Genentech の商標です。Xevo、waters_connect、UNIFI、ACQUITY は Waters Technologies Corporation の商標です。

参考文献

  1. Gogia P, Ashraf H, Bhasin S, Xu Y. Antibody-Drug Conjugates: A Review of Approved Drugs and Their Clinical Level of Evidence.Cancers (Basel).2023.15(15): 3886.
  2. Chen L, Wang L, Shion H, Yu C, Yu YQ, Zhu L, Li M, Chen W, Gao K. In-Depth Structural Characterization of Kadcyla® (ado-trastuzumab emtansine) and its Biosimilar Candidate.mAbs.2016.8:7, 1210–1223.
  3. Ippoliti S, Cornwell O, Reid L, Yu YQ, Harry E, Towers M. Comprehensive Biosimilar Comparability Assessment via Intact and Subunit RP-MS and IEX-UV-MS Using the Xevo G3 QTof System.Waters Application Note 720007635.2022.

720008214JA、2024 年 1 月

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